(本記事は、いっちー氏の著書『鋼のメンタルを手に入れる ゴリラ式メタ認知トレーニング』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)
どうすればメンタルは強くなるのか?
レジリエンス、すなわち「心の自己回復力」は「逆境力」や「折れない心」など、さまざまな言葉で表現されます。アメリカ精神医学会(APA)では、困難や強いストレスに直面しても適応できる精神力と心理的プロセスのことを「レジリエンス」と呼んでいます。
このレジリエンスは、生まれ持った才能や資質ではなく、後天的に身につけることが可能であることがわかっています。
レジリエンスが注目され始めたのは、第二次世界大戦のホロコースト生存者を対象とした研究がきっかけとされています。
研究では、戦争孤児がどのような人生を送ったかが追跡調査されました。孤児たちの中には、戦争のトラウマや不安にさいなまれ、生きる気力さえ持てなくなった人たちがいる一方、辛い経験を乗り越え、幸せな家庭を築いている人たちもたくさんいたのです。
戦争孤児として同じように辛い経験をしたにもかかわらず、どうしてこのような違いが生まれるのでしょうか?
研究結果によれば、逆境を乗り越え、幸せな人生を送ることのできる人たちは、ものごとを〝柔軟に考えることができる〟という共通の傾向があったことがわかりました。
柔軟な発想を持つことができると、ものごとをポジティブにもネガティブにも受け止めることができます。どんなに苦しい状況でも〝ポジティブな面〟を見出せる力、たとえ逆境にあっても「それでもなんとかなるだろう」と、ある意味楽観的に受け止められる力を持つ人たちは、辛い経験やトラウマを乗り越えることができるのです。
レジリエンスは、いくつもの要素が重なり合った結果できあがる複合的な産物です。家族や友人と思いやりのある関係を持つことや、安心できるコミュニティに所属することなど、さまざまな要素が絡まり合い、お互いに支え合いながら育成されていきます。
レジリエンスを向上させる要素として、APAは次の10項目を挙げています。
① Make connections(あたたかい関係を築くこと)
② Avoid seeing crises as insurmountable problems(問題を克服できないと思わないこと)
③ Accept that change is a part of living(変えられることと変えられないことがあると受容すること)
④ Move toward your goals. Develop some realistic goals(現実的な目標を立てて進もうとすること)
⑤ Take decisive actions. Act on adverse situations as much as you can(自分で決断をすること)
⑥ Look for opportunities for self-discovery(失敗しても、そこから学ぼうとすること)
⑦ Nurture a positive view of yourself(前向きな考え方を自分で賞賛すること)
⑧ Keep things in perspective(長期的な視野が持てること)
⑨ Maintain a hopeful outlook(希望を抱き続けること)
⑩ Take care of yourself(自分をいたわってあげること)
これらを覚えておくことで、もしも辛い経験をして立ち直れそうにないと思ったときに、どうすれば回復できるのか、レジリエンスを高めるために自分に何が足りないのかが、理解できるかもしれません。
なお、レジリエンスを高めるために必要なことのうち、もう一つ大切なのが、「辛いときには誰かにヘルプを出す」ことです。
人は苦境に立たされると、視野が狭まり、行動の選択肢も自ら狭めてしまうことがあります。そんなとき、きちんと誰かに助けを求めることは、意外と難しいものなのです。
必要なときに必要な助けを求めるためは、家族や友人はもちろん、周囲のさまざまな人との関係性が重要になります。
たとえば、自助グループ(共通の問題や悩みを抱えた人が集まり、運営しているグループ)などの集まりでは、自分と同じように苦しむ人の話を聞くことで救われるということが多々あります。逆境を経験しているのは自分だけではないと〝共感し合う〟ことで、人は安心し、立ち直るきっかけを得ることができるのです。
また、さまざまな思想や感情がこもった本や文章などを読んで〝他人のストーリー〟に触れ、共感できる情報に出会ったとき、レジリエンスが高まるとも言われています。
つまり、他人とのあたたかい関係性の中で共感を得ることにより、レジリエンスが高まっていくのです。
こうしたコミュニティについては、厚生労働省やさまざまなNPO法人がインターネットなどを通じて情報を発信していますし、カウンセリングを行う心理士やメンタルヘルスの専門家も、逆境の中で苦しむ人たちのために背中を押してくれます。
日常生活に支障をきたすような困難を感じた場合、いち早く専門家にヘルプを出し、頼ることができるかどうかで、その後の人生が変わってしまうこともあるのです。
こうした専門機関やコミュニティなどは、初めて利用する際には不安を感じることもあるでしょう。それでも、〝柔軟に〟自分に必要な支援やサービスを選び取る力は、生きて行くためにとても大切な〝回復力〟なのです。
辛いときほど「1人でなんとかしなければならない」と思ってしまいがちですが、じつはそんなときこそ「1人にならないようにする」ことが、レジリエンスの本質なのです。
レジリエンスは、現代社会のさまざまな分野で注目されています。
多くの企業リーダーを輩出しているプライスウォーターハウスクーパース(PwC)を運営するジェシー・ソストリン氏は、レジリエンスを身につけることについて、問題解決能力を向上させ、イノベーションを起こすための必要不可欠な要素であることを、著書『The Managerʼs Dilemma』で主張しています。
人生に逆境はつきものですが、逆境を積極的に活用して、自身のレジリエンスを強化することの重要性を訴えているのです。
逆境を逆手に取って、レジリエンスを身につけた、素晴らしい例があります。
アフガニスタンの戦地で両足を失い義足となったハリ・ブッダ・マガル氏という人がいます。彼は、両足を失った直後、完全なる喪失状態で「何をすればいいかわからなくなった」と語っていたそうです。
しかし、仏教徒でもあるマガル氏は、心を柔軟にし続けられるよう訓練を続け、その結果「わたしの才能は足ではなく心にある」「そこまで多くを失ったわけではない」と語れるようになるまで精神を回復させたといいます。
そして今では、同じように怪我と戦い苦しむ退役軍人の精神的な回復を指導しながら、エベレストへの登頂に向けトレーニングを続けているそうです。
マガル氏のあり方こそが、「レジリエンス」の考え方そのものと言えるものでしょう。
実際に、わたしたちの人生には、ときにさまざまな壁が立ちふさがります。しかし、その壁を乗り越えることによって、人間として大きく成長するきっかけも生まれます。
乗り越えられなかった壁は「コンプレックス」として、その後の人生につきまとうかもしれませんが、そんなとき、レジリエンスを高めておけば、コンプレックスから目をそらさずに、自分をよりいっそう高める糧として利用することができるのです。
人間は、海に浮かび波に揺られている筏(いかだ)のようなもので、大きな感情の波や嵐が押し寄せると、たちまち飲み込まれてしまいます。
感情はつねに揺れ動くものですから、ずっと〝幸せな状態〟で居続けることはできません。また「喜び」や「幸福」は「苦痛」や「不幸」と相対関係にあるものなので、どんな人間も、大嵐によって感情を揺さぶられるようなときがあるものです。
しかし、その嵐さえも、高いレジリエンスを身につけておけば、〝起こるべくして起こったもの〟として受け入れ、耐えることができるだけでなく、それを乗り越えて、より強い自分を手に入れることができるようになります。
そのために、人はレジリエンスを鍛えておく必要があるのです。
この節のまとめ
- 心の回復力「レジリエンス」は後天的に身につけることができる
- 柔軟に考えること、あたたかい人間関係の中で共感を得ること、困ったときにヘルプを出せること、その他さまざまな要素によってレジリエンスを高めることができる
- 人間の感情はつねに揺れており、幸福であり続けることはできない。次に来る感情の揺れに備えて、レジリエンスを鍛えておこう!
※画像をクリックするとAmazonに飛びます