日本製鉄株式会社が2020年3月期、過去最大の赤字4,400億円を計上する見通しとなった。なぜ日本最大手の鉄鋼メーカーの業績はここまで悪化してしまっているのだろうか。決算発表の場で宮本勝弘副社長は「誠に遺憾だ」と厳しい表情を浮かべた。

今期の通期見通しは4,400億円の赤字に

日本製鉄,赤字
(画像=Taromon/Shutterstock.com)

2020年2月7日に2020年3月期第3四半期決算を発表した日本製鉄株式会社の業績内容を紐解いていこう。第3四半期までの累計業績(2019年4~12月)で売上収益は4兆4,760億1,400万円(前年同期比2.2%減)、本業のもうけを示す事業収益は△2,793億円だった。事業収益は前年同期の2,633億7,700万円から約5,426億円落ち込んだことになる。四半期利益も黒字から一転して△3,515億6,100万円。

こうした赤字の計上から2020年3月期の通期連結業績予想を下方修正し最終的に2020年3月期で4,400億円まで赤字が拡大する見込みとした。2019年3月期は約2,511億円の黒字であったが、2020年3月期の下方修正通りになると同社として過去最大の赤字額を計上することになる。なぜここまで2020年3月期の決算が厳しいものになったのだろうか。

日本製鉄株式会社は日本最大手の鉄鋼メーカーで粗鋼生産量は世界3位

そもそも日本製鉄株式会社とはどのような企業なのだろうか。日本製鉄株式会社は2012年に新日本製鐵鉄株式会社と住友金属工業株式会社が合併し2012年10月から新日鐵住金株式会社となった。その後2019年4月に商号変更して日本製鉄株式会社となる。日本国内では最大手の鉄鋼メーカーで世界的にみても有数の鉄鋼メーカーだ。

2018年度の粗鋼生産量は約4,922万トン規模で世界3位に位置している。2020年3月期第3四半期の売上収益は約86.7%を製鉄セグメントで稼ぎ出し日本国内で複数の製鉄所を抱えているのが特徴だ。2019年時点で高炉を13基保有しそのうち7つが鉄鋼一貫製鉄所である。日本国外にも事務所を持ちその数は18だ。

アメリカやブラジルなどのほか、東南アジアのインドネシアやシンガポール、タイにも拠点を構えている。日本製鉄株式会社の通期決算がここまで巨額の赤字となる見通しなった背景には、同社が事業用資産として有する製鉄所関連の減損損失の計上がある。同社が発表した減損損失に関する発表の内容を見ていこう。

減損損失の計上が招いた巨額赤字合計3,966億円

2020年3月期第3四半期の決算短信によると日本製鉄株式会社が有する鹿島製鉄所と名古屋製鉄所、広畑製鉄所が継続的に赤字を計上する結果となっており事業用資産の帳簿価格を下回った結果として減損損失を計上することになった。さらには呉製鉄所の事実上の閉鎖を決定したことも大きい。呉製鉄所の閉鎖は2023年9月末が目途とされている。

減損損失の金額は鹿島製鉄所が1,504億円、名古屋製鉄所が1,228億円、広畑製鉄所が447億円となっており呉製鉄所を有する子会社の日鉄日新製鋼の減損損失額は787億円。これらの合計は実に3,966億円となる。

日本の製造業が生き残る道は経営のスリム化

日本製鉄株式会社を取り巻く状況は非常に厳しい。日本を含め世界で鋼材需要は低迷していることに加え原料価格が上昇している。特に海外ではロシアやインドから鋼材が流入しASEAN(東南アジア諸国連合)エリアにおける市況の悪化が著しいという。災害による生産トラブルなどが起きたことも大きい。日本製鉄株式会社はこうした状況からの脱却を果たせるのか。そのカギを握るのが経営体制のスリム化だ。

そのことを決算発表の場で宮本副社長も強調している。製鉄所の閉鎖などによって収益力を向上させ赤字の状況を改善させる狙いだ。日本国内の製造業にはまだまだ事業用資産を多数保有するメーカーが多い。日本製鉄株式会社の経営のスリム化という生き残り戦略がうまくいけば、いずれ各社に訪れる可能性がある危機を回避するための好例ともなり得るだろう。そうした意味でも同社の今後の動向を多くの企業が注視している。

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)/MONEY TIMES

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