(本記事は、副島隆彦氏の著書『経済学という人類を不幸にした学問』日本文芸社の中から一部を抜粋・編集しています)
もう経済学では対応できない先進国経済
●小室直樹の名著から再び学ぶ
ここからは、私の先生である小室直樹氏著の『数学嫌いの人のための数学』(東洋経済新社2001年刊)を使って、本書第2章の数式たちを再度、ダメ押しで、念には念を、で分かり易やすく説明する。
「却って分からなくなった」という人が出てくることを恐れる。だが、やる。
Y=C+Iの「C+I」を国民需要と言う。
ケインズはこれを有効需要と呼んだ。これが増えれば、反対側のY(国民総生産)が増える。だから「C+I」を合わせて変数と考えるので、Yという関数が決まる。
この「C+I」の中身は、Cが総そう需要関数を作っていて、Iが総供給関数を作っている。この2つの複合関数がYである。
A・マーシャルのM=kpYの式では、kは係数である。比例定数あるいは媒介変数(パラメータ)とも言う。
数学(数式)では、定数と変数は、考え方によって、コロコロと入れ代わる。このことが分からないと(分からないから)皆んな、高校時代に数学で落ちこぼれた。
最初に習うの中学校1年のy=3xの式で、xは変数で、yは関数である。この「3」が定数である。この式(方程式である)は、「xが決まればyが決まる」、だから「yは変数xの関数である」と読む。
ケインズのY=C+Iの式で、Iは定コンスタント数であるのだが、元は「投資(の)関数」である(前掲書P274参照)。だから、定数であるIは、関数の一種だ、とも考える。分かりますかな(前掲書P292参照)。分かりませんよね。
Cは消費関数であるのだが、YがC(国民生産)を決める。と同時に、CがYを決める。
YとCは互いに作用し合って相互連関(mutual inter action ミューチュアル・インター・ア〈ラ〉クション)する。
このとき、YとCという変数は、Y=C+Iの式の中で、内生変数(エンドゥジーニアス・ヴァリアブルズ)という。ケインズの有効需要の原理によってC=aYとなる。
このように、Cは変数Yの関数となる。YがCを決定するのである。
それでは、ここからこのことをグーッと分かり易く書いて説明する。
日本のGDP(即ちY。国民所得=国民生産。日本国の1年間の総収入)は、500兆円(5兆ドル。この25年間、1994年からずーっと5兆ドル近辺)だ。
そしてC(消費。即ち費用=必要経費。国民全部の生活費)は、400兆円ぐらいだ。そうすると、I(投資、即ち研究開発費。有能な人間たち)への投資額は、100兆円だ。
Y(500兆円)=C(400兆円)+I(100兆円)
である。
C(1年間の出費)が決まるから、Y(1年間の売り上げ、収入)が決まる。と同時に、I(もっと収入を上げるための投資。有能な人材や新技術への資金の投入。金融博ばく奕ちを含む)が増える。そうするとYも増える。
ところが、ケインズの、このY=C+Iの等価式(方程式)が、どうもこの20年(特にリーマン・ショックからの12年間)で効きかなくなった。経済成長が無くなったのだ。
アメリカ、ヨーロッパ、日本で、経済成長(エコノミック・グロウス)が消えた。「アメリカは今も成長し続けている。年率の成長率1.2%は有る」と強がりを言う。
が、この数字は粉飾で作られた数字でインチキである。ヨーロッパも日本も、マイナス成長(ネガティヴ・グロウス)である、と白状して認めている。
この20年間のインチキ嵩上げ数字をはぎ取ったら、米、欧、日の先進国“ダンゴ三兄弟”は、成長していない。成長は止まっている。
本当は衰退(デクライン)しているのである。それをゴマかすためのヘンなコトバが、「マイナス成長」である。そんな「マイナス成長」などという成長はない。衰退だ。下落だ。劣化だ。悪化、縮小、減退だ。
●ケインズの乗数効果理論が効かなくなった
ここから、Y=C+Iの式の次に、ケインズ経済学のお勉強で、ものすごくよく使われる「乗数効果理論」を説明する。
乗数効果理論(マルチプライヤー・エフェクト・セオリー multiplier effect theory)とは、経済成長のための政策実行のモデル理論だ。ケインズが発明した。
Y=C+IのI(投資)を増やしたら、Y(国民生産)がどれだけ増えるか、という理論だ。
たとえば政府が1兆円(100億ドル)を投資(財政政策で)を行なったとする。即ちIが1兆円増えると、Yは1兆円増える、だけではなく、もっと大きな金額(収益、売り上げ)になるはずだ、という理論だ。
ここで「限界消費性向」というケインズが発明した考えが出てくる。この限界消費性向(マージブル・プロペンシティ・トゥ・コンシュームmarginal propensity to consume )という考えが入ってくる。これを「0.8」という数字にすることにだいたい決まっている。
マクロ経済学の教科書は、どれでもこの数字を「0.8」とする。小室直樹先生も、よく「0.8」とする。
そうすると、「Yが1兆円増えれば(財政政策、積極財政で)、消費関数(C)も「0.8」増える。それで、C=0.8Yと書く。
このあと資本の自己増殖(銀行の預金の利子と同じ考え)で、Yが0.8兆円増えると、Cはさらに0.64兆円増える。ここで有効需要の原理によって、Cは、さらに0.512兆円増える。これを波及効果という。
ΔY=ΔC+I
と書いて、どんどんYが自己増殖して増えてゆく。
このΔY(微分式の書き方)は、私たちが高校で習う無限等比級数の考えに従って、ΔY=1/(1−0.8)となる。
である。だから
である。
このように、5兆円になるのである。初めの1兆円の政府投資は、波及効果(パーカッション・エフェクト)によって何と5倍の5兆円にも膨らんでゆくのだ。
これが、ケインズの乗数効果の理論(経済成長の理論)だ。これがずーっと、全ての経済学の教科書に書いてある。
中国と他の世界中の新興国は、この乗数効果と限界消費性向によって、実際に、本当に、1980年代から、ものすごく成長した。
●逆波及効果で縮んでいく日本経済
ところが。米、欧、日は成長していない。衰退を続けている。縮んでしまっている。
日本が一番ヒドくて、26年前の1994年から、ずーっと、大卒の初任給は月給20万円である。今も20万円である。この26年間、ずーっと20万円である。変わらない。
ということは、中年のサラリーマンたちも、月給30万円とか、40万円止まりで、26年間変わらない。こんなヒドい国があっていいのかというぐらいヒドい。
日本のGDPは、ずーっと500兆円(5兆ドル。P137の図表)で、ミミズが横に這はったままだ。正確には、今ようやく5.2兆ドル(570兆円)だ。為かわせ替(ドル円のレート)を1ドル=109円とする。
このGDP5.2兆ドルという数字は、日本政府(安倍政権)が、「これじゃああんまりだ。自分たちの政治責任が国民にバレてしまう」で、OECDや世界銀行に提出するGDPの金額を、4.8兆ドルから5.2兆ドルに、5年前に書き換えて(上手に計算し直して)提出したのだ。だからやっとのことで、5.2兆ドル(570兆円)だ。ヒドいの一言につきる。ということは、ケインズが考えた限界消費性向(乗数効果)と有効需要の原理が、ちっとも機能していないのである。本当は、限界消費性向は、0.8(利子率のようなもの)ではなくて、真実は、1を通り越して、「1.5」ぐらいはあるだろう。
そうすると、前出の消費関数で、
C=1.5Yとなる。これを前出の式に入れると、
となる。計算すると
となる。
マイナス2兆円になった。1兆円を国が投資すると、2兆円損をするのである。ドブにお金を捨てるようなものだ。あるいは、裏金でアメリカに差し出している。自己増殖も、波及効果もあったものではない。
逆波及効果が起きて、逆増殖が起きている。爆発ではなくて、爆縮が起きて、日本経済は内側にずっと縮んでいっているのである。
これがまさに、この26年、日本で続いている大不況の「マイナス成長」の経済衰退である。だから経済学は死んだのである。ケインズが作った有効需要の原理(経済成長の方策のやり方)が先進国ですでに壊れている。ヒックスとサムエルソンが、これを変造したからだ。
それで、マネタリスト一点張りで「それでもいいから、ジャブジャブ・マネー即ち量的緩和のマネーを、FRBもECB(ヨーロッパ中央銀行)も日銀も出し続けろ」ということになって、今の世界がある。このジャブジャブ・マネーで、株を土地(地価)を吊り上げさえすれば、景気が悪くないフリを、トランプ政権即ち、権力者(為政者)はできる。
※画像をクリックするとAmazonに飛びます