(本記事は、木下勇人氏の著書『「知らなかった」では済まされない ホントは怖い 相続の話』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)
アパート・マンション経営って本当に相続税対策になるの?
オモテ知識 賃貸アパート・マンション経営で、収入を得ながら節税できるぞ。
ウラ知識 大きな借金付き物件、あなたの子供達は本当に引き継いでくれる?
●賃貸アパート・マンション経営が節税になるしくみ
「相続税対策にもなるアパート・マンション経営、いかがですか?」とあなたの所にも建築会社の営業マンがすり寄ってきていませんか?どうしてアパートを建てると相続税が安くなるのでしょうか。それにはこんなカラクリがあります。
相続税を計算するために財産を評価します。この評価の計算は財産の形によってそれぞれ決まっています。現金や預貯金はそのままの金額で評価されますが、土地の相続税評価額は、その土地がどのように使われているかによって減額される部分があり、更地に比べ、アパートなどが建っている土地は評価額が下がります。
さらに、小規模宅地等の特例を使えば、条件にあてはまる部分を50%も減額してくれます。また、アパートなどの建物は、満室であれば、固定資産税評価額の70%の評価額となります。アパートを建てると土地・建物ともに財産価値を下げることができるため、結果として相続税が安くなるのです。
「借金をしたら節税になるんでしょ?」「借金が減っちゃうから相続税が高くなる」という声をよく聞きます。ですが、借金があるから相続税が安くなるわけではありません。
例えば、財産が全くない人が1億円借りて、その1億円を銀行に預け入れ、返済をしないまま亡くなったらどうなるでしょう?財産1億円−債務1億円=0円で、結果は何も変わりません。
つまり、借金をすることに意味があるのではなく、その借金を使って、別の形の財産に変えることに意味があるのです。その借金1億円がアパートの建築に使われれば、相続税評価額は1億円ではなく固定資産税評価額(建築費の50%~70%)の70%になるのです(1億円×50%~70%×70%=3,500万円~4,900万円)。さらにその敷地である土地も減額対象となるうえ、借入金はマイナスの財産として債務控除の対象となります。
しかも、賃貸アパートですから、入居者は家賃を支払ってくれます。つまり、定期的・長期的に安定収入を得ながら、相続税を節税できるというしくみ。どうです?おいしい話ですよね。
でも「うまい話にはウラがある」という言葉通り、すべてのケースでそうトントン拍子に運ぶわけではありません。
●よくある失敗例
アパート・マンション経営を気軽に始めてしまったせいで、相続人に迷惑を掛けてしまったという例があります。
Aさんは、もともと持っていた5,000万円の土地に、5,000万円のアパートを建てました。生前、「このアパートの価値は5,000万+5,000万=1億円だ」と思っていましたが、いざ相続がはじまり、このアパートを相続した長男が土地付きアパートを売ろうとすると、6,000万円でしか売れませんでした。アパートは借金をして建てたものだったので、その売ったお金でアパートの借入金を精算すると、残った金額は元の土地代の5,000万円よりかなり低い金額です。
長男は「なんでこんな価値のないものを借金までして建てたんだろう、更地のままもらえたほうが高く売れたかもしれないのに……」とAさんをうらみました。
アパート建築は、相続税対策には有用ですが、売却の場面を考えると必ずしも得をするとは言い切れない場合があります。もともと、アパート建築をする人は、土地を持っていて有効活用を考えて行う人が多いと思います。先祖代々の土地をいかに守るか、その考えのもとに、手段の一つとしてアパート建築を選択されています。
一方、その下の世代は、地方から都会に出て働いている人も多く、実家に帰るという考えが少ないため、田舎の土地は手放してもいいと考える人が多いようです。
相続によって引き継いだアパートが、相続後、空室が多くなっていたり、劣化による修理が必要とみなされれば、なかなか思ったような金額では売れないものです。そのうえ、アパートの借金が多額に残っていた場合には、売れたとしても手元に残るお金が少なくなることは明白。時には、借金の足りない分を追加で払わなければならないこともあるのです。
アパートローンは相続税対策のため、金額が多額、かつ、期間が長期にわたるものがほとんどで、そのローンは相続人が引き継ぐこととなります。アパート・マンション経営をされる際には、引き継ぐ下の世代の意見も聞いて、方向性を決めるのがよいでしょう。
●ワンルームマンション
ワンルームマンションを所有して、貸しているという人も多くいます。
ここに2つのワンルームマンションがあったとします。
どちらも相続税の評価額は3,000万円。物件Aは賃料月15万円、物件Bは月10万円、どちらを選びますか?
賃料だけを見れば物件Aを選びますよね。でもローンの残債や、築年数、修繕履歴を知らないと選べないというのが本当のところでしょう。実際には、大家的というか経営的な感覚がないと正しく判断できないことなのです。
相続させる側としては、同じような物件を相続人の数だけ持つという考え方もあるかも知れません。ですが、まったく同じ条件の物件、というものはありません。相続税評価額が同じだからといって、売る時の値段も一緒ではありません。同じような物件だからモメる心配もなし、とはならないのです。
●アパート・マンションも「経営」
相続させる人は、アパート・マンション経営を始める前に、その土地の有効活用として、アパート・マンション経営以外の選択肢もあるのか否かをよく考えましょう。
「それ以外の選択肢がない」という場合は、大きな借金をして建てることになりますから、前もって相続する側に相談すべきです。本当にそのアパートを相続人は欲しがりますか?
ローンがいっぱい残っていて、修繕費などもろもろの出費があり、この先、家賃下落や空室リスクの残るアパート。
相続人が「借金漬けの物件はいらないよ」と言うならば、土地を売るという選択も考えるべきかもしれません。
アパート経営の際は、不動産管理会社にお願いすることがほとんどです。不動産管理会社に依頼する方法は、管理委託方式と一括転貸方式(いわゆるサブリースと呼ばれる方式)があります。
管理委託方式は、家賃回収や入居者募集などを大家さんに代わって行い、その報酬として管理料や成約料を支払うというもの。一方、一括転託方式(サブリース方式)は、大家さんが管理会社にアパートを一括で貸し、管理会社が各入居者と個別に契約する方式をいいます。
どちらの方法でも、大家さんは通帳を見て確認するだけ。実際に入居者募集をしたり、不動産を見て回り不具合がないかチェックしたりということは一切しないので、「あー家賃が入ってきた」「借金が引き落とされた」の繰り返しで、「差し引き、固定資産税以上にもらえているのでまあいいか」と、経営している感覚はゼロなんです。
気付いて欲しいのは、経営がブラックボックス化しているということです。
不動産管理会社に丸投げだから楽な反面、修理も、管理も、何から何まで高いのは致し方ないことなのかもしれません。
アパート経営をしている不動産をお持ちなら、相続させる側も、する側も、アパート経営の勉強を是非してください。相続税対策ではあっても、アパートやマンションのオーナーになるということは不動産賃貸業の経営者になるということ、と分かっておいてほしいのです。
脱税・節税・租税回避、何が違うの?
似て非なる意味を持つ3つの言葉、その違いを正しく知っておきましょう。
・脱税…税金を払わないといけない要件がすべてそろっているのに、それを故意に隠して、課税を不法に逃れようとする行為。相続でいえば、金庫にお金があるのに隠して申告をする、預金を隠して申告をするなどです。バレないから大丈夫!なんてことはありません。厳しい刑事罰もある、絶対にやってはいけないこと!と心得て。
・節税…税法が予定している範囲内で、税負担を減少させようとする行為。相続でいえば、アパート経営などを行い、土地や建物の財産価値を変化させることがこれにあたります。
・租税回避行為…税法が想定していない形で、税負担を減少させようとする行為。課税要件をくぐり抜けるために、不自然で、不合理な取引を行ったりすることです。相続でいえば、タワーマンションを相続直前に買って、相続直後に売る。要件逃れのためだけの不自然な取引は、租税回避行為とみなされてしまいます。ただし同じ取引でも、合理性があれば租税回避行為とはみなされません。
タワマン節税って大丈夫?
オモテ知識 効果は薄れたけど、まだまだ行ける。
ウラ知識 タワマン買ったら、税務署と相続人の両方に注意!
●タワマン節税とは?
一時期お金持ちの間でブームになったので、興味をお持ちの方も多いでしょう。節税目的でタワーマンションの高層階の一室を買い、賃貸にまわす「タワマン節税」。
現金で1億円持っているとそのまま1億円分の相続税評価額となり、相続税がかかりますが、1億円でタワーマンションを購入すると相続税評価額が2,000万~3,000万円になり、相続税対策になるというものです。
なぜそんなに評価額が下がるのか、そこには次の2つのポイントがあります。
・タワマンは土地の「持分割合」が非常に低い
→タワーマンションは戸数が多いのがミソ。土地の面積を按分する際、分母となる全戸の専有面積合計が大きいため、相対的に1戸の敷地の持分割合は小さくなります。
・タワマンの固定資産税評価額は販売価格に比べて非常に低い
→タワーマンションは、高層階へ行くほど眺望や日当たりといったプレミアが考慮され、販売価格が高額になります。しかし、相続税評価額は固定資産税評価額がベースとなり、そこではプレミアは考慮されません。高層階ほど相続税評価額と固定資産税評価額との乖離が生まれ、相続税評価額を下げることができるというわけです。
またタワーマンションを賃貸していると、貸していることによる減額もつかえます。
2018年以降、高層階の固定資産税評価額が引き上げられたため、その点では多少効果は薄れていますが、現在でも有効な節税方法です。
しかしリスクがないわけではありません。税務署に否認されたり、相続人の間でモメる可能性は依然として存在します。
●税務署に否認されるリスク
Aさんの父親は90歳、不動産取引など経験のないおじいちゃんでしたが、ある日、1億円のタワーマンションをポンと買って賃貸に出し、なんと翌月に亡くなってしまいました。他に相続人のいないAさんは、タワーマンションの購入額1億円ではなく、評価額の約1,400万円で相続税の申告をし、その後に1億円でタワーマンションを売りに出しました……。めでたし、めでたし?
このケースで、税務署が黙っていると思いますか?
亡くなる直前のタワマン購入は、税務署に「相続税対策でしょ」と否認されてしまう恐れがあります。
以下のような場合は税務署から否認されやすくなるので注意が必要です。
・亡くなる直前にタワーマンションを購入 ・相続後、すぐに売却
このタワーマンションの購入が「租税回避行為」とみなされれば、相続税評価額の計算方法はさきほどご紹介した計算方法ではなく、購入金額をベースに相続税評価額が計算されることになります。結果、相続税対策にはならなかったとなるのです。
やはり、どんな事象もストーリーが大事。「なぜそれを買うのか?」「どうして今なのか?」など、誰が聞いても納得するストーリーが描けないのであれば、それは「節税目的」だと指摘されやすくなってしまうのです。
●モメるリスク
もしあなたが相続人で、財産目録に「タワーマンション1,000万円」と「定期預金2,000万円」とがあったら、どっちを相続したいですか?そりゃあ預金の2,000 万円のほうがいいですよね。
例えば、ある兄妹のうち、兄が相続税評価額1,000万円のタワマンを、妹が2,000万円の預金を相続した場合、どういうことが起こるでしょうか。
兄はその後タワマンを売って1億円をゲットなんてことが後々わかると、妹のほうは「タワマンをもらっておけばよかった! お兄ちゃん、タワマンが1億円で売れること知ってて、隠してたでしょ!!」と思いますよね。遺産分割は、相続税評価額がベースではなく、時価がベースですから。
せっかく税務署の指摘は受けず、無事、相続税対策ができたとしても、結果、残された相続人をモメさせることになってしまいました。
もし買えるものならタワマン2部屋買っておけばよかった……、あるいはタワマンを買わずに、1億2,000万円を現金で残しておけばよかった……。
多少相続税がかかっても、相続人同士がモメない方が大切という考え方もあります。
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