ダメなとき、必要以上に自分を追い込んではいけない
楠木 僕は、すぐに役立つものほど、すぐに役立たなくなると思います。インターネットやスマホのおかげで情報の流通量が極めて多くなったので、すぐに役立つのはなんだろうって探してその答えを選びたくなる人が増えているような気がするんです。
僕はキャリアで悩んでいる若い方に、よくこんなアドバイスをします。「いや、全然心配ない、絶対にうまくいかないから」って。嫌な顔されますけど。すぐには絶対にうまくいかないから、全然、心配ないって。むしろ、すぐ成功しないってわかると変なプレッシャーがなくなって気が楽になりませんか。どうせうまくいかないと思うから、気軽に行動できるんです。
伊藤 結局、僕の主張も同じです。「大丈夫、大丈夫、いつかはいけるから」みたいな。アプローチは違うんだけど、同じことです。
――いつの時代も20~30代って短期的・近視眼的にしか見れないものですよね。
伊藤 経験してないので。ただ、経験して振り返ることができる人は成長するし、経験しないで「これ、どうしよう、どうしよう」って何もしないでいると、成長しないっていう。
――あぁ、何もせず安穏と生きてる自分がツラい。何かに挑戦しようとは思うんですけど。
楠木 いや、それはただの向き不向きの問題ですから。僕は「挑戦」というのはあまり好きではないですね。無理はしないタイプ(笑)。向いてない。だから、「君の夢は何だ?」とか、「その夢に向かって努力しているのか?」とか聞いてくる人がいるのですが、僕にとって夢というのはベッドの中で寝ているときに見るものですね。家帰って早く寝たいなって思うほうなんで。「修羅場」とか踏んだことないですね。そういうのは向いてない。根性や闘争心がないから。
伊藤 面白いですね。他人から見ると修羅場なんだけど、本人はあまり感じてないとか、そういうことではなく?
楠木 僕の仕事の基準で、利害が薄いというのはかなり重要な条件ですね。別に僕は自分の講義で何を言おうと、僕の本が売れようと売れなかろうと、そんなに困る人とかいないんですよ。出版社がブーブー言うぐらいで、そんなに強い利害はない。でも、消防士とか、本当に大変じゃないですか。命かかってますし。お医者さんも救急の患者が来たとか、修羅場だらけ。たぶん、そういう仕事は向いてないでしょうね。
伊藤 それは幼少の頃からですか?
楠木 そうです。もうね、何をやってもダメ。要するに、小さい頃から気合い勝負になると絶対にうまくいかないっていうのは、いやというほど気づかされました。
伊藤 でも結局、若い人が悩んじゃうのは、そういうダメなときに、ダメじゃいけないんじゃないかって思って自分を必要以上に追い詰めちゃうところにあると思うんですよね。これが不幸のモトだと。
楠木 そう思います。今になって言えることは、全方位的に優れている人はいないってことですよ。どんなすごい人でも。孫正義さんだってあるところは弱いでしょうし。ただ、自分が克服できない課題はそれを得意な人にやってもらったほうが、世の中としてはうまくいきます。自分の土俵とかツボとか、そういうものを見つけるのにちょっと時間がかかりますけどね。だから、20~30代はあることが特別できる人が眩しく見えるものなんです。