事業承継を考え始めた時、誰に相談すればいいか迷う経営者は多いだろう。事業承継にまつわる経営者の悩みを統計データに基づいて解説し、相談先の選択肢を幅広く紹介する。相談先ごとのメリット・デメリットを踏まえ、早めに事業承継の対策を進めることが大切だ。

中小企業を取り巻く事業承継の実情

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経済産業省の「2017年版中小企業白書」によると、親族外承継の割合は33.4%にものぼり、事業承継の1つの選択肢として一般的になりつつあることがわかる。また、後継者候補がいない会社のうち、33.3%は「事業を継続するためならM&Aを行ってもいい」と考えていることが、調査で明らかになっている。

一方、後継者の選定を始めてから了承を得るまでにかかった時間は、1年以内が20.5%、3年以内が42.4%、3年超が37.1%となっている。このデータからも、体力的・精神的に余裕があるうちから、事業承継を検討し始めることが大切といえるだろう。また、親族内承継であれば、早いうちから自社株式の最適な移転方法を検討したり、後継者の資金力を確保したりすることができるが、親族外承継では対策できていないケースが少なくない。

こういった問題をしかるべき専門家に相談し、クリアしていくことで、事業承継の悩みは少しずつ解消されるだろう。

事業承継の相談先6選 それぞれの特徴や強み・弱み、サポート内容を把握しよう

続いては、事業承継の悩みを相談する機関を網羅的に紹介していく。事業承継の相談先で迷っている経営者の参考になるよう、それぞれの特徴や強み・弱みも列挙した。

1.事業引継ぎ相談窓口・事業引継ぎ支援センター

中小企業庁が設置する公的な事業承継に関する相談機関。事業引継ぎ相談窓口は、全国47都道府県の各認定支援機関に設置されている。事業引継ぎ相談窓口では、事業承継に関する情報提供や助言を受けられる。

事業引継ぎ支援センターは、北海道・宮城県・東京都・静岡県・愛知県・大阪府・福岡県の合計7ヵ所の認定支援機関に設置されている。事業引継ぎ支援センターでは、より専門的な支援を受けられる。今後も準備が整い次第、設置場所を拡充していく方針を中小企業庁は掲げている。

事業引継ぎ相談窓口・事業引継ぎ支援センターのメリットは、公的な機関であることから、公平なアドバイスを受けられる点だ。しつこく営業される心配をする必要もない。また、基本的に相談料が無料であることも、事業承継を考える経営者にとってうれしい点だ。

ただし、相談が無料でも、登録機関の支援や士業の支援を受ける場合、結局報酬が発生することもあるため、注意が必要だ。また、M&A仲介実績においては、民間のM&A仲介業者に劣ることも理解しておかなければならない。たとえば、2017年のM&A件数は3,050件であるのに対し、事業引継ぎ支援センターの支援件数は687件にとどまっている。

2.商工会議所

商工会議所は、経営者向けのさまざまなサポートを実施しているため、事業承継に関する相談も可能だ。

たとえば、大阪府では事業承継支援に力を入れており、経営指導員による訪問相談を受けられる。また、事業承継相談デスクでは、事業承継に詳しい中小企業診断士がアドバイスをしてくれる。他にも、税理士、行政書士、農業経営アドバイザー、社会保険労務士といったさまざまな専門家に相談が可能だ。

メリットは、商工会議所に既に入会済みの場合、ほとんどのサービスを無料で受けられる点だ。未入会の場合も、年間数万円程度の会費を支払えば、さまざまなサービスを利用できるようになる。

事業承継に関する知識を強化したいなら、商工会議所に足を運ぶのもいいだろう。ただし、自分で学んだところで結局は弁護士や税理士などの力を借りずに事業承継を実行することはできない。

事業引継ぎ支援センターと同様、結局M&A仲介に至ると、専門家に支払う報酬が発生してしまう。また、専門家への相談はできても、M&A仲介業者ほど先見に売却候補先を探してくれるかというと、そうではない。

スピード感を重視するなら、商工会議所への相談はスキップして、M&A仲介業者を探し始めるほうがいいだろう。

3.金融機関

アンケート結果にも上がっていた通り、長年付き合いのある金融機関は、事業承継の相談先として有力だ。金融機関によっては、事業承継セミナーを開催していることもあるので、活用してみるのもいいだろう。

メリットは、長い付き合いゆえに相談しやすい点だ。また、事業承継をするならいずれはそのことを金融機関の担当者の耳に入れる必要がある。それなら、最初から話を通しておいたほうが、スムーズといえるかもしれない。

デメリットは、金融機関に相談したところで、結局別の専門家を紹介されることになり、二度手間になる点だ。また、紹介を受けてしまうと、担当者と相性が悪くても断りにくくなってしまうことがある。M&A業者を真剣に比較したいなら、安易に紹介を受けるのはやめたほうがいいかもしれない。

また、借入金の返済が早々に終わっている場合、金融機関との関係性が希薄というケースがある。そういったケースでは、金融機関に相談しても、誠実な対応は望めない場合がある。金融機関との関係性や担当者との関係性にも留意して、相談先として適切か検討することが大切だ。

4.弁護士や行政書士

法律の専門家である弁護士や行政書士も、事業承継の相談先の候補として挙げられる。

メリットは、弁護士や行政書士なら、M&A支援とあわせて家族の相続対策の相談にも乗ってもらえることだ。遺言書の依頼などをあわせて準備できれば、将来の不安を一挙に解決できる。

デメリットは、場合によっては相談料などが高くついてしまう可能性があることだ。また、弁護士や行政書士だからといって、M&Aのすべてをサポートしてくれるわけではない。M&Aにおいては、会計・税務の専門家である公認会計士や税理士の存在も不可欠だ。

それなら、いきなり弁護士や行政書士に相談するのではなく、M&A仲介業者を通したほうがスムーズだ。多くのM&A仲介業者は、社内に弁護士を雇っているか、外部の弁護士と連携している。必要に応じてリーガルチェックなどを依頼するだけですむので、相談料が高額になる心配もない。

5.公認会計士や税理士

長年付き合いのある公認会計士や税理士がいる場合、アンケート結果にもある通り、最初の相談先として最も有力になるだろう。公認会計士や税理士は多くの中小企業をサポートしているため、M&Aに関する悩みを他の経営者から聞いていることも少なくない。

「同年代の他の経営者はどうしているの?」という疑問に対して、率直な答えをもらえる可能性が高いのは大きなメリットだ。事例を聞くことで、事業承継を具体的にイメージしやすくなる。

一方、公認会計士や税理士のアドバイスは、自分が担当する顧客や自社の事例の範囲以内にとどまっているケースも多い。いくら中小企業の顧客が多いからといって、M&Aの最新動向やM&Aに精通していない可能性もある。

6.M&A仲介業者やM&Aコンサルティング会社

M&A支援を専門とする民間の機関が、M&A仲介業者やM&Aコンサルティング会社だ。

M&A仲介業者とM&Aコンサルティング会社に明確な違いはないが、M&A仲介業者はM&Aのみを専門として行っているところが多く、M&Aコンサルティング会社はM&A以外のコンサルティングサービスも行っていることが多い。

メリットは、なんといってもM&Aの実績が豊富で、ノウハウが社内で蓄積されていることだろう。最新のM&A事例やスキームに精通しており、事業内容をよく理解したうえで、売却候補先を熱心に探してくれる。

弁護士や税理士などの専門家と連携しているため、窓口である担当者を介して、いつでも専門家に相談できるのも安心感につながる。

デメリットは、公的なサービスを活用する場合と比べて、M&A仲介業者に支払う報酬が発生することだ。M&A報酬は会社規模に応じて決まるため、場合によっては高額になるケースもある。

M&Aにおいては、専門家の力を借りることは不可欠だ。自学自習だけで、弁護士や税理士などの専門家を取りまとめ、M&Aを進めていくことは不可能に近い。

買い手候補先との条件交渉や、従業員への説明、取引先への説明など、法務的・税務的手続き以外の手続きも慎重に進めていく必要がある。契約書の雛形などを活用して形だけ実行しても、あとで訴訟トラブルに発展するケースも少なくない。

こういったすべてのプロセスで相談できるM&A業者の担当者は、力強い味方になるだろう。また、失敗事例などを聞くことで、自社の事業承継で想定されるリスクに早いうちから備えられる。

M&A仲介業者に支払う報酬は決して安くはないので、出費を惜しむ気持ちが生まれるかもしれないが、会社の出口戦略である事業承継は、それだけ経営において重要な位置づけだといえる。今後数十年に渡って不安を抱えて暮らすリスクを考えたら、必要経費と割り切る精神も必要だ。

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事業承継にまつわる経営者の悩み

会社経営に関しては長い経験を持つ経営者でも、事業承継の経験はないことがほとんどだろう。初めての事業承継に不安を抱くのは当然の心理だ。事業承継に関する経営者の悩みには、次のようなものがある。

・どのような方法で事業承継をすればいいのか
・事業承継において、会社の評価額はどのくらいになるのか
・事業承継で注意すべき点は何なのか
・具体的にどのように事業承継を進めていけばいいのか
・事業承継の相談先にはどんな選択肢があるのか
・事業承継の支援をしてくれる専門家をどうやって見極めるべきなのか

こういった悩みを心の内に秘めておくだけでは、進展は望めない。しかるべき相談先に問合せ、早めに事業承継の準備に取り掛かることが大切だ。

経営者が事業承継の相談先として頼るのは?

「2017年版中小企業白書」では、事業承継について経営者が実際に相談した相手を、複数回答で調査している。調査結果によると、事業承継の相談相手の上位3つは以下の通りだ。

事業承継の相談相手(上位3つ)
・顧問の公認会計士・税理士 59.1%
・親族、友人・知人 43.4%
・取引金融機関 42.3%

相談相手として最も有力なのは、会社の数字を把握しており、継続的な付き合いのある公認会計士・税理士といった専門家だ。また、事業承継のタイミングや今後の人生プランについては、やはり身近な家族に相談することになるだろう。

3位は取引先金融機関だ。大手の金融機関であれば、気の利いた担当者は、タイミングを見て事業承継に関する情報提供をしてくれる。事業承継セミナーのチラシなどをもとに、相談に発展することも多いだろう。

事業承継においては、金融機関から新たに資金を借り入れることも多い。事業承継の事例が豊富な金融機関も、相談先の候補として頭に入れておいて損はないだろう。

顧問の公認会計士や税理士に事業承継の相談をする際の注意点3つ

事業承継の相談先として、公認会計士や税理士は最有力候補だ。その一方で相談する際には注意したい点がある。

1.事業承継のプロではない

公認会計士や税理士は、決算や税務申告についてはプロと言えるが、必ずしも数字に関して精通しているわけではない。顧問の公認会計士や税理士は、会社における取引の仕訳や決算書の作成、税務申告などを行ってくれる立場ではあるが、事業承継に関わる業務は全くの別物であり、プロとしての仕事をできる訳ではない。

顧問の公認会計士や税理士が誠実な人柄であれば、事業承継についての相談をした際に、事例の調査や自分よりも詳しい専門家を推挙してくれるだろう。そういった期待感を持てる場合は、最初の相談先としては確かに適切だ。

あるいは、顧問の公認会計士や税理士が、事業承継を専門とするコンサルティング会社やM&A仲介会社と太いパイプを持っていることも少なくない。紹介を受けることで、VIP対応を期待できるケースもある。

2.無責任なアドバイスに注意

小さな会計事務所だと、事業承継に関するノウハウを持っていないケースも多い。また、世代交代によって会計事務所を変更されることを恐れ、「事業承継の検討はもう少し後でも大丈夫」といった無責任なアドバイスをされることがある。

アドバイスに従った結果、事業承継のタイミングが遅れて売却先が一向に決まらないといった事態に陥ってしまったとしても、それは経営者の判断の結果であり、責任は自らにある。

事業承継は経営者にとって最後に大仕事でもあり、自らの責任の基に完遂させる必要がある。顧問の公認会計士や税理士が、事業承継の相談相手として適切かどうかの判断も、経営者自らが判断しなければならないのだ。

3.正直に情報を伝える

公認会計士や税理士の能力・人柄を見極めた上で、事業承継の相談をすると決めたなら、できるだけ正直に情報を伝えることが大切だ。

事業承継は、相続の問題とも密接に関わってくる。公認会計士や税理士であれば、そのことを重々承知しているため、家族関係や個人資産について質問を受けることも多いだろう。

答えたくないことまで無理に答える必要はないが、質問された内容については、できるだけ正直に答えることをおすすめする。いくら能力の高い公認会計士や税理士でも、情報が足りなければ適切なアドバイスはできない。情報を伝えなかったがために、誤った選択をしてしまうことがないよう注意したい。

何が正解?事業承継の相談先の見極め方

最後に、事業承継の相談先の見極め方について解説する。

1.事業承継やM&Aの実績を確認する

事業承継においては、さまざまな予測できない事態が発生することがある。そんな時に臨機応変に対応できるかどうかは、実績によるところが大きいだろう。

経営者の最後の大仕事ともいわれる事業承継を成功させるためにも、実績豊富な相談先を選ぶようにしたい。実績については、会社としての支援実績などを数値で確認する他、具体例を質問することで見えてくる。

「過去に事業承継を支援する中で、発生したトラブルは?」「従業員にはたとえばどんな説明をすればいいのか?」といったことを掘り下げて質問することで、相談先機関や担当者の支援実績を知ることができる。

2.専門家との連携状況を確認する

事業承継には、法務的・税務的リスクが多数存在するため、専門家の存在は欠かせない。必要に応じて専門家に相談できる体制なのか、契約書等はしっかり専門家が確認する体制をとっているのか、デューデリジェンスでは専門家はどこまで関わってくれるのか、事前にチェックしておきたい。

「専門家と連携している」等ホームページでうたっていたとしても、実際にはすぐに相談できる環境にはない場合もあるため、注意が必要だ。

3.担当者との相性を確認する

M&Aが成功するか否かは、担当者との相性も大きく関わってくる。売却側の事業内容をよく理解し、心情に寄り添ってくれる担当者なら、自社と相性のいい売却候補先を探し出してくれる可能性が高くなる。

担当者の経験や人柄はしっかり確認しておくべき項目だ。コミュニケーション能力、誠実さなど、「この人になら任せられる」と思える相性のいい担当者を、根気よく探すことが大切だ。

M&Aの相談先としておすすめの会社3選

この記事では代表的な4社を紹介する。

1.日本M&Aセンター

中堅・中小企業の友好的M&Aを支援する、東証1部上場のM&A仲介会社。1991年創業で、M&A会社の先駆け的存在ともいえる。東京・大阪・名古屋・福岡・札幌・広島・沖縄に支社・営業所があり、全国のM&Aに対応している。また、シンガポール、インドネシア、ベトナムに拠点を持ち、海外進出を見据えたM&Aのノウハウも持つ。

魅力はなんといってもM&A仲介実績が豊富なことだろう。さまざまな業種・業態のM&Aを成功させてきた実績があり、安心してM&A仲介を任せることができる。

一方で、担当者によって業務品質にバラツキがあるとも言われている。M&Aを成功させる上で、担当者との相性は大切だ。担当者と合わないと感じた時は、遠慮せず担当変更を伝えよう。

2.M&Aキャピタルパートナーズ

M&Aキャピタルパートナーズの大きな特徴は、M&A候補先が見つかるまで費用が掛からないという点だ。ほとんどのM&A仲介会社では、M&A仲介契約を結んだ時点で着手金を支払い、M&A候補先が見つかった時点で中間金を、M&A成立後に成功報酬を支払うことになる。

しかし、M&Aキャピタルパートナーズでは、着手金が無料なので、M&A候補先が見つかるまでは実質無料である。そのため、業種・業態が特殊だったり、期間が限られていたりして、M&A候補先が見つかるか不安が残る経営者に適している。

設立は2005年であり、日本M&Aセンターほど長い歴史を持つわけではないが、15年近くM&A仲介を手掛けてきた実績がある。2016年には、同じくM&A仲介を手掛ける株式会社レコフと経営統合した。

3.M&A総合研究所

2018年設立の比較的新しいM&A仲介会社。インターネットでの情報発信に力を入れていることから、非常に高い認知度を誇っている。着手金・中間金が無料で、完全成功報酬制を採用している。仲介手数料は業界最安値とも言われており、近年注目が集まっている。

4.株式会社ストライク

代表取締役が公認会計士・税理士であり、財務・税務に強いという特徴を持つ東証1部上場のM&A仲介会社。設立は1997年で、インターネット上で企業の買い手と売り手をマッチングするサービスを最初に展開した会社でもある。

東京・大阪・名古屋・札幌・仙台・高松・福岡の7拠点を中心に、全国のM&A仲介を行っている。事業承継に関する多くの書籍を発行しており、書籍を読んで信頼性を確かめた上で依頼するのもいいだろう。

事業承継はプロに任せることが大切!相談先の活用法とは

M&Aを検討し始めたばかりで、まずは情報を得たいと考えるなら、公的な支援機関である事業引継ぎ相談窓口や商工会議所が適している。また、インターネットやセミナーを通じて情報を集めるのもいいだろう。担当者との付き合いが長いなら、早い段階で金融機関や税理士に相談するのも1つだ。

親族内承継が決まっているなら、有力な相談先は税理士だ。親族内承継なら、相続税対策もあわせて検討する必要がある。

M&Aを検討しているなら、M&A仲介業者を活用するのが確実といえるだろう。特に短期間でM&Aを成功させたい場合、あらゆる情報ネットワークを駆使して売却候補先を探してくれるM&A仲介業者は力強い味方だ。(提供:THE OWNER

文・木崎涼(ファイナンシャルプランナー、M&Aシニアエキスパート)