(本記事は、いっちー氏の著書『鋼のメンタルを手に入れる ゴリラ式メタ認知トレーニング』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)

ソクラテスとゴリラ

好奇心
(画像=(写真=sdecoret /Shutterstock.com))

ゴリラはとても頭のいい動物です。
好奇心も旺盛で、あたらしい刺激や興味をそそられるものに対してよく反応し、必死に追いかけようとします。

好奇心とは、わたしたちが成長をするための「気づき」の源でもあります。
わたしたちはふだん、さまざまなしがらみや固定観念の中で、いわば〝色眼鏡〟をかけて世界を見ています。
しかし、その色眼鏡を外して「自分がいかに何も知らないか」ということに気づくことが、大きな成長の第一歩なのです。

メタ認知を獲得するためには「メタ認知的知識」と「メタ認知的活動」の両方のプロセスが必要になることは、すでにお話ししたとおりです。
そして、このメタ認知的知識を得るためには、わたしたちが持つ「知りたい」という根源的欲求である好奇心を刺激して、知識をつねに増やし続けていく必要があります。

古代ギリシャの哲学者ソクラテスは「自らの無知を自覚することが真の認知に至る道である」という「無知の知」を説きましたが、最新の科学研究により「知識が多い人ほど、自分の知識の限界を認識し、間違いの指摘や他人のアイデアを認めて、思考が発展しやすい」ということが明らかになっています。
心理学者エリザベス・クラムレイ・マンカソ氏の研究によれば「間違いは起こるもの」「自分の知識は限られている」などと、自分の限界を冷静に判断できる「intellectual humility」(知的謙虚さ)の高い人ほど、知識が豊富であることが判明しました。

知的謙虚さと知識の豊富さとの間につながりがあることは、ほかのさまざまな研究でも明らかになっています。自分の限界を知り、あらたな知識を得ることに貪欲な姿勢を示せる人ほど、知識は多く貯えられるのです。
一方で、この研究では、知的謙虚さのない人は、自分の認知能力を過大評価する傾向があることも示されました。
わたしたちにとって「知らない」「わからない」ということは、好奇心による今後の伸びしろの大きさを表してもいると言えるのです。

わたしたちが思考を広げ、自分に足りない知識やあらたな才能への「気づき」を受け入れるためには、先入観や偏見、思い込みなどは邪魔になります。
とくに、メタ認知能力の低い人ほど、こうした先入観や偏見によって、あたらしい知識を獲得することができなくなってしまうのです。
わたしたちが先入観や偏見を持たずにあたらしい視点を得て、視野を広げるために重要なのは、もし相手の言動に違和感を持ったとしても「相手がおかしい」と考えるのではなく「相手と自分とは別の世界があることを受け入れる」ことです。

人はそれぞれ、異なる価値観を持っています。信じるものも違えば、死生観も違います。もちろん、考え方も異なります。
ですから、たとえ他人の意見が自分にとって違和感を抱くようなものであっても、それは決して「間違い」とは言えません。

メタ認知的知識の獲得に至るまでの最初のプロセスとしては、まずその異なった意見を受け入れてみる、ということが必要なのです。

「近ごろの若いやつはなってない」
「男は何にもわかってない」
「宗教には絶対に近づくな」
巷ではこんな話もよく耳にします。
ツイッターなどSNS上においても、誰かの言動に批判が集中し「炎上」と呼ばれる現象が起きることもよくあります。
しかし、一方的に批判をするのではなく「なぜそのような考え方に至ったのか?」と、相手の思考の裏側にあるものにまで思いを巡らせ、理解しようという姿勢で考えてみると、あたらしい視点を得ることができるようになります。
少なくとも、自分の「メタ認知的知識」を増やし、メタ認知能力をより向上させるには、自分が今まで考えてもみなかった発想や、取り入れてこなかった知識を受け入れることが必要不可欠なのです。

ゴリラは好奇心の塊のような生き物です。
ゴリラが自分の好奇心を満たそうとする背景には、ただ「好奇心を満たして楽しみたい」という欲求があるだけです。そこに偏見やしがらみはありません。
わたしたちも余計なことを考えず、ゴリラのように、ただ「知らないことを知りたい」という純粋な知識欲を満たしていけばよいのです。

ゴリラ
(画像=(写真=barka/Shutterstock.com))

2006年までレギュラー放送され、その後何度も特番が組まれた「トリビアの泉」というテレビ番組があります。
この番組は「生きていく上で何の役にも立たない無駄な知識、しかし、つい人に教えたくなってしまうようなトリビア(雑学・知識)」を一般公募し品評していくという「無駄な知識」で好奇心を満たして楽しむ番組でした。

このテレビ番組は、深夜番組からスタートしたにもかかわらず、瞬く間にお茶の間の話題となり、視聴率25%を叩きだし社会現象にまでなりました。
ここまでこの番組に人気があったのは、好奇心を満たす楽しみを、多くの人が求めていたということなのだと思います。

そもそも、わたしたちが「知らないことを知りたい」と思う欲求は、本来根源的なもので、それはとても強いものです。
そしてそれこそ人間の叡智であり、人間そのものとも言えます。
この〝好奇心〟という欲求を邪魔して、遠ざけているものが偏見やしがらみです。
それらを捨てて、高次の視点、つまり「ゴリラ目線」で眺めてみると、次に自分が必要となる知識を選択し、成長のために効率的に吸収していくことができるようになります。

繰り返しになりますが、人が持つ価値観はそれぞれです。
そして、そこに「差」はあれども「間違い」は存在しません。
まずは違いを認めることが第一歩です。その違いに気づき、相手は自分の知らない見え方を教えてくれている、と考えて受け入れることが、メタ認知を獲得するために大切なプロセスなのです。

しかし「違いを認める」と言っても「あの人は自分とは違うから理解できない」ということになると、それもまた偏見になってしまいます。
自分とは違う意見も、ぜひあなたのゴリラと一緒に、高い場所から眺めてみてください。
それがメタ認知獲得のための重要な一歩なのです。

この節のまとめ

  • メタ認知のためにはあらたな知識を入れるべき
  • メタ認知的知識を得るためには偏見や先入観はジャマ
  • 思想や考え方に〝間違い〟は存在しない。ただ〝世界の見え方が違う〟だけ
  • ゴリラのように「知りたい」という欲求に素直に 従ってみよう
鋼のメンタルを手に入れる ゴリラ式メタ認知トレーニング
いっちー
(一林 大基)1987年生まれ。学生時代はいじめに遭い不登校を経験しながらも「メタ認知」と出会い克服。昭和大学にて重症例を含む様々な分野の診療を学びながら、うつ病に対する薬物治療、アルコール依存症への依存症プログラムや認知症サポート医として地域活動に貢献するなど幅広い疾患、ジャンルに対応する。現在は、とある都市で、精神保健指定医、日本精神神経学会専門医として働きつつ、世界初のバーチャル精神科医として正しい精神疾患の知識を普及させることをライフワークとしている。一方で、全国各地からSNS上に寄せられる様々な相談に答え、不登校や心の病、自殺などの問題に関わっている。2018年よりツイッターを開始。1年でフォロワーが2万人を突破(2019年12月現在)。

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