2020年度税制改正では不動産投資家が意識せざるを得ない改正がいくつか行われました。今回のテーマ「金地金還付スキームの封じ込め」もその一つです。ここでは「そもそも金還付スキームとは何か」「どのように封じ込められたのか」について解説します。

2020年度税制改正で金還付スキームが困難に

賃貸不動産,税制改正,金地金還付スキーム
(画像=GagoDesign/Shutterstock.com)

多額の投資で不動産賃貸を行いながら収益を図る不動産投資家としては少しでもコストを抑えたいと考えるのが性です。特に「取られている感の強い税金」については節約したいと思う人も多いでしょう。そういった背景の中で専門家などにより編み出された節税スキームの一つが「金地金還付スキーム」です。ただし居住用物件の賃貸借の実態からみると経済的合理性に欠けており租税回避行為に近いものでした。

税法の穴をついた金地金還付スキームが横行するようになると税務当局としても黙って見過ごすわけにはいきません。税務上の国の姿勢を法制度化したのが2020年の税制改正です。「2019年9月26日に東京高裁で金地金還付スキームにつき納税者の控訴が棄却された事例」についてはすでに本サイトの過去記事で解説しましたが、これはあくまでも裁判所の判断に過ぎず効力としては穴が残ります。

税制改正はより強力に金地金還付スキームを完全に違法扱いとしました。

金地金還付スキームとは何か

金地金還付スキームの内容をおさらいしましょう。金地金還付スキームとは、金の売買を繰り返すことで本来消費税の納税・還付が発生しないはずの賃貸業で消費税の還付を発生させるというスキームです。投資対象の大半を占める居住用物件の賃貸借については、消費税法上非課税取引とされています。なぜなら「人が日常的に住まう物件について消費税を負担させるのは社会通念上好ましくない」からです。

しかし「消費税非課税」ということは、賃貸収入などの売上だけでなく建物購入時の支払いも非課税になります。建物本体価格と共に多額の消費税を払っていても税法では「非課税売上には仕入税額控除(※)すべき消費税はない。支払った消費税も経費の一つ」と考えるのです。とはいえ、「建物購入時に多額の消費税を支払ったんだから、少しでも取り戻したい」と考えるのが投資家。

そこで「金取引による消費税還付」という節税スキームが登場します。これは金取引を繰り返すことで非課税仕入である建物購入費用の消費税の一部を課税仕入にし消費税の還付を図るというものです。金は住宅の貸付と違い課税取引に該当するため、金取引分に対応するコスト部分の消費税は仕入税額控除を適用できます。

さらに建物購入費用の仕入税額控除は「消費税課税の対象となる売上の割合(課税売上割合)」で考えます。ここで金の売買を繰り返せば、課税対象である金の売上割合が増え、その分仕入税額控除になる金額も増えるのです。結果、建物の利用目的は住宅の貸付専用であるにもかかわらず、その建物購入費用に伴う消費税の一部に仕入税額控除を適用すれば理論上、還付を受けることが可能となったのでした。

※仕入税額控除…売上に係る消費税から仕入にかかる消費税を差し引くこと

金地金還付スキームは税制改正でこうなった

課税売上割合を操作することで消費税の還付を図った金地金還付スキームは、税制改正で一切できなくなりました。具体的な改正内容はおおむね以下のようになります。

  • 居住用として賃貸する建物の購入に伴う消費税は、仕入税額控除が一切認められない
  • 購入物件である建物が現実に住宅として貸し付けていないとしても、少しでも居住用物件として貸し付ける可能性があるなら仕入税額控除は認められない

つまり金売買でどんなに課税売上割合を操作しても居住用物件の賃貸事業では消費税の控除ができないとされたのです。

今後の注意点

仮に今後、金に代わる課税資産の売買を行ったとしても、そもそも取得した建物が居住用としての用途が少しでも見込めるならば仕入税額控除はできません。ただし建物取得の日から原則3年以内に事業用転用したり売却したりした場合は一定の調整があります。「金がダメになったから他の商材で」ということは一切できないので注意しておきましょう。(提供:YANUSY

【あなたにオススメ YANUSY】
副業ブームの日本!サラリーマン大家になるなら覚えておきたいこと
2019年以降の不動産投資は「コミュニティ」が欠かせない
賃貸業界の黒船になるか。インド発のOYOの実態
不動産所得での節税に欠かせない必要経費の知識
賃貸管理上でのトラブル対応術とは?