(本記事は、副島隆彦氏の著書『経済学という人類を不幸にした学問』日本文芸社の中から一部を抜粋・編集しています)
たった1行で解ける経済学の秘密
●経済学理論の土台はすべて同じ
ここに「Y(もの)=M(お金)」という1行の式(方程式)がある。この「Y=M」で、経済学なるものの大きな謎は解ける、と私は断言する。
ケインズ経済学も、マネタリズム(シカゴ学派)も、マルクス経済学も、新古典派もすべてその基本骨格は、Y=Mで出来ているのである。
現代ヨーロッパとアメリカの経済学の根底にあるのは、①実物経済(もの、財、サーヴィスの市場)と、②金融(おカネ)経済との関係をどのようにとらえるか、である。
理論経済学は、Y=Mというたったひとつの数式(公式)で、すべてを書き表してきたのである。あからさまに大きな真実を1行で言い切る、とこういうことだ。
私は、このことを発見して『絶望の金融市場』(徳間書店2019年4月刊)の第5章に大急ぎで書いた。
Y=Mとは何か。
Y(yield イールド)とは、ある国のすべての活動全部、そしてその生産高、と考える考え方である。一番分かり易く言うと、GDP(国内総生産)のことである。
これはSNA「国民会計体系」(a system of national accounting)という考えから生まれた。GDP自体についてはこれ以上のことは説明しない。
今の日本のGDPは、5.2兆ドル(570兆円)である。世界のGDPの合計は90兆ドル、約1京円(1千兆円の10倍)である。このうちアメリカ合衆国が、24兆ドル(2700兆円)、EU(ヨーロッパ)全体で22兆ドル(2400兆円)である。中国がもうすぐ18兆ドル(2000兆円)である。
Yは、国民所得、国家の総収入である。この他に、ある企業が1年問に稼ぎ出す売り上げや総収入と考えてもいい。と同時に、このYは、ひとりのサラリーマン(勤め人。給与所得者)であるあなたの1年間の年収(たとえば600万円)と考えてもいい。
このようにY(イールド)とは、人間という生き物のうごめきの全体(量)ということである。Yというのは、そういう抽象(アブストラクト abstract)概念である。このYは、場合に応じていろいろに変化する。
Y=Mの、Mのほうは、マネーサプライといって、その場合の、お金の量すべて、という意味だ。だから「Y(私の生活活動のすべて)=M(600万円)」なのだ
Yとは、ある国のすべての活動全部のことだ。今の日本のGDP(国内総生産)5.2兆ドル(570兆円)のことだ、と言ってもいい。
このYは、膨らんだり縮んだりする。人間活動が激しくなると、膨らむ。ある企業の年間売り上げは、30億円から40億円になったりする。
あなたの年収が、600万円から500万円に減る(減給)こともある。あるいは転職が成功して一気に年収1000万円に増えることもある。これが、YでありMである。
ある国が戦争や内乱や金融恐慌(ファイナンシャル・クライシス)で貧乏になると、Yはガタンと減る。その国のGDPは20%落ちる。反対に好景気が続いて高度成長経済(年率10%とかの成長)することもある。
この時は、Y(活動)は10%膨らむ。同時に、反対側のM(お金の量)も同じだけ10%膨らむ、と考える。Y=Mで、=(イクオール)なのだから。だから、冒頭のグラフに戻って、すべては、Y=Mなのだ、と分かれば、経済学という学問の大理論は、その土台は、すべてこれで同じなのだ、と分かる。どんな難しい数式もどんどん元に戻してゆけば、簡単に表せて、この1行の式(フォーミュラ)に行き着く。
つまりY(もの)=M(カネ)なのだ。これを、
Y(実物経済。財物の市場)=M(貨幣経済。金融市場)と言い換えてもいい。このY=Mは、下に掲げた、すべての経済学の6つの原理の大元なのである。
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