メンタル管理を誤った忘れられない痛恨の失敗

こうして様々なアプローチで精神的に強いチームを作り上げた佐々木氏。一方で、日本代表チームの監督という自身の立場もまた、強いストレスやプレッシャーにさらされるもの。常に勝つことを求められ、負ければサッカーファンやメディアから集中砲火を浴びる。佐々木氏はどのように自分のメンタルを管理していたのか。

「もちろんプレッシャーはありますし、選手たちは勝たせてやりたい。でも監督が勝ちたいと思いすぎると、冷静な判断ができなくなる。勝ちたいあまりに『あ~、ミスした』『あ~、まずい』とネガティブなことしか考えられなくなり、重要な判断を誤る危険性があります。

これも私には失敗体験があるんですよ。ワールドカップで優勝してから約1カ月後に始まった、ロンドン五輪の予選大会でのことです。選手たちはワールドカップの激戦で疲労が溜まり、コンディションは良くありませんでした。

それでもなんとか三連勝し、これに勝てば五輪出場が決まるという北朝鮮戦で1点を先制したとき、私は『どうしてもこの試合に勝たなければ』と思ってしまった。今ここで出場権を獲得すれば、疲れ切っている選手たちをラクにさせてやれる。

そう考えて、試合終了の15分前からボールキープするように指示を出したのです。ところがこれを聞いた選手たちは、『この1点を絶対に守らなくてはいけない』と思って動揺した。

そして極度の緊張状態になり、大きなミスをして相手にボールを奪われ、同点にされてしまいました。どうにか引き分けましたが、監督が勝利に固執しすぎると選手たちのメンタルに悪い影響を与えることを痛感しました。

だから監督は勝ちたい気持ちを抑えなくてはいけない。勝つことが目標だからこそ、それが重要なのです」

佐々木則夫(ささきのりお)
サッカー日本女子代表監督
1958年生まれ。明治大学卒業後、NTT関東サッカー部でプレー。2007年12月より現職。08年の北京五輪四位、10年アジア大会優勝。11年女子W杯(ドイツ)にてFIFA主催大会で男女を通じ、日本を初優勝に導く。国民栄誉賞を受賞し、12年のロンドン五輪では史上初の銀メダルを獲得。(『THE21オンライン』2020年01月09日 公開)

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