(本記事は、伊藤亜紋氏の著書『ちょうどいいお金持ちのすすめ やりたいこと・ほしいものが手に入る賢者のお金の常識』セルバ出版の中から一部を抜粋・編集しています)
積立はトクなのか
●「世間の常識」がお金持ちへの道を妨げる
社会人になって、誰もが言われたことのある「貯蓄はしているの?」「将来のことを考えて積立はしないといけないよ」。
さらには、「長期の積立は、定時定額購入方式を使えばより安く、より多くの財産を築くことができる」というハイレベルな提案までも経験された方はいらっしゃると思います。
その前提となっているのが、“貯めて使う”という、誰もが知っているはずの当たり前の世間の常識です。
しかしながら、私は、“貯めて使う”は大間違いだと20年以上言い続けてきました。非常識だと思われるかもしれませんが、この世間の常識との違いが、「時間とお金のゆとり」を手にするか否かの分かれ道なのです。以降、それを検証してまいりましょう。
●「積立投資」の効果と欠点
毎月、強制的に銀行口座から引き落とされる積立は、「なかなか貯蓄ができない」と思い込んでいる方には、毎月の「積立可能額」の算出を行う手間もなく楽にできると感じます。
なおかつ、少額でも可能となれば、気軽にやってみようという気持ちになります。
つまり、「(1)お金のことを考えなくて、(2)知らず知らずのうちに自動的に、(3)積立ができる」という効果があると思われがちです。
しかし、「始めること」には有利なのですが、(4)目標金額の設定もあいまいになりがちで、(5)満期(積立完了時)まで引出し制限があることが多く、さらに(6)強制的に積み立てるため、収入からではなく、他の財産の取崩しを行ってまで積み立てる危険も含んでいます。
仮に、積立を活用するのであれば、(イ)満期(払込完了時)まで、ずっと積み立てられる金額を設定すること、(ロ)積立金額だけでなく、すでに積み上がった資金の定期的検証を怠らないことを前提にご活用ください。
●「ドルコスト平均法(定時定額購入)」は万能ではない
毎月一定額を積み立てることによって、平均購入単価をより安くする考え方を「ドルコスト平均法」と呼びます。実際にあったトラブルのお話を先にしておくと、毎月400ドルずつ積み立てしましょうという無認可の業者が存在していました。当然、為替は変動するため、月々の積立額は4万8000円のときもあれば、4万4000円のときもありました。これでは積立額は一定ではなく、安いときにたくさん買って高いときには買い控えるドルコスト平均法とは全く異なるものになってしまっています。名前が「ドルコスト」となっていることから起こる顧客側の誤解とそれを逆手に取った詐欺でした。
つまり、ドルコスト平均法とは、「円建て積立平均法」であり、「定時定額購入」であると読み替えたほうがわかりやすいと思います。
そのドルコスト平均法は、価格が下落や変動している状況では効果は絶大ですが、一定もしくは上昇局面においては効果が出ません。価格上昇局面の場合は、むしろ一括払い(一時金)のほうが有利なのです。
日本が高度成長を迎えた時代は、常に株式市場や不動産価格が上昇していたので、世の中では「一時払い養老保険」や「住宅の頭金」が大ブームとなりました。
その後、市場価格が不安定な時代を迎え、また長期デフレで史上空前の低金利時代を迎えると、「定時定額購入(常に一定金額の買付けを行うことで、価格の高いときには自動的に買い控え、価格の安いときには自動的により多く購入することが可能)」や、「頭金なしの住宅取得」が台頭してきました。
このように、まるで積立や定時定額購入が将来の財産形成のとっておきの策のようにPRされていますが、環境の変化に応じて、家計の状況に合わせて、「積立と一時金」を共に活用することが大切なのです。
《コツ》 ・ドルコスト平均法に代表される積立投資は万能ではない。
・一時金のメリットと併せて活用することが肝要。
外貨建て資産は本当にトクなのか
●海外投資・外貨建て資産の「効果」
「日本と海外の金利に大きな差があります。日本の低金利商品に預けるくらいなら、通貨分散もできるので、海外の資産を持ちましょう!」とよく募集されていますが、これはこれで嘘ではないことが問題だと思います。常に、「いいことばかり」で、「悪い面や、お客様が選択できる状況までサポートする」ことをもっと重要視してほしいのです。
とはいうものの、海外の預金、債券、株式、不動産などについては、その主な効果は次のとおりです。
(1)国債分散投資ができる。 (2)為替差益が狙える。 (3)銘柄の選択肢が広がる。 (4)日本にはない魅力ある債券、株式、不動産市場に投資できる。 (5)国内にはない高利回りの預金、債券に投資できる。
このように日本国内の資財では得られない「金利や配当、為替差益」などを得られる機会が増えます。
●海外投資・外貨建て資産の「欠点」
一方、その主なデメリットは、次のようなものがあります。
(1)その国の政治や経済情勢で変化する“カントリーリスク”の情報量が少なすぎる。 (2)為替差損を被る可能性がある。 (3)手数料などの取引コストが割高になる。
当然、日本国内にはないリスクにも対処する必要があります。
さらに、直接的ではないリスクとして、
(4)海外取引をちらつかせたオフショア(海外)取引詐欺にもご注意ください。
海外については、情報が少ないことや、お客様の金融知識が高くないことを逆手に取った「投資詐欺」が後を絶ちません。したがって、㋑申込書が日本語ではない、募集資料が日本語ではないという場合、㋺無登録の金融商品取引業者(金融庁HPで常に情報開示されています)の場合は、手を出さないでください。
●金融商品を購入する際の「3つの確認事項」
金融商品を選択する際、つまり手段の選択の際には、(1)入口、(2)途中経過、(3)出口の3点を確認する必要があります。
つまり、次のことを確認する必要があるのです。
(1)加入段階でのメリットばかりを見聞きするのですが、 (2)途中で現金化や変更はできるのか、 (3)最終的に受け取る際の税制はどうなっているのかなど。
しかし、受取時の税制については、金融商品販売業者に説明責任はなく、専門の税理士に確認することとなりますが、税理士は資産運用や金融商品に詳しい人が少ないという実態があります。
そのための資格がファイナンシャル・プランナーだったのですが、税理士法に抵触しないことが前提ですので、個別の税務相談は税務署か税理士に依頼することとなります。このことも日本で資産運用が正しく行われない理由の1つだと私は思っています。
《コツ》 ・海外投資、外貨建て資産を選ぶときは、リスクもリターンも大きいことに注意。
・金融庁への登録業者ではないものに要注意。
長期運用は本当にトクなのか
●「長期運用」の効果と欠点
長期間お金を貸し出すことで利子所得の獲得が期待できますが、長期物価上昇と比較して物価上昇を下回るような利子所得では、お金の保蔵は発揮できず、むしろ腐っていくといえます。
長期間企業の株式を保有することで、その企業の業績に応じた配当所得が期待できますが、常に業績が安定しているとも、常に企業が黒字とも限りません。
また、株式には、値上がりという譲渡所得が期待できますが、逆に譲渡損失の可能性もあります。
「長期投資の最大の特徴は、投資家が短期的に株式売買を繰り返さず、企業の成長を長期間じっくり待ってから株式を売却すること(キャピタル・ゲイン)にあります。四六時中変動する株価を気にかける必要がないので、日常多忙を極める勤労者のライフ・スタイルに適した投資スタイルだと言える」と多くの専門家や販売に従事する方々はいわれます。
しかし、大幅な株価上昇による値上がり益(譲渡所得でありキャピタル・ゲイン)は、株式の発行企業の成長が前提となったシナリオであり、株式購入時の見込みに反して企業の業績が伸びなかったり、最悪の場合は倒産してしまったり、株式相場が大暴落するような想定外の世界の突発事件に直面することも、長期保有の間にはあり得る話です。
株式を長期間保有し、単に値上がりだけを期待するという運用は、こうした不測のリスクを負う可能性もあることを忘れてはいけません。
●価値の増大を期待する運用(キャピタル・ゲイン)の「欠点」
価値の増大を期待する運用の欠点は、次のとおりです。
(1)売却益(譲渡所得・キャピタル・ゲイン)はすぐに得られない。 (2)投資期間が長くなればなるほど予測が難しい。 (3)運用コストが大きくなる。 (4)銘柄(投資先)選びで失敗するとお金と時間のロスが発生する。 (5)現金化(オフ・バランス)する際、元金部分を取り崩すことになる。
一般的にいわれている「長期運用」は、あくまで「値上がり=成長」前提の資産運用ですので、育たないケースがあることと、現金化して使うときに元金と利殖部分を取り崩して使う点が最大のデメリットです。
運用期間が長期に及ぶため、数十年前にすすめてくれた担当者はもういないとか、何十年も経過していざ使うときには目減りしているとか、期待どおりの運用ができず、気がついたときには老後資金の準備が間に合わないなど、「取返しのつかない失敗」につながる可能性が高いことが難点です。
《コツ》 ・長期保有は、長期放置とは違う。
・定期的検証を身につけなければ効果を上げることができない。
・運用商品を購入して放置することが最も危険な行為である。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます