持続可能な開発とは、将来の世代の欲求を満たしつつ,現在の世代の欲求も満足させるような開発のことだ。2015年に国連でのサミットにおいて、2030年までに達成すべき17の目標が採択された。投資家も、環境や社会に向けて積極的な取り組みを行う企業に投資する傾向が強まっている。この記事では、中小企業にも大きく関係する、持続可能な開発の概要を紹介する。
持続可能な開発とは簡単に言えば何か?
「持続可能な開発」とは、外務省のホームページによれば「将来の世代の欲求を満たしつつ,現在の世代の欲求も満足させるような開発」のことだ。
出典:外務書『持続可能な開発』
これまで環境と開発は、相反するものと考えられてきた。しかし、持続可能な開発では、環境と開発を共存できるものとして捉え、環境保全に配慮しながら節度をもって開発を行うことが重要であるとしている。
2015年に国連で開かれたサミットで、上記の17の目標が2030年までに達成されるものとして定められた。これらの目標は、「持続可能な開発目標(Sustainable Development Goals = SDGs = エスディージーズ)」と呼ばれている。また、これらの目標に合わせて169の具体的なターゲットと、232の指標も定められた。
経済界でも、持続可能な開発に関する動きがある。2006年に当時の国連事務総長アナン氏が、「責任投資原則(PRI)」を金融業界に向けて提唱した。PRIの趣旨は、機関投資家が投資を行う際に「ESG(Environment=環境、Society=社会、Governance=ガバナンス)」を重視することを求めたものだ。
日本においても、年金積立金管理運用独立行政法人がPRIに署名したことを機に、投資家が環境や社会に向けて積極的に取り組みを行う企業に投資する傾向が強くなっている。それを受けて、投資を受ける企業側でもESGを推進する動きが加速している。
経団連は2017年に行動企業憲章を改定し、「Society 5.0」のコンセプトにもとづいてSDGsの達成に向けて本気の姿勢を見せている。大企業だけでなく中小企業でも、具体的な取り組みを始めているところが少なくない。
持続可能な開発目標が制定された経緯
「持続可能な開発」は、「環境と開発に関する世界委員会(通称ブルントラント委員会)」が1987年に公表した報告書において中心的な考え方として取り上げられたことで、広く認知されるようになった。
第2次世界大戦終戦後の数十年は環境が国際的な問題になることはほとんどなかったが、1960年代以降は世界的規模の環境悪化について警鐘が鳴らされることが多くなった。1987年にブルントラント委員会が報告書を公表し、1992年には「国連環境開発会議(地球サミット)」がリオデジャネイロで開催され、環境について国際的な取り組みを行う行動計画「アジェンダ21」が採択された。
持続可能な開発についての取り組みはさらに進み、国連では以下のような動きがあった。
・1997年 国連環境開発特別総会 …「アジェンダ21の一層の実施のための計画」の採択
・2000年 国連ミレニアム・サミット …極度の貧困と飢餓の撲滅など、2015年までに達成すべき8つの目標を掲げた「ミレニアム開発目標(Millennium Development Goals = MDGs)」の採択
そしてMDGsが15年の達成期限を迎えたことを受け、2015年の国連でのサミットにおいて2030年までの目標としてSGDsが採択された。
2000年のMGDsの内容は、先進国による途上国の支援が中心だった。これに対してSDGsは、先進国と途上国とが一丸となって目標を達成していくという内容になっている。
持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標
持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標は、以下のとおりだ。
No. | 目標 | キャッチフレーズ |
---|---|---|
1 | 貧困をなくそう | あらゆる場所で、あらゆる形態の貧困に終止符を打つ |
2 | 飢餓をゼロに | 飢餓に終止符を打ち、食料の安定確保と栄養状態の改善を達成するとともに、持続可能な農業を推進する |
3 | すべての人に健康と福祉を | あらゆる年齢のすべての人の健康的な生活を確保し、福祉を推進する |
4 | 質の高い教育をみんなに | すべての人に包摂的かつ公平で質の高い教育を提供し、生涯学習の機会を促進する |
5 | ジェンダー平等を実現しよう | ジェンダーの平等を達成し、すべての女性と女児のエンパワーメントを図る |
6 | 安全な水とトイレを世界中に | すべての人に水と衛生へのアクセスと持続可能な管理を確保する |
7 | エネルギーをみんなに そしてクリーンに | すべての人に手ごろで信頼でき、持続可能かつ近代的なエネルギーへのアクセスを確保する |
8 | 働きがいも経済成長も | すべての人のための持続的、包摂的かつ持続可能な経済成長、生産的な完全雇用およびディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)を推進する |
9 | 産業と技術革新の基盤をつくろう | 強靭なインフラを整備し、包摂的で持続可能な産業化を推進するとともに、技術革新の拡大を図る |
10 | 人や国の不平等をなくそう | 国内および国家間の格差を是正する |
11 | 住み続けられるまちづくりを | 都市と人間の居住地を包摂的、安全、強靭かつ持続可能にする |
12 | つくる責任つかう責任 | 持続可能な消費と生産のパターンを確保する |
13 | 気候変動に具体的な対策を | 気候変動とその影響に立ち向かうため、緊急対策を取る |
14 | 海の豊かさを守ろう | 海洋と海洋資源を持続可能な開発に向けて保全し、持続可能な形で利用する |
15 | 陸の豊かさも守ろう | 陸上生態系の保護、回復および持続可能な利用の推進、森林の持続可能な管理、砂漠化への対処、土地劣化の阻止および逆転、ならびに生物多様性損失の阻止を図る |
16 | 平和と公正をすべての人に | 持続可能な開発に向けて平和で包摂的な社会を推進し、すべての人に司法へのアクセスを提供するとともに、あらゆるレベルにおいて効果的で責任ある包摂的な制度を構築する |
17 | パートナーシップで目標を達成しよう | 持続可能な開発に向けて実施手段を強化し、グローバル・パートナーシップを活性化する |
貧困や飢餓、水の問題など途上国に対する支援から、エネルギーや働きがい、経済成長、まちづくり、さらには気候変動や海・陸の豊かさなど、現在世界が抱える課題が網羅されていることがわかる。
持続可能な開発目標についての日本の取り組み
持続可能な開発目標(SDGs)について、日本の取り組みを見てみよう。
2016年5月20日、安倍総理が本部長、国務大臣全員をメンバーとする「第1回 持続可能な開発目標(SDGs)推進本部」が開かれた。SDGs推進本部はその後も年2回、同じメンバーで開かれている。
2016年12月22日に開かれた第2回SDGs推進本部において、安倍総理は以下を発表し、総額で約39億ドル(約4,000億円)の支援や取り組みをしていくことを約束している。
・国際保健機関に対し総額約4億ドルの支援
・難民問題へ対応するため5億ドル規模の支援
・女性の権利の尊重、能力発揮のための基盤整備、およびリーダーシップの向上を重点分野として総額30億ドル以上の取り組み
また2018年12月、SDGs推進本部は「SDGsアクションプラン2019」のポイントを以下のように定めている。
「1. SDGsと連動する『Society 5.0』の推進」の内容を見れば、持続可能な開発目標SDGsは中小企業にも深く関係していることがわかる。
『SUSTAINABLE DEVELOPMENT REPORT 2019』によれば、SDGsの達成度において日本は世界ランク15位に留まっている。17の目標ごと達成度は以下のとおりで、「緑:達成されている」「黄:課題が残っている」「オレンジ:重要な課題がある」「赤:深刻な課題がある」と課題の達成度で色分けされている
「達成されている」のは、「4. 質の高い教育をみんなに」と「9. 産業と技術革新の基盤をつくろう」のみだ。「5. ジェンダー平等を実現しよう」「12. つくる責任つかう責任」「13. 気候変動に具体的な対策を」「17. パートナーシップで目標を達成しよう」については、4段階で最も低い評価だった。
今後日本はSDGsについて、さらなる取り組みが求められていると言えるだろう。
持続可能な開発目標についての日本企業の取り組み事例
持続可能な開発目標(SDGs)についての、日本企業の取り組み事例を見てみよう。経団連が運営するSDGsのホームページには、加盟企業の取り組み事例が紹介されている。
・SMH(スマートメンテナンスハイウェイ)プロジェクトの推進
東日本高速道路(株)~目標9. 産業と技術革新の基盤をつくろう
・インド グジャラート州・アーメダバード自治体「高度交通運用管理システム」
日本電気(株)~目標11. 住み続けられるまちづくりを
・コミュニケーションロボットによる介護支援 (株)ニコン、ユニロボット(株)~目標3. すべての人に健康と福祉を
経団連のホームページに掲載されているのは大企業の取り組みだけだが。関東経済産業局はSDGsに取り組む中小企業・ベンチャー企業の事例を以下のように紹介している。
・株式会社TBM ~世界が注目する革命的新素材「LIMEX(ライメックス)」を開発
・ホットマン株式会社 ~SDGsを活用した内部組織力強化と新規協働機会の獲得
・カルネコ株式会社 ~本業を通じだSDGs貢献により、取引先へソリューション提供(コスト・廃棄物削減)を実現
出典:経済産業省 関東経済産業局『本業を通じてSDGsに取り組む中小企業・ベンチャー企業の先進事例の紹介』
中小企業も、持続的な開発目標に向けた取り組みを始めていることがわかる。
中小企業も持続可能な開発目標に真剣に取り組む必要が
将来の世代の欲求を満たしつつ,現在の世代の欲求も満足させるような開発を行う「持続可能な開発」。国連において2015年に採択された17の目標は、現代に生きるすべての人が、次世代の人たちのために何らかの取り組みを行う必要があることを示している。
今後は環境や社会に対する取り組みを積極的に行う企業に、より一層資金が集まるようになるだろう。中小企業も、できる範囲で取り組みを行っていくことが求められる。(提供:THE OWNER)
文・THE OWNER編集部