(本記事は、副島隆彦氏の著書『経済学という人類を不幸にした学問』日本文芸社の中から一部を抜粋・編集しています)
インチキ学問に成り果てた経済学
●確率と統計で辻褄合わせをする経済学者たち
このようにして、ヒックスの「I・S=L・M曲線」からアメリカ経済学は、意味不明の学問になった。自分たちが考えている世界を、どうにでも好きなように数式で表せる、ということになった。
そして、それらの高級そうに見える数式だらけの理論を振り回すことで、世界を管理できると考えた。
このことは、再度書くが、現代物理学(とりわけ宇宙物理学)が訳の分からない学問になり涯てていることとそっくり(相似、アイソモルフィック)である。数式が独り歩きをしている。数学的に(数学によって)証明されたのだから、ビッグバン宇宙論は正しい、となった。
ところが、天文学者たち(彼らは正直だ)による観測(オブザベートリー)と実験(エクスペリメント)では、ちっともその証拠は出ていないという。現代物理学は、1940年代に原爆(核兵器)を作ったあとは、いくらも進歩していないらしい。シュレジンガー(波動方程式)とハイゼンベルク(不確定性原理)がぶつかって大激論が有っただけだ。どうやらシュレジンガーの勝ちらしい。
今の経済学者たちは、きわめて難解な数式の山で書き表すことによって現実の世界が解明された、と自分たちだけでホメっこし合っている。
「私たちの高級数式の束を使えば、国家政策も世界経済もうまく誘導できて、管理できる」と押し売りをして回った。今の宇宙物理学と全く同じである。彼らは、自分の経済学論文を正当化するために、自分が作った数式の係数と変数をいじくり回す。
どうもうまく行かない、つまり現実と合わないときには、確率と統計学の公式をいいように使ってそこに、自分の都合のいい実測データの数字を入れる。そして予め決めた自分の結論に、無理やり合わせるために、また別の数式を使う。
この統計学をやたらと使う経済学の一派を、計量経済学(エコノメトリックス Econometrics)と言う。
そして数学という学問のインチキ部門、闇の部分が統計学と確率論だ。例の、今や悪名高い金融工学(ファイナンシャル・エンジニアリング)というのは、確率微分方程式でできている。
これがついに大爆発したのが、2008年のリーマン・ショックである。金儲けのために金融博奕屋(ヘッジファンドやファンド・マネジャーたち)が、使っている確率微分方程式(金融工学)と、マネタリスト、就中、合理的期待形成学派(ラチオナル・エクスペクテイショニスト、代表ロバート・ルーカス)のインチキ学問が使っている数式は全く同じものである。
どちらもリーマン・ショックの時、大爆発して壊れてしまった。本当の大きな現実から復讐されたのだ。
主流派の経済学者たち(新古典派、ニュー・ケインジアン)はこういうことを当たり前のこととして、長年、平気でやってきた。そして、大破産した。インチキが満天下にバレてしまった。
物理学者たちも自分に都合のいいように、現象に向かって自分勝手に数式を組み立ててモデルにしてきた。このことも最近は世の中に、バレてきている。
それでも私が「未だにケインズだけは偉大だ」と言うのは、ケインズは、「現実がイークオールの式で成り立つわけがないじゃないか」と言ったからだ。そして、もうひとつ、「失業(余剰)を何とかしなければいけない」と言ったからだ。
ケインズは、自分の先生であったマーシャルに対しても、「M=kpYなんて、あなたが作っただけのことだ」という態度だった。
難解な数式を使った途端に、南無妙法蓮華経や南無阿弥陀仏みたいに、宗教になってしまう。それを真理だと思う人だけが思う。もちろん真理であるわけがない。昔はそうだったかもしれないが。
ところが、それらを額面どおり、頭のてっぺんから信じ込まないと、大学の経済学部卒ということにならない。
経済学は、同時代に発達した物理学のもの真似をして、まるで物質の世界を扱うように、人間世界をモデル(model)にして、理念型(idealtypes イデアルチュープス)にしてそれを数式で表した。
マーシャルのY=kpM(1890年)も、同時代のアインシュタインのW=hV(「エネルギー量子は粒子であり波動の振動数を持つ」の式)を真似したものかもしれない。
●ケインズの公式の裏側の秘密
ここからY=C+Iの謎解きをする。ケインズが作ったY=C+Iが、本当は何を意味しているか。このことを今の私たちは考えなくてはいけない。
普通の知識としては、生産(Y国民生産)は、「C+I」(国民需要=有効需要)で、消費(C コンサンプション consumption)と、投資(Iインヴェストメント investment)でできている、とする。
だが、私、副島隆彦は、この偉大な式の裏側に隠されている大きな秘密を、3年前に解き明かした。これから驚くべき真実を暴き立ててご覧にいれよう。
Y=C+IのCは、本当はコスト(cost 費用、経費)のことだ。コストとは、工場や機械設備及びそれを維持するための電気代、水道代、家賃(レント)などのメンテナンス、経費だ。
そしてこれに加えてそこで働いている事務員や従業員、労働者の給料までを含める。それがコストだ。あとで出てくるマルクス経済学では、工場や設備を生産手段(プロダクツイオーンミッテル)と言い、単純労働(不変資本)は、これに吸収されると考える。
そしてY=C+Iの、Iは投資というが、株を買うとかの意味ではない。IはR&D(リサーチ・アンド・ディべロプメント Research&Development)研究開発費のことだ。と普通の経済学でも説明する。
ところが、Y=C+IのIの裏側の真実の意味は、Iというのは、能力のある有能な社員という意味だ。Iの真実は、インテレクトIntellect(知能。知的人間の集合体。新技術)である。
だからIは、有能な社員たちであり、企業価値を増殖させ、利益を会社(企業)にもたらす人間たちのことだ。研究開発部門の社員たちだ。それに対してC(コスト)は、有能ではない、ただの社員、従業員たちだ。
あなたはCですか、Iですか。自分で考えなさい。これがケインズ思想の恐るべき真実だ。この秘密を一流経済学者たちは、皆、知っている。だが、あまりに露骨であり、人間差別や能力差別であるから、はっきりとは言わないだけだ。マルクスもそうだった。
それでは、Y=C+Iの、Yとは何か。これは会社の儲けのことであり、政治権力者や支配者と経営者(資本家)がここにいるのである。本当の本物の経済学というのは、このように残酷で冷酷なものなのだ。
このC(費用)のことを会計学では、固定資産あるいは固定費と言う。マルクス経済学(リカードゥの理論をそのまま真似して使った)では、Cは不変資本(コンスタント・キャピタルConstant Capital)と言う。ここで途端に難しいコトバになる。だが、本当は分かりやすくて、この不変資本とは固定費(必要経費)である(下表)。
これと同じように、会計学の流動資産が、マルクスでは可変資本(ヴァリアブル・キャピタルvariable capital )である。これがケインズのY=C+IのI(研究開発費)である。即ち、利益を生む有能な社員たちである。このIだけが、本当は、剰余(余剰)価値=利益(利潤)を生むのである。
だが、このことは、マルクス『資本論』を勉強した左翼やリベラル派の知識人の間では、長年、巨大なタブーとなっていて、公然と言ってはならないことになっている。「全ての労働(者)が剰余価値を生み出す」ことになっている。そうしないとマズいのだ。
ここにマルクス経済学の最大の秘密がある。
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