(本記事は、木下勇人氏の著書『「知らなかった」では済まされない ホントは怖い 相続の話』ぱる出版の中から一部を抜粋・編集しています)
もしも、あなたに内縁の妻がいたら?
【Case】 20年前に妻に先立たれた下田さん(65)。10年前から恋人(52)と同棲しています。下田さんは本心では彼女と結婚したいのですが、下田さんの息子(33)が「おやじ、入籍だけは止めてくれ」と結婚に断固反対。彼女も「今さら姓を変えたくない」といいます。下田さんは「結婚という形を取らずに彼女に財産を残す方法はないか」と考えています。
内縁の妻に財産を残したい、という気持ちは分かりますが、配偶者でない内縁の妻には公然の立場がありません。
つまり財産(遺産)に関しては何の権利もありません。あくまで日本国の法律にのっとった配偶者だけに相続権が認められます。
長年、妻のように一緒に住んでいた内縁の妻と、一緒に作ってきた財産があったとしても、です。
(ただし、あなたに相続人がいない場合、「特別縁故者」という地位で内縁の妻が相続できる可能性が残りますが、確実なものではありません。)
内縁の妻に財産を残したい場合は、(1)生きているうちに渡しておく(生前贈与)、(2)遺言を書く、のいずれかを行うことをおすすめします。
もしも、親族が海外に住んでいたら?
【Case】 内田さん(48)の兄(53)は長く海外で暮らしています。先日、兄が体調を崩したという連絡を受けました。幸いすぐに回復したようですが、年老いた両親はとても心配していました。内田さんは「兄さんの手続きを調べておかなければ」と思いました。
海外勤務や留学などで、海外で生活する人が増えています。今や国際結婚も珍しくありませんし、リタイア後の第二の人生を海外で過ごしたいというシニアもちらほら見かけます。
国をまたいだ相続は、手続きがかなり面倒です。遺言書がある場合は遺言書通りに相続するため、さほど手間はかからないのですが、遺言書がない場合は、数年かかることもあります。
●相続人の一人が海外にいる場合
被相続人が日本国籍を有しているならば、相続人のうち一人が海外に住んでいても、日本の法律にしたがって相続手続きをすすめていかなければなりません。
(被相続人と相続人の両方が海外に10年を超えて居住している場合等、所定の要件にあてはまれば、被相続人の海外財産は日本の相続税の対象とはなりません。つまり、日本にある財産のみが相続の対象となります。)
住民票が日本にある
海外在住でも、住民票が国内にあれば印鑑証明書を取得することができるので、手続きは相続人全員が日本にいる場合と同様です。
住民票が日本にない
海外在住の人が日本の住民票をすでに抹消してしまっている場合、日本領事館または領事館で「サイン証明」や「在留証明」などを発行してもらうことが必要になります。
印鑑登録は、住民票を登録している自治体に行うため、住民票が日本にない人は、印鑑証明書の発行もできないからです。
・サイン証明……印鑑証明書に代わるもので、申請者の署名(および拇印)が確かに領事の面前でなされたことを証明するものです。
・在留証明……住民票に代わるもので、住所の証明になるものです。
●本人が被相続人になった場合
海外在住の親族が亡くなった際の相続の手続きは、被相続人の国籍がどこかで変わってきます。
被相続人が海外に住んでいたとしても、国籍が日本の場合には、日本の法律にしたがって相続手続きをすすめていきます。
ただし、海外にある財産については、現地の法律に基づく手続きをする必要が出てきます。場合によっては、海外現地での課税も行われるため、生前にどのような手続きが必要かを確認しておく必要があります。
国境を越えた相続の手続きには、ハードルがたくさん海外が絡む相続の手続きは、国内で完結する場合に比べ、複雑で時間を要する場合が多いです。自分で手続きを進めようとした場合、使えない証明書をとってしまうなど、ムダなお金と時間をかけてしまうことにもなりかねません。その方面に詳しい専門家を探して、早めに相談されることをおすすめします。
もしも、あなたに隠し子がいたら?
Case 佐久間さん(62)は、久しぶりの同窓会でかつての悪友から「昔深い仲になった年上の女性が、こっそり君の子供を産んでいるかもしれない」と告げられました。まさかとは思いつつ、思いあたる節があるだけに、佐久間さんは「家族にどう言ったらいいのか」と考え込んでしまうのでした。
あなたが男性で、誰にも知られていない子供……つまり「隠し子(非嫡出子)」がいる場合、あなた(父親)が認知しているかどうか、がポイントになります。
隠し子に財産を残したいなら、自分が生きているうちに認知するか、遺言に書いて認知しましょう。認知していれば、嫡出子(結婚相手との間に生まれた子)と同等の権利が発生します。
財産を残したくない場合は……、あなたが認知をしない限り、内縁の妻や愛人との間の子に、相続権はありません。
しかし愛人なり内縁の妻なりが「あの人の子供です」と、裁判を起こし、DNA 判定などで子供だという事実を勝ち取れば隠し子(非嫡出子)は相続の権利が生じてしまいます。
あなたが女性で、内縁の夫との間に隠し子が……というケースでは、認知が関係してくることはありません。母親の場合、出産という事実によって親子関係の確認ができるため、認知は不要です。また、生まれた子は出生届を提出した際に母親の戸籍に入るので、戸籍を追えば子供の存在を隠しきれないからです。
【知っておきたい 相続の基礎知識】
●認知
ドラマの世界ではおなじみの「認知」という言葉ですが、どういうことかイマイチ分からない、という方も多いと思うので改めて解説します。
認知とは、結婚していない(婚姻関係にない)男女の間に生まれた子(非嫡出子)に対して、法律上の「父」を設定する行為です。
認知する方法は、任意認知、遺言認知、裁判認知があります。いずれも、市町村役場に「認知届」を提出することで効力が生じます。
・任意認知
父が認知届を提出して認知する方法です。期限は特に決まっていません。子供が胎児でも認知できます。
・遺言認知
遺言書に書いて認知する方法です。遺言執行者が就任後10日以内に認知届を提出します。生前に父親が認知届を書いておいて、死後に誰かに提出を託す、ということはできません。
・裁判認知
裁判で認知を確定します。裁判の確定日から10日以内に、訴提起者が認知届を提出します。
非嫡出子でも権利は同等
以前の民法では、正妻の子ではない「非嫡出子」の法定相続分は嫡出子の1/2、とされていましたが、この規定は平成25年最高裁により違法と判断され、嫡出子も非嫡出子も権利は同じになりました(平成25 年9月5日以後に開始した相続について適用)。
●戸籍
戸籍は、日本人の国籍に関する事項と、親族的な身分関係を登録・公証する公文書です。
戸籍謄本、戸籍抄本、どちらも戸籍原本の写しですが、記載内容が違います。
・戸籍謄本(全部事項証明)……戸籍原本のすべての写し。その戸籍に掲載されているすべての人の情報を記載。
・戸籍抄本(個人事項証明)……戸籍原本の一部のみの写し。その戸籍に掲載されている一部の人の情報のみを記載(2人以上記載があるうちの1人分など)。
戸籍謄本の提出が求められるとき
相続の手続きでは、次のようなときに戸籍謄本の提出が求められます。
預貯金や証券口座の名義変更、相続税の申告、不動産の相続登記、相続放棄または限定承認など。
被相続人の戸籍をさかのぼる
遺言がない場合、相続人は被相続人が生まれてから死ぬまですべての戸籍謄本を取る必要があります。
死亡時だけでなく、出生から死亡までの戸籍が必要なのは、隠れた相続人がいないかを確認するためです。
戸籍は、まず被相続人の最後の戸籍をとり、そこから順次さかのぼっていきます。
遠方の役所は郵送で申請することになります。申請方法は、請求先の役所のホームページで確認しましょう。
悲しみに暮れる中、出生から死亡まで、すべての戸籍をつなげるのは大変な作業です。司法書士や行政書士などプロに頼むこともできます。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます