従業員と企業が折半して支払う社会保険料は、原則として年1回見直しが行われる。しかし、昇給などにより給料が大きく増減する場合は、随時改定により相応の社会保険料に変更することが求められる。

随時改定を行うことで、実際の報酬額に見合わない社会保険料を支払い続けることや、将来の年金額にも大きな影響を及ぼすことを回避できる。

この記事では、社会保険料の随時改定の概要や要件、詳しい手続き方法などを解説するとともに、新型コロナ感染症が蔓延し、在宅勤務など企業の多様な就業形態が変化するなか、厚生労働省が2021年4月1日に「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱に関する事例集」の一部を改訂。「在宅勤務・テレワークにおける交通費及び在宅勤務の取扱い」が事務取扱事例として追加された内容にも踏み込む。

目次

  1. 社会保険料とは
    1. 社会保険料はどのようにして決まる?
    2. 標準報酬月額とは?
    3. 月額変更届とは?
  2. 社会保険の随時改定とは?
    1. 随時改定と定時決定の違い
  3. 随時改定とは不定期に社会保険料額を見直すこと
    1. 随時改定が必要な理由
    2. 随時改定の対象となる人は?
  4. 随時改定を行うべき3つの条件
    1. 【条件1】昇給などによる固定的賃金の変動
    2. 【条件2】3ヵ月間に支給された報酬が2等級以上変動
    3. 【条件3】3ヵ月間の支払基礎日数がすべて17日以上
  5. コロナ禍で進む在宅勤務・テレワークで変わる報酬額と随時改定の事務取扱で新たに加わった2つの事例とその実施に際する取扱い
  6. 随時改定の対象にならない場合
  7. 新型コロナ感染症の影響で再延長された標準報酬月額の特例改定
  8. 随時改定の方法や手続きの流れ
    1. 随時改定を行うタイミング
    2. 社会保険料の変更に伴う具体的な手続きの流れ
    3. いつから適用されるか
    4. 手続きが遅れると面倒
  9. 社会保険料の随時改定に関するQ&A
    1. Q1.月額変更届提出後、社会保険料が変わるのはいつ?
    2. Q2.随時改定をしなかったらどうなるの?
    3. Q3.手続きが遅れたらどうなるの?
  10. 随時改定の手続きは忘れず迅速に!
  11. 事業承継・M&Aをご検討中の経営者さまへ

社会保険料とは

社会保険
(画像=PIXTA)

広義での社会保険には、健康保険や介護保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険のほか、国民年金保険料や国民健康保険なども含まれるため、一般的に「社会保険料」というとこれらすべての保険料が含まれる。このなかでも企業に深く関わりのある社会保険料として健康保険や介護保険、厚生年金保険の保険料の決定方法や標準報酬月額、月額変更(臨時改定)について解説していく。

社会保険料はどのようにして決まる?

健康保険や介護保険、厚生年金保険の保険料は、被保険者ごとに区分した標準報酬月額の等級によって決定されるのが特徴だ。また標準報酬月額は、以下の3つの手続きによって決定される。

  1. 入社時に労働契約などの内容に基づき決定される「資格取得時決定」
  2. 毎年決まった時期に企業が実際に支払った報酬によって見直しをする「定時決定」
  3. 昇給や降給、給与体系の変更などにより固定的な賃金が変動したときに、報酬の実態に合わせて見直しをする「随時改定」

社会保険料は、原則労使折半のため、企業と従業員が負担する。そのため企業は、上記3つの方法で決定された標準報酬月額ごとに決められた保険料の従業員が負担分を給与から控除し企業負担分と合わせて納付しなければならない。

標準報酬月額とは?

標準報酬月額とは、毎月の健康保険(以下、介護保険も含む)の保険料、将来受け取ることができる厚生年金の年金額、業務外の疾病により休業を余儀なくされた従業員が受給できる健康保険の制度の一つである傷病手当金の金額を計算する基となるものだ。健康保険と厚生年金保険の標準月額は、以下のようにそれぞれ金額に幅を設けて区分されている。

社会保険の随時改定とは? コロナ禍で追加される条件や時期・具体的な手続きなど徹底検証!

例えば報酬月額が19万5,000円以上21万円未満の場合、健康保険が第17等級、厚生年金保険は第14等級と決定される。一度決定された標準報酬月額は、定時決定や随時改定により変更されるまでの一定期間変動しないため、保険料の計算を簡易にする目的もある。

月額変更届とは?

固定的な賃金の変動が生じて給与額に大幅な増減が生じた場合は、次回の定時決定の手続きを待たずに「月額変更届」を提出して標準報酬月額を改定する手続きを行わなければならない。この随時改定の際に必要な届け出を「月額変更届」という。標準報酬月額は、年1回の定時決定年により決定され1年間変更されないのが原則だ。

しかし昇給や降給、賃金体系の変更により年の途中で固定的賃金の変動が生じると標準報酬月額が実態の給与の額と大きく乖離することがある。この場合、固定的な賃金が変動した月以後3ヵ月間に支払った賃金を平均し従前の標準報酬月額との間で2等級以上の差が生じた場合、月額変更届を提出して随時改定の手続きをしなければならない。

なお「固定的な賃金の変動があった月」というのは、変動した給与が実際に支払われた月を意味する。

社会保険の随時改定とは?

社会保険の随時改定を理解するためには、社会保険料が確定するタイミングを押さえておく必要がある。社会保険料を決定する基となる標準報酬月額を知り、随時改定の必要性についても理解を深めておこう。

随時改定と定時決定の違い

定時決定は、毎年決まった時期に必ず行う手続きだ。しかし随時改定は、不定期かつ一定の条件に該当したときにのみ発生する手続きである。

・定時決定
原則1年に1回、4~6月に支払った従業員の給与の平均額を「算定基礎届」に記載して通常であれば毎年7月10日までに年金事務所や健康保険組合などに提出することによって手続きを行う。

・随時改定
毎年必ず発生する手続きではなく忘れやすいため、注意が必要だ。固定的な賃金の変動があり、かつ変動があった月以後3ヵ月間の給与の平均額を計算して従前の標準報酬月額と2等級以上の差が生じた場合にのみ手続きが必要になる。残業代のように毎月の稼働実績で変動する賃金は、固定的な賃金の変動に該当しない。

基本給や役職手当などの固定的な賃金が変動した場合に随時改定の対象となる可能性がある。

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随時改定とは不定期に社会保険料額を見直すこと

企業と従業員が折半して負担する社会保険料は、「標準報酬月額」と呼ばれる金額を基に決定される。標準報酬月額を決定する基となる報酬は、労働者が労働の対償として受け取るすべてのものが該当し、基本給だけでなく通勤手当など各種手当を含む金額で計算されることに注意しなければならない。

標準報酬月額が確定するタイミングは、以下の3つに大別される。

1.資格取得時の決定
企業が従業員を雇用した際は、労働契約などの内容に基づいた標準報酬月額を決定する。この標準報酬月額は同年8月まで使用するが、6月1日~12月31日までに資格を取得した従業員の場合は、翌年8月まで使用する。

2.定時決定
2回目以降は、毎年7月に直近3ヵ月(4~6月)の報酬月額を基にして標準報酬月額を決める。これを「定時決定」といい、定時決定で確定した標準報酬月額は、原則として同年9月から翌年8月まで使用する。

定時決定の対象者となるのは、7月1日時点で健康保険や厚生年金保険の被保険者であるすべての従業員だ。海外出張中や休職中の従業員も、これに含まれる。対象外となる従業員は、以下のとおりだ。

・6月1日以降に被保険者資格を取得した人(資格取得時の決定に該当)
・6月30日までに退職した人(7月1日の時点で被保険者資格を喪失している)
・7~9月の間に随時改定をする予定の人
・7~9月の間に産前産後休業終了時改定や育児休業終了時改定をする予定の人

3.随時改定
上記の2つの手続きは、いずれも決まった時期に行われる。しかし、昇給などにより時期を問わず固定的賃金が大きく変動するような場合は、その都度標準報酬月額の見直しを行わなければならない。これが随時改定であり、見直しされた標準報酬月額は次の定時決定により見直しが行われるまで有効となる。なお、その年の7月以降に改定された場合は、翌年の8月まで使用する。

随時改定される対象はあくまでも標準報酬月額であり、社会保険料は標準報酬月額の変動に伴って決定される。

随時改定が必要な理由

従業員の社会保険料は標準報酬月額を基に計算され、標準報酬月額の金額が大きいほど、支払うべき社会保険料も多くなる。

しかし、資格取得時決定や定時決定後に給与が大きく変動した場合、次回の定時決定までに標準報酬月額が変わらなければ、給与額に見合わない社会保険料を支払い続けることになってしまい、将来受け取る年金額にも影響を与えかねない。

そこで、実際の報酬月額に応じた社会保険料が支払えるようにするため、随時改定を実施して適切な社会保険料に変更する必要がある。

随時改定の対象となる人は?

随時改定の対象者は、以下の条件をすべて満たすことが必要だ。随時改定の条件について今一度整理して確認しよう。

1.基本給、役職手当、住宅手当など、毎月の支給額・支給率が決まった固定的賃金に変動がある

ここには、昇給や降給だけではなく歩合給などのインセンティブの単価や率の変更や日給制から月給制への変更などの賃金体系の変更も含まれる。

2.変動月以後3ヵ月間の平均額に基づく標準報酬月額と従前の標準報酬月額とで2等級以上の差がある

固定的な賃金が増加したが残業代などが減少して2等級以上下がった場合や、固定的な賃金は下がったが残業代の増加により標準報酬月額が2等級以上上がった場合は、随時改定の対象にはならない。

3.固定的な賃金の変動があった月以後3ヵ月間ともに支払基礎日数が17日以上ある

2016年10月から社会保険の適用拡大が実施された。そのため特定適用事業所や任意特定適用事業所に該当する企業では、週の所定労働時間が20時間以上のパートやアルバイトなど、これまで社会保険の加入義務の対象ではない従業員も社会保険への加入が必要だ。

適用拡大に伴い社会保険へ加入したパートやアルバイトなどの短時間労働者の場合、支払基礎日数は11日以上で計算する必要があるため、注意が必要だ。

随時改定を行うべき3つの条件

以下に挙げる3つの条件をすべて満たしている場合は、随時改定の手続きが必要になる。3つの条件を詳しく見ていくとともに、すべての条件を満たしていながら、随時改定の対象にならないケースも確認しておこう。

【条件1】昇給などによる固定的賃金の変動

従業員の報酬は、固定的賃金と非固定的賃金に大きく分けられる。固定的賃金とは、支給額や支給率が決まっている賃金を指す。非固定的賃金とは、稼働実績や出来高などに応じて支払われる賃金のことだ。

基本給や月々の変動がない手当などが、前者に該当する。時間外手当や皆勤手当などは、後者に該当する。非固定的賃金の動きに関係なく、固定的賃金の金額が大きく変動した場合は、随時改定の対象となるかを考える必要がある。

固定的賃金の変動は、以下のような原因が考えられる。

・昇給(ベースアップ)や降給(ベースダウン)
・日給から月給への変更など、給与体系の変更
・時給や日給など、基礎単価の変更
・請負給や歩合給などにおける、単価や歩合率の変更
・住宅手当や役職手当など固定的な手当における、追加や支給額の変更

【条件2】3ヵ月間に支給された報酬が2等級以上変動

固定的賃金が変動した月とその後2ヵ月を合わせた、計3ヵ月間の報酬月額における平均値が、変動前の標準報酬月額と比較して2等級以上の差がある場合は、随時改定の手続きが必要となる。

算出の際は、固定的賃金と残業手当などの非固定的賃金を合計して計算する。標準報酬月額の等級に関しては、日本年金機構より公表されている「保険料額表」で確認できる。

厚生年金保険料額表|日本年金機構

なお、2018年10月に「年間平均の保険者算定」と呼ばれる制度が新たに導入された。この制度は、昇給時期と繁忙期が重なり、実態以上に等級が高まることを回避する目的で定められたものだ。

例えば、6月までの固定的賃金が月額30万円、残業手当が月額平均1万円のケースを考えてみよう。7月から固定的賃金が月額31万円となり、繁忙期である7~9月の残業手当が月額10万円だった場合、固定的賃金の変動月から3ヵ月間の平均は41万円になる。

従来の制度では、昇給前の標準報酬月額30万円と比較して2等級以上の差があるため、随時改定が行われ、10月からの標準報酬月額は41万円となる。しかし、10月以降の残業手当が再び平均1万円に落ち着いたとしても、この標準報酬月額が継続されるため、実態以上の保険料負担を強いられていた。

実質的には月額31万円の報酬を受け取っている従業員が、月額41万円をベースとした社会保険料を支払うことは、労働者はもちろん、折半で負担する企業側にとっても負担となる。このような状況を是正するために制定された制度が、年間平均の保険者算定だ。

年間平均の保険者算定では、固定的賃金に関しては従来どおり変動月から3ヵ月間の平均を算出するが、非固定的賃金の場合は1年間の平均額が用いられる。非固定的賃金の平均額を割り出す1年間は、変動月からの3ヵ月間と、変動月前の9ヵ月間が対象となる。

【条件3】3ヵ月間の支払基礎日数がすべて17日以上

随時改定を行う条件の3つ目は、固定的賃金の変動月とその後2ヵ月間を合わせた計3ヵ月間の支払基礎日数が、すべて17日以上でなければならないことだ。

支払基礎日数とは、報酬を計算する際の基礎となる日数のことである。月給制や週休制の場合は、日曜日や休日などもすべて含めた「歴日数」が対象となり、日給月給制の場合は、就業規則などに基づいて事業所が定めた日数が対象となる。

アルバイトやパートタイマーであっても、1週間の所定労働時間と1ヵ月の所定労働日数が正社員などフルタイムで働く従業員の従業員の4分の3以上となる場合には、社会保険への加入が義務付けられている。これら所定労働時間が短いアルバイトやパートタイマーの定時決定で報酬月額を算出する際、支払基礎日数が17日以上ある月がない場合には、支払基礎日数の条件が15日以上ある月で算定することが定められている。しかし、随時改定の場合は、アルバイトやパートタイマーなども17日以上でなければならない。

なお、社会保険の適用拡大が実施されたことにより特定適用事業所や任意特定適用事業所となった企業では、週の労働時間が20時間以上、かつ、月の給与が8.8万円以上となるなど、一定の条件に該当する短時間労働者も社会保険に加入しなければならない。これらの特定適用事業などに勤務する短時間労働者の場合は、定時決定、随時改定ともに、支払基礎日数は17日以上ではなく、11日以上で計算することになることにも注意が必要だ。

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コロナ禍で進む在宅勤務・テレワークで変わる報酬額と随時改定の事務取扱で新たに加わった2つの事例とその実施に際する取扱い

厚生労働省は、新型コロナ感染症の影響による企業の在宅勤務・テレワークによる業務形態の拡大を受けて、2021年4月1日に「標準報酬月額の定時決定及び随時改定の事務取扱に関する事例集」の一部改正について公表した。今回の改定では「在宅勤務・テレワークにおける交通費及び在宅勤務手当の取扱い」が追加され、具体的に2つの事例が追加されている。

【事例1】企業が在宅勤務・テレワークを導入し、被保険者が一時出社する際に要する交通費を事業主が負担する場合、その交通費は「報酬等」に含められるか否かのケース。

この場合、一時出社する日が労働契約上、労働供給地が自宅か企業かで交通費を社会保険料・労働保険料等の算定基礎に含めるか否かの取扱いが変わってくる。

・労働供給地が自宅の場合
業務命令によって企業等に一時出社し、その移動にかかる実費を企業が負担する場合、交通費は原則として実費弁償と認められ、社会保険料・労働保険料等の算定基礎となる報酬等・賃金には含まれない。

・労働供給地が企業の場合
一時出社する日が企業での勤務となっていることから、自宅から企業に出社するために要した費用を企業が負担する場合、交通費は原則として通勤手当として報酬等・賃金に含まれるため、社会保険料・労働保険料等の算定基準に含まれる。

【事例2】在宅勤務・テレワークの実施に際し在宅勤務手当が支給される場合、この在宅勤務手当は「報酬等」に含まれるか。

この場合、在宅勤務手当が労働の対象として支払われる性質であるか否か(実費弁償の対象か否か)で「報酬等」に含まれるかどうかが決まってくる。

・実質弁償に当たらない場合
在宅勤務手当が労働者の在宅勤務に通常必要な費用として使用しなかった場合でも、その手当が返還の義務がなく支給されるもの(例えば、企業が従業員に対して毎月5,000円を渡し切りで支給するもの)であれば、社会保険料・労働保険料等の算定基礎となる報酬等・賃金に含まれると考えられる。

・実質弁償に該当するような場合
在宅勤務がテレワークを実施するに当たり、業務に使用するパソコンの購入や通信に要する費用を企業がテレワーク対象者に支払うようなものの場合、その手当が業務遂行に必要な費用にかかる実費分に対応すると認められるのであれば、在宅勤務手当は実費弁償に当たるものとして、社会保険・労働保険料等の算定基礎となる報酬等・賃金に含まれないと考えられる。

【在宅勤務・テレワークの実施に際し、在宅勤務手当が支給される場合の随時改定の取扱い】
新たに実質弁償に当たらない在宅勤務手当が支払われることとなった場合、固定賃金の変動に該当するので、随時改定の対象となる。

・同時に複数の固定的賃金の増減要因が発生した場合
交通費の支給がなくなった月に新たな実費弁償に当たらない在宅勤務手当が支給される等、複数の固定賃金の増減要因が発生した場合、その増減要因によって実際に固定賃金の総額が増減するかを確認したうえで、増額改定・減額改定のいずれに対象になるかを判断する必要がある。

しかし新たに変動的な在宅勤務手当の創設と手当の廃止が同時に発生した場合、手当額の増減と報酬額の増減の関連が明確に確認できないケースが考えられる。その場合、3ヵ月の平均報酬月額が増額した場合、減額した場合どちらも随時改定の対象となる。

また、一つの手当で実質弁償に該当するものとそれ以外の部分がある場合は、実質弁償分については「報酬等」に含める必要はなく、それ以外のものは「報酬等」に含まれる。しかしこの場合、固定賃金の変動に該当しないことから、随時改定の対象とはならない。

随時改定の対象にならない場合

繁忙期などで時間外労働が増え、非固定的賃金の多い月が一時的に連続した場合などは、固定的賃金が下がっても、標準報酬月額が2等級を超えて上昇するケースが考えられる。また、逆に固定的賃金が上昇しても、非固定的賃金が下がることで報酬全体が減少することもあり得る。

このような逆行現象が見られる場合は、標準報酬月額に2等級以上の差が生じたとしても、随時改定の対象にはならない。

また、残業などの時間外手当が一時的に増加するなど、非固定的賃金が大きく変動し、標準報酬月額の等級が2等級を超えて上下した場合でも、固定的賃金が変わらなければ対象とはならない。固定的賃金の変動が前提であるため、非固定的賃金だけが変化した場合は、随時改定を実施する必要はないのだ。

新型コロナ感染症の影響で再延長された標準報酬月額の特例改定

新型コロナウイルス感染症の影響に伴う休業の影響で著しく報酬が下がった場合、通常の随時改定(4ヵ月目に決定)によらず、特例により翌月から改定となる措置(特例改定)が2021年4月から7月の間まで認められ、2021年8月から12月までの間と再延長された。

この措置は2022年2月28日をもって終了したが、再度新たに延長され、2022年1月から2022年6月まで対象となるようになったので注視したい。ただし、標準報酬月額が下がることにより傷病手当金や将来の年金額が下がることにもつながるため、この特例措置の適用には被保険者本人の十分な理解に基づく事前の同意が必要である。

・対象者

  1. 新型コロナウイルス感染症の影響による休業(時間単位を含む)があったことで、2022年1月から2022年6月の間に報酬が著しく低下した生じた従業員
  2. 著しく報酬が低下した月に支払われた報酬の総額(1ヵ月分)が、既に設定されている標準報酬月額に比べ2等級以上下がった従業員

・申請手続きについて
2022年1月から2022年3月までを減少月とする特例改定の届け出は 2022年5月31日(必着)まで、2022年4月 から2022年6月までを減少月とする特例改定の届け出は2022年8月31日(必着)までが申込期限となり、月額変更届(特例改定用)に申立書を添付して管轄の年金事務所に提出(郵送可)する必要がある。

随時改定の方法や手続きの流れ

昇給などで固定的賃金が上昇した従業員がいる場合は、社会保険料の見直しを図るため、随時改定の手続きを行う必要がある。手続きを行う時期や、変更が反映されるタイミングについて理解を深め、具体的な方法を以下で確認しよう。

随時改定を行うタイミング

定時決定は毎年7月の決まった時期に行われるが、随時改定は固定的賃金の変動後、早ければ4ヵ月後に行われる。

例えば4月に昇給し、6月までの3ヵ月で所定の要件を満たしていれば、6月の給与支給後に随時改定の手続きを行い、7月から標準報酬月額が改定される。8月に支払われる給与では、新たに算出された社会保険料が控除されることになる。

随時改定を行う条件が定時決定の7月と重なった場合は、定時決定を行わずに随時改定の手続きのみが行われる。

社会保険料の変更に伴う具体的な手続きの流れ

随時改定の要件を満たしたら、できるだけ速やかに手続きを行う必要がある。以下で詳しい手続きの流れを確認しておこう。

1.月額変更届の入手
随時改定の手続きには、「健康保険・厚生年金保険被保険者報酬月額変更届」という書類を入手する必要がある。この書類は、略して「月額変更届」または「月変(げっぺん)」とも呼ばれている。

定時決定の場合は、基本的に年金事務所などから「算定基礎届」と呼ばれる提出用の書類が送付されるが、随時改定は不定期に行うものなので、必要書類が送られてくることはない。

月額変更届は、年金事務所や健康保険組合に出向いて入手できるほか、日本年金機構の公式サイトからもダウンロードできる。また、従来のような紙を用いた書類の届け出ではなく、インターネット経由で電子申請を行うこともできる。

月額変更届の提出|日本年金機構

2.必要事項の記入
月額変更届を用意したら、被保険者などに関する項目を埋めていく。日本年金機構のホームページには、月額変更届の書き方をわかりやすく解説した記入例が用意されているので参考になるだろう。

特に間違いやすい項目が、標準報酬月額の算出に使用される報酬月額の数値だ。記入例にもあるとおり、固定的賃金・非固定的賃金に関係なく、労働の対償として受けたすべての金銭の合計額を記入する必要がある。

月額変更届の記入例

3.添付書類の用意
通常の随時改定では、特に添付書類を必要としない。しかし、「年間平均の保険者算定」を申し立てる場合は、以下の書類を添付する必要がある。

・年間報酬の平均で算定することの申立書(随時改定用)
・健康保険厚生年金保険被保険者報酬月額変更届・保険者算定申立に係る例年の状況、標準報酬月額の比較及び被保険者の同意等(随時改定用)

いずれの書類も、日本年金機構のホームページで入手することができる。

随時改定の際、年間報酬の平均で算定するとき|日本年金機構

4.日本年金機構への提出
月額変更届の記入が終わったら、管轄の年金事務所や事務センターに書類を提出すれば、手続きが完了する。提出方法としては、窓口への持参以外に、郵送・電子申請・CDまたはDVDによる電子媒体の提出が認められている。

随時改定の届け出は速やかに行うことが求められているため、該当する従業員がいる場合は、できるだけ早く月額変更届を提出するようにしたい。

いつから適用されるか

随時改定の手続きが完了すると、該当する被保険者の標準報酬月額と社会保険料が変更されることになる。ただし、変更の反映にはそれぞれタイムラグがあるため、いつから適用されるかということも押さえておく必要があるだろう。

標準報酬月額は、固定的賃金が変動した月から3ヵ月経過した翌月(4ヵ月目)に変更が反映される。この場合の「固定的賃金が変動した月」というのは、変動した給与が実際に支払われた月という意味になる。社会保険料は、標準報酬月額が改定された月の翌月から、変更後の保険料が適用される。

つまり、給与変動が発生した月の4ヵ月後に標準報酬月額が変更され、5ヵ月後に社会保険料が変更されることになる。トラブルを防ぐためには、該当する従業員にそのことを伝えたうえで、給与明細書に通知書なども添える必要があるだろう。

また、手続きが行われた時期により、標準報酬月額の適用期間が異なることも押さえておきたい。その年の6月以前に改定した場合はその年の8月まで、その年の7月以降に改定した場合は翌年の8月までが適用期間となる。

手続きが遅れると面倒

随時改定の手続きで求められる提出書類は、原則として月額変更届のみだが、届け出が改定月の1日から数えて60日以上遅くなった場合は、以下のような添付書類が必要になる。

1.被保険者が法人の役員以外
・賃金台帳の写し(固定的賃金の変動月の前の月から改定月の前の月分まで)
・出勤簿の写し(固定的賃金の変動月から改定月の前の月分まで)

2.被保険者が法人の役員
・所得税源泉徴収簿または賃金台帳の写し(固定的賃金が変動した月の前月から改変月の前月分まで)
・次の4つのうちどれか1つ(株式会社以外の法人はこれらに相当する書類)
 株主総会または取締役会の議事録
 代表取締役等による報酬決定通知書
 役員間の報酬協議書
 債権放棄を証する書類

このように、随時改定の書類提出が60日以上遅れてしまうと、添付書類の用意が面倒になる。固定的に支給される各種手当の変更を日頃から注意し、速やかに手続きを行うことが大切だ。

なお月額の等級が5等級を超えて下がる場合は、手続きが遅れていなくても上記の添付書類が求められる。標準報酬月額の減少は、企業側が負担する社会保険料も少なくなることを意味する。したがって、不適切な削減行為ではないことを証明するため、各種書類によって事実確認が行われるのだ。

社会保険料の随時改定に関するQ&A

Q1.月額変更届提出後、社会保険料が変わるのはいつ?

A.随時改定では、固定的賃金が変動した月(実際に支払われた月)以後3ヵ月経過した翌月(4ヵ月目)に新しい標準報酬月額に変更される。また社会保険料が控除するのは、前月分の保険料となるため、標準報酬月額が改定された月の翌月から変更後の保険料を控除することになる。月額変更届は、固定的な賃金が変動した月から4ヵ月目には提出することが必要だ。

そのため月額変更届を提出するとすぐに標準報酬月額が変更され提出した翌月(5ヵ月目)に控除する社会保険料が変更される。

Q2.随時改定をしなかったらどうなるの?

A. 随時改定の手続きをしなかったり年金事務所への届け出を忘れていたりした場合、調査で判明すれば届け出のやり直しを求められる。社会保険料の不足分があれば遡って徴収されるため、長期間随時改定の手続きをしていないと場合によっては多額の保険料を支払うことになりかねない。

健康保険法や厚生年金保険法では、正当な理由なく届け出をしない場合「6ヵ月以下の懲役または50万円以下の罰金」といった罰則の規定もあるため、注意が必要だ。

Q3.手続きが遅れたらどうなるの?

A. 届け出が改定月の1日から数えて60日以上遅くなると被保険者が法人の役員以外の場合と法人の役員の場合で以下のような書類の添付が必要となる。

・被保険者が法人の役員以外の場合

固定的賃金の変動月の前の月から改定月の前の月分まで賃金台帳の写しや固定的賃金の変動月から改定月の前の月分までの出勤簿の写しなどが必要になる。

・被保険者が法人の役員の場合

所得税源泉徴収簿や賃金台帳の写しに加え、株主総会または取締役会の議事録、代表取締役等による報酬決定通知書、役員間の報酬協議書などの事実関係が証明できる添付書類を用意して手続きを行わなければならない。

手続きが遅れた場合でも遡って随時改定が行われ、保険料を清算しなければならないため、確実に手続きを行う必要がある。

随時改定の手続きは忘れず迅速に!

在籍する従業員の給与が数万円単位で増減する場合は、随時改定の条件を満たす可能性が高い。給与体系を大幅に見直すようなケースでは、常に随時改定を頭に入れておく必要があるだろう。

残業などの非固定的賃金が多くなりそうな時期は、年間平均の保険者算定を活用することも意識しておこう。経営者が制度をしっかり理解し、日頃から注意しておけば、従業員は安心して仕事に取り組むことができるはずだ。

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文・THE OWNER編集部

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