SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

シンカー: ここ数週間で、ロックダウン(都市封鎖)が国の命令か自発的かを問わず野火のように世界中に広がり、世界経済見通しは大幅に悪化した。その結果、今後数か月間の経済活動は前例の無い大幅縮小になるとみられる。問題は、その経済活動の大幅縮小の後、新型コロナウィルス問題が終息に向かった場合、経済活動が大幅にリバウンドする力を維持できるかだ。現在のところ、まだリバウンドの力は維持できるとの予想だ。例えば、ロックダウンの影響が極めて大きいユーロ圏の実質GDPは4-6月期に前期比年率45%程度も縮小した後、7-9月期には同120%程度のリバウンドがみられると予想している。リバウンドの力を維持するためには、家計の所得への不安が、ロックダウン期間の直接的な量を超えて、消費を追加的に削減することを回避しなければいけない。そのためには、家計への十分な現金給付と雇用状態を維持する企業への補助が必要だろう。そして、需要の短期的な消滅によるキャッシュフローの悪化で、企業が倒産してしまえば、雇用所得を通した需要減少だけではなく、供給減少がリバウンドの力を失わせるリスクとなる。各国が緊縮傾向の偏っていた財政スタンスを緩和方向に大幅に修正し、大胆で柔軟な経済対策を迅速に実行できるかに注目である。これまでの緊縮的な財政イデオロギーに固執して財政拡大が過少で、リバウンド力を失い経済が長く混迷してしまった場合、政策当局への国民の信頼が失墜し、ポピュリズム拡大が政治不安を深刻なものにするリスクとなろう。ロックダウンの日本経済への影響はロックダウン期間とロックダウンによる消費や投資の抑制度合いで決まる。欧米のようなロックダウンが発動され、民間内需が半減した状態が一か月続いた場合、16兆円程度(GDP対比3.7%程度)の下押し圧力になる。民間内需が15%程度抑制された状態でも、2か月続くと、10兆円程度(GDP対比2.2%)程度の下押し圧力となる。大幅縮小でなくても経済活動が抑制された状態が長期化すれば、より大きなリバウンドする力が必要になる。ロックダウンの期間とその間に経済活動がどれだけ抑制されたかを基準に、大規模な経済対策を実施できるかがロックダウン後のリバウンドの力を維持するための政策課題になるだろう。

表)ロックダウンの期間と月間下押し圧力による民間内需のマトリクス

ロックダウンの期間と月間下押し圧力による民間内需のマトリクス
(画像=内閣府、SG)

グローバル・レポートの要約

●世界経済(3/31): 世界経済見通し Update: 自主隔離下の世界経済

3月17日に弊社が世界経済見通し(GEO)の更新版を発行してから、世界は全く劇的に変化した。ここ2週間で、ロックダウン(都市封鎖)が国の命令か自発的かを問わず野火のように世界中に広がり、世界経済見通しは大幅に悪化した。その結果、経済活動は前例の無い大幅縮小になるとみられる。弊社も、わずか2週間前のGDP成長率予測を大きく下方修正した。米国、中国、ユーロ圏、英国といった強く影響を受ける国では、1四半期で4-10%のマイナス成長になると予測している。このため2020年(通年)世界GDP成長率の弊社予測を、従来の2.4%から0.6%へ引下げた。下方修正幅が特に大きかったのは先進国で、従来予測の0.5%に対し、現在はマイナス1.8%と予測している。新興国への影響は比較的マイルドとみられ、弊社も従来予測の3.6%に対して、現在もなお2.2%を見込んでいる。とはいえ弊社の予測は、先進国は98%をカバーしているが、新興国は57%しかカバーしておらず、残りはIMF予測(現在は2019年10月時点の予測、またPPP/購買力平価によるIMFウエイトに基づく)を使っている。言い換えると、弊社予測では新興国(の予測)よりも先進国(同)の方が、見通しの悪化を遥かに明確に反映している。「新興国が本当に受けた打撃の大きさが、現時点の弊社予測よりも大きかった」という事態が簡単に起こり得る。

●米国経済(4/1): FRB緊急融資…実際の資金調達・配分が課題

FRBは必要不可欠な手段を打ち出したと弊社も考えているが、こうしたプログラムを実行する際には課題に直面するとみられる。また米国は第2四半期GDPの大幅後退が見込まれ、リセッションに入ろうとしている。企業向けの信用・流動性ファシリティは、売上高急減の中で企業が直面しているキャッシュフロー不足を解決する。中小企業向けファシリティはすぐ実施される見込みだ。これらのプログラムに伴う資金を実際に調達・配分することが次の課題になる。

●中国経済(4/2): 3月PMI…最悪期は脱したが懸念は残る

中国の3月 PMIは、当然とはいえ50を超える水準に回復した(PMIは前月比の変化を測るようにデザインされており、今回は極めて低水準だった2月との比較になる)。ただし弊社の見たところでは、今回のサーベイ(3月PMI)は心配のタネを多数含んでいる。内需回復が緩慢で、また強い外的ショックが前途に控えていると示されていた。3月PMIから以下の2点が明らかになった:1) 第1四半期(Q1)の中国経済はおそらく大幅に後退する。同四半期GDP成長率の弊社予測を下方修正して、前年同期比マイナス5%とした。これは、前期比ではマイナス10%近くに相当する。しかも本日発表の3月PMIは、それよりも遥かに悪くなると示している。2) Q2の成長率をゼロかプラスに持っていくことは、並大抵の仕事ではない。3月PMIは、政策当局に対し、需要サイドへの刺激策を豊富かつ迅速に打ち出す必要がある理由を示している。弊社もこのような方向の(政策当局からの)シグナルを確認してはいるが、確約が発表されるのを引続き待っている状況だ。

●英国経済(3/30): 直近のMPC…動き、サプライズともに無し

3月25日に実施されたイングランド銀行(BOE)の金融政策委員会(MPC)会合では、政策金利が0.1%、計画する資産買入れ残高上限が 6,450億ポンドで、ともに据え置かれた。26日に発行の議事録は、25日の会合と19日の特別会合の両方を取り上げていた。議事録は、多くの金融市場が機能不全になっていることに対する、(すでに示されていた)懸念を明らかにしていた。委員会は、これまでに採った策が金融市場安定化を助けたと考えていた。議事録を詳しくみると、BOEは少なくとも100億ポンドの社債を追加で購入する意向だ。議事録の主文は「MPCは状況を引続き注視していく。また自身の責務に沿い、正当化されない金融状況タイト化への必要な対応や、経済を支援する準備をしている」だった。また「必要ならばMPCは資産買入れをさらに拡大できる」という部分もあった。

●英国経済(3/27): 新型コロナウイルスの被害を測る新手法

新型コロナウイルス禍が世界に広がるにつれ、ウイルスの流行が社会や経済に大打撃を与えている。英国の政策当局も積極的な財政・金融政策を打ち出しており力強い助けになるだろう。だが弊社が恐れるのは、損害が余りにも大きく、追加策が必要になる(それも、何週間ではなく何日かの間に)と示していることだ。政府は企業や個人を直接支援している。イングランド銀行(BOE)は、金融市場の円滑な機能を確保してきた。また十分な流動性と資金を保有している。しかしBOEは、大規模な量的緩和(QE)プログラムを開始しており、今後の景気刺激策の規模を測定するために英国経済を注視することが必要になる。MPC(金融政策委員会)は定例のデータやBOE自身が特別委託した調査に加え、ビッグデータも注目するだろう。MPCはイノベーションも進めてきたが、新しいONS(国家統計局)のデータ(先取り経済指標=“FASTER ECONOMIC INDICATORS”として知られる)にも注目して経済活動を追跡するとみられる。とはいえ定例のデータも重要となる。政府は本日(25日)、ユニバーサル・クレジット給付金の新規申請者が50万人近くになったと明らかにした。これは驚くべき数字である。

●アセット・アロケーション(3/30): コロナウイルスがヘッジファンドにポジションの一時的ロックダウンを強いる

新型コロナウイルス(COVID-19)に伴うロックダウンが広がるなか投資家はほとんどのポジションをスクエアに: 本稿には、弊社が長く見てきた中で最も異常なデータセットの一つが含まれている。3月17日(火)までのポジショニングデータにより、大胆な投資家は現物市場での急激な価格変動が生み出すチャンスを求めるはずだという期待は間違いであることが明確に証明された。一方、今週ホワイトハウスと米下院が合意した2兆ドルの景気刺激策を含め、印象的な金融・財政政策措置が相次いで発表されている。市場の反応は当初は鈍かったが、現在では、政策対応の幅広さが徐々に適切だと評価されつつあるようだ。とはいえ、特に米国がウイルス封じ込め措置の次の中心地となりそうなだけに、回復は極めて心許ないものに見える。

●アセット・アロケーション(3/26): 新型コロナウイルス危機と痛みを和らげる政策

新型コロナウイルス(COVID-19)が1月に中国で流行し始めてから、世界は極めて困難な局面に突入している。弊社は、今回の危機は主に以下の4分野(に分けられる)とみており、金融市場を安定・回復させるためには解決が必要と考えている。

健康面の危機:新型コロナウイルス(COVID-19)はアジアから欧米に拡散しており、現在の欧州と中東では、新規の感染者発生が急加速している。中国から良いニュースも出ており(現地では6日間新規の感染者が発生していない)、韓国、香港、シンガポールでもウイルス封じ込めの兆しが表れているが、世界の他地域では状況が悪化している。それに加え、(ウイルス拡散の)第一波を受けた国は、現在は国外から第二波を受けるリスクを負っている。

クレジット危機:新型コロナウイルスの脅威と、多くの国で封じ込め/封鎖政策が採られたことで、経済活動が直ちに打撃を受けた。(最前線に立っていることが明らかな)観光と空運のほか、(中国の主要工業地域である)湖北省の封鎖で、あらゆる地域の企業サプライチェーンが大きく混乱した。封じ込め対象となった地域での店舗やレストランなどの閉鎖も、中小企業に痛手を及ぼした。世界経済は大きく減速しており、大半の企業が強い打撃を受けている。

金融政策の緩和を受けて企業のレバレッジが急速に拡大していたことで、インパクトは一層強くなった。米国の中小企業は特に不安定になっているようだ。深刻な収入減少で、債務返済能力が急速に低下しているためである。

●債券市場(3/29):買い取り制限なし

新型コロナウイルスの感染拡大は未だ制御できておらず、経済指標は惨憺たる状況にあるが、市場センチメントは世界中の政策当局による「手段を選ばない」行動に反応して上向いた。米連邦準備制度理事会(FRB)は一連の金融緩和措置と無制限の量的緩和策を発表し、米国議会では2兆ドル規模の経済対策法案が承認されようとしている(編集注:3月27日にトランプ大統領の署名を経て成立)。ユーロ圏では、ドイツの財政黒字や財政均衡、欧州中央銀行(ECB)の資産買い入れ制限が、いずれも過去のものになりつつある。市場はすでに反応を示しており、スプレッドが縮小してきた。しかし、我々は今こそスプレッドやキャリーを再び追求すべき時だと考えている。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司