縦割りではなく、互いをカバーし合う組織

――創業から約3カ月で、エンジェル投資家から3億円強の資金調達をしたというお話がありましたが、なぜそれだけの出資者を見つけることができたのでしょうか?

江尻 創業前から高い解像度で事業計画を描いていたことなどを評価していただけたのだと思います。ビジネスモデルも、どのように営業活動をするのかも、どのように製品を展開するのかも、すべて創業前に計画していました。技術についても、かなり早い段階で特許の出願をしています。

当社の特徴として、営業が強いというわけでも、技術が強いというわけでもなく、すべてが強くてバランスが取れていることがあります。バランスを取ると強みがなくなるケースも多いのですが、当社の場合は全員が高みを目指しているので、相乗効果が生まれています。これは他社が真似をしにくい部分でしょう。

――会社設立までの準備期間がかなりあったのでしょうか?

江尻 半年もありませんでした。前職に勤めながらだったので、実質的には2~3カ月でしょう。そのスピードのまま続けているので、創業後も急成長しているのだと思います。

それぞれに強みが違う3人で始めて、創業日にはメンバーが12人になり、今では社員数が100人を超えています。

――それだけ急拡大すると、いわゆる「成長痛」があるのでは

江尻 ゼロというわけではありませんが、組織が崩れることがないように、常に半歩先の手を打ち続けることにこだわっています。もちろん現場で予測不可能なことが起こることはありますが、大枠では、この先何が起こるかは予測できますから。

例えば、採用の際には、当社の4人以上のメンバーが会います。そして、当社側だけでなく入社希望者にも〇をつけてもらい、相互に全員が〇をつけた方だけ入社してもらうということを、創業時からしています。創業時からこれほどの採用コストをかけるスタートアップはほとんどないと思いますが、そうしないと、文化や価値観の不一致という問題が生じる可能性があるからです。

Googleや〔株〕メルカリなどが使っているということで注目されたOKRという目標管理方法も創業時から導入していましたし、メンバーが増えるとコミュニケーションの問題が生じることも予測できたので、Slackなど、情報共有のテクノロジーの導入にも投資をしました。

社員が30人くらいになって職種が増えてくると、Wrikeというプロジェクトマネジメントのツールを導入したり、宮崎拠点と常時接続しているモニターを設置したりしました。自社の業務システムを開発するエンジニアも設置して、例えば、Wi-Fiで自動的に出退勤の打刻をするシステムを導入したりもしています。さらにメンバーが増えても、ストレスなく、信頼関係を持って業務ができるようにするための布石です。

ミッションやバリューの明文化は、メンバーが70人ほどになってから行ないました。言葉よりも考え方のほうが重要なので、それまでは日常の業務の中で自然と共有するようにしていたのです。70人ほどになってきたところで初めて明文化し、それに合った人事制度や評価制度を構築して、100人を超えるくらいまでメンバーが増えるときに備えました。

今は100人を超えて、これからは僕の目が全員に行き届かなくなるので、メンバー同士が創発的に仕事をできるように、申請をすれば部門横断のプロジェクトを立ち上げられる制度を始めたりしています。

――組織の形はどのようになっているのでしょうか?

江尻 ファンクションごとに分けるのではなく、各メンバーのカバー範囲が重なるようにしています。サッカーにたとえると、営業は得点を決めるフォワードですが、時には引いて守ってもいい。センターバックがシュートしてもいい。それぞれが主たる役割としてポジションにつきながらも、互いにカバーし合う組織を目指しています。

こうすることで、責任の押し付け合いもなくなります。創業メンバーの間でも「お前のせいだ」と言ったことは1度もありません。それは最悪ですから。

――ちなみに、社員にはどういう業界から移ってくる人が多いのでしょうか

江尻 大手電機メーカーや自動車メーカー、通信キャリア、スタートアップなど、様々です。

――事業展開のスピードが速いということですが、地域別で見るとどうですか?

江尻 もともとは首都圏で認知を高めてから全国区を目指そうと思っていたのですが、首都圏も計画通りに伸びているものの、大阪ガスや他の不動産会社との提携のおかげで、関西では計画以上に加速しています。そこで、最近になって、大阪に営業拠点を設けました。

――宮崎拠点もあるということですが。

江尻 宮崎市にサポートやカスタマーサクセスの拠点を置いています。インサイドセールスも行なっています。製品が10万個出れば、自社でサポートをする必要が出てくると考えて、2019年の1~2月に準備をし、3月にオープンさせました。

――なぜ、宮崎市に?

江尻 数々の大手企業がサポートセンターを置いていて、サポート業務の従事者が1万人以上いるんです。それだけの人材市場があります。

それに、宮崎市が誘致に熱心でした。創業前に、サポートセンターをどこに置くか検討するため、全国の自治体の誘致政策を調べたところ、手厚い制度を設けている自治体は九州に多いことがわかりました。そこで九州を縦断して各自治体を見て回ったのですが、創業前にもかかわらず、特に熱心に対応していただいたのが宮崎市でした。

――2020年には様々な企業との提携事業が始まるということですね。

江尻 楽しみにしていただければと思います。

江尻祐樹(えじり・ゆうき)
〔株〕ビットキー代表取締役CEO
1985年生まれ。大学時代は建築/デザインを専攻。リンクアンドモチベーショングループ、〔株〕ワークスアプリケーションズなどを経て、旧知のエンジニア中心に発足したテクノロジー研究会のメンバーを中心に、2018年に〔株〕ビットキーを創業。(『THE21オンライン』2019年12月25日 公開)

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