法人税は、どのように計算されるのだろうか。単純に、利益に税率をかければ出るのだろうか。大雑把に言えば間違っていないが、それでは正確な数値は求められない。税金の計算には、税法独特の考え方があるからだ。ここでは、法人税を正しく理解するために、その計算方法を解説する。
目次
なぜ、法人税の計算方法を理解する必要があるのか
なぜ法人や経営者が法人税の計算方法を理解しなければならないのだろうか。それは、正しい納税額を把握するためである。
税務署への法人税の申告と納税時期は、通常同じだ。そのため、法人税の申告をする前から納税資金を用意しておかなければならない。いざ税金の計算をしてみたら思った以上の税金がかかるケースがあり、納付できなかったり、納付ができてもその後の資金繰りが悪化したりする可能性がある。
また、税金を納めるにあたっては節税対策が必要だが、節税対策は短期的ではなく長期的に行うほうが効果的だ。事業期間において、いつからどのような節税対策が必要か判断するため、早い時期から利益や税額予測を行い、また事業期間内に定期的に利益や税額予測の見直しを行わなければならない。
法人税の計算の仕方
法人税額は、課税所得に税率をかけて求める。計算式自体は非常にシンプルだが、その中身はやや複雑だ。そこで、それぞれの構成要素を詳しく見ていきたい。まずは、利益と所得の違いを確認しておこう。
利益とは、会社の儲けを示すものであり、その年の経営状況を評価する指標となる。売上などの収益から、仕入や販管費などの経費を差し引いたものが利益だ。所得とは、税金計算の基礎となる数値であり、税金計算上の収益にあたる「益金」から、同じく費用にあたる「損金」を差し引いて計算される。
実際の計算では、利益額をもとに、所得の計算との違いを調整することになる。収益と益金、費用と損金の具体的な相違点については、後程解説する。
所得の金額が確定したら、そこに税率を乗じて法人税の金額を計算する。法人税の税率は会社の規模や所得の金額によって異なり、中小企業の場合は800万円以下の部分については15%、800万円を超える部分については23.2%だ。
収益と益金の違い
ここでは、税法上の益金について詳しく解説する。
益金になるもの
有償での商品・サービスの提供については、基本的に会計上の収益と益金は同じだ。商品を販売したり、サービスを提供したりして現金などを受け取った場合は、税法上の益金となる。この他、固定資産の売却益や預金利息の受け取りなども会計上の収益と同じく、益金となる。
会計と異なるのが、無償で商品を販売したり、サービスを提供したりした場合も、益金に該当することだ。その場合は、時価で取引が行われたものと見なされるのだ。帳簿に載らない無償での商品・サービスの提供があった場合には、税金を計算する前に、その分を所得に加える必要がある。
益金にならないもの
逆に、会計上は収益になるが、税法上は益金にならないものがある。税法上で益金にならないものについては、税金の計算をする際に、その分を所得から差し引く必要がある。
受取配当金の益金不算入が、その代表例だ。他社の株式を保有している場合、配当金を受け取ることがある。配当金は普通預金などに振り込まれることになるため、一般的に会計上では受取配当金として収益に計上することになる。
しかし、配当金の原資は法人税等を支払った後の利益だ。配当金を受け取った側にも課税してしまうと二重課税となってしまうため、受け取った側では一定の計算のもと、一定額を益金にしないことになっている。
費用と損金の違い
ここでは、税法上の損金について詳しく解説する。
損金になるもの
法人税における損金は、会計上の費用と同じだ。売上に直接関係する仕入や材料費などの原価は当然損金となるし、販売費・一般管理費や売上には関係のない損失も損金として認められる。人件費や水道光熱費、消耗品費、地代家賃、固定資産売却損、棚卸資産の廃棄損などがこれにあたる。
このように企業が支出する費用は、原則として事業に必要なものであるため損金になるが、一定のルールを定めないと、経営者の裁量や利益の大小によって費用を調整されてしまう可能性がある。そこで、経営者の裁量で金額を決められる一定の費目については、税法上特別なルールを設けている。
損金にならないもの
その代表が、役員報酬・役員賞与である。役員報酬や役員賞与は原則損金にはならないが、定期同額給与や事前確定届出給与など一定の要件を満たしたものについては、損金として計上できる。
役員報酬は株主と役員によって容易に調整できるため、損金算入を無制限に認めれば、取締役への報酬を調整することで税金の納付を逃れられる。そのような租税回避を防止するために、このルールがあるのだ。
定期同額給与は、会計年度の最初の3ヵ月目までに支給額を決め、一定の金額を支給していくものだ。事前確定届出給与は、会計年度の最初の4ヵ月目までに支給額と支給日を決め、税務署に届け出て、の金額を支給日に支給をするものだ。支給額は1円も違ってはならないし、支給日は1日もずれてはならない。
接待費用や贈答品などの交際費は、税法上は原則として全額損金不算入である。意図的に交際費を多く使用して損金を増やすことで税金を抑える行為を防止し、企業の無駄な支出を抑えて冗費を節約させるためだ。
ただし、特に中小企業の取引慣行を鑑みて、一部の交際費については業務遂行上必要と認められ、損金性が強いことから、例外的に損金算入が認められている。
まず、1人あたり5,000円までの飲食代などは、交際費ではなく会議費として全額損金算入できる。接待の金額を1人あたり5,000円以内に収める必要があるのであって、5,000円を上限として損金算入が認められているわけではないので注意したい。
そして、上記の会議費を除く交際費や飲食費については、その50%を損金算入することが可能である。そして、資本金1憶円以下の中小企業については、飲食費の50%の金額と800万円のいずれか大きい金額を損金算入することが可能である。
実は、この飲食費の制度は、令和6年度税制改正により緩和されている。2024(令和6)年4月以降から接待にかかる飲食代は、一人あたり1万円までとなった。これらは、交際費でなく会議費などの経費として全額損金算入できる。
これは、コロナにより低迷している法人の飲食需要を伸ばすデフレマインドからの脱却を目指すという政府の考え方により行われる施策だ。今までよりも損金算入できる額が増えるため、法人にとって有利な制度である。
ただし、損金算入できる飲食費の上限が増えるのは、2024(令和6)年4月1日以降に支出する飲食からだ。事業期間には関係がないため、事業期間の途中で飲食費の損金算入基準が異なることもある。例えば、1~12月が事業期間の法人の場合、1~3月までは一人あたり5,000円まで、4~12月までは一人あたり1万円までが損金に算入できるため、税額の計算をする際には注意が必要だ。
寄付金については、原則として一定の金額までしか損金に算入できない。通常の寄付金の損金算入限度額は、「資本金の額×1/400+所得の金額×1/40」である。寄付金を無制限に損金算入できるようにすると、赤字の会社に寄付をすることで租税回避ができてしまうため、寄付金の損金算入額に制限が設けられているのだ。
ただし、国や地方公共団体への寄付金は、全額損金算入が認められており、公益法人やNPO法人への一部の寄付金については、損金算入限度額が高くなっている。公共性の高い法人への寄付は公益に資するし、租税回避の手段にもなりにくいので制限が緩くなっているのだ。
法人税の簡単な計算例
では、簡単に法人税の計算例を見ていこう。
例)決算で利益が300万円計上された。収入のうち益金に算入できないものが50万円、費用のうち損金に算入できないものが100万円あった。なお、資本金1億円以下の中小企業のため法人税率は15%である。この場合の法人税納付額は、次のように計算される。
【課税所得】
利益300万円-50万円(益金不算入額)+100万円(損金不算入額)=350万円
【法人税納付額】
課税所得350万円×税率15%=52万5,000円
収入のうち益金に算入できないものは利益から減算し、費用のうち損金に算入できないものは利益に加算することで、課税所得を計算できる。資本金1億円以下の中小企業であり、課税所得の金額が年800万円以下のため法人税率は15%となる。
法人税以外にもかかる税金
会社が支払う税金と言えば、まず法人税が思い浮かぶ。会社が生み出した所得に対して課税されるものには法人税以外に、都道府県や市町村に納入する法人住民税や事業税、地方法人特別税などがある。
法人住民税は、「法人税の12.9%+均等割7万円」だ。ただし、自治体によって均等割の金額などが微妙に異なることがあるため注意したい。複数の都道府県や市区町村で事業を行っている場合は、それぞれの自治体で均等割が徴収されることになる。
法人住民税は、法人税と同様に一定の金額を超えると税率が上がったり、資本金の額によって均等割の金額が上がったりする。均等割については、赤字でも納付しなければならない。
事業税は、都道府県が課税する税金の1つだ。事業税の最大の特徴は、支払った事業年度の損金に算入できることである。事業税は、理論的には所得ではなく事業そのものに課税されるものであり、固定資産税などと同じく物税であると考えられているからだ。
事業税は、法人の種類や規模によって課税方法が大きく異なる。資本金1億円以下の中小企業の場合は、法人税と似た課税方法だ。東京都の場合、課税所得400万円以下の部分の税率が3.4%、課税所得400万円超800万円以下の部分が5.1%、課税所得800万円超の部分が6.7%である。
資本金1億円以上の企業には、「外形標準課税」が適用される。これは法人税の計算方法とは大きく異なり、赤字でも発生する税金だ。外形標準課税適用法人の課税標準は、「所得割」「付加価値割」「資本割」に分かれている。
所得割は東京都の場合、課税所得400万円以下の部分が0.395%、課税所得400万円超800万円以下の部分が0.635%、課税所得800万円超の部分が0.88%だ。付加価値割は、大雑把に言えば利益と人件費、純支払利子(支払利子-受取利子)、純支払家賃(支払家賃-受取家賃)を付加価値とし、それに税率1.26%を乗じて計算される。
資本割は、資本金等の金額に0.525%を乗じて計算される。このように、資本金が1億円を超えるかどうかで計算方法が大きく変わるため、組織再編などを活用して外形標準課税の適用を回避する中堅企業もある。
今回は、法人が支払う税金の計算方法について解説した。法人税等の計算では、会計上の収益や費用ではなく、税法特有の益金や損金という概念を用いる。益金と損金については難解な部分があるので、詳細は顧問税理士に確認する必要があるが、経営者として基礎的な内容は理解しておきたい。
文・内山瑛(公認会計士)
法人税の計算方法についてのよくある質問
Q法人税の計算方法を教えて
A
法人税の計算方法は、次の計算式で計算する。
「課税所得×法人税率(-税額控除)」
決算では、1年間の利益を求めるが「利益=課税所得」にはならない。なぜなら、費用のなかに法人税法上の経費である損金にならないものがあったり、収入のなかに法人税法上の収益である益金にならないものがあったりするからだ。利益にこれらの要素を加減算して課税所得を求める。
法人税率は、企業の資本金の額や1年間の課税所得金額によって異なる。2024年現在、中小企業の場合、800万円以下の部分については15%、800万円を超える部分については23.2%となっている。外国税額控除などの税額控除があれば、法人税の納付額より差し引くことができる。
Q費用と損金の違いは?
A
費用とは会計上の経費のことで、損金とは法人税の計算のうえで経費となるものだ。両者は、似ているようで異なる部分もある。損金になるものとは、売上に直接関係する仕入や材料費などの原価、人件費や水道光熱費といた販売費・一般管理費が相当する。また、売上には関係のない損失も損金として認められる。
損金にならないものには、役員報酬・役員賞与などがある。役員報酬や役員賞与は、原則損金にはならない。しかし、定期同額給与や事前確定届出給与など一定の要件を満たしたものについては、損金として計上可能だ。
接待費用や贈答品などの交際費は、税法上は原則として全額損金不算入である。しかし、一定額までの飲食費など一部の交際費については業務遂行上必要と認められ、例外的に損金算入が認められている。
Q収益と益金の違いとは
A
収益とは会計上の収入のことで、益金とは法人税の計算のうえで収入となるものだ。益金になるものとしては、商品を販売したりサービスを提供したりして現金などを受け取った場合の収入が挙げられる。また、固定資産の売却益や預金利息の受け取りなども、会計上の収益と同じく益金だ。そのほか無償で商品を販売したり、サービスを提供したりした場合も益金に該当するため注意したい。
益金にならないものには、受取配当金の一部などがある。配当金は、普通預金などに振り込まれることになるため、一般的に会計上では受取配当金として収益に計上する。しかし、二重課税となってしまうなどの理由から受け取った側では一定の計算のもと一定額を益金にしないことになっている。
Q法人税以外にかかる税金には何がある?
A
法人税以外の税金として、都道府県や市町村に納入する法人住民税や事業税、地方法人特別税などがある。これらは、会社が生み出した所得に対して課税される点で法人税と似ている。また、物やサービスなどの消費にかかる消費税も法人が支払わなければならない税金だ。
法人税や、法人住民税の均等割など一部の税金は、赤字であっても納付が発生するため注意したい。
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