(本記事は、木下勇人氏の著書『「知らなかった」では済まされない ホントは怖い 相続の話』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)

保険で相続対策ができる?

保険
(画像=Saranya Loisamutr/Shutterstock.com)

◯ホント

85歳になる老父が、いつの間にか多額の保険に加入していることを知った種田さん。実家は裕福で、父が亡くなっても生活に困る人はいないため「保険屋さんにだまされたのでは……?」と気になって仕方がありません。

●生命保険

「生命保険」は色々あって複雑だと思われがちですが、基本は大きく分けて3種類しかありません。「定期保険」「養老保険」「終身保険」の3つです。

・定期保険…… 期間が満了すると保障がなくなる掛け捨ての生命保険。
・養老保険…… 満期になるまでは保障されるが満期になると満期金がおりる生命保険。
・終身保険……満期がなく死ぬまで保障される生命保険。

すでにリタイアした人が定期保険に入る意味はあまりありません。

養老保険は万が一の時の貯蓄と考えている方が多いでしょう。

相続対策では多くの場合、終身保険が使われます。

●「普通の保険」と「相続対策の保険」の意味の違い

現役世代にとっての保険は、自分にもしものことがあった際に、家族の生活を守るためのものですが、相続対策を考える世代はすでに子供も独立し、持ち家のローンも終わりが見えているはず。何かを守るための保険はもう必要ありません。

相続対策の保険は、「節税」と「遺したい人にお金を運ぶ手段」。本人が亡くなったときに、受取人にお金を有利に渡すためのものです。

●保険で節税するには

相続税の非課税枠を利用することで、相続対策ができます。また、保険金の受取人を指定することで、お金を遺したい人に確実に遺すことができます。

・相続税の非課税枠

「500万円×法定相続人の数」が相続財産から控除されるため、節税効果を狙って生命保険に加入するケースが多くあります。

・保険で遺贈

生命保険の受取人を指定することで、遺言と同じように遺したい人に確実に相続財産を渡すことができます。とはいえ、誰でもいいわけではありません。保険金詐欺を予防するため、生命保険の受取人は原則として配偶者か二親等親族までと決められています。孫にお金を渡したいとき有効な手段となります。

●加入できるうちに入っておく

生命保険は、加入できる年齢に上限が設けられているものがほとんどです。また年齢が上限に達していなくても、健康状態などで加入を断られる可能性もあります。

また、「まだ相続対策は不要」とのんびりしているうちに、生活習慣病などの病気にかかってしまう恐れもあります。

生命保険には入れるときに入っておくことをおすすめします。

生命保険「500万円の非課税枠」 「孫」は対象外なので要注意!

「保険で遺贈」の項目にも書いたように、相続人でない孫にお金を渡したいと思って、死亡保険金の受取人を孫にするような場合、相続税に関して少し注意が必要です。

死亡保険金は受取人固有の財産ではありますが、相続税の計算上、みなし相続財産として、相続税の対象となるのです。

相続税の非課税枠、「500万円×法定相続人の数」があるから税金はかからないでしょ?と勘違いする方がいるのですが、そうではありません。この非課税枠が使える人は、法定相続人だけなのです。つまり、孫がこの法定相続人ではない場合、もらった保険金全額が相続税の対象となります。ただし、孫養子であれば1枠増えた上で非課税枠は使えます。また、相続人でない人が財産をもらうと、相続税が2割加算されるというルールもあります(この場合、たとえ孫養子でも加算対象)。

たとえ税金はかかっても孫にお金を残すことはできるので、遺したい人に確実に渡せるというメリットはありますが、税金がかからないという思い込みは間違いです。ご注意ください。

実録 遺産の保険でまるくおさめたAさんの話

お母さんがすでに他界しているAさん・Bさん・Cさんの3人きょうだい。このたび、お父さんが亡くなり、遺産を3人で相続することになりました。

相続財産は、お父さん名義の自宅1,500万円のみ。

長男Aさんは、Aさん自身が自宅で同居していたため、「自分が相続することでどうだろう?」と提案しました。

弟Bさんと妹Cさんは、自宅は欲しくないけれど、自分たちにも1/3の権利があると思っています。自分たちは何ももらえず、Aさんだけが相続することに納得がいかず、遺産分割がなかなか進みません。

そんなある日、Aさんが遺品を整理していると……、お父さんが知らないうちに入っていた保険の証書を見つけました。そこには長男であるAさんだけが受取人(死亡保険金1,500万円)となっています。

そこで、Aさんは一計を案じました。「そうだ!オヤジがかけてくれていた、この死亡保険金1,500万円をうまく利用して、遺産分割をまとめよう」と思ったのです。

Aさんは、弟Bさん・妹Cさんに死亡保険金1,500万円のうち500万円ずつを渡すことに。弟Bさん・妹Cさんは「お兄ちゃんは全部きっちり分けてくれた」とAさんの態度に感動して、感謝と尊敬の気持ちを抱くようになりました。そのお陰で、その後の話し合いはスムーズになり、分割協議はすんなりまとまったといいます。

いかがですか?こんな話を聞くと、いいお兄ちゃんだな、って思いますよね。

でもよく考えてください。たまたまお父さんが掛けてくれていて、自分も知らなかった死亡保険金を、Aさんは上手に利用しただけなのです。

死亡保険金は、相続税の計算上はみなし相続財産として計算に取り込まれますが、そもそも受取人固有の財産です。

もし、生前にお父さんが死亡保険金の受取人を3人に3等分としていたらどうでしょう?死亡保険金の1/3である500万円は、Aさん・Bさん・Cさんそれぞれの固有財産とされ、Aさんはこれとは別に自宅1,500万円の1/3の500万円をBさん・Cさんから請求されることとなります。

これに対し、死亡保険金の受取人がAさん1人の場合、1,500万円はAさん固有の財産となり、自宅をもらう代わりの代償資金として、500万円請求される可能性があるところを、その保険金から支払ったというだけのことなのです。

贈与するなら、孫への贈与が有利?

堀田さん(70)は、相続税対策のために自分の子供に贈与しようとしたところ、長男から「それだったらうちの子(孫)に贈与してよ」と言われました。子供に贈与するより、孫への贈与の方が有利だ、というのです。

●3年内贈与加算のルール

生前贈与は相続税対策に有効ですが、亡くなる前3年以内に行われた法定相続人に対する贈与は、相続財産に持ち戻して計算され、贈与がなかったことにされてしまいます。

相続財産に持ち戻されないのは、亡くなる3年よりも前の贈与、または、相続で何ももらわない人への贈与です。

そうなるとおじいちゃん、おばあちゃんが贈与したくなる相手は「孫」でしょう。孫は法定相続人ではないので、遺贈(遺言でもらう)や死亡保険金をもらわない限り、相続で何ももらわない人となるため3年内加算のルールに該当しないのです。

●孫への贈与は目的を明確に

「学資に使って欲しい」「留学費用の足しにして欲しい」など、孫への贈与は目的を明確にしてあげると、ムダ遣いを防ぐことができます。

贈与したお金を使って、自分で学資保険に入ってほしいなど、贈与時に伝えることで、生きたお金の使い方ができるのではないでしょうか。

「知らなかった」では済まされない ホントは怖い 相続の話
木下勇人(きのした・はやと)
相続・事業承継専門『税理士法人レディング』代表。税理士(東京税理士会 京橋支部所属)。公認会計士。宅地建物取引士。不動産鑑定士第2次試験合格者。AFP資格認定。1975 年、愛知県津島市出身。大学時代に宅建、不動産鑑定士を取得。28 歳で公認会計士試験に合格し、「監査法人トーマツ」名古屋事務所に入所。上場企業級の非上場会社オーナーファミリーの事業継承対策に従事。約5年勤務の後、33歳で独立し、名古屋で公認会計士木下事務所・木下勇人税理士事務所を開設。翌2009年に、相続・事業承継専門の税理士法人レディングの代表となる。2017年、東京にも事務所を開設。

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