相続税の節税に不動産を「活用」するスキームはこれまでにも多くの事例があり合法的な節税手法であるとされてきました。しかし2019年11月に東京地裁でそのスキームを否定するかのような判決が出されため、不動産業界では波紋が広がっています。この判決では不動産の購入が相続税の軽減目的であり申告内容が不適切であるとして約3億円もの追徴課税となりました。

相続税対策に不動産の活用を検討している人にとっては気がかりな判決といえるでしょう。そこで今回は事件と判決の概要、スキームが否定された理由などを解説します。

判決の概要と争点

相続税対策,不動産購入
(画像=Vitalii Vodolazskyi/Shutterstock.com)

問題の判決について概要と争点を整理してみましょう。まず事件の概要は以下の通りです。

・時価約13億8,000万円相当の不動産を購入し路線価を約3億3,000万円として評価した
・約3億3,000万円の借入金があったため、差し引きゼロとして申告し無税となる
・国税当局は時価で評価し相続財産は約12億7,000万円であると認定、約3億円を追徴課税した

以上が事件の概要ですが、ここにはいくつかの争いがあります。次で争点となっている部分と「不適切」と見なされた理由について考察してみましょう。

この不動産取引が相続税対策と見なされた理由

この事件の経緯だけを見ていると「国税庁は税額が高くなるように恣意的な評価をした」と感じてしまうかもしれません。しかしこの解釈は国税庁の見解も押さえておくことが必要でしょう。なぜなら相続財産としての不動産は時価で評価するのが原則だからです。そのため国税庁が時価を適用したのは自然な流れといえます。

また申告者が時価13億円もの不動産を時価では3億円少々と評価しており両者には10億円もの乖離がある点も見逃せません。この乖離が相続税対策のポイントでもあるのですが、そこが国税庁から「不適当である」と判断された理由にもなりました。不動産取引が相続税対策であり申告内容が不適切だと認定されたのは、以下の理由が考えられます。

・時価と路線価に大きな開きがある物件を選んで購入しており相続税対策であることが明白だった
・さらに被相続人が90歳を超えてからの高額不動産購入であり、その数年後に被相続人が亡くなっていることからも露骨な相続税対策であると見なされた
・借入金と通算することで相続財産を差し引きゼロとし無税とした申告内容はさすがに「やりすぎ」だと判断された
・金融機関の借り入れの書類に節税のためと記載があった

これらを総合すると「節税目的で不動産を購入したことが明らかで税逃れが露骨でやり過ぎだった」という結論になります。10億円を超える現金資産がある人が相続税をゼロにするスキームというのはさすがに露骨であり時価と路線価の乖離が大き過ぎたことも問題視されたのでしょう。

不動産を活用した相続税対策スキームが否定されたわけではない

判決では「不動産を活用した節税スキームが否定された」というニュアンスだけが独り歩きをしてしまい「今後相続税対策として不動産は活用できないのではないか」という憶測が流れた側面があります。しかしこれは事実ではなく現金資産と比べて不動産の評価が低くなる仕組みが変わったわけではありません。小規模宅地等の特例といった特例も依然として有効であり多くの事例で適用されています。

今回の判決はあまりにも税逃れが露骨だったことが「不適当である」と見なされたわけです。そのため不動産を活用した節税スキームは今後も有効であると考えられます。この事件、判決から学ぶべき点は、「何ごとも露骨にやり過ぎるというのは良い結果につながらない」ということではないでしょうか。特に今回の判決では不動産購入の時期も争点になっています。

相続税対策はできるだけ早い時期から時間をかけて取り組むべきというのが基本です。その基本に立ち返るべきであるという示唆でもあるといえるのではないでしょうか。(提供:YANUSY

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