近年、さまざまな事情で夫婦のみの世帯が増えている。子どもがいないことで老後に不安を感じる人もいるだろう。今回は子どもがいない夫婦の老後資金はどれくらい必要なのかをケース別に見ていこう。子なし夫婦が老後資金を貯める方法についても紹介する。
夫婦のうち約6%が子なし
子どものいない夫婦はどのくらいいるのだろうか。国立社会保障・人口問題研究所による調査では夫婦全体の6.2%に子どもがいない。2002年は3.4%、2005年は5.6%だったため、子どもがいない夫婦の割合は年々微増傾向にあることがわかる。
同調査では夫婦の最終的な平均出生子ども数の推移についても紹介されている。
1997年:2.21人
2002年:2.23人
2005年:2.09人
2010年:1.96人
2015年:1.94人
と夫婦二人が生涯で持つ子供の平均数は年々低下。最新の調査では1人だけ持つ夫婦が増加した。
子なし夫婦の年間支出額は約343万円 1人増えると30万円の支出増
では子どものいない夫婦の生活費は1ヵ月あたりどれくらいなのか。総務省統計局の家計調査によると、2018年の勤労者2人世帯の1ヵ月の消費支出は28万6,282円だった。年間にすると約343万円だ。
これを3人世帯、4人世帯の消費支出と比べると以下のようになる。
世帯人員 | 月間支出 | 年間支出 |
2人 | 28万6,282円 | 343万5,384円 |
3人 | 30万9,758円 | 371万7,096円 |
4人 | 33万2,533円 | 399万396円 |
※総務省統計局2018年家計調査「世帯人員・世帯主の年齢階級別」より
3人世帯の年間消費支出は約371万円、4人世帯は約399万円と、世帯人員が1人増えるにつれ年間の支出は30万円程度増えていることがわかる。
子なし夫婦の老後の年間支出は?年間約282万円に
子供がいれば、子供からのサポートをうけつつ老後を過ごすということも考えられるが、夫婦二人だけだと身体的にも心細いだろう。また金銭的にも自分たちだけですべてやりくりしなくてはならない。夫婦二人の老後ではどれくらいの支出があるのだろうか。
前述と同じ家計調査によると、夫が65歳、妻が60歳の無職の2人世帯における2018年の1ヵ月の消費支出は23万5,615円、年間にすると282万7,380円だ。
生命保険文化センターの2019年度調査によると、ゆとりある老後生活を送るためには最低日常生活費以外に月々平均14万円必要だとされている。用途としては旅行やレジャー、趣味や教養、日常生活費の充実などだ。人ぞれぞれだろうが、もし老後は毎月旅行や趣味を存分に楽しみたいと思うのであれば、生活費以外にも上記のような金額を老後に必要な資金として念頭においておくべきだろう。
子なし夫婦の年金支給額を働き方別にシミュレーション
老後の支出額が分かったところで、それを賄う収入は得られるのだろうか。老後の夫婦二人の年金額をシミュレーションしてみよう。
まずは受給できる年金の種類を把握
働き方によって加入している年金は異なる。
・自営業や無職の人……国民年金
・会社員……国民年金と厚生年金
・会社員に扶養されている配偶者……国民年金
の加入が義務付けられている。
国民年金は支給時には「老齢基礎年金」と呼ばれ、20歳から60歳までの40年間納付すると満額支給になる。2019年度は原則として年額78万100円が支給される。1ヵ月約6万5,000円となる計算だ。
厚生年金から支給されるのは「老齢厚生年金」だ。老齢厚生年金の支給額には、加入期間とその期間の賞与を含んだ月収に一定の利率を乗じて算出した額などが加味される。そのため加入者によって受給額が異なるのが特徴だ。
厚生労働省によると、月額換算した賞与を含む給与が月42万8,000円の場合、支給される老齢厚生年金は1ヵ月約9万1,000円、年間約109万2,000円になる。この場合の給与は厚生年金の被保険者の平均的な報酬の月額で、年収に直すと513万6,000円となる。
上記の金額を用いて、夫婦の働き方別の年金受給額を計算してみよう。
2人とも会社員の夫婦の場合…年間約374万円
会社員の場合、老齢基礎年金と老齢厚生年金が支給される。そのため2人の年金受給額の合計は年間約374万4,200円、月間約18万2,000円となる。
本人・会社員:老齢基礎年金+老齢厚生年金=78万100円+109万2,000円=187万2,100円
配偶者・会社員:老齢基礎年金+老齢厚生年金=78万100円+109万2,000円=187万2,100円
年間世帯受給額:187万2,100円+187万2,100円=374万4,200円
会社員とパートもしくは無職の夫婦の場合…年間約265万円
パートや無職の場合、老齢基礎年金のみが支給される。会社員の年金と合計すると、2人の年金受給額は年間約265万2,200円、月間約15万6,000円となる。
本人・会社員:老齢基礎年金+老齢厚生年金=78万100円+109万2,000円=187万2,100円
配偶者・パートもしくは無職:老齢基礎年金=78万100円
年間世帯受給額:187万2,100円+78万100円=265万2,200円
2人とも会社員ではない夫婦の場合…年間約156万円
自営業の場合も老齢基礎年金のみが支給される。そのため自営業2人の年金受給額は年間156万200円、月間約13万円。どちらかがパートもしくは無職、2人ともパートもしくは無職の場合も同額だ。
本人・自営業:老齢基礎年金=78万100円
本人・自営業:老齢基礎年金=78万100円
年間世帯受給額:78万100円+78万100円=156万200円
子なし夫婦が老後のために必要な資金は?1,400万〜4.200万円まで幅がある
厚生労働省の簡易生命表によると、2018年の平均寿命は男性が81.25歳、女性が87.32歳だった。ここでは60歳から87歳までの27年間の老後生活のために必要な貯金額を試算してみよう。
60歳でリタイアした後、老齢基礎年金が受給できるのは通常65歳だ。老齢厚生年金の受給開始は生まれ年よって異なるが、現在現役で働いている方の多くは65歳からとなるだろう。この5年間のブランクも考慮しなければならない。
前述の通り、夫が65歳、妻が60歳の無職の2人世帯の消費支出は1ヵ月23万5,615円、年間282万7,380円だ。今回の想定と夫の年齢に若干の誤差はあるが、これを老後の生活費として考えて27年間続いた場合、約7,600万円が必要になる。
老後2人世帯の年金の有無期間 | 生活費 |
年金が支給されない期間5年 | 1,413万6,900円 (282万7,380円×5年) |
年金受給期間22年 | 6,220万2,360円 (282万7,380円×22年) |
老後27年間 | 7,633万9,260円 (1,413万6,900円+6,220万2,360円) |
2人とも会社員の夫婦の場合…老後資金は約1,400万円必要、年金受給期間はゆとりあり
夫婦どちらも会社員の場合、年金の受給額は65歳から22年間で約8,200万円。その期間の生活費は約6,200万円と試算されるため、年金受給期間は年金だけで比較的ゆとりのある生活が送れるだろう。しかし、年金が支給されるまでの5年間の生活費には約1,400万円が必要だ。60歳でリタイアするなら貯蓄しておかなければならないだろう。
・22年間の世帯年金受給額
374万4,200円×22年=8,237万2,400円
・22年間の年金額から生活費を差し引いた額
8,237万2,400円―6,220万2,360円=2,017万40円
会社員とパートもしくは無職の夫婦の場合…老後資金は約1,800万円必要
夫婦どちらかのみが会社員の場合、年金受給額は合わせて年間265万2,200円だった。65歳からの22年間で受給する年金総額は約5,800万円となる。この期間の生活費は約385万円不足するだろう。年金が支給されるまでの生活費約1,400万円と合わせると約1,800万円は貯蓄しておきたいところだ。
・22年間の世帯年金受給額
265万2,200円×22年=5,834万8,400円
・22年間の年金額から生活費を差し引いた不足額
5,834万8,400円―6,220万2,360円=-385万3,960円
2人とも会社員ではない夫婦の場合…老後資金は約4,200万円必要
2人とも会社員ではない場合、年金受給額は合わせて年間156万200円なので年金受給期間の生活費は約2,800万円不足すると考えられる。60歳からの5年間の生活費と合わせると約4,200万円の準備が必要だろう。
・22年間の世帯年金受給額
156万200円×22年=3,432万4,400円
・22年間の年金額から生活費を差し引いた不足額
6,220万2,360円-3,432万4,400円=-2,787万7,960円
夫婦で老後資金を貯める3つの方法 貯金、iDeCo、NISA
3種類の夫婦の形を見てきたが、どのパターンでも1,000万円以上の老後資金が必要であることが分かった。では年金だけでは足りない老後資金をどのように貯蓄すればよいのだろうか。いくつか代表的なものを紹介しよう。
方法1,夫婦で貯金をする
気軽に始められるのは銀行口座に預金をすることだ。しかし2020年2月現在の普通預金の金利は低く、元本割れはしないが、ほとんど増えもしない。メガバンクであれば金利0.001%というのが一般的だろう。生活費と区別することが難しくなり、いつのまにか使ってしまうというリスクもあるだろう。
月々決まった金額を積み立てるなら、給与天引きの財形貯蓄を利用してみてはいかがだろうか。自動的に積み立てられ、引き出す場合は会社経由で行うなど手続きが面倒なため手を付けにくい。
まとまった金額を預金するなら定期預金も有効だ。銀行や商品にもよるが、預入期間は1ヵ月から10年などの中から選ぶことができ、金利も普通預金に比べて高い。例えば三菱UFJ銀行でも普通預金の場合、金利は年0.001%だが、1年定期預金の場合は10倍の年0.01%だ。より高い金利で預けたいなら、あおぞら銀行やSBJ銀行などのネット銀行も検討してみよう。両者の1年定期預金の金利は0.2%となっている。
定期預金は預入期間中、原則として引き出しができないものなら、老後資金を貯めるにはよいだろう。ただし夫婦で1つの口座に貯蓄した場合、万が一のことがあると相続財産の対象となるため注意が必要だ。
方法2,夫婦それぞれでiDeCo(イデコ)を始める
iDeCo(イデコ)は「個人型確定拠出年金」の愛称。加入者自身が毎月一定額の掛金を拠出して自らが選んだ商品を運用し、掛金とその運用益の合計額を老齢給付金として受給することができる。掛金は全額が所得控除の対象となり運用益は非課税だ。
掛金は月々5,000円以上で1,000円ごとに自由に設定でき、上限は以下のようになっている。
・自営業者の場合
月6万8,000円
年間81万6,000円(国民年金基金や国民年金付加保険料との合計額)
・会社員の配偶者である専業主婦の場合
月2万3,000円
年間27万6,000円
・会社員の場合
月1万2,000円~2万3,000円
年間14万4,000円~27万6,000円
(勤務先で企業型の確定拠出型年金に加入しているかなどの条件によって異なる)
受取方法は年金か一時金、またはその両方を組み合わせた方法の3種類。年金として受け取る場合は「公的年金等控除」、一時金として受け取る場合は「退職所得控除」の対象となる。
iDeCo(イデコ)は拠出金、運用益、受取金のそれぞれに税制優遇処置があるのがメリットだ。ただし、老後資金を形成するための制度なので原則としては60歳以降でないと受け取れない。元本割れすることもあるためリスクはあることは覚えておきたい。
方法3,夫婦それぞれでつみたてNISAを始める
少額からの長期、積立、分散投資できるつみたてNISA。投資対象商品は手数料がゼロで分配金が頻繁に支払われないなど、長期・積立・分散投資に適した公募株式投資信託と上場株式投資信託(ETF)に限定され、金融庁が選定している。
2037年まで利用できる制度で、税制優遇がある。つみたてNISAの口座で対象商品を売買すると、年間40万円までの投資額から発生する分配金や譲渡益が非課税となるのだ。非課税期間は最長20年で、2037年に購入した投資信託は20年後の2057年まで非課税で保有することが可能だ。
どの商品を選べばよいか迷う投資初心者をはじめ、幅広い年代が利用しやすい制度だといえるだろう。
一方でデメリットもある。年間40万円までの非課税枠に未使用があっても翌年以降への繰越はできず、他の口座との損益通算もできない。夫婦でつみたてNISAを活用する場合、非課税枠をうまく利用しながら商品を組み合わせて選びたい。iDeCo(イデコ)同様、元本割れの可能性もある。
子なし夫婦なら老後資金の準備は早いうちに始めよう
今回のシミュレーションで算出した老後資金はあくまで必要最低金額だ。ゆとりのある老後を過ごすためには、老後の備えは多くあるほど安心だろう。子なし夫婦は子どもがいる世帯に比べ、生活費が比較的少ないため、貯金も余裕を持ってできるかもしれない。自分たちが必要な老後資金の額をしっかり把握し、準備は早めに始めたい。
文・MONEY TIMES編集部/MONEY TIMES
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