マイナンバー制度の導入により、税務署へ提出する支払調書にはマイナンバーの記載が義務化された。しかし、個人情報であるという理由から、マイナンバーの提供を受けられないケースもあるだろう。

個人からマイナンバーを入手できない場合に、慌てずしっかりと対応できるよう、適切な対処方法や支払調書の書き方などを理解しておこう。支払調書やマイナンバー自体の意味などについても、改めて確認できるよう詳しく解説する。

支払調書とは?

支払調書
(画像=PIXTA)

年末になると作成される支払調書は、支払いを受けた者が正しく申告しているかどうかを、税務署が照らし合わせるために利用される書類である。具体的にどのような書類なのか、以下の解説で理解を深めておこう。

支払調書は法定調書の1つ

支払調書とは、税務署へ提出することが法律で義務づけられた法定調書の1つである。提出された法定調書を基に、税務署は申告者の所得額や納税額を把握する。法定調書は約60種類あるが、よく使われるのは支払調書と源泉徴収票だ。それぞれの概要を確認しておこう。

1.源泉徴収票
源泉徴収票は、給与・賞与・退職金の支払者がその年に支払った合計額と、源泉徴収した税額の合計額を記載する書類である。源泉徴収票には、「給与所得の源泉徴収票」「退職所得の源泉徴収票・特別徴収票」「公的年金等の源泉徴収票」がある。

支払者が源泉徴収を行うことで、従業員は確定申告を行う必要がなく、毎月の給与から少しずつ所得税を納めることができる。国としても、安定的な税収を確実に得られるため、大きなメリットがある仕組みと言えるだろう。

税理士や社労士などと契約を結んでいる場合や、フリーランスなどに業務委託で仕事を依頼している場合にも、支払う報酬や料金に対して源泉徴収を行わなければならない。

報酬や料金に対する源泉徴収額は10.21%であり、1回の支払金額が100万円以上の場合は20.42%となる。源泉徴収の控除額や計算方法は、業種によって異なる。

2.支払調書
支払調書は、税理士への報酬や不動産の賃貸借料など、各種支払いの内容を記載する書類である。主に以下の6種類がよく作成されている。

・不動産の使用料等の支払調書
・不動産等の譲受けの対価の支払調書
・不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書
・報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
・配当、剰余金の分配、金銭の分配及び基金利息の支払調書
・非居住者等に支払われる給与、報酬、年金及び賞金の支払調書

作成頻度が多い支払調書は、弁護士や税理士などへ支払った報酬や、個人へ支払った原稿料などに関して記載する「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」だろう。現場で支払調書といえば、この書類を指すことが多い。

源泉徴収票は給与などを支払った相手に必ず発行しなければならないのに対し、支払調書は報酬などを支払った相手に発行する法的な義務はない。個人事業主などが取引先から受け取ることがある支払調書は、確定申告の際の工数を減らせるようにと、取引先の好意で送られてくるものなのである。

したがって、発行義務のある源泉徴収票は確定申告の際に必要だが、発行義務のない支払調書は確定申告では必要ない。

支払調書の出が必要になる範囲

支払調書は、すべての取引に関して必ずしも税務署に提出しなければならない書類ではない。支払調書の中でも取り扱う機会が多い「報酬、料金、契約金および賞金の支払調書」について、提出が必要になる範囲と年間支払額の条件は、所得税法により以下のように定められている。

1.1人に対する年間支払額が5万円を超える場合
・原稿料や講演料など
・弁護士、公認会計士、司法書士など、特定の資格を持つ人などに支払う報酬・料金
・プロスポーツ選手(プロボクサー以外)、モデルなどに支払う報酬・料金
・芸能人や芸能関係の業務に対する報酬・料金

2.1人に対する年間支払額が50万円を超える場合
・社会保険診療報酬支払基金が支払う診療報酬
・広告宣伝のための賞金
・コンパニオンやホステスなどに支払う報酬・料金
・プロボクサーに支払う報酬・料金
・外交員、集金人、電力量計の検針人の業務に関する報酬・料金

以下のリンクにアクセスすれば、源泉徴収が必要な報酬や料金などの範囲を確認できる。

No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは|国税庁

支払調書を発行できるのは、源泉徴収義務者だけである。源泉徴収義務者とは、従業員を雇い給与を支払っており、かつ源泉徴収の対象となる報酬を支払っている企業・団体・個人などだ。この条件に該当していなければ、支払調書の作成義務は発生しない。

支払調書には、不動産に関するものもいくつかある。その1つである「不動産の使用料等の支払調書」は、事務所の家賃や駐車場の地代など、1人に対する年間支払額が15万円を超える不動産賃借料を支払った場合に提出義務が発生するため注意が必要だ。

支払調書の作成方法や注意点

支払調書は、すべての支払先へ1年間の支払いが確定した段階で作成し、翌年の1月31日までに支払先の管轄である税務署へ提出する必要がある。支払調書の申請書様式は、以下のリンクから入手できる。

[手続名]報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書(同合計表)|国税庁

支払調書の主な記載項目は、以下のとおりだ。

・支払を受ける者の住所または所在地、氏名または名称
・支払を受ける者の個人番号(マイナンバー)または法人番号
・報酬や料金の区分、細目、支払金額、源泉徴収額
・支払者の住所または所在地、氏名または名称

源泉徴収税は、徴収した月の翌月10日が納付期限だ。源泉徴収額を計算するためには、以下の国税庁のページで業務別に用意された計算式を利用する。これを基にそれぞれの金額を計算し、毎月徴収した源泉徴収額の合計を、支払調書の年間合計額欄に記載することになる。

No.2792 源泉徴収が必要な報酬・料金等とは|国税庁

支払調書を作成し終えたら、「法定調書合計表」と併せて税務署へ提出する。法定調書合計表とは、給与所得の源泉徴収票など6種類の法定調書をとりまとめる表紙のようなもので、税務署から送付される年末調整関係の書類に入っていることが多い。

支払調書の作成において注意したいポイントを、以下に列挙する。

・源泉徴収の対象となる報酬や料金にどんなものが該当するかを確認する
・源泉徴収額は、原則として消費税を含めた支払金額を基に計算する
・未払いの報酬や料金などがあり、源泉徴収税を徴収していない場合は、未徴収分の金額を記載する

マイナンバーとは?

2015年に開始された「社会保障・税番号制度(通称マイナンバー制度)」について解説する。個人番号と法人番号の違いについても確認しておこう。

国民に1つずつ与えられた個人番号

マイナンバーとは、日本国内に住民票を有するすべての人に対し、1人1つずつ割り当てられた12桁の番号である。正式名称は「個人番号」で、マイナンバーは通称だ。外国籍の人でも、住民票があれば付与される。生涯を通して利用するものであり、原則として番号が変更されることはない。

マイナンバー制度のメリットには、以下のようなものがある。

1.行政の効率化
地方公共団体や行政機関などで、様々な情報の照合・転記・入力などに要する時間や労力が大幅に削減されるうえ、複数の業務間の連携がスムーズになる。

2.公平・公正な社会の実現
所得や他の行政サービスの受給状態を把握しやすくなるため、負担を不当に免れることや給付を不正に受けることを防止できる。

3.国民の利便性の向上
添付書類の削減など、行政手続きが簡素化され、国民の負担が軽減される。また、行政機関が持っている自分の情報を確認したり、行政機関からの各種お知らせを受け取ったりできる。

なお、身分証明や公的個人認証サービスなどに利用できる「個人番号カード」は、希望者にのみ交付される。国民全員に交付された通知カードは、あくまでもマイナンバーを記載しているだけのものであり、身分証明や公的個人認証などには利用できない。

これまで電子確定申告などで利用できた住基カードは、マイナンバー制度の導入と入れ替わるように廃止されている。

法人番号との違い

マイナンバー制度では、マイナンバーの通知と同時に、法人にも法人番号が通知されている。法人番号は13桁で、会社に関する登記や商業登記簿の取得をする際に必要となる「会社法人等番号」12桁の頭に、1桁を加えた番号だ。

法人番号は、マイナンバーのようにすべての法人に付与されるわけではなく、国の機関、地方公共団体、設立登記法人などが指定される。ただし、これらに該当しない場合でも、希望すれば指定を受けられる。

マイナンバーと法人番号の大きな違いは、利用範囲や取り扱い担当者の制約が挙げられるだろう。マイナンバーは重要な個人情報であるため、漏洩や悪用を防ぐために利用範囲や取り扱い担当者が厳密に規定されている。たとえ本人の同意があった場合でも、法で定められた目的以外での使用は禁止されている。

一方で、法人番号は利用範囲や取り扱い担当者の制約がない。どのようなケースにおいても、誰でも利用できる。マイナンバーと法人番号は、根本的に性質の異なるものだと認識しておくといいだろう。

支払調書におけるマイナンバー対応3つのポイント

マイナンバー制度の導入により、支払調書でもマイナンバーに関する諸業務を求められるようになった。書き方の注意点や、個人から番号を入手できなかった際の対処法などを確認しておこう。

ポイント1,マイナンバーの記載は義務

支払調書へのマイナンバーの記載は、義務となっている。原則として、支払調書の提出者は支払先からマイナンバーを提供してもらい、税務署へ提出する支払調書に記載しなければならない。

マイナンバーの記載が義務づけられた背景には、税金の回収漏れを防止する政府の意図がある。マイナンバー制度は運用開始からまだ数年しか経過していないが、導入の検討は何十年も前から行われていた。

個人情報を一元化することによるプライバシー侵害の問題から、度々導入が見送られてきたが、2007年の年金記録消失事件などをきっかけに制度の本格導入が検討され、2015年に運用が開始された。

マイナンバー制度における表向きのメリットは前述のとおりだが、政府が制度を導入した最大の目的は脱税対策と言われている。国家の財政がより厳しさを増す中で、マイナンバー制度の運営により個人の収入や財産の変動を一元的に管理し、脱税を防ごうとしているのだ。

支払調書をはじめとした各種法定調書も、料金や報酬の支払先が正しく納税申告を行うかどうかを確認することができる書類である。個人情報を識別できるマイナンバー制度の下で、支払先の情報を一元的に管理することにより、より精度の高い照合ができるようになることが期待されている。

ポイント2,あらかじめ支払先のマイナンバーを確認

マイナンバーは個人情報なので、誰でも閲覧できる状態で公開されているわけではない。支払調書にマイナンバーを記載する際は、あらかじめ支払先のマイナンバーを確認しておく必要がある。「支払調書作成に使用するため」などの理由で、マイナンバーの入手と本人確認を行おう。

入手したマイナンバーは、支払調書の「支払を受ける者」の項目内にある「個人番号又は法人番号」の欄に、右詰めで記載する。支払先が法人の場合は法人番号を記載することになるが、法人番号はマイナンバーと意味合いが異なるため、比較的容易に入手できるだろう。

支払調書は税務署に対してのみ提出義務があり、支払先に対して発行する義務はない。しかし、支払先が確定申告をする際は、支払調書があると便利だ。そのため、親切心から支払先に送付することも多く、企業によっては支払調書を支払先に送ることが慣習となっているところもある。

ただし、個人情報提供の制限規定により、支払先に渡す支払調書にはマイナンバーを記載してはならないことになっている。マイナンバーが記載された税務署提出用の支払調書を、そのままコピーして渡してはいけないことを覚えておこう。

ポイント3,支払先から教えてもらえない場合は空欄で提出しても問題はない

マイナンバーは様々な情報と紐づく可能性がある重要な個人情報と認識されているため、提出を拒否されることもあるだろう。税務署へ提出する支払調書にマイナンバーを記載することは義務とされていながら、マイナンバーを提出しなくても特に罰則が定められているわけではないことも、問題をさらに複雑にしている。

国税庁の見解としては、マイナンバーの記載はあくまでも義務とする一方で、実務上起こり得る様々な問題を勘案し、未記入での提出でも構わないとしている。したがって、支払先の個人から番号を提出してもらえない場合でも、違反として扱われるわけではないことを覚えておこう。

だからといって、空欄のまま出せばいいという話ではない。国税庁はこれについて、以下のような要望を公表している。

・マイナンバーの記載は法定義務であることを支払先に伝え、継続的な収集活動を行う
・入手できなかった場合は、その経緯を記録する

したがって、経理担当者は支払先に対する継続的な働きかけを行ったうえで、一連の経緯を何らかの記録として残す必要がある。具体的には、以下のような記録を残しておくといいだろう。

・支払先にマイナンバーの提出を要請した日付
・郵送、FAX、電話など、要請した方法
・社内で対応した人の氏名

提出を要請する方法としては、相手に通知した証拠が残る内容証明郵便などの文書で提供を求めることが望ましい。しかし、個人で事業を営んでいる人は多忙であることが多く、文書での返信には応じないことが多いため、実務的には電話での要請がメインになるだろう。

マイナンバーを入手できなかった場合の支払調書の書き方は、通常の支払調書と変わらない。記載がない理由を摘要欄に記載する必要もないので、空欄で提出しても問題はない。

ただし、記載のない理由を国税庁から求められることがあるため、上記のような記録を残しておく必要がある。

支払調書にはマイナンバーを忘れずに!

マイナンバー制度が導入されたことで、これまでに比べて支払調書の取り扱いをより丁寧に行う必要がある。支払先にも、マイナンバーの記載が義務づけられていることを理解してもらえるような働きかけが大切だ。

支払調書だけでなく、源泉徴収票や法定調書合計表にも、マイナンバーは反映される。また、マイナンバーの記載が猶予されている法廷調書もある。法律に則り、それぞれの手続きを正しく行えるようにしておこう。(提供:THE OWNER

文・THE OWNER編集部