老後資金準備の一環として利用される個人年金保険。運用により利益が出ると税金がかかる場合もあるので、自分で確定申告をして納税をする必要がある。一体どのような時に税金がかかり、確定申告はどう行えばいいのだろうか。個人年金保険で年金を受け取る時の税金について知っておこう。

個人年金保険とは?個人年金の種類と受け取りにかかる税金の違い

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(画像=tkyszk/Shutterstock.com)

個人年金保険は払い込んだ保険料から積み立てた資金を原資に、一定の年齢以降に年金を受け取れる保険商品だ。受け取り時までに被保険者が死亡した場合は、通常それまでに払い込んだ保険料総額に相当する死亡給付金が支払われる。

個人年金保険の2つのタイプ

個人年金保険は年金を受け取れる期間の違いにより、次のような種類がある。

(1)一定期間タイプ
・確定年金……被保険者の生死に関わらず、10年など契約時に定めた一定期間は年金を受け取れる
・有期年金……契約時に定めた年金期間中に被保険者が生存している場合に限り年金を受け取れる
・保証期間付有期年金……保証期間中は被保険者の生死に関係なく年金を受け取れる。保証期間経過後は被保険者が生存している場合のみ年金を受け取れる

(2)一生涯タイプ
・保証期間付終身年金……保証期間中は被保険者の生死に関わらず年金を受け取れる。保証期間終了後は被保険者が生存している間は年金を受け取れる
・夫婦年金……被保険者である夫婦のいずれかが生存している間は年金を受け取れる

個人年金保険の受け取りにかかる税金の種類は契約者と受取人の関係によって異なる

個人年金保険から受け取る年金にかかる税金の種類は、保険料負担者(契約者)と年金受取人の関係によって、次のように異なる。

・保険料負担者と年金受取人が同一人の場合
公的年金以外の雑所得として「所得税」がかかる。

・保険料負担者と年金受取人が異なる場合
契約者が夫で妻が年金を受け取るケースなどがこれに該当する。この場合、年金受取開始時に年金を受け取る権利に対して「贈与税」がかかる。2年目以降に支払われる年金については、贈与税の対象とならなかった部分に対して公的年金以外の雑所得として「所得税」がかかる。

個人年金保険から年金を受け取った場合には原則として確定申告が必要

個人年金保険から生じる雑所得は、給与所得など他の所得と合算され、所得額に応じた税率をかけて所得税額が計算される。所得(収入から経費や控除を差し引いた後の金額)があれば、原則として確定申告が必要だ。

ただし次のような人に限り、確定申告不要制度によって確定申告をしなくてもよい。

給与所得者で確定申告が不要な人

会社員など給与所得者で、その年に受け取った個人年金による所得と、年末調整によって課税が終了する給与所得や退職所得以外の所得(副業などの所得)の合計額が20万円以下の人は確定申告をしなくてもよい。

そのほか給与収入の合計額から雑損控除・医療費控除・寄附金控除・基礎控除以外の所得控除の合計額を差し引いた金額が150万円以下で、給与所得・退職所得以外の所得が合計20万円以下の人も確定申告は不要だ。

年金受給者で確定申告が不要な人

公的年金等の収入額が400万円以下の年金受給者であって、その年に受け取った個人年金による所得(計算方法は後述)と公的年金等以外の所得の合計額が20万円以下の人は確定申告をしなくてもよい。

給与所得や公的年金以外の所得があるなら個人住民税の申告は必要

上述した確定申告不要制度が適用されるのは所得税の申告のみだ。年末調整や源泉分離課税によって課税が終了する給与や公的年金等の所得以外に、1円でも所得があれば住民税の申告は必要になる。

年末調整を行っていない場合や、勤務先(支払者)が支払報告書を自治体へ提出していない場合には、所得税の確定申告も必要な店には注意したい。

個人年金を契約者本人が受け取る場合は所得税の対象

個人年金保険から受け取る年金は、契約者と年金の受取人が同じであれば、雑所得として所得税・住民税の課税対象になる。ただし課税されるのは払い込んだ保険料を上回る「利益」に相当する部分で、払い込んだ保険料に相当する部分に税金はかからない。

受け取った年金に所得税がかかるのは、その年に受け取った個人年金による所得と年末調整によって課税が終了する給与所得や退職所得以外の所得(副業などの所得)の合計額20万円を超えた場合だ。

個人年金の契約者と年金受取人が同じ契約では年金支払い時に所得税の源泉徴収が行われる

個人年金保険の契約者(保険料負担者)と年金受取人が同じ場合は、年金支払時に以下の所得税・復興特別所得税が天引き(源泉徴収)される。

源泉徴収額=(年金額-その年金額に対応する保険料または掛金額)×10.21%

この源泉徴収額は、一律の税率で計算される暫定的なものだ。所得税の税率はその年の所得に応じて変わる。実際に適用される税率で計算した税額との過不足を調整するため、翌年に確定申告が必要になる。

年金年額からそれに対応する保険料・掛金を控除した残額が25万円未満の場合や、契約者と年金受取人が異なる場合には源泉徴収は行われない。この場合も確定申告が必要だ。

個人年金での雑所得額の計算方法

雑所得の金額はすべての収入額から必要経費を差し引いて計算する。

雑所得の金額=(A)総収入金額-(B)必要経費

個人年金保険の年金受け取り時の総収入金額と必要経費は、以下のように求める。

(A)総収入金額=(基本年金)+(増額年金)+(年金受取開始後の配当金による増加年金)

・基本年金……運用成果に関係なく受け取りが確定している年金額(契約年金)
・増額年金……年金受け取り開始時点までの積立配当金によって上乗せされる年金額
・増加年金……年金受け取り開始後の配当金によって上乗せされる年金額

増額年金と増加年金は運用により得られた利益を年金額に上乗せするもので、上乗せされるかは運用成果次第で契約時点では確定しない。

(B)必要経費=(年金年額)×(払込保険料総額/年金の総支給見込額)

年金の総支給見込額は年金の種類によって計算方法が異なり、それぞれの次のように計算する。

・終身年金……年金年額×余命年数
・確定年金……年金年額×支給期間
・保証期間付終身年金……年金年額×(余命年数と保証期間年数のいずれか長い年数)
・有期年金……年金年額×(余命年数と保証期間年数のいずれか短い年数)

夫婦年金における余命年数は、夫婦の余命年数のいずれか長い年数(通常は妻の余命年数)である。必要経費を計算する際の年金年額は「基本年金と増額年金の合計額」であり、増加年金は含めない。

余命年数表

年金支給開始日
における年齢
55歳 23年 27年
60歳 19年 23年
61歳 18年 22年
62歳 17年 21年
63歳 17年 20年
64歳 16年 19年
65歳 15年 18年
66歳 14年 18年
67歳 14年 17年
68歳 13年 16年
69歳 12年 15年
70歳 12年 14年
75歳 8年 11年
80歳 6年 8年

※所得税法施行令第82条の3別表より抜粋、筆者作成

個人年金の種別による雑所得の計算例

雑所得を実際の例で計算してみよう。年金年額以外の契約条件は以下のように共通とし、初回受け取り時(60歳)の雑所得金額を計算する。

(契約条件)
契約者(保険料負担者)・被保険者・年金受取人:Aさん(60歳・男性)
契約年齢:40歳
年金受取開始年齢:60歳(払込期間20年)
保険料:月額2万円(保険料払込総額480万円)

(1)10年確定年金の計算例

年金年額:60万円(基本年金額55万円・増額年金額5万円)

総収入金額=60万円(年金年額)
必要経費=60"万円(年金年額)×480万円(払込保険料総額)/600万円(年金の総支給見込額)=48万円

年金の総支給見込額は60万円×10年(支給期間)=600万円。この例での雑所得金額は、60万円(総収入金額)-48万円=12万円となる。

(2)10年保証期間付終身年金・定額型の計算例

年金年額:30万円(基本年金額25万円・増額年金額5万円)

総収入金額=30万円(年金年額) 必要経費="30万円(年金年額)×480万円(払込保険料総額)/570万円(年金の総支給見込額)=25万5,000円

60歳男性の余命年数19年は保証期間10年より長いため、年金の総支給見込額は30万円×19年=570万円である。必要経費割合は480万円/570万円≒0.8421……と計算されるが、この場合は小数第3位以下を切り上げる(ここでは0.85)。

この例での雑所得金額は30万円(総収入金額)-25万5,000円=4万5,000円である。

個人年金の契約者以外が年金を受け取る場合には贈与税と所得税(2年目以降)の対象になる

個人年金保険の契約者と年金受取人が異なる場合、初回受け取り時に年金開始時点の年金受給権の評価額が贈与税の対象になる。また2年目以降に毎年受け取る年金は雑所得として所得税・住民税の対象になる。

贈与税には年110万円の基礎控除(非課税枠)があり、初回受け取り時の年金受給権評価額が110万円を超える場合のみ贈与税の確定申告が必要だ。

2年目以降に受け取る年金は、その年に受け取った個人年金による所得と年末調整によって課税が終了する給与所得や退職所得以外の所得(副業などの所得)の合計額20万円を超えた場合に、所得税の確定申告が必要となる。

贈与税の対象になる年金受給権の評価額(初回受取時)

贈与税の対象となる年金受給権は、次のいずれかのうち最も多い額で評価する。

・解約返戻金額
・年金の代わりに一時金で受け取れる場合はその一時金額
・予定利率等をもとに算出した金額

贈与税には年間110万円までの非課税枠がある。年金受給権の評価額が110万円以下であれば贈与税はかからず、確定申告も不要だ。

所得税・住民税の対象となる雑所得金額(2年目以降)

2年目以降に受け取る年金のうち、贈与税の課税対象となった部分は所得税・住民税の課税対象とならない。所得税・住民税の課税対象となる部分の金額は単位計算という方法を用いて計算され、経過年数ごとに同額ずつ段階的に増加していく。

個人年金保険で確定申告をする方法

確定申告は自分で作成した確定申告書を税務署に提出して行う。

確定申告のステップ1……必要書類の準備

受け取った個人年金の収入金額などを確認するための「個人年金の支払調書」や「年金支払証明書」を準備する。所得や適用を受ける控除に応じて、源泉徴収票(給与所得者・年金受給者)や、控除を受ける場合は各種証明書などが必要である。

確定申告のステップ2……確定申告書の作成

申告書は国税庁サイト「確定申告書等作成コーナー」から、画面の指示に従い必要な情報を入力していけば比較的簡単に作成できる。

個人年金保険以外の所得が給与または公的年金等のみで、個人年金保険から生じた所得(雑所得)のみを申告する場合であれば「確定申告書A」を選択すればよい。契約者と年金受取人が異なり贈与税がかかる場合には、同じサイトから贈与税の申告書を作成する。

個人年金保険から生じた所得の申告は、2020年1月以降スマートフォンやタブレット端末を使って確定申告を行う「スマート申告」でもできるようになった。

個人年金保険から生じる所得は「雑所得(その他)」に該当する。雑所得(その他)の入力欄には、保険会社から送付される「個人年金の支払調書」や「年金支払証明書」などをもとに収入金額等を入力する。

確定申告のステップ3……確定申告書の提出・納税

確定申告書は印刷して税務署の窓口に持参あるいは郵送するかe-Taxを利用して自宅からインターネット経由で提出する。申告と納税は確定申告期間内(通常は翌年2月16日から3月15日まで)に行う。

ペナルティ対象にならないためにも個人年金保険を理解し正しく確定申告する

年金年額が20万円を超えたり契約者と年金受取人が異なったりする場合、保険会社は税務署への「年金支払調書」の提出が義務付けられている。税務署はこれから所得を把握しており、所得が申告されていなければ指摘を受ける可能性がある。指摘を受けてから納税すると無申告加算税や延滞税などのペナルティが課されてしまう。

個人年金保険を含む金融商品はその税金についてもよく理解した上で利用し、正しく申告・納税するようにしよう。

文・竹国弘城(ファイナンシャル・プランナー)/MONEY TIMES

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