(本記事は、木下勇人氏の著書『「知らなかった」では済まされない ホントは怖い 相続の話』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)

成年後見人は早めに付けたほうがいい?

税理士
(画像=wsf-s/Shutterstock.com)

×ウソ(ただし…場合によっては◯ホント)

橋本さんの年の離れた兄が、認知症を発症したことが分かりました。「今後のことを考えて、早めに成年後見人を付けたほうがいい」と病院でアドバイスを受けたそうですが……。

●認知症の方が相続人にいると……

認知症や知的障害などの程度によっては、自分で意思決定ができないため、成年後見人を付けなければ遺産分割協議が進まなくなってしまいます。

成年後見人を付けると決めてから、成年後見人が決まるまでは、医師の診断や手続きなどで通常2~5ヵ月ほど。その間、遺産分割協議がストップしてしまうことを考えたら、早めに成年後見人を付けておいたほうがいい、とアドバイスをする方もいるようです。

成年後見人が遺産分割協議に参加する場合、民法で定められた義務にしたがって、法定相続分をきっちり主張するということになります。

●親族後見と職業後見

かつては、親族が選ばれる親族後見人が9割を占めましたが、現在は7割が司法書士などによる職業後見人となっています。

親族後見人は基本的に無償ですが、職業後見人には報酬が発生します。裁判所が示している基本報酬は、被後見人の財産の額によって以下のようになっています。

被後見人の財産額       (1)月額  (2)年間 (1)×12
1,000万円以下        2万円   24万円
1,000万円超~5,000万円以下 3~4万円 36~48万円
5,000万円超         5~6万円 60~72万円

親族後見人は、家族なので無償で行う場合が多いようです。

●夫のお金であっても引き出せない

成年後見人がつくと、たとえ本人であっても自由に財産を処分できなくなりますし、周囲の親族も成年後見人の同意なく勝手に使用することができなくなります。

認知症を発症した夫の預金から年金を引き出して生活していた妻も、成年後見人をつけたばかりに、お金の引き出しができなくなり、生活が一気に苦しくなることも実はあるのです。夫名義の通帳や銀行カードなどは、すべて成年後見人に提出して、成年後見人が管理することになります。夫の預金からお金を引き出したいときは、いちいち成年後見人に相談して許可を得なければならなくなるのです。

さきほどの表でも見たように、成年後見人の報酬は被後見人の財産額に比例するので、成年後見人は財産を減らさないことを優先し、生活費として毎月10万円程度しか渡してくれない、ということも起こりうるのです。

しかも、一度つけてしまった成年後見人は、その状況が改善されない限り、外せません。被後見人が奇跡の復活を遂げて、意識を取り戻すとか、認知症がなくなるといった改善をしない場合は、死ぬまでずっと成年後見人に財産を握られ、報酬を払い続けなければならなくなります。

「認知症や知的障害 = すぐに後見人」と考えるのではなく、制度を利用する前にメリット・デメリットをよく検討することが、何よりも必要となります。

最近では最高裁が方針を変えて、親族後見の方が望ましいという見解を出しました。親族後見を認めて司法書士の先生など後見監督人をつけ、大きな取り引きなどはその監督下で行うという方向に今後はシフトしていくのではないでしょうか。

ただし、親族から横領の危険性がある場合は、とにかく早く成年後見人を選任して家庭裁判所の保護に置くことをおすすめします。その意味では、何に優先順位を置くかで答えが変わるので、くれぐれも慎重なご判断を。

財産目録の作成も、税理士に任せれば安心?

×ウソ

土屋さん宅では、相続税評価額1,000万円のタワマンと現金1,000万円の相続財産があり、兄がタワマンを、弟が現金を相続しました。数年後、兄はタワマンを売って1億円ゲットしました。弟は相続のやり直しができないなら、兄からいくらか贈与して欲しいと考えています。

●税理士は税金のプロ

相続税評価額で平等に分けたつもりが、かなりの差が付いてしまいました。「税理士は税金のプロだから、財産目録作りもお任せできるはずだ」と思い込んでいたため、思わぬ落とし穴にはまってしまった一例です。

一般的に税理士が財産目録を作るとき、土地など評価が必要な財産は相続税の計算で考えます。

しかし、相続税の価格と実勢価格(時価)の間には開きがあります。特に都心の不動産などは、相続税の評価額とかけ離れた価格で取引されているのが普通です。

不動産の中でも土地は、「一物五価」と言われるほど、いろいろな価格が存在します。遺産分割の際は、「実勢価格」つまり時価で考えるのが原則です。それなのに多くの税理士には、「遺産分割を時価でやらなければいけない」という感覚が欠けています。税理士が作る財産目録に記載されている金額は、あくまでも相続税計算のための金額。そのことをしっかり説明してくれる税理士はそう多くない、というのが実情なのです。

●ミスリードから身を守るには

相続税評価額と時価を混在してしまう税理士のミスリード。

税理士から財産目録が出てきたら、「この金額で実際に売れるんですか?」と聞いてみたほうがいいですね。

たいてい「そういう金額ではありません。相続税の計算のための金額です」と答えて、おしまい。私の本を読んで学ばれたみなさんなら、それに対して、「遺産分割協議って本当は時価でやるんですよね」と言いたいところですが、普通はなかなか言えないですよね。そんなとき、どうしたらいいのでしょうか?

ストレートに税理士に、「時価の参考を不動産屋さんに聞いてもらえませんか」と依頼すればいいんです。「1社では偏るので、2・3社聞いてもらえますか」とお願いすれば、だいたい相場が出てくるわけです。

税理士にそんなこと頼んでいいの?と思われるかもしれませんが、いいんです!普通の税理士なら、お願いすればやってくれると思います。逆に、頼んでもやってくれない先生はやめたほうがいいでしょう。

私だったら……、お客さまのご了解を得たうえで、「だいたいこのくらいで売れますよ」と査定を先に出して、もしご希望があれば、販売、確定申告までワンストップでお手伝いさせていただきます。それがお客さまのためになると思うので。

でも残念ながら、そういう税理士はほとんどいません。大多数の税理士が「時価」という感覚を持っていない、と思って財産目録を見た方がいいでしょう。

土地の価額 「一物五価」 って何?

土地には、以下の5つの価格が存在しています。それぞれの価格が大きく異なるので、トラブルの元にもなりうるわけです。

・公示地価……地価公示法に基づいて国土交通省が発表する土地売買の目安となる価格。毎年1月1日を基準日として、3月に発表される。

・基準地価……各都道府県が発表する土地売買の目安となる価格。公示地価を補う目的で、毎年7月1日を基準日として9月に発表される。

・固定資産税評価額……各市町村が発表する固定資産税を支払う基準となる価格。3年に一度の評価替えがあり、公示地価の約70%相当。

・路線価……国税庁が発表する相続税・贈与税の税額計算をする際の価格。毎年1月1日を判定の基準日として評価するもので、7月に発表される。公示地価の約80%相当。

・実勢価格……実際に土地の売買が行われる価格。いわゆる「時価」。

「知らなかった」では済まされない ホントは怖い 相続の話
木下勇人(きのした・はやと)
相続・事業承継専門『税理士法人レディング』代表。税理士(東京税理士会 京橋支部所属)。公認会計士。宅地建物取引士。不動産鑑定士第2次試験合格者。AFP資格認定。1975 年、愛知県津島市出身。大学時代に宅建、不動産鑑定士を取得。28 歳で公認会計士試験に合格し、「監査法人トーマツ」名古屋事務所に入所。上場企業級の非上場会社オーナーファミリーの事業継承対策に従事。約5年勤務の後、33歳で独立し、名古屋で公認会計士木下事務所・木下勇人税理士事務所を開設。翌2009年に、相続・事業承継専門の税理士法人レディングの代表となる。2017年、東京にも事務所を開設。

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