レバレッジ効果は、不動産投資に限らずさまざまな投資において広く認知されている概念です。小さな力で大きな物、重い物を動かすことができるのが「てこ(レバレッジ)」の原理ですが、投資の世界では少額の資金で大きな金額の取引をすることを指します。
この記事では、不動産投資の世界におけるレバレッジ効果のメリットとリスク、注意点について解説します。
レバレッジ効果は、不動産投資に限らずさまざまな投資において広く認知されている概念です。小さな力で大きな物、重い物を動かすことができるのが「てこ(レバレッジ)」の原理ですが、投資の世界では少額の資金で大きな金額の取引をすることを指します。
この記事では、不動産投資の世界におけるレバレッジ効果のメリットやリスク、効果を味方につけるポイントなどについて解説します。
目次
1.不動産投資におけるレバレッジ効果とは?
不動産投資におけるレバレッジ効果とは何なのか、レバレッジ効果で投資効率を高めることができる理由について解説します。
1-1.レバレッジ効果の定義
レバレッジ効果の「レバレッジ」とは、てこの原理における「てこ」のことです。てこの原理では小さな力で重いものを動かすことができますが、投資においては「少ない資金で高い投資効果を得ること」を意味します。
不動産投資では数千万円、時には数億円規模の物件が取引されることも珍しくありません。投資家は購入した不動産から発生する賃料収入を得ることを主な目的としており、自らが投資した金額を上回る収入を得ることは、一般的に「投資の成功」を意味しているといえます。
しかし、不動産投資にかかるすべての費用を自己資金で賄うケースはまれです。ほとんどの投資家が、金融機関から融資を受けて不動産投資を行っています。
金融機関の融資を利用すれば、自己資金が少なくても収益物件を購入できます。少ない自己資金(=小さな力)で高額な収益物件を購入(=重い物を動かす)ことから、これを不動産投資におけるレバレッジ効果といいます。
1-2.レバレッジ効果の具体例
実際に融資を利用して収益物件を購入した場合(つまりレバレッジ効果を活用した場合)の簡単なシミュレーションをしてみます。
※注意:分かりやすくするために、必要経費や税金などは考慮しません。また実際の金利や利回りとは異なります。
ある不動産投資家が、1,000万円の自己資金を持っているとします。この1,000万円を元手に5,000万円の不動産物件を購入するとしましょう。この物件の利回りが8%だとすると年間の賃料収入は400万円、融資の金利を3%とすると年間の支払利息は150万円です。
この物件が安定的に稼働した場合、この投資家が手にする年間の賃料収入は400万円から150万円を差し引いた250万円となります。
それでは、同じ条件でレバレッジ効果を活用せず、1,000万円の物件を購入した場合と比較してみましょう。1,000万円の物件で年間8%の利回りがあるとすると、年間の賃料収入は80万円です。融資を利用していないので利息の支払いはありません。
同じ1,000万円の自己資金であっても、250万円と80万円。年間で170万円もの差が生じました。この差が、レバレッジ効果と考えると分かりやすいのではないでしょうか。
2.不動産投資のレバレッジ効果と借入金利の関係
不動産投資でレバレッジ効果を得るためには、金融機関から融資を受けることが必要です。ただし、融資には利息がかかるため、金利によって収支が大きく変動します。ここでは、実質的な不動産投資家の手残り収入を計算する方法と借入金利との関係について解説します。
2-1.計算の基本となる「NOI利回り」とは
不動産投資で投資家が最も意識するべき指標がNOI利回りです。不動産投資におけるNOI(Net Operating Income)とは、家賃収入から税金や保険料、建物の維持費、管理委託費など諸々の経費を差し引いて算出された営業純利益のことを指します。このように、投資家にとって「所有物件からどれだけの実質的な利益が得られるのか」を示すのがNOIです。
また、NOIから実質的な利回りを算出したのがNOI利回りで、借入金利によって変動するのが特徴です。次項では、具体的な収支をシミュレーションしてみましょう。
なおここで表現している「利回り」では、比較しやすくするために税金や諸経費などは考慮していません。あくまでも借入金利の比較となります。
2-2.借入金利3%だと収支はこうなる
物件価格が3,000万円で利回りが6%の物件を自己資金100万円で購入したとしましょう。借入金利は3%、返済期間は30年とします。この場合、3,000万円に対して自己資金が100万円なのでレバレッジは30倍です。
3,000万円に対して利回りが6%なので年間の家賃収入は180万円となります。不動産投資シミュレーターで計算すると以下の通りです。
年間家賃収入180万円-年間ローン返済額約147万円=年間NOI約33万円
年間NOIが約33万円の場合、毎月の収入に換算すると約2万7,500円です。
2-3.借入金利5%だと収支はこうなる
次に借入金利が5%の場合もシミュレーションしてみましょう。前項と同条件で借入金利を5%にするため、単純に金利が2%高くなった場合の比較です。こちらも不動産投資シミュレーターを使って計算すると以下のようになります。
年間家賃収入180万円-年間ローン返済額約187万円=年間NOI約▲7万円
前項のシミュレーションと違うのは借入金利だけなので、借入金利が2%違うと収支が損益分岐点を通り過ぎてマイナスになることが分かります。もちろん不動産投資には、資産形成効果や赤字の場合、節税効果があるため、ローン返済中の赤字収支のすべてが悪いわけではありません。
しかし黒字の賃貸経営を目指すのであればレバレッジ効果を高めるだけでなく借入金利による収支への影響にもしっかりと目を配る必要があります。
3.不動産投資におけるレバレッジ効果のメリットとリスク
不動産投資でレバレッジ効果を活用すると、主に3つのメリットを得られます。なお、それに対して留意しておくべきリスクもあります。それぞれについて解説します。
3-1.レバレッジ効果がメリットとなる場合
(1)不動産を購入できるほどの自己資金がない場合
不動産投資では、すべての費用を自己資金で賄うのではなく、全体の費用の1~2割程度の自己資金を拠出し、残りは融資を受けて充当するのが一般的です。
自己資金として投入した金額よりもはるかに高い不動産を購入して賃料収入を得ることが、不動産投資におけるレバレッジ効果の正体であることはすでに解説しました。自己資金が少なくても大きな金額の不動産に手が届き、それに見合った賃料収入を得られるのが不動産投資の醍醐味です。
不動産投資においては、少ない自己資金を元手にして高額の不動産を手に入れることができるため、多額のキャッシュを保有していなくても資産を形成することができます。
(2)投資効率を高めたい場合
金融機関からの借り入れなどの他人資本を活用しながら、自己資金を大きく上回る価格の不動産に投資をして、安定的な賃料収入を得ることができるのは不動産投資の大きなメリットの一つです。
先ほどは1,000万円の自己資金で5,000万円の収益物件を購入したケースを想定しましたが、この場合の自己資金に対する利回りは、何と25%です。これだけ高い投資効率(※あくまでも仮定の計算で実際とは異なります)を実現できるのは、他人資本を組み込んだ投資だからです。
(3)生命保険に加入しなくても同様の効果を得たい場合
借金をして不動産を購入することに抵抗がある人は多いでしょう。しかし不動産投資では、借入金の返済が困難になった場合でも、その不動産を売却するか、金融機関に差し出すことによって、自己負担額を最小限に留めることができます。不人気物件でない限り、自己資金として拠出した金額以上の負担が発生することはまれです。
さらに、不動産投資における融資では団信(団体信用生命保険)を利用することができる点もメリットの一つです。団信に加入していれば、投資家に万一のことがあってもローンの残債がゼロになります。
そのため、大切な家族に負債を残すことなくローン残債のない収益物件を相続することも可能です。つまり、不動産投資には家族に遺す生命保険のような効果もあることが分かります。
3-2.レバレッジ効果がリスクとなる場合
(1)収入や不動産経営の状況によっては返済が苦しくなることも
レバレッジ効果を活用するには、金融機関からの融資を受ける必要があります。金利は一般的には1~3%程度なのでそれほど高くないと思うかもしれませんが、有利子負債であることに変わりはありません。毎月の返済義務が生じますが、その義務は賃貸経営の成否とは無関係です。空室率が上昇してキャッシュが不足がちになったとしても、返済は続けなければなりません。
賃貸経営が順調に推移しているうちは、「賃料収入を返済に充当する」という当初の計画通りで問題ないのですが、空室率の上昇によってこの前提が崩れてしまった場合には、自分の貯蓄などから返済することになります。
(2)金利が上昇してしまう可能性がある
レバレッジは投資効率を高めるために活用するものですが、金利情勢によっては「逆レバレッジ」になってしまうことがあります。逆レバレッジとは、融資金利が上昇し、不動産投資の利回りを上回ってしまうことです。
レバレッジ効果を得るために融資を利用すると、収益物件から得られる利回りから融資金利を差し引いたものが投資家の収入となります(厳密には必要経費や税金なども差し引く必要がありますが、ここでは考慮しないものとします)。
物件の利回りと融資金利の差をイールドギャップといい、イールドギャップがプラスであるうちは収入が発生しますが、金利上昇によってイールドギャップがマイナスになってしまうと逆レバレッジとなり、返済のための持ち出しが発生します。
1999年の速水日銀総裁時代に始まったゼロ金利政策により、日本では長らく超低金利が続いています。住宅ローンや不動産投資向け融資もこの恩恵を受けているわけですが、この金利情勢がいつまでも続くとは限りません。マイナス金利解除の可能性も報じられており、今後金利が上昇局面に入ると逆レバレッジになってしまう可能性があります。
4.レバレッジを期待して陥りやすい3つの注意点
レバレッジ効果は投資効率を高めてくれるため、少ない資金であっても大きな収入を狙うことができます。しかし、その効果やメリットだけに注目してしまうと思わぬ事態になってしまう可能性もあるため注意が必要です。
ここでは、レバレッジ効果を期待しすぎると陥りがちな、3つの注意点について解説します。
4-1.満室経営、現状家賃を想定した投資計画は行き詰まりやすい
レバレッジを活用したものの思惑と異なる結果に終わってしまう場合によく挙げられる原因が、収益シミュレーションの想定条件が強気すぎることです。新築物件など築年数が浅い物件だと空室になりにくいため、満室を想定してシミュレーションをしてしまいがちですが、いつまでもその状態が続くとは限りません。
築年数が古くなるにつれて空室リスクは高まっていきます。築浅時の家賃のままでは入居者が集まりにくくなるでしょう。このような状況を想定せずにレバレッジの高い賃貸経営をしてしまうと、わずかな期間の空室であっても経営が行き詰まってしまうおそれがあります。
4-2.ハイレバレッジ投資の脆弱性を理解しておくべき
不動産に限らず、レバレッジの高い投資はハイリスク・ハイリターンです。一般的に不動産投資はミドルリスクであるといわれていますが、自己資金が少ない投資はその分レバレッジが高くなるため、リスクも高くなります。
つまり、ミドルリスクだと思っていた不動産投資であっても、レバレッジを高くしすぎると破綻リスクが高くなってしまうのです。
リスクを軽減するためにできることは、自己資金の比率を高めることによるレバレッジの低減化です。これは、融資を利用する際の自己資金の多寡という意味だけではありません。仮に少ない自己資金で融資を受ける場合でも、十分な余裕資金を確保しておくことで実質的なレバレッジを低減できます。
4-3.融資を利用できるのは審査に通った人だけ
銀行などの金融機関から融資を受けるには、審査に通過することが必要です。金融機関としても返済能力がある人にしか貸し付けをしないため、審査に通過するだけの信用力や返済能力がなければ「不動産投資のレバレッジ効果」も絵に描いた餅になってしまいます。
例えば以下のような事実は、金融機関の審査において不利となるため、審査に通過できない可能性があるでしょう。
・融資希望金額に対して十分な年収がない
・他に多額の借金がある
・過去に返済の遅延をしたことがある など
また、金融機関の融資審査では、年収や信用情報といった属性だけでなく申込者本人の不動産投資に対する「熱意」や「勝算」も精査しています。そのため、金融機関から何を尋ねられても即答できる考えや具体的なデータ、シミュレーション結果などを持っておくことも重要です。
5.不動産投資でレバレッジ効果を味方につける5つのポイント
レバレッジ効果は、メリットとデメリットが共存する「諸刃の剣」です。しかし十分に理解しておけばリスクを抑えてメリットを最大化することができます。ここでは、レバレッジ効果を味方につけるために知っておきたい5つのポイントを解説します。
5-1.イールドギャップの拡大を意識する
イールドギャップとは、イールド(=金利)の差(=ギャップ)のことです。不動産投資で得られる利回りと借入金利の差、つまりイールドギャップが不動産投資家の取り分になるので、イールドギャップが大きいほど不動産投資の利益は大きくなります。
イールドギャップを高める方法は「物件から得られる利回りを高くする」「金融機関からの借入金利を低くする」の2つです。この両方を同時に実現できれば、イールドギャップはより大きくなります。
物件の利回りについては、購入時に大まかな水準が決まっていますが、借入金利は立ち回り方次第で低くできる可能性があるものです。例えば、以前から取引のある金融機関を利用したり、物件を購入する不動産会社から金融機関の紹介を受けたりするなどの工夫をして借入金利を低くできればイールドギャップは大きくなります。
5-2.イールドギャップと融資期間の関係を知る
イールドギャップを高くする際には、融資期間の視点も忘れてはいけません。なぜなら、融資期間が短いとイールドギャップは小さくなり不動産投資家の手残り収入も少なくなるからです。
同じ借入金額でも融資期間が15年と30年であれば単純に比較しても毎月の返済額に倍以上の差が生じます。逆に融資期間を長くすると毎月の返済額は少なくなるため、手元に残る現金は多くなります。
同じイールドギャップでも、融資期間の長短によって手残り収入が変動することもレバレッジ効果を活用する際には知っておくべき概念です。
5-3.重要なのはキャッシュフローであることを念頭に
不動産投資家は、イールドギャップを意識すべきですが、イールドギャップだけを見ても「儲かる物件」なのかどうかは分かりません。また融資期間で変動することも忘れてはいけないポイントです。
これらの点を踏まえて最終的に重視したいのがキャッシュフロー(投資家に毎月残る手残り収入)です。不動産投資で必要になる経費は、ローン返済だけではなく税金や維持費など多数あります。
さらに空室が発生することも考慮して、そのうえでキャッシュフローがどれだけ出る物件なのかを精査することがポイントです。以下の順番に精査をしていけば購入するべき物件かを判断できるでしょう。
・イールドギャップがどれだけあるのかを精査する
・キャッシュフローがどれだけ出るのかを精査する
・キャッシュフローを算出した根拠に現実味はあるのかを精査する
5-4.適切な「仕入れ」でNOI利回りを向上させる
不動産投資の実質的な利回りとなるNOI利回りを高くするには「家賃を高くする」「仕入れを安く抑える」といった2つの方法があります。
不動産投資における「仕入れ」は購入時の価格で決まるため、物件の購入価格も十分に精査することが大切です。不動産会社から提案されている物件の価格が妥当なのかを知るには、近隣の類似物件がいくらで販売されているのかを調べるのがよいでしょう。
ネットで比較的簡単に調べられるので、検索をして相場観や価格の妥当性をチェックしてください。中古物件であれば、国土交通省が提供している「不動産取引価格情報検索」で近隣の類似物件の取引価格を調べたり不動産ポータルサイトで検索してみたりすると相場観をつかむことができます。
5-5.自己資金は3割程度に
自己資金を少なくして借入金の比率を高くすればレバレッジは高くなります。そのため自己資金ゼロのフルローンの場合、レバレッジが最も高くなるわけですが、近年では金融機関の融資審査が厳格化されておりあまり現実的ではありません。
それでは、自己資金をどの程度用意するのが妥当なのでしょうか。明確な基準があるわけではありませんが、自己資金の相場は3割が妥当だといわれています。
この比率の根拠は、競売価格です。万が一不動産投資が失敗に終わってしまい所有物件が競売にかけられた場合、市場価格の50~70%程度で落札されることが多いため、借入金額を7割程度に抑えておけば競売にかけられる事態になっても残債を完済できる可能性が高くなります。
物件を手放してもローンだけが残る事態を避けやすいのが「自己資金3割」というわけです。
6.まとめ
不動産投資のレバレッジ効果を活かすと以下のようなメリットが得られます。
・自己資金が少なくても参入できる
・投資効率が高くなる
・生命保険と同等の効果を得られる
一方で以下のデメリットやリスク、注意点も留意しておくことが大切です。
・返済が苦しくなる可能性がある
・金利が上昇すると不利になる
・レバレッジ効果を活かせるのは融資の審査に通った人だけ
これらの点を踏まえて適切なリスク管理をすれば、不動産投資のレバレッジ効果を味方につけて資産形成に役立てることができるでしょう。
不動産投資のレバレッジ効果に関するよくある質問
Q.不動産投資のレバレッジ効果とは?
自己資金に金融機関からの借入金を加えて収益物件を購入し「他人資本」を活用することで得られる効果のことです。物件購入費用の大部分が借入金でも家賃収入は全額オーナーのものになるため、投資効率が高くなり不動産投資におけるメリットの一つとされています。
Q.不動産投資におけるレバレッジ効果のメリットは?
レバレッジ効果を味方につけることで得られるメリットは、主に3つあります。
・自己資金が少なくても不動産投資を始められる
・投資効率が高くなり、収入増や資産形成効果も高くなる
・生命保険と同等の効果を得られる
不動産投資はこれらの効果を得られることから、一部の資産家だけでなく給与所得者など幅広い層から人気を集めています。
Q.不動産投資でレバレッジ効果を狙う際の注意点は?
レバレッジ効果を高めるためには、物件価格に対して借入金額の比率を上げることが必要です。しかし、借入金額を上げると返済総額は増大し金利上昇時には返済が苦しくなるなどのリスクが高まります。レバレッジ効果を高くすることばかりに集中してしまうと同時にリスクを高くしてしまいかねないため、注意が必要です。
(提供:YANUSY)
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