「高学歴」の獲得コストはかつてなく高まっており、労働市場においては強力なシグナルとして機能する。ある会社が学生向けの企業説明会を開催したところ、一流大向けの参加枠は空いているのに、平均的な大学向けの枠は「満席」と表示させたことが話題になった。
正直、筆者の学歴はパッとしないが、現在の収入は会社員時代の10倍はある。稚拙な自慢をしたいという意図はなく、「学歴はコストに合わない」と言いたいのだ。また、ビジネスで付き合いのある年収億超え社長は、高学歴もいるが平均的な大学レベル卒も何人もいる。
本記事では、これからは「高学歴」を取得するコストに見合うリターンがない根拠について解説する。
年収は減ったが大学の授業料は2倍になった
2014年の文部科学省の調査によると、各大学の平均授業料は下記のとおりである。
・国立大学:535,800円
・私立大学:864,384円
※入学金別。
だが、彼らの親世代となる、30年前の大学における学費は約半分なのだ。
・国立大学:252,000円
・私立大学:497,826円
そして平均年収は、1997年の467万円をピークに下がり続けている。しかもインフレを考慮すれば、この下落率はさらに大きいものと認識されるべきだ。
大学4年間で要する費用は、自宅通いなら667万円、自宅外通学では1,000万円超という驚きの試算もある。もはや大学全入時代の今、学部卒が「高学歴」ではなく「普通」と言って差し支えないと思うのだが、普通を獲得するためのコストは極めて高い。
多くの場合、大学コストはペイできない
専門性が極めて高く、高額報酬も望めるITや金融工学といった分野なら、高学歴に見合う給与所得を得られることも少なくない。
筆者が運営する英語多読のオンラインスクールには、最難関私大の大学院生の生徒さんがいる。彼は、アメリカGAFAの内定を得ているのだ。その決め手となったのは、大学ブランドの力も大きく働いたと推測する。
理工学部としての知識や彼の魅力であるパーソナリティももちろん関係はするが、知識や人柄が良くても平均以下の偏差値では同社への入社は簡単ではなかったことは推察できる。
彼の場合は高学歴エリートかつ専門分野の高いIT分野なので大学コストをペイできるだろう。しかし多くの大学の学部では、卒業までに獲得する専門分野の知識や大学ブランドはペイすることは容易ではない。
4年間という学業に専念する期間と、1,000万円レベルの価格オーダーに見合う結果を出せる人は少数派だと考える。「時間に余裕のある学生だからこその価値もある」などの意見も聞こえてきそうだが、経済的合理性を考慮した場合に限って言えば大学コストは割高でしかないのだ。
新卒で入社する学生にとっては、「学歴は商品原価」であるが、転職ではたちまち価値を失い、商品原価は前職のキャリアになる。
つまり学歴は、新卒入社という極めて限定的で瞬間的なケースでしか効力を発揮することがないのである。
起業やフリーランスは学歴不問の実力勝負
一方、経営者やフリーランスは学歴が一切関係ない。筆者はこれを会社員から経営者に転身してから痛いほど痛感した。顧客が求めるのは、会社やフリーランスが提供する「商品」や「サービス」が支払う価格以上の価値があるかどうかである。相手が高学歴であっても、差し出された商品に支払うコスト以上の価値を感じなければ、まったく売れない。
筆者は複数ビジネスをしており、高級フルーツギフトや英語多読による英語力アップのサービスを提供している。顧客が筆者に支払っているのは、「フルーツギフト」や「英語学習サービス」に対してであって、筆者自身の経歴に対してではない。
商品に信用を与える、という意味で経歴が役に立つケースもゼロではないが、それでもほとんどのケースは「商品・サービス」しか見られることはない非常にシビアな世界だ。
高キャリアでない方が得をするケース
昨今、「月収◯万円稼ぐ中学生ビジネスマン」や「稼ぐ女子大生」が話題を呼んでいる。動画ブームや、その他ネットビジネスの時流に上手に乗ったケースであるわけだが、彼らが注目を集めているのは、稼いでいる金額ではない。「中学生」「女子大学生」というレア度の高い「タグ」についてである。
彼らが20歳を超えていれば、これほど大きな話題を呼ぶこともなかったであろう。20歳を超えた大人であれば、月収100万円超を稼ぐことはそれほど珍しくはないからだ。
かつては「東大生が教える◯◯のスキル」のようなものが流行った時期があった。今でも、そのブームが消えたわけではない。
だが、最近では「中卒の自分がプログラミングで◯◯万円稼いだ」という逆張りの売り方も見られる。言い方が悪いが「こいつにできるなら自分には絶対できる」と顧客に自分を下に見させることで、商品を手に取らせる手法なのだ。
収入は学歴ではなく提供価値によって激増する
起業やフリーで稼いでいくなら、学歴はコスト高でまったく割に合わない投資となる。フリーランス先進国である米国では、2027年には労働人口の半分がフリーランスに達するという試算もある。
我が国も、米国の動きを踏襲するとなると、令和時代はますます高学歴のコストリターンは悪くなる一方だと筆者は見ているのである。(提供:THE OWNER)
文・黒坂 岳央(水菓子肥後庵代表 フルーツビジネスジャーナリスト)