ビルオーナーにとって、満室経営は常に目指すべき重要課題です。実効性のあるテナント募集方法がわかれば、所有物件に空室が発生しても、すぐにテナントを見つけることができ空室リスクを最小限に抑えることができます。
しかしテナント募集には商圏調査などの情報収集と分析が非常に重要なため、個人で行うことは難しく、近年ではテナント募集業務を専門家(ビルマネジメント会社やテナント募集会社)に委託する方法がセオリーになっています。
テナント募集は個人で行うより専門業者に任せた方がよい理由、メリットとデメリット、具体的なテナント募集方法について説明します。
目次
1.テナント募集会社とは
テナント募集を専門的に行っている業者にはいくつかの種類があります。それぞれの会社にはテナント募集にかかわる情報やテナントとのマッチングノウハウ、商圏調査情報、人脈などが豊富に蓄積されており、こうした経営資源を活用して空室を解消するためのサービスをビルオーナーに提供しています。
このうち、テナント募集会社とは不動産会社の一種で、事業用ビルなどの物件を専門的に取り扱う会社の総称です。多くはテナント募集業務だけでなく物件管理や売買なども手掛けており、ビルオーナーにとっては重要なパートナーとなる存在です。主に以下のような業務を行っています。
①自社独自のネットワークによるテナント候補とのマッチング
②すでに入居しているテナントへの増店、移転の提案
③ポータルサイトの運営またはポータルサイトへの情報掲載
④募集看板の作成、設置
⑤ポスティング
このように、テナント募集のためのあらゆる施策をさまざまな角度から行います。
2.テナント募集が個人では難しい5つの原因と専門業者に任せた方が良い理由
テナント募集業務はビルマネジメント会社やテナント募集業務専門会社などプロに任せた方が良い理由を説明します。
2-1.個人によるテナント募集では効果が上がらない5つの原因
個人で行うテナント募集は、なぜ効果が期待できないのでしょうか。理由として以下のようなものが考えられます。
(1) 総合的なPR不足
広告量などが不足しており、テナント側の目に触れる機会が少ない。
(2) 賃料が近隣の競合ビルと比較して割高感がある
商圏のリサーチ不足によると考えられる。
(3) 入居テナントの審査基準が厳しすぎる
テナント側のニーズを捉えきれていない。
(4) 物件と立地のミスマッチ
繁華街にオフィス物件があるなど、近隣競合ビルや商圏ニーズとの乖離がある。
(5) 物件が古く見えることによる機会損失
例えば立地の良さなど、築古物件であってもビルがもつ価値を、アピールする前に敬遠されてしまっている
「本当にこの物件を必要としている人に募集の手立てが響いていない」
入居率の向上のためには、物件づくりやテナント側への伝え方など戦略面の改善も含まれます。現状を把握し問題点を根本的に改善し、有効な対策を講じるのがテナント募集会社の仕事です。
2-2.テナント募集は個人で行うには難しい!
ビルの空室対策として個人でできる施策には限りがあります。例えば街を歩いていると「テナント募集」の看板が出ているビルを見かけるのではないでしょうか。こうした看板は個人でも設置でき、そのビルには空室があることが対外的に周知できます。ほかにはポスティングや広告などの方法は個人でも可能でしょう。
しかし、自分の所有しているビルの立地や環境、設備がどのテナントに向いているのか、どういう業種からニーズがあるのかは、なかなか個人レベルでは把握しきれないでしょう。また実際に問い合わせがあった際の対応や契約に至った場合は手続き業務や書類作成なども発生するため、テナント募集業務には時間的、体力的、そして精神的な負担が伴います。
近年はオフィス空室率が低下傾向で、2018年には東京のオフィス空室率は1%台となっています。しかし2020年以降は長引く景気低迷への懸念などさまざまな要因から、事業用物件の空室率が上昇することも考えられます。このような状況下でも所有するビルの価値を相対的に高め空室リスクを回避するためには、プロの力を借りることが非常に有効といえるでしょう。
3.テナント募集会社を使うメリットとデメリット
テナント募集は、上記で見たように個人で行うには簡単な業務ではありません。
ここではテナント募集会社の利用にともなうメリットとデメリットを見ていきます。
3-1.テナント募集会社を使うメリット
(1)テナント募集にかかわる商圏調査などのリサーチ力が豊富
どのような物件にニーズがあるのか、どのようなテナントがどういう物件を探しているのかなどの情報を豊富にもっているため、対象のビルに最適なテナントへアプローチできます。
(2)多彩な募集方法があり、その中から最適な募集方法を提案してくれる
個人では看板設置やタウン誌への広告出稿などが限界ですが、テナント募集会社はあらゆる媒体を駆使してテナント募集をかけられます。
例えば物件側から募集をかけるだけでなく、テナントとなる物件を探せるサーチエンジンを設置するなど、テナント側からも自由にコンタクトが取れるようにする方法があります。
(3)マッチングのノウハウがある
どのような物件にどのようなテナントが適しているのか、ニーズを解析し最適なマッチングが行えるノウハウをもっています。
3-2.テナント募集会社を使うデメリット
(1)サービスの利用に費用が発生する
個人で行う場合と比較して多くの費用がかかります。
ただし、テナント募集ノウハウや情報量が個人よりはるかに大きく幅広いため、費用対効果は十分に大きいといえるでしょう。
(2)会社によっては効果が出ない場合がある
テナント募集会社に任せたからといって確実にテナントが見つかるわけではありません。
そのため、テナント募集会社の選び方が重要になります。
4.テナント募集会社が行うテナント募集の具体的な方法4つ
ここでは、テナント募集会社が実際にテナント募集を行う際にとる方法について紹介します。
4-1.自社サイトや物件情報サイトへの掲載
住居用の賃貸物件探しにインターネットを使う人が多くなっているのと同様に、テナント物件についてもネットでの検索が主流になっています。その流れを受けて、テナント募集会社もネット経由の募集活動に力を入れています。
自社で物件情報サイトを運営している会社のほか、テナント物件情報サイトへの掲載、不動産業界で利用されているGIS(地理情報システム)に代表されるデータベースの掲載など、ネット上で多くの人の目に留まるよう、さまざまな工夫をしています。
<参考>
国土交通省 国土地理院:「GISとは…」
4-2.テナントへの営業
それぞれのテナント募集会社には顧客がいます。チェーン展開をしている飲食店や多くの拠点を持っている企業などに対して、依頼を受けたテナント物件の提案をします。この手法はテナント募集会社ならではのもので、いかに優良な顧客を持っているかがテナント募集会社の力量にもつながります。
4-3.チラシ配布、ポスティング
チラシ配布やポスティングは、近年主流となっているインターネット利用とは対極にあるアナログ的手法となります。以前ほど定番の手法ではありませんが、依然として一定の効果はあり、根強い需要もあるため、テナント募集会社にとっても主な手法のひとつになっています。
また最近はGISポスティングなど、地理情報を駆使してピンポイントにターゲットのいる場所へ情報を届けるポスティング方法もあります。
4-4.情報誌への掲載
賃貸住宅情報誌と同じように、テナント物件の情報が掲載されている情報誌があります。ネットを使う方法などと比べると効果は限定的ですが、特にビルオーナーは高齢の場合もありインターネットが苦手な人もまだ多くいます。より多くの世代の人の目に留まるため、情報誌への掲載も必要に応じて使う場合があります。
5.良いテナント募集会社を選ぶためのポイント4つ
良いテナント募集会社とはどんな会社なのでしょうか。
5-1.テナント営業のノウハウを持ち、営業力がある
テナント募集会社には、営業部門があります。自社の顧客などにテナント営業の形でアプローチをすることでテナント獲得につなげます。これはテナント募集会社独自のコネクションの利用であり、オーナーが自分で行うテナント募集業務との大きな違いといえるでしょう。
重視したいのが、それぞれの会社の営業力やノウハウです。優良な顧客をどれだけ持っているか、営業力や提案力はどの程度あるのかといった部分が明確になっていることが前提条件になります。
5-2.自社サイトによる発信力がある
現在、テナント募集業務もインターネットが主流になっている時代です。多くの会社が利用しているポータルサイトへの掲載はもちろんですが、自社で物件情報サイトを運営していると理想的です。「自社サイトでテナント情報を発信している」かどうかを確認してみましょう。
5-3.明確な実績を紹介してくれる
テナント募集業務を任せるにあたり、重要になるのはこれまでの実績です。テナントを募集したい物件と類似した条件で、実績がどの程度あるのかを問い合わせてみましょう。具体的な資料とともに明確な実績を見せてくれる場合は、それだけ自信があることの表れでもあります。また同種の物件に関する強い営業力があると推測できます。
5-4.募集戦略についての提案が具体的
テナントの募集には、戦略が必要です。ただ闇雲に露出だけ増やしたとしても、肝心な入居者候補の目に留まらなければ意味がありません。露出を多くするにはコストもかかるので、いかにピンポイントでターゲットにアプローチできるかどうかが重要です。
テナント募集会社にリーシング(客付け)を依頼した際には、どのように宣伝をするのか、どんなターゲットを想定しているのかといった戦略が明確になっているかどうか、など提案の内容に具体性があるほど良いでしょう。
6.定期的なテナント獲得のために。オーナーの心構えと3つの方策
定期的なテナント獲得のために、オーナーが持っておくべき心構えや方策について説明します。
6-1.適切な物件管理を行うことを心がける
不動産は、時間の経過とともに劣化します。適切なメンテナンスや清掃などによって物件の状態を良い状態に保つ努力が必要です。
住居向け物件は築年数で物件選びをする人が多いため、築年数による家賃下落などの影響は避けられませんが、テナント物件の場合は築年数が古い建物であっても、立地や設備、管理状態によって高い人気を維持している物件はたくさんあります。
また入居するテナントにとっては築年数だけでなく「そこで事業をして利益を得ることができるか」が最も重要な視点になります。不特定多数の人が利用することを意識して、安全であることはもちろん、快適であることや入りやすい物件であるかどうかを意識して、大切な物件を管理する意識を持つことが大切です。
6-2.物件オーナー個人でできる方策3選
信頼できるテナント募集会社ならばすべてを任せておいても問題はありませんが、オーナー個人でもできることはあります。有効性が高い方策を3つご紹介します。
(1)退去テナントから退去理由をヒアリングする
入居しているテナントの満足度は、入居率に大きく影響します。テナントが退去する=何か理由があるはずです。入居者の目的はビジネスであり、ビジネスが期待通りに運ばなかったことが最大の理由である可能性は高いですが、それ以外の理由も含め、可能であれば退去する際にその理由をヒアリングしてみましょう。物件への不満や不足への気づきがあれば、改善によって入居率を高めることができるかもしれません。
(2)常に満室になっている物件の条件や企業努力を参考にする
近隣や類似物件に入居率が高く、常に満室もしくはそれに近い状態になっているのであれば、有効なお手本となります。立地や物件の形態、賃料などの条件が類似しているほど参考になる点は多く、「あの物件と何が違うのか」と考えながら比較してみると、満室経営へのヒントが得られるかもしれません。
(3)テナントのターゲットを広げる
すでに日本は人口減少に転じています。2020年現在はまだ人口が増加しているものの、2025年をピークとしてその後は東京すら人口が減少すると見られています。
ひとつの例として、不動産オーナー向けに書籍などを出版しているオーナーズ・スタイル社の調査において実に60%を超える人たちが、今後の不動産経営が厳しくなると回答しています。こうした流れを受けて今後は人口減少への対策が重要度を増すと考えられますが、それは商業ビルなどのテナント物件においても同様です。
例えば一般賃貸住宅の新たな需要開拓や競争力強化の方策として、多言語対応やリフォームによるバリアフリー化が注目されています。近年増加している外国人居住者の取り込みと、高齢者層の増加を受けた需要の掘り起こしです。
こうした流れを参考に、テナント物件においてもターゲットの絞り込みやそれに合わせた物件の改良・改善が有効になると考えられます。
7.まとめ
テナント募集会社をビルオーナーが使うメリットや具体的なテナント募集方法について説明しました。
「空室を減らして満室経営を目指す」ためには、効果の出るテナント募集方法の確立です。そのノウハウを持ち、具体的な施策提案ができるテナント募集会社を選ぶことが、オーナーにとっては非常に重要といえるでしょう。(提供:ビルオーナーズアイ)
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