ビジネスの現場では、常にロジカルシンキングが求められる。ロジカルシンキングの基本概念に、「MECE」がある。ここではMECEの基本的な考え方や、MECEで物事を考えるための切り口、代表的なフレームワークを紹介する。

目次
1.MECEとは「モレなく、重複なく」の意味
2.MECEとはビジネスにおいて必須の概念
3.MECEで考えていくための2つのアプローチ
4.MECEで考えるための4つの切り口
5.MECEの具体例
6.MECEで考えるための実際のフレームワークを7つ紹介
7.MECEで考える癖をつけ、意思決定の質を高めよう

MECEとは「モレなく、重複なく」の意味

MECE,MECEとは
(画像=claudenakagawa/Shutterstock.com)

MECEとは「Mutually Exclusive, Collectively Exhaustive」の略で、「互いに重複せず、全体に漏れがない」という意味であり、ロジカルシンキングの重要な考え方の1つだ。ある大きな事象を、いくつかの小さな事象に分けて考えることを想像してほしい。その場合に、「小さな事象同士が互いに独立しており、かつそれらを足し合わせることで完全な形で大事象を構成している」という状態がMECEだ。

MECEとはビジネスにおいて必須の概念

「ビジネスとは何か?」を一言で表すと、「目の前で起きている問題に対して、競争優位な戦略を立案し、実行すること」だ。この「問題発見、解決策立案、実行」の3つのプロセスそれぞれにおいて、MECEで考えることが非常に重要だ。

あらゆる場面においてMECEで考えることが重要

たとえば、企業に「売上が落ちている」という問題が生じているケースを考えてみよう。その要因としては、「自社の営業力が低下している」「競合が新商品を出してきた」「市場が冷え込んでいる」などがあるだろう。しかし、これらの要因が複雑に絡み合っていることも多い。

「売上が落ちている本質的な問題は何なのか」を突き止めるためには、思い付きではなく、原因となり得るありとあらゆる要因をくまなく分析する必要がある。この作業において、「MECEで考える」ことが重要な意味を持つ。

「上手くモレなく、ダブりなく」ができないと課題を解決できない

「MECEになっていない状態」とは、「ダブりも漏れもある」「ダブりがないが漏れがある」「漏れがないがダブりがある」のいずれかである。

たとえば、ある大きな課題を小さい課題に分けて議論することを考えてみよう。この時に漏れがあると、その課題を解決するにあたって重要な要素を見落としてしまうかもしれない。またダブりがあると、何度も同じ議論を繰り返すこととなり、時間や労力が無駄になってしまう。

最短で問題の本質にたどり着くためには、漏れなく重複なく課題を分割して考えることが不可欠なのだ。

MECEで考えていくための2つのアプローチ

では、物事をMECEで考えるための手順を見ていこう。まずは、アプローチ手法からだ。

トップダウン・アプローチ――全体から部分を見ていく

全体を見て大枠を見定め、そこから小要素にブレイクダウンしていく方法で、演繹法的アプローチと言える。全体像が明確にイメージできている状態や、全体を構成する小要素がどのように分解されていくかがある程度見えている状態では、このアプローチが有効だ。

ボトムアップ・アプローチ――部分から全体を見ていく

いくつかの小要素を集め、それらをグルーピングしながら分解の仕方を決めていく方法で、帰納法的アプローチと言える。事前にどのような要素があるかわからない場合や、分類の仕方のイメージが掴めていない状態では、有効なアプローチである。

ただし、小要素のあぶり出しが不十分だと、分類やグルーピングに漏れが生じてしまうというデメリットに注意しなければならない。

MECEで考える際の4つの切り口

上記の2つのアプローチを基本の考え方として、実際に物事をMECEに分解するための切り口を4つ紹介しよう。

要素分解――全体を切り分ける

要素分解とは、分解した各要素を足し合わせることで全体になるように切り分ける方法である。「足し算型」とも言われる。

たとえば、あるスーパーマーケットの売上高を「商品別」でMECEに切り分けるとする。その場合、「全体の売上高」=「肉類の売上高」+「魚類の売上高」+「野菜の売上高」+「加工食品の売上高」+「果物の売上高」+「日用品の売上高」というように、小要素別の売上高を足し合わせたものになる。

因数分解――物事を細かく分解していく

因数分解とは、分解した要素を掛け合わせることで全体になるように切り分ける手法だ。「掛け算型」とも言われる。

たとえば、1種類のこだわりのりんごを1店舗のみで販売するりんご専門小売店があったとしよう。その売上高を分解すると「全体の売上高」=「りんごの売上個数」×「りんごの単価」=「来客1名あたりのりんごの購入数」×「来客数」×「りんごの単価」=・・・と掛け算の小要素に分解していくことができる。

実際のビジネスにおいては、この「足し算型」と「掛け算型」を組み合わせて、要素分解していくケースがほとんどだ。全体を構成する要素を足し算と掛け算の要素に分解し、これ以上分解できないという要素まで切り分けることができれば、それがMECEと言うことになる。

時系列・ステップ分け――前代を段階ごとに区切る

時系列・ステップ分けとは、全体の事象を手順や流れに沿ってグループに分ける手法である。業務を行う手順を分けたり、事業戦略を「短期」「中期」「長期」と時間軸で切り分けたりすることだ。

ビジネスシーンでよく登場する「バリューチェーン」も、このステップ分けに該当する。企業の事業構造や提供価値は単一であることは稀であり、いくつかのステップで構成されている。

メーカーであれば「商品企画」「調達」「製造」「物流」「販売」「カスタマーサポート」といったように、上流から下流に向かって分解することで、企業活動を細かく見通すことができる。

対照概念――反対の物事を考える

相反する2つの概念によって、要素をグルーピングする切り口だ。「量の確保と質の向上」「内製化と外注」などが挙げられる。ある小要素を見つけた時、「それと相反する要素は何か?」と常に考えるようにすることで、思考の漏れを防ぐことができる。

MECEの具体例

では、MECEの具体例を見てみよう。たとえば、あるメーカーの人気商品があり、そこに新機能を追加した商品を市場に投入する場面において、この新商品の顧客ターゲットをどこに設定するかというセグメンテーションを考えてみる。

ここでは、顧客のセグメントを「人口動態」である性別と年齢、および「行動動態」である購入経験の有無で分ける。この場合、以下の図のように12のセグメントに分けることができ、それぞれがMECE (漏れなく重複もない)となっている。

MECEで考えるための7つのフレームワーク

ビジネスにおける様々な課題をMECEで考える際に有効な、7つのフレームワークを紹介する。論点に合わせて適したフレームワークを選んだり、複数のフレームワークを組み合わせたりすることで、MECEに整理することができるだろう。

(1)3C分析――事業環境をMECEで考える

3Cとは、Customer(市場)、Competitor(競合)、Company(自社)の3つについて分析し事業環境を整理する手法であり、事業戦略の立案などでよく使われるフレームワークだ。

外部環境である「市場」および「競合」と、内部環境である「自社」を網羅的に考察することができるので、経営においては必須のフレームワークと言える。

(2)4P分析――何をどのように売るのかをMECEで考える

4P分析は主にマーケティングでよく使われる分析手法で、「どのような製品をどのように売っていくか」を考える上で有効なフレームワークである。

・Product(何を売るのか、顧客にとっての価値は何なのか)
・Price(価格はいくらか、顧客にとってそれは妥当か)
・Place(どのような経路で売るのか、Web販路や流通網などをどのように構築するか)
・Promotion(どのように顧客に認知してもらうか)

顧客に価値を届けることにおいて、不可欠な論点が網羅されている。

(3)SWOT分析――経営戦略や経営資源の分配をMECEで考える

SWOT分析は、市場トレンドや競合状態といった外的環境と、自社のブランドや事業資産といった内的環境を分けて分析することで、経営戦略や経営資源の最適分配を考えるためのフレームワークである。

内的環境はS(Strength:強み)とW(Weakness: 弱み)、外的環境はO(Opportunity: 機会)とT(Threat: 脅威)に分けられる。クロスSWOT分析は、それぞれの項目のトピックを抽出した上で、内的環境と外的環境を組み合わせて、起こり得るシナリオにどのように対処していくかを考える際によく使われる。

(4)7S分析――仮説検証のプロセスをMECEで考える

7Sとは、自社の企業活動全般における価値や資産を構成する要素を表したものである。

ソフトの4S
・Shared value(共通の価値観・理念)
・Style(経営スタイル・社風)
・Staff(人材)
・Skill(スキル・能力)

ハードの3S
・Strategy(戦略)
・Structure(組織構造)
・System(システム・制度)

このように、戦略や組織といった目に見える構成要素に留まらず、価値観や社風などといったソフト面の論点にまで踏み込むことで、「自社が持つ本当の強みや価値の源泉はどこからきているのか」を深堀りすることができる。

(5)PDCA――仮説検証のプロセスをMECEで考える

PDCAは、P(Plan:計画)、D(Do:実行)、C(Check:検証)、A(Action:改善策の立案)の頭文字を取ったものだ。仮説検証のプロセスを繰り返すことで、マネジメントや業務エグゼキューションの質を高めようとする考え方である。

ビジネスシーンでは広く浸透している概念だが、そのポイントは奥が深い。計画フェーズや検証フェーズにおいては、事実や仮説に基づいた論理的な考察が求められるのに対し、改善立案フェーズでは、従来の概念にとらわれない大胆な発想も求められる。

データやファクトに基づいて、論理的(左脳的)な分析・考察と、直観的(右脳的)な施策立案とを行ったり来たりしながら、業務の質を高めるためのフレームワークだ。

(6)バリューチェーン――自社の強みをMECEで考える

バリューチェーンとは、事業戦略の検証や事業資源の配分などを考えるためのフレームワークである。事業活動を機能ごとに分解し、それぞれの部分に自社の特長や強みが発揮されているか、どの部分において競合との差別化が図れているかを分析することできる。

3CやSWOTなどのフレームワークは、自社の事業を俯瞰的に捉えながら自社の強みや競合優位性を抽出するものである。しかし、バリューチェーンは、自社の事業の流れを細かく分解することで、ミクロかつピンポイントで自社の強みを発見することができる。

多くの企業は、調達部、製造部、営業部などの事業部がバリューチェーンの各機能にそのまま当てはまることが多い。各機能における強みを個別に洗い出すことにより、経営リソースの配分が的確かどうかの「見える化」にも役立つ。

(7)製品ライフサイクル――製品を時系列のMECEで考える

製品ライフサイクルとは、製品が市場に投入されてから市場撤退するまでの一連の流れのことだ。自社の売上や市場動向をこのライフサイクルに当てはめることで、自社製品が現状どのフェーズにあるのかを客観的に分析し、売上や利益の最大化を図ることが目的である。

商品の売れ行きを時系列で追うことにより、顧客ニーズの変化をとらえ、誤ったマーケティング施策を防ぐことができる。

(8)AIDMA(アイドマ)――ユーザーの思考プロセスをMECEで考える

AIDMAは、ユーザーが購買意思決定に至るまでの一連の思考プロセスを分解したものだ。ユーザーのモチベーションがどこにあるのかを見極めることで、そのユーザーに対して適切なコミュニケーションを取り、購買に結びつけるための考え方である。

・Attention:注目、商品やサービスについて知る
・Interest:興味を持つ
・Desire:欲しいという欲求
・Memory:記憶
・Action:購買行動

このように、ユーザーの考えていることを時系列で分解することで、そのフェーズに応じた適切なマーケティングを実施できる。

(9)ロジックツリー

ロジックツリーとは、ビジネスの幅広いシーンにおいて活用できる考え方で、大きな論点を、それを構成する小さな論点に分解して考察するための問題解決ツールである。論点を分解することで、問題そのものを発見したり、その原因を特定したりしやすくなる。

売上高を構成する要素を分解しKPIを抽出する「プロフィットツリー」の作成にも、同じ考え方が使える。物事を構成する要素を網羅的に見出すことができるツールとして、MECEで考える上で非常に有効と言えるだろう。

MECEで考える癖をつけ、意思決定の質を高める

MECEで物事を考えることは、経営課題の発見や解決策の検討、事業戦略の立案などにおいて、ファクトに基づいた論理的な意思決定をする上で非常に重要だ。特に問題解決においては、全体の俯瞰と個別事象の分析とを相互に行う必要があり、どちらかだけを見ていては、問題の本質に行きつくことはできない。

MECEで考えるためのフレームワークを上手に活用することで、自分が分析・考察している論点が全体のどの部分に位置しているのかを知ることができる。ゴールを見失わずに議論を行うことができる点も、フレームワークを使うことのメリットと言えるだろう。

ぜひMECEの考え方を身に着け、ビジネスにおける意思決定に役立ててほしい。

文・森 琢麻(経営戦略コンサルタント、MBA) /MONEY TIMES

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