不動産投資をするなら、減価償却費について知っておかなければなりません。減価償却費の仕組みや計算方法を正しく理解することで、不動産投資にかかる所得税を抑えることができます。本稿では、減価償却費の意味や計算方法、減価償却費で節税する方法などを、事例を交えてわかりやすく解説します。
目次
1.不動産の減価償却とは
減価償却とは、不動産のように時間経過とともに資産価値が減っていく固定資産を、購入費用と法定耐用年数に応じて毎年経費計上していく会計処理のことです。
1-1.減価償却の仕組み
減価償却費は、購入金額を法定耐用年数で割って算出します。例えば、1億円の不動産を購入したからといっても、購入した年に1億円すべてを経費にできるわけではありません。購入した年にすべて計上してしまうと経費が巨額になりやすく、次年度以降も実態としては使用するにもかかわらず、まったく経費にしないことになります。これでは各年の収益を正しく表すことができないため、構造や築年数に応じて、数十年にわたり減価償却費という項目で購入金額を分割して経費に計上していくことがルールになっているのです。
耐用年数とは、その資産が使用に耐えられる年数のことです。法律で定められた耐用年数は法定耐用年数と呼ばれ、税金の計算では法定耐用年数を用いることが義務付けられています。法定耐用年数は、固定資産の内容ごとに定められています。
1-2.減価償却できるのは「建物」のみ
不動産で減価償却できるのは「建物」のみで、「土地」は減価償却が認められていません。建物は経年劣化によって価値が減っていきますが、土地には経年劣化がないからです。
土地と建物を合わせて購入した場合でも、必ず建物部分のみの金額を算出して減価償却をする必要があります。また、改装やリフォームなどで所有する不動産に手を加えた際も、一定額以上の追加投資は資産計上した上で減価償却をする必要があります。例えば、「外壁塗装をした」「屋根を吹き替えた」「間取り変更した」場合がこれに該当します。
雨漏りの修理など、原状回復のための費用は修繕費に含まれるため、資産計上や減価償却をする必要はありません。資産計上や減価償却をする必要があるのは、物件の価値が向上するような工事をした場合に限られます。
2.減価償却費の計算方法
では、具体的な減価償却費の計算方法を見てみましょう。
2-1.定額法と定率法
減価償却費の計算方法には、「定額法」と「定率法」があります。以下のように、どちらを使うかによって各年の減価償却費の金額が大きく変わります。また償却資産によっては選択できない資産もあり、建物に関しては「定額法」しか適用することができません。
・定額法
毎年同じ金額を計上する方法で、毎年の減価償却費を安定させたい場合に向いています。計算式は以下の通りです。
取得価額×法定耐用年数に応じて定められた定額法の償却率
【表1】定額法による100万円の固定資産を耐用年数10年、償却率0.100で計算した例
年度 | 償却の基礎になる金額(取得価額) | 減価償却費 | 期末未償却残高 |
---|---|---|---|
1年目 | 100万円 | 10万円 | 90万円 |
2年目 | 100万円 | 10万円 | 80万円 |
3年目 | 100万円 | 10万円 | 70万円 |
… | … | … | … |
・定率法
初年度に最も多くの金額が計上され、以後耐用年数の終了に向かって金額が少しずつ減っていきます。計算式は次の通りです。
前期末の帳簿価額×法定耐用年数に応じて定められた定率法の償却率
※購入初年度は取得価額で計算します。
【表2】定率法による100万円の固定資産を耐用年数10年、償却率0.250で計算した例
年度 | 償却の基礎になる金額 | 減価償却費 | 期末未償却残高 |
---|---|---|---|
1年目 | 100万円 | 25万円 | 75万円 |
2年目 | 75万円 | 18万7,500円 | 56万2,500円 |
3年目 | 56万2,500円 | 14万625円 | 42万1,875円 |
… | … | … | … |
上記の表は計算の一例であり、固定資産の内容によって耐用年数は異なります。減価償却費が減っていくイメージとしてご覧ください。
確定申告においてどちらかの方法を選べますが、そのためには「所得税の減価償却資産の償却方法の届出書」を開業した年の翌年3月15日までに提出する必要があります。届出をしない場合は、法定の償却方法である定額法が適用されます。
2-2.新築物件と中古物件の違い
法定耐用年数は、新築の場合に適用されます。中古物件は新築に比べると法定耐用年数に達するまでの時間が短いため、法定耐用年数を所定の計算式で割り引く必要があります。
耐用年数のすべてを経過した建物の場合、新築の場合の法定耐用年数に0.2を掛けた金額が法定耐用年数になります。例えば、新築の法定耐用年数が22年で築25年の物件であれば、法定耐用年数は4年です(1年未満の端数は切り捨てます)。
耐用年数の一部を経過した建物の場合、経過年数に0.2を掛けた金額と、新築の場合の法定耐用年数から経過年数を差し引いた金額を足して法定耐用年数を算出します。例えば、新築の法定耐用年数が47年で築20年の物件であれば、まず20年に0.2を掛けて「4年」を算出します。続いて47年から20年を差し引き「27年」を出し、それらを足した「31年」が法定耐用年数になります。
【中古資産の耐用年数計算】
・20年×20%=4年……①
・47年-20年=27年……②
①+②=31年
法定耐用年数によって、各年で計上する減価償却費の金額は大きく変わります。中古物件に投資することで、毎年の減価償却費を新築の場合より多く計上できます。減価償却費は、不動産投資の経費の中でも金額の大きい費用なので、投資判断をする前に減価償却費をシミュレーションしておくといいでしょう。
2-3.建物の構造による違いと耐用年数
法定耐用年数は、建物の構造や用途によって変わります。
【表3】店舗用・住宅用建物の法定耐用年数
建物の構造 | 建物の用途 | 耐用年数 |
---|---|---|
木造・合成樹脂造のもの | 店舗用・住宅用のもの | 22 |
木造モルタル造のもの | 店舗用・住宅用のもの | 20 |
鉄骨鉄筋コンクリート・鉄筋コンクリートのもの | 住宅用のもの | 47 |
れんが造・石造・ブロック造のもの | 店舗用・住宅用・飲食店用のもの | 38 |
例えば、鉄筋コンクリート造の住宅用建物の法定耐用年数は47年です。5,000万円の鉄筋コンクリート造の住宅用建物を新築で購入した場合、5,000万円を法定耐用年数の47年で割り、各年に減価償却費として計上できる金額は約106万円になります。
同じ住宅用建物でも、木造・合成樹脂造であれば法定耐用年数は22年。購入金額が同じだとすると、1年間に減価償却費として計上できる金額は約227万円です。このように同じ金額の建物でも、構造や用途によって、計上できる減価償却費の金額が大きく変わることがわかります。
3.減価償却費で節税する3つの方法と注意点
減価償却費は経費の中でも比較的金額が大きいので、計上すれば所得税を抑えられます。普通に計上するだけでも節税になりますが、工夫次第でより多くの減価償却費を計上することができます。
3-1.少額の固定資産を減価償却資産として計上する
中小企業者などに限り、取得価額30万円未満の固定資産を購入した年に減価償却資産として全額経費計上することができます。対象になるのは青色申告法人の中小企業者などで、従業員1,000人以下、資本金1億円以下などの条件があります。当てはまる人は積極的に利用したいところです。
3-2.複数の固定資産を一括償却資産として損金算入する
同じ年に、複数の固定資産を購入することもあるでしょう。その価格が10万円以上20万円未満であれば、取得金額を合計して3分の1ずつ3年間で経費計上することができます。「一括償却資産の損金算入」と呼ばれるこの制度は、通常の減価償却費とは別に計上できるので、ぜひとも利用したい制度です。
3-3.初年度に多くの利益が見込めるなら定率法で申告する
上の表1と表2を比べるとわかるように、100万円の固定資産の場合、初年度の減価償却費は定額法と定率法では15万円もの差があります。建物や建物付帯設備は定額法しか使えませんが、車両および運搬具などは定率用を選択することができます。不動産賃貸経営を始めてみて、初年度から満室で多くの利益が見込める場合、定率法で申告すればより多くの所得を減らすことができます。
ただし、減価償却が早く進むと売却する際の簿価が低くなり、簿価より高く売れた場合に納める税金が多くなるというリスクがあります。
表1と表2の「期末未償却残高」を「簿価」に置き換えると、定率法のほうが早く簿価が減ってしまうのです。売却を考えている場合は、定額法のほうが節税になる場合もあるので、ケースバイケースで考える必要があります。
4.まとめ
ここまで減価償却について詳しく見てきましたが、最後にポイントをまとめておきましょう。
・減価償却は固定資産を法定耐用年数で割って、分割で経費計上する会計処理方法
・減価償却できるのは「建物」のみで、「土地」はできない。リフォームで物件の価値を向上させる工事を行った場合も減価償却の対象になる
・減価償却の計算方法には「定額法」と「定率法」がある
・不動産は建物の構造や用途によって、法定耐用年数が大きく異なる
・減価償却費は高額な固定資産だけでなく、条件を満たせば少額な固定資産や、複数の固定資産をまとめて計上することができる
不動産は大きな買い物ですが、減価償却を正しく理解して毎年経費として計上することで所得税を節税することができます。減価償却費の活用は、長期で取り組む不動産投資には欠かせません。日頃から減価償却について勉強しておくことは、不動産投資においては必須と言えるでしょう。(提供:YANUSY)
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