「会社員をやめて個人事業主になった場合、社会保険はどうなるのだろう?」
「従業員を雇った場合、個人事業主でも社会保険料の支払わなければならないのか?」
「個人事業主の妻や家族は、扶養家族として社会保険に加入できるのか?」
などと考えている個人事業主もいるだろう。

個人事業主になると、自分自身や妻・家族が加入すべき社会保険は変わる。また、個人事業主が従業員を雇った場合は、社会保険料の支払い義務が発生する。この記事では、個人事業主の社会保険について徹底的に解説する。

個人事業主に関係する社会保険の概要

社会保険
(画像=PIXTA)

会社員が個人事業主になると、社会保険の取り扱いが以下の3つの意味で変わる。

  1. 個人事業主本人が加入できる社会保険が変わる
  2. 個人事業主の妻や家族についての取り扱いが変わる
  3. 個人事業主が従業員を雇ったら、従業員の社会保険についても支払いの義務が生じる

1. 個人事業主本人が加入できる保険

会社員と個人事業主が加入できる社会保険の違いは、以下の表のとおりだ。

社会保険個人事業主会社員
健康保険国民健康保険で全額自己負担健康保険組合で会社と折半
年金国民年金で全額自己負担厚生年金で会社と折半
労災保険特別加入ができる会社が負担、本人負担なし
雇用保険加入できない本人と会社がそれぞれ負担

個人事業主になると、健康保険は国民健康保険、年金は国民年金となり、会社員の時は会社と折半だった保険料が全額自己負担になる。労災保険は特別加入ができるが、雇用保険には加入できない。

2. 個人事業主の妻や家族についての取り扱い

会社員が個人事業主になると、社会保険における妻や家族の取り扱いが変わる。会社員は、年収130万円以下の妻や家族を「扶養家族」にすることができる。扶養家族にすることで、健康保険については加入者1人分の保険料で家族の人数分の保険証をもらうことができる。年金についても、扶養家族の保険料は不要だ。

それに対して個人事業主の場合は、扶養家族という概念がない。そのため、国民健康保険では家族のそれぞれにたいして収入に応じた保険料が必要となってくる。また、国民年金についても、20歳以上の妻や家族それぞれは、1人分の年金保険料を支払わなければならない。

3. 個人事業主が従業員を雇った場合の社会保険

個人事業主が従業員を雇った場合、従業員の社会保険料の支払い条件は以下の表のようになる。

社会保険個人事業主による保険料支払いの条件
健康保険従業員が5人以上になると保険料の半額を事業主が払う
厚生年金従業員が5人以上になると保険料の半額を事業主が払う
労災保険従業員を1人でも雇えば事業主が全額を支払う
雇用保険従業員を1人でも雇えば事業主も保険料を支払う

健康保険と厚生年金については、従業員が5人以上になると事業主が保険料の半額を支払う義務が発生する。また労災保険と雇用保険は、従業員を1人でも雇った場合は、事業主が保険料を支払わなくてはならない。

以下で、それぞれについて詳しく見ていくことにする。

個人事業主の健康保険

会社をやめて個人事業主になった場合に加入する健康保険には、以下の4つの選択肢がある。

・業種の健康保険組合
・国民健康保険
・会社の健康保険の任意継続
・配偶者や両親などの扶養家族になる

それぞれについて、詳しく見ていこう。

業種の健康保険組合

一般的に健康保険組合は、大企業などが設立し、従業員が加入するためのものだ。会社員は、大企業であればこの健康保険組合、中小企業の場合は協会けんぽに加入しているケースが多い。

ただし、個人事業主でも一部の業種については健康保険組合に加入できることがある。健康保険組合がある業種は、建築・土木や税理士、医師、文芸・美術関係などだ。保険料は、収入に応じて変わるのではなく1ヵ月あたりの固定額になっていることが多いため、国民健康保険に加入するより安くなるケースもある。

国民健康保険

国民健康保険は、健康保険組合や協会けんぽ、共済組合、船員保険などの会社の保険に加入している人、あるいは生活保護を受けている人以外が加入する保険だ。個人事業主は、国民健康保険に加入するのが一般的だ。会社をやめ、会社の健康保険から国民健康保険に移行する場合は、14日以内に手続きをする必要がある。

会社の健康保険の任意継続

会社で加入していた健康保険を「任意継続」をすることも選択肢の一つとなできる。任意継続とは、退職した会社の健康保険に継続して加入することである。任意継続できる期間は、2年間。会社と折半していた保険料を全額支払う必要があるものの、会社をやめた年は、国民健康保険より保険料が安くなるケースもある。

ただし、個人事業主になって収入が下がり、2年目は国民健康保険のほうが安くなったからといって、2年目から国民健康保険にすることはできないので注意が必要。一度任意継続を選択したら、2年間継続しなければならない。

配偶者や両親などの扶養家族になる

配偶者や両親などが会社の健康保険に加入している場合は、その扶養家族になることも選択肢の一つだ。扶養家族になれば、保険料の支払いはしなくていい。ただし、扶養家族になるためには年収が130万円以下でなければならないだ。手続きは、扶養家族になる家族の勤務先で行う。

個人事業主の年金

個人事業主が加入できる年金は、「国民年金」だ。国民年金に付加できる年金には、「付加保険料」と「国民年金基金」がある。また、私的年金である「確定拠出年金」に加入することもできる。これらを付加することにより、国民年金のみに加入していた場合より、年金支給額が多くなる。

年金保険料は、全額が社会保険料控除の対象になる。つまり年金への加入は、将来への備えとしてだけでなく、節税対策にもなるのだ。

国民年金

国民年金は、国が運営する年金である。日本に住んでいる20歳以上60歳未満の人は全員、国民年金に加入しなければならない。

厚生年金や共済組合など会社の年金に加入している場合は、会社が国民年金の保険料を負担している。その会社員は、国民年金の「第2号被保険者」と呼ばれる。また、会社の保険の扶養家族は、国民年金保険料を支払わなくて済む。その扶養家族は、国民年金の「第3号被保険者」と呼ばれる。会社の年金に加入せず、保険料を直接自分で支払う人は「第1号被保険者」と呼ばれる。

国民健康保険の1ヵ月あたりの保険料は、令和元年度現在で16,410円だ。ただし、保険料をまとめて前払いすれば、割引が適用される。

付加保険料

付加保険料は、国民年金に保険料を上乗せして支払うことができるものだ。付加保険料を支払うことで、受給する年金額を増やすことができる。

付加保険料は、月額400円。国民年金の第1号被保険者のみが支払うことができる。ただし、以下の国民年金基金に加入している場合は、支払うことができない。

国民年金基金

国民年金基金とは、国民年金の支給に加え厚生年金が支給される会社員と、国民年金のみの支給となる自営業者など第1号被保険者との格差をなくすことを目的として、平成3年5月に創設されたものだ。年齢によって定められた掛金を支払うことで、年金の受取額が1万~3万円多くなる。30歳で加入した場合、掛金は月額1万~1万5,000円程度だ。

確定拠出年金

会社員の年金は、国民年金や厚生年金に加えて、企業が独自に運用する企業年金がある。第1号被保険者に対し、企業年金に相当する私的年金を用意する目的で、確定拠出年金が創設された。確定拠出年金は、毎月一定額の確定した掛金を拠出して、自分で運用する仕組みだ。運用の仕方にはさまざまな選択肢があるので、運用の結果次第で受け取れる年金額に差が出てくる。

個人事業主の労災保険

労災保険は、業務中のケガなどから労働者を保護することを目的とするものなので、個人事業主は対象になっていない。しかし、労働者でなくても業務内容や災害の発生状況などによっては、保護されるべき場合もある。そこで、労働者以外の人を労災から保護するために、労災保険の特別加入制度がある。特別加入制度には、以下の4種類がある。

・中小事業主等の特別加入
・一人親方等の特別加入
・特定作業従事者の特別加入
・海外派遣者の特別加入

中小事業主等の特別加入

中小事業主などが加入することができる労災保険だ。「中小事業主」として認められる企業規模は、以下の表のとおり。

業 種労働者数
金融業、保険業、不動産業、小売業50人以下
卸売業、サービス業100人以下
上記以外の業種300人以下

中小事業主本人だけでなく、事業主の家族従事者なども加入することができる。

一人親方等の特別加入

一人親方など、以下の事業を労働者を使用しないで行う個人が加入できる。

  1. 自動車を使用して行う旅客又は貨物の運送の事業(個人タクシー業者や個人貨物運送業者など)
  2. 建設の事業(土木、建築その他の工作物の建設、改造、保存、原状回復、修理、変更、破壊もしくは解体又はその準備の事業)(大工、左官、とび職人など)
  3. 漁船による水産動植物の採捕の事業(7に該当する事業を除く)
  4. 林業の事業
  5. 医薬品の配置販売(医薬品医療機器等法第30条の許可を受けて行う医薬品の配置販売業)の事業
  6. 再生利用の目的となる廃棄物などの収集、運搬、選別、解体などの事業
  7. 船員法第1条に規定する船員が行う事業

特定作業従事者の特別加入

「特定作業従事者」とは、以下にあてはまる個人のことだ。ただし、それぞれに一定の要件がある。

  1. 特定農作業従事者
  2. 指定農業機械作業従事者
  3. 国又は地方公共団体が実施する訓練従事者(職場適応訓練従事者、事業主団体等委託訓練従事者)
  4. 家内労働者及びその補助者
  5. 労働組合等の常勤役員
  6. 介護作業従事者及び家事支援従事者

海外派遣者の特別加入

「海外派遣者」とは、以下に当てはまる個人を指す。

  1. 日本国内の事業主から、海外で行われる事業に労働者として派遣される人
  2. 日本国内の事業主から、海外にある中小規模の事業(下表参照)に事業主等(労働者ではない立場)として派遣される人
  3. 独立行政法人国際協力機構など開発途上地域に対する技術協力の実施の事業(有期事業を除く)を行う団体から派遣されて、開発途上地域で行われている事業に従事する人

出典:全国労働保険事務組合連合会『労災保険の特別加入制度』

従業員の労災保険

個人事業主であっても、従業員を1人でも雇った場合は労災保険に加入する必要がある。労災保険の給付金には、以下のようなものがある。

種類支給事由
療養補償給付業務災害または通勤災害による傷病により療養するとき
休業補償給付業務災害または通勤災害による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき
障害補償年金業務災害または通勤災害による傷病が治癒(症状固定)した後に障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残ったとき
障害補償一時金業務災害または通勤災害による傷病が治癒(症状固定)した後に障害等級第8級から第14級までに該当する障害が残ったとき
遺族補償年金業務災害または通勤災害により死亡したとき
葬祭料業務災害または通勤災害により死亡した方の葬祭を行うとき
傷病補償年金業務災害または通勤災害による傷病が療養開始後1年6ヵ月を経過した日又は同日後において次の各号のいずれにも該当することとなったとき
二次健康診断等給付事業主が実施する定期健康診断等の結果、脳・心臓疾患に関連する一定の検査項目(血圧、血中脂質、血糖、肥満)のすべてについて異常の所見があると認められたとき

出典:厚生労働省

保険料は、従業員の賃金総額に業種ごとに細かく定められている保険料率をかけたもので、事業主が全額を負担する。加入の対象は、正社員だけでなく、パート、アルバイト、日雇いなども含まれる。加入の手続きは、労働基準監督署にて行う。

従業員の雇用保険

雇用保険は、以下に該当する従業員を1人でも雇えば、パートやアルバイトなどの雇用形態を問わず加入する必要がある。

  1. 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
  2. 31日以上の雇用見込みがあること

個人事業主と同居している妻などの親族は、原則として雇用保険に加入できない。ただし、

・事業主の指揮命令に従っていることが明確であること
・勤務の実態や賃金が他の従業員と同様であること
・取締役など事業主と利益を一つにする地位にないこと

などの条件を満たせば、加入することができる。

平成31年現在、雇用保険の保険料率は以下のとおりだ。

厚生労働省『平成31年度の雇用保険料率について』

出典:厚生労働省『平成31年度の雇用保険料率について』

保険料は賃金総額に保険料率をかけて計算され、労働者と事業主とがそれぞれ負担することとなっている。加入や保険料の申告・納付の手続きは、労働基準監督署で行う。

従業員の健康保険・厚生年金

従業員の健康保険・厚生年金保険については、一定の業種においては常時5人以上を雇用する個人事業主は強制加入となっている。「一定の業種」とは、製造業、土木建築業、鉱業、電気ガス事業、運送業、清掃業、物品販売業、金融保険業、保管賃貸業、媒介周旋業、集金案内広告工業、教育研究調査業、医療保険業、通信法同業などだ。

パートやアルバイトであっても、1日または1週間の労働時間および1ヵ月の所定労働日数が、通常の従業員の4分の3以上あれば加入しなくてはならない。保険料は、事業主と従業員が折半で負担する。

個人事業主の妻の社会保険は?

個人事業主の妻の社会保険は、ここまでで見てきたとおり以下のようになる。

・健康保険
健康保険は、国民健康保険だ。国民健康保険には扶養家族の概念がないため、妻の収入に応じた保険料を支払うこととなる。

・年金
年金は、国民年金だ。国民年金にも、扶養家族の概念がない。保険料は、2019年度現在で月額16,410円。付加保険料の支払いや、国民年金基金・確定拠出年金に加入することもできる。

・労災保険
労災保険の特別加入は、個人事業主の妻が事業に従事していれば加入できる。

・雇用保険
雇用保険は、一定の条件を満たした場合は事業主の妻も加入できる。

個人事業主も必要な社会保険にしっかりと加入しよう

個人事業主本人や妻、家族は、国民健康保険と国民年金に加入することになる。また、従業員を雇った場合は、社会保険料の支払い義務が生じる。

社会保険は、自分のためであると同時に、家族や従業員のためのものでもある。個人事業主となった場合は、怠りなくしっかりと加入することが重要だ。(提供:THE OWNER

文・THE OWNER編集部