Manegy
(画像=Manegy)

2009年4月にスタートし、BtoCサービスとしてAIを使ったボードゲーム全般のモバイルアプリを出しているHEROZ株式会社。創業者の一人が将棋のアマチュア名人だったこともあり、起業後、将棋人工知能の研究者が集まってきたという。将棋AIとして有名であった同社であるが、2016年からはBtoB向けのAIサービスも提供している。2018年、マザーズに上場し、「AI革命を起こし、未来を創っていく」というビジョンを掲げ、AIを社会実装していくことを目指し邁進している。今回は、そのHEROZ株式会社のCFO浅原大輔氏に会社やお仕事などについてお話を伺った。

「私以上にこの会社にふさわしい人はいない」と思えた

―まずは簡単に浅原さんの経歴を教えていただけますか?

大学では情報学科で数理工学、そしてニューラルネットワークや人工知能も学んでいました。ゴールドマン・サックス証券株式会社に勤務後、ペンシルベニア大学ウォートンスクールに二年間MBA留学、その後HEROZに加わりました。

―どのような経緯でHEROZに加わることになったのですか?

MBA卒業後の進路を考えている頃、大きく三つの選択肢がありました。一つは、MBA在学中に日本の友人と立ち上げたモバイルアプリの会社を継続していくこと。二つ目はアメリカに残りファンドなど金融業界に戻ること。そして、3つ目は日本に帰って働くという選択肢。

そんなときに、将棋AIがプロ棋士に勝利するというニュースを知りました。自分が大学で数理工学の研究をしていた時は、人工知能の精度はまだまだ未発展で実用化は遠い先の未来のような気がしていました。しかし、それが現実のものとして実現していることを目の当たりにし、そのAI開発エンジニアにぜひ会いたいと思ったんです。その会社がHEROZであり、CEOと会うことになりました。一方、HEROZも将棋AIとして注目され、事業拡大のタイミングであり、ファイナンスで活躍できる人材を探していました。

―どうしてHEROZに入社しようと思われたのですか?

他にはないとてもユニークで存在意義のある会社だと思いました。それに人工知能の研究もしていて、ビジネス面にも強い、そして将棋も大好き、こんな私以上にこの会社にふさわしい人はいないでしょう!(笑)

そして浅原氏は、代表との入社面接では、将棋も指したという。勝負の結果は負けたそうだが、これにより入社が決定した。

スタートアップに加わる不安は?

―いわゆる「花形キャリア」を歩んでいたところからスタートアップに入っていくことに不安や迷いはなかったのですか?

当時33才で、あまりリスクとかは考えなかったです。さらに、MBAでアメリカにいた頃Facebookの上場をはじめ、スタートアップバブルのような時期で、身近に企業する人なども多く見ていたので、違和感を抱くこともなかったです。また、MBA留学中に同じラーニングチーム(一年間一緒に勉強する学習グループ)に連続起業家がいて、彼の経験や考え方に大きな刺激を受けたのもあったと思います。

さらに、当時、スタートアップ業界で投資銀行出身者はそんなに多くなかったですし、資金調達などファイナンス面、また技術的な面の理解など、これまでの経験を自分の強みとして活かしていくことができる、自分が入ればなんとかできると思いました。

チャレンジ精神は子供の頃の経験が!?

―エリート道を歩んできた一方新しい世界に飛び込むチャレンジ精神や強気の姿勢もおありで、面白い方ですね。(笑)子供の頃からですか?

普通の子供でしたよ(笑) 親は公務員で、小さい頃から将棋好きで、数学が得意でした。その一方で、中高ではバスケをするなど、いろいろなことに取り組み、好奇心は強かったです。

また、親戚に上場企業の役員をやっている人がいて、彼が未上場から徐々に会社を大きくし上場させた姿を身近に見ていたことは貴重な経験だったと思います。おかげで、自分がやるときに不安などを抱くこともなく取り組めました。

入社後はなんでもやりました

―入社前後のギャップや実際の業務についてお聞かせ頂けますか?

大変さなども想定内でギャップはそんなになかったです。入社直後は15人程度の規模で、人事・総務業務、給与計算、月末の振込み、月次集計などの経理業務からベンチャーキャピタルとの資金調達の交渉まで、なんでもやりましたね。結構、泥水飲んでやってきました(笑)

―良かったことはどんなことでしたか?

自分が好きな人を採用し、管理部門をイチから自分の好きなストラクチャーで作れたことです。“管理部門”と言っても様々なカタチがありますけど、HEROZでは業務フローなどは「軽くて効率的なもの」にこだわりました。ベンチャーで上場経験のある経理の人を最初に採用したことは今でもよく覚えています。

Manegy
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上場のポイントはエクイティストーリー

―上場時どんなことに苦労しましたか?

効率的で必要な機能を揃えた管理部門になるよう意識してイチから作り上げてきたので、機能や管理体制の面では不備もなく上場までもっていくことができまして、その点では特に苦労もなかったです。一方で、人工知能は新しいサービスなので、機械学習の存在や価値を世の中に広め、理解して頂くことには苦労しました。エクイティストーリー作りには時間をかけました。

―今後HEROZを大きくしていくにあたり、CFOの立場として浅原さんが取り組まれていることなど可能な範囲でお聞かせ頂けますか?

上場後には、会計士や弁護士の方に弊社に正社員として参画してもらっております。これは、内部管理体制の強化という目的に加えて、現時点では特段予定はないものの、資本市場を使った取り組みやM&A等を将来必要になったときに迅速に執行するためでもあります。そのためにも、金融機関や業界関係者などとの定期的な情報のキャッチアップやコネクションの維持は欠かさないようにしています。そして、IRも重要なので、海外も含めて、日本のAIの会社として知ってもらえるようにミーティングを重ねています。

スタートアップに向いている人材は貴重

―スタートアップに向いているのはどんな人ですか?

機敏に反応でき、今までやったことがないことにも自分で考えて柔軟に対応できる人。ですが、このような人材は管理部門にはなかなかいないのが悩みですね。管理部門には決められたことをきちんとコツコツとこなしていくようなタイプの方が多い印象です。このようなタイプの方は、上場後などもう少し後の段階での採用には嬉しいかもしれませんが、スタートアップには新しいことにもどんどん飛び込んでいける姿勢というのは必須だと思います。

専門領域のないCFOはやっていけない⁉

―CFOに必要な能力としてはどんなものがありますか?

CFOに向いているのは、財務、戦略、資金調達、M&Aなど、なにかしら極めたものがある上で、経営全般をみられること。逆に、経営をみることができるだけでは外部コンサルと変わらないので、専門領域(強み)を持つことは必要だと思います。また、会社として希望を持って進んでいく一方で、一歩下がった視点から現状を冷静に見て、現場の熱い想いとのバランスをとっていくこともCFOとしての大事な役割ではないでしょうか。

―CFOになるには外資金融出身、会計士、経理からなど様々なルートがありますが、浅原さんのような外資金融出身の人にはどんな企業に向いている、また、求められるのでしょうか?

投資銀行出身の人はやはりM&A、資金調達などに強いと思います。投資銀行や証券会社出身者は交渉などが上手な人が多く、ハイリスクハイリターン型の企業、例えば大量に資金が必要なので魅力あるエクイティストーリーを描いて投資家をついてこさせたいといった企業には、外資系投資銀行出身の人が大きな力となれるのではないでしょうか。

人材育成のポイントは多様性を受け入れること

―現在、浅原さんが管理部門全体を見ている状態だと思いますが、人材育成はどのようにしていますか?

現在、弊社の管理部門は経営企画1人、経理2人、法務1人、人事1人、広報1人と私の7人で構成されています。まずは、それぞれがやりたいことをやることが出来る環境を作るように心掛けています。手取り足取り全員の面倒を見ることは出来ませんが、やりたいことをやる機会を提供することはできるので、そこを大事にしています。また、自分に似たような人ばかりでなく、異なるタイプの人も入れ、多様性を保ちつつ、チームとしてまとまっているような構成を目指しています。

―今後、浅原さん率いる管理部門にはどんな人材が欲しいですか?

自分(チーム)にないものを持っている人。自分と異なるタイプの人とか、現在のチームにない能力、強みを持っている人をとりたいです。ただ人数を揃えるというよりは、今のチームと、その人のタイプだとかスキルを考慮して無駄のないプロフェッショナルなチームを作っていければと考えています。また、基本として、HEROZのビジョンに共感できる、AIや先端技術に興味があるといった部分は必要だと思います。

―以上になります。ありがとうございました。

MS-Japan
(画像=MS-Japan)

【プロフィール】
浅原大輔 (あさはらだいすけ)HEROZ株式会社 取締役

 1979年 神戸市生まれ
 2002年 京都大学卒業
 2004年 京都大学大学院 情報学研究科大学院修了
 2004年4月 マーサージャパン株式会社入社
 2006年7月 ゴールドマン・サックス証券株式会社入社 投資銀行部門資本市場本部に在籍
 2011年 ペンシルベニア大学ウォートンスクール経営学修士(MBA)
 2013年6月 HEROZ株式会社入社 執行役員
 2013年7月 取締役(現任)