不動産業界にもIT化の波が押し寄せています。国土交通省は2019年10月から重要事項説明書の交付をデジタル化する実験を行いました。国土交通省が推進する「IT重説」の計画について概要と、実施された場合のメリットについて紹介します。
IT重説(ITを活用した重要事項説明)の実施条件
IT重説とは、宅建業法に基づいて宅地建物取引士が入居契約者に対してテレビ会議(テレビ電話スカイプ等)の形式で重要事項説明を行うことです。国土交通省が策定したマニュアルによるとIT重説を行うには以下のような遵守すべき事項があります。
・双方向でやりとりできるIT環境が整備されている
・重要事項説明書等を事前に送付している
・重要事項説明書等の準備とIT環境が確認されている
・宅地建物取引士証の提示が確認されている
・IT環境に不具合がある場合は中断する
具体的に上記の「双方向でやりとりできるIT環境」に当てはまるためには、「図面などの書類や説明の内容を十分に理解できる程度の映像が確認できる」「双方が発する音声が十分に聞き取れる」ことが必要です。
国土交通省が推進するIT重説
不動産取引のIT化は米国が先行しています。すでに1990年代には関係書類の電子化が始まり、現在では賃貸契約だけでなく売買契約まで、オンライン上でほとんどの部分をやりとりできるまでに普及しているといわれています。
一方、不動産取引のIT化で米国に遅れをとっていた日本においては、国土交通省が
・2015年8月31日から賃貸取引と法人間売買を対象にIT重説の社会実験を実施
・2017年8月1日から法人間売買取引における社会実験を実施
と、少しずつ推進と浸透を図ってきました。
2019年10月1日から、国土交通省は新たにIT化の実現に向けて二つの社会実験を実施しています。一つ目は「売買取引におけるITを活用した重要事項説明に係る社会実験について」。登録している59の登録事業者が参加し個人取引を含む売買取引が対象となっています。
ITを使った重要事項説明を行う際「実施前の責務」「実施中の責務」「実施後の責務」に分けて、検証を進めていくとのこと。今回は初めて個人を含む売買取引を対象にしており今まで以上に注目を集めそうです。
重要事項説明書のデジタル化でさらに簡便化できる
二つ目はIT重説の流れをさらに進めるため、重要事項説明書もデジタル化する方向を目指す社会実験です。2019年10月1日~12月31日まで、113の登録事業者によって「賃貸取引における重要事項説明書等の電磁的方法による交付に係る社会実験」と題し賃貸取引限定で書面を電子化する社会実験を行いました。
今回の実験でデジタル署名を行うのは「説明をする宅地建物取引士」の事業所署名欄と書面末尾の「宅地建物取引士」の個人署名欄の2ヵ所です。説明する側の署名箇所のみの実験段階のため、入居契約者に対する実験はこれからとなりますが実用化されれば不動産取引がさらに簡便化されることになります。
IT化と不動産テックが不動産業界にもたらすメリット
これら一連のIT重説や不動産取引のオンライン化などを総称して「不動産テック」と呼んでいます。不動産とテクノロジーを掛け合わせた造語であり、近年のIT化を代表するワードの一つでもあります。
不動産取引がデジタル化した場合のメリットは、不動産会社の業務を大幅に効率化できることです。これまで不動産業界は人手を介する業務が多く他業界に比べてデジタル化が遅れていました。IT重説やデジタル署名などが実用化されれば契約に関する手間がかなり削減できることになり、その時間を他の業務に振り分けることが期待できます。
一方、ユーザーにとっては不動産会社に出向いて説明を受ける必要がなくなるなどのメリットがあります。遠方の顧客が移動に交通費を負担する必要もありません。また、電子データのため書類を紛失・破損する心配もありません。
ただし、保存したフォルダーが分からなくなれば紛失したのと同じ状態になります。また、記録媒体に必ずバックアップをとっておくことが重要です。
IT技術の進歩は、これまで紙媒体が一般的だった銀行預金通帳や不動産関係書類などのデジタル化で私たちの生活を大きく変えようとしています。重要事項説明書のデジタル化には万全なセキュリティ対策が課題ですが、今回、そして今後の社会実験により実施に向けて万全の体制が整うことを期待したいところです。(提供:ビルオーナーズアイ)
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