経営戦略は、その企業の成功を左右する。経営戦略次第で会社が倒産してしまうこともあるため、経営戦略の立案は慎重を期すべきだ。ここでは、経営戦略によって成功した事例や、経営戦略の立案方法、注意点などを解説する。
経営戦略とは?
経営戦略を一言で言えば、「他社との競争の中で取るべき戦略」だ。どのような分野のビジネスであっても、他社との競争は避けられない。
競争の中で他社との差別化を図るために取るべき戦略が経営戦略であり、企業が生き残るために取る戦略と言い換えることができる。経営戦略の種類は、数えきれない。会社の数だけ経営戦略があるからだ。
経営戦略を立案する際は、外部環境や内部環境(リソースなど)から自社のポジションを探る必要がある。これらを組み合わせて、他社との競争に勝てる戦略を練らなければならない。
経営戦略と経営戦術の違いは?
経営戦略と経営戦術の違いを理解するためには、戦略と戦術の違いを知らなければならない。戦略とは「目的を果たすために進むべき方向性や組み立てられたシナリオ」であり、戦術とは「任務達成のために使われる手段やオペレーション」のことだ。
経営戦略と経営戦術は別のものだが、多くの企業はこれらの区別が付いていない。特に、戦術を戦略と思い込んでいるケースが多い。端的に言えば、戦略は目的であり、戦術は手段だ。
たとえば、アメリカに移住したい人がいたとする。この目的を達成するためには、戦略が必要だ。この場合の戦略の一つは、「英語で日常会話ができるようになること」だろう。
この目的を果たすためには、英会話教室に通う必要がある。これが、戦術だ。
このように、戦略が先で戦術は後になる。戦略と戦術は似ているようで、まったく違うものなのだ。
経営戦略立案の方法
経営戦略を立案する前に、内部環境と外部環境の分析をする必要がある。代表的な分析手法に「SWOT分析」がある。
この分析方法では、内部環境の弱みや強み、外部環境の機会や脅威などを分析し、カテゴリに分けることができる。また、競合他社との差別化にも役立つ。フレームワークを活用することで、経営戦略で重要な差別化のポイントを導き出すこともできる。
環境を分析する
内部環境の分析には、「経営資源」だけでなく「財務基盤」「生産性」「技術力」「組織風土」なども含まれる。フレームワークとしては、ジェイ.B.バーニーの資源ベース理論が有名だ。
外部環境の分析では、「業界の状況」「国内外の政情」「競合他社の動向」「市場・技術革新の動向」などが必要になる。特に近年は、異業種や新興企業の参入も多い。だからこそ、外部環境の分析によって業界の動向に明るくならなければならない。
課題を見つける
経営戦略の立案では、まず目標が必要になる。目標は、具体的なものが望ましい。目標が決まったら、課題を設定する。
「最初に課題を見つけ、それをクリアするための目標を設定すべきでは?」と思うかもしれない。しかし、先に課題を見つけてから目標を立ててしまうと、目標が課題をクリアするためだけのものになってしまう。
環境分析で得た情報をもとに、内部環境の弱みなどを課題に設定するといいだろう。自社の弱みを洗い出して課題に設定することで、改善の方法を考えるきっかけになる。課題をクリアすることで、目標達成の方法も見えてくるはずだ。
差別化できるポイントを探す
経営戦略には、他社との差別化も盛り込みたい。差別化できるポイントには、「製品の特徴」「サービス」「マーケティング」「流通システム」のほか、ブランド力や顧客のロイヤリティなどもある。顧客から信頼されるためにも、差別化は必須と言えるだろう。差別化によって価格が多少上がったとしても、顧客に納得してもらえるような商品・サービスを提供することが大切である。
経営戦略の目標を立てる
経営戦略の目標設定では、「筋が通った目標を掲げる」「変化に対応できる目標を立てる」「経営が安定するような数値目標を立てる」ことが大切だ。これらはどれも欠かせないものであり、どれか1つでも欠けてしまうと、経営戦略が曖昧なものになってしまう。
それぞれについて、簡単に解説しておこう。
1:筋が通った目標を掲げる | 不変の経営理念であり、大黒柱のような存在の目標。 |
---|---|
2:変化に対応できる目標 | 新しい技術やノウハウ、時代のニーズなどの変化に応えるための目標 |
3:経営が安定するような数値目標 | 会社の存続に必要な売上や利益など、経営を適正にコントロールするための目標 |
前述のとおり、目標は具体的なものにしなければならない。「業界トップを目指す」のような曖昧な目標は、典型的な悪い例と言える。
経営戦略の策定3つのポイント
経営戦略を立案には、以下の4つのポイントがある。どれもなくてはならないものなので、しっかり確認しておこう。
1.明確なビジョンを持つ
しっかりとしたビジョンを持つことで、会社の将来像が見えてくる。ビジョンが明確だと、進むべき方向性がわかるようになるからだ。ビジョンを明確にするだけでなく、それを会社に浸透させることも重要だ。ビジョンは目標と混同されやすいが、目標はビジョンを達成するための手段である。
ビジョンは目標を達成するための願望であり、途中経過は問題とならない。経営のトップは、明確なビジョンを持つ必要があるのだ。
2.人材を育成する
経営戦略においては、人材育成も重要なファクターだ。会社は社員がいないと成り立たない。人材育成では、以下のポイントを押さえる必要がある。
1.役割に応じたプログラムを用意する
会社には新入社員もいれば、中堅社員、管理職の人間もいて、それぞれ必要なものが異なる。新入社員にはビジネスマナーなど、管理職にはリーダーシップ研修などを施すことで、人材育成の効果が高まるはずだ。
2.生産性の向上を図る
社員の生産性を高めることは、人材育成の目的の中で最も重要なものの1つだ。なぜならば、社員の生産性は企業の生産性に直結するからだ。
人手不足が慢性化している日本では、今後さらに人材育成が必要になるだろう。人材育成は、他社との差別化においても重要な役割を果たす。
3.ITシステムへの投資
昨今の経営戦略では、ITシステムへの投資が増えている。経営戦略では「攻めのITシステムへの投資」と「守りのITシステムへの投資」の両方が必要になる。「攻めのITシステムへの投資」は収益を増やすことを、「守りのITシステムへの投資」は費用を減らすことを目的とした投資だ。
たとえば、新規事業への投資なら「攻めのITシステム」に投資すべきであり、効率化を図るなら「守りのITシステム」に投資すべきだろう。
企業別の経営戦略の事例4選
ここでは事例を紹介しながら、各企業の経営戦略を解説する。
1.ニトリ
ニトリは、「コスト・リーダーシップ」という経営戦略を取っている。ニトリの最大の特徴は、「SPA=製造小売業」にある。SPAとは、「企画」「製造」「販売」の機能を垂直に統合したものだ。
この戦略により低価格化と高利益率を同時に実現しており、今後も成長を続けていくだろう。
2.ユニクロ
ユニクロもまたSPAだが、独自の戦略に強みがある。ユニクロはアパレル業界の中でも高付加価値かつ低価格の商品を提供し、他社とは一線を画す企業となった。ライバルが少ないカジュアルウェアに特化していることも、奏功している。常に新しい需要に応え、オリジナルブランドを展開しているユニクロもまた、今後も成長を続けていくだろう。
3.マクドナルド
マクドナルドでもまたSPAだが、過去にSPA戦略に走り過ぎたことがある。ハンバーガーなどの値段を下げ過ぎたことで、価格破壊が起きてしまったのだ。現在は経営戦略を変え、中価格帯と低価格帯を両立させる戦略を取っている。
マクドナルドの強みと言えば、店舗オペレーションだろう。注文後すぐに商品が提供されるのは、最高の顧客サービスと言えるだろう。現在でもシステムは随時改善されており、人材教育や製造、販売管理などのシステムもまた常に改善されている。3,800店舗を超えるネットワークも強みの1つと言えるだろう。
4.任天堂
任天堂は、主にブルー・オーシャン戦略を取っている。最新のゲーム機と言えばスイッチだが、任天堂はファミコン時代からずっとブルー・オーシャン(=競合のいない市場)を探して商品を消費者に提供し続けている。
任天堂の最大の強みは、バリューイノベーションにある。バリューイノベーションとは、商品の価値を上げながら低価格を実現させるシステムだ。また消費者の動向を上手く捉えたことで、ゲームに馴染みのない世代を取り込んでいることも強みと言えるだろう。
経営戦略は千差万別
ほとんどの会社には経営戦略があるが、その中身は千差万別だ。経営戦略と経営戦術を混同している会社も少なくない。適切な経営戦略を持たない会社は、成長がおぼつかないどころか、一気に衰退してしまう可能性もあるため、現在の経営環境を正しく分析した上で、現在の自社に合った経営戦略を見つけなければならない。経営戦略は企業を成長させるだけでなく、人間を育てるものでもある。今一度経営戦略を見直して、さらなる発展につなげてほしい。(提供:THE OWNER)
文・THE OWNER編集部