有給義務化
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2019年4月から、働き方改革に伴う法改正によって「有給義務化」が始まった。定常的に取得率が低い「有給休暇」を年5日取得するように、法律で義務化されたのだ。ここでは、「有給義務化」の具体的な内容や、特に中小企業がどのような対応をすべきか詳しく説明する。

有給休暇の取得義務化とは?

有給とは「有給休暇」のことだが、これは「有給」と「休暇」に分けて考えるとわかりやすい。「有給」なので無給ではなく給料が発生し、「休暇」であるから従業員が労働を免除されるという意味だ。つまり、働かなくても給料の支払いが保障される休日のことを指す。

有給休暇には、法律で定められたものと、労働者(従業員)と使用者(会社)との労働契約によって定められたものとがある。

労働契約で定められた有給休暇には、病気になった際に一定の日数を休むことになっても給料を減額されることはないという「病気休暇」がある。また、就業規則などで、結婚する場合や身内が亡くなった場合など、有給休暇を会社独自で設けることがある。

一方で、法律によって、労働者の権利として取得できる有給休暇がある。法律の上では、「年次有給休暇」と呼ばれるもので、一般的に「有給」と省略して言われる場合は、この「年次有給休暇」を指す。

労働者の権利を保護するために最低限の労働条件を規定している「労働基準法」の第39条には、有給休暇について以下のことが記されている。

有給休暇は、使用者(会社)が労働者(従業員、社員)に対し、与えなければならない

使用者が労働者に有給休暇を与えないことはもちろん、就業規則や労働契約書において有給を与えない旨の記載をすることは法律違反になる。

労働基準法では、有給休暇の付与条件や日数についても定められている。使用者は、社員として雇用して6ヶ月間継続して働き、その間に全労働日の80%以上出勤した労働者に対して、1年ごとに最低10日の有給休暇を与えなければならない。なお、取得できる有給の日数は、勤続年数によって異なる。

ただし、現実的には、職場が有給を取る雰囲気ではないなど、有給休暇を取得しにくい社員も多い。このような事態を打開するために、働き方改革の施行に伴って2018年に労働基準法が改正され、2019年4月1日から有給休暇の取得が義務化された。使用者(会社)は、有給を10日以上保有している労働者(従業員)に対して、毎年5日の有給を取得させなければならない。

有給休暇取得義務化の対象は?

有給休暇の取得義務化の対象となるのは、どのような人なのだろうか。正規雇用社員は、当然この制度が適用されるが、非正規雇用社員である契約社員やパートタイマーも、有給休暇の取得義務対象者となる。パートタイマーは所定労働日数が少ないため、有給休暇の付与日数が正社員に比べると少ない。ただ、勤続期間が長くなって10日以上の有給休暇が付与されれば、有給取得義務が適用される。

働き方改革の施行以前は、使用者(会社)から労働者(従業員)対して、有給休暇を取得するように働きかける義務はなかった。社員は付与された有給休暇を消化できないまま有効期限の2年が経過して、取得できる有給が消滅するという事態になることも少なくなかった。

ただし、働き方改革に伴う法改正によって、労働者からの有給取得申請の有無に関わらず、業務命令によって強制的に有給休暇を取得させなければならないのだ。もし、この義務に違反した場合には、「違反者1人につき罰金30万円」のペナルティが科される。

例えば、会社内に違反者が5人いれば「30万円×5人=150万円」の罰則金を支払う必要があるのだ。また、罰則以外にも労働基準監督署からの是正指導を受けることにもなる。

なお、有給休暇の取得義務は有給休暇が付与された日を基準として1年以内となり、管理監督者にも年5日の年休消化義務がある。育児休業などの長期休暇からの復帰者にも適用されるため、使用者は従業員の有給休暇の取得状況をしっかりと把握しなければならない。

有給休暇の取得義務化の背景

労働基準法によって、労働者には有給を取得できる権利がありますが、実際は有給を取得しにくい状況であるという現状がある。2016年の厚生労働省の調査結果によると、年次有給休暇の取得にためらいを感じる社員は6割を超えており、その理由としては、「他の人に迷惑がかかる」「後で忙しくなる」「職場が有給を取りにくい雰囲気」といったことが上位となっている。

また、有給休暇の取得に関しては、大企業と中小企業との間では大きな格差があった。大企業の場合は、年次有給休暇の計画的付与制度がある企業が多いという制度運用が進んでいるのはもちろん、従業員が多いため休みを取った従業員を補うためのシフトを組みやすい、労働組合がしっかり機能しているなどの点で、中小企業に比べて有給を取りやすいと考えられる。

しかし、中小企業では、誰かが有給を取得すれば、少ない残りの従業員で穴埋めをしなければならない。そうなると、中小企業の使用者は労働者に対して、有給の取得を奨励できず、労働者も会社の実情がわかっているので、なかなか自分から有給休暇の取得を申し出にくいということになる。

このような実情を考えると、有給を取得しにくい中小企業の実情を打開するためには、職場環境を改善する必要がある。しかし、個々の会社の実情は異なるため、改善は一朝一夕ではできない。法律に有給休暇の取得義務が明記されることで、従業員も気兼ねなく有給の取得申請を行えるような環境に変わっていくであろう。

中小企業が有給休暇取得義務化に対応するための方法

労働基準法の法改正による有給の取得義務化によって、大企業はもちろん中小企業も対応を迫られることになった。ただ、今まで労働者の有給休暇の取得改善に積極的に取り組んでこなかった中小企業にとっては、綿密な計画を建てて、厳格に対応することが求められる。

ここでは、有給休暇取得義務化を達成するための2つの方法を紹介する。

方法1:職場環境の見直し

中小企業において有給の取得が難しい要因の一つは、従業員数に限りがあるため、誰かが休めばその穴埋めが困難になってしまうことだ。

それぞれの労働者が抱える業務が手一杯であり、誰かが休んだ分をフォローできるだけの余裕がないのだ。その結果、会社は労働者に対して有給を取らせたくても許可しにくく、労働者も自分が休むことで他の労働者に迷惑がかかるのはもちろん、後々自らの業務負荷が増えることにもなって、なかなか有給休暇の取得ができなかった。

このような事態を打開するためにまずすべき事が、職場環境の見直しがある。具体的には、業務内の無駄を排除して業務効率化を図るために、まず業務分析を労働者と一緒に行う必要がある。そして、抽出した無駄を少しずつ排除していけば、1人の労働者が有給を取得しても業務をサポートできる体制を敷くことができる。

方法2:バックオフィス業務の効率化

バックオフィスとは、販売や顧客対応を主に行う営業部門やマーケティング部門などに対して、後方から支援する部署や業務のことで、経理、会計、総務、庶務などが該当する。

大企業であれば、労働者数が多いため、それぞれの部門を独立させて人数をかけることも可能である。しかし、中小企業は労働者数が少ないため、例えば営業部門と管理部門を完全に独立させるといった事が困難であり、業務負荷が分散できないために有給を取得しにくい事態が発生しやすい。

バックオフィス業務の効率化によって、例えば営業部門の労働者が有給を取得する際には、管理部門の労働者がその間に支援に回ることも可能になる。

バックオフィス業務の効率化の具体的手法としては、マニュアル化によって誰もがサポートできる体制にしたり、IT化によって紙ベースの業務をできるだけデータ処理にするといった方法がある。

有給休暇の取得義務化における注意点

大企業、中小企業ともに、法律で有給の取得が義務化されたため、就業規則の改定や労使協定の締結が必要になってきた。これによって、会社と従業員が有給取得の義務化を労働契約の一つとして意識することになるが、一人一人の労働者に対する意識付けは十分とは言えない。もっと具体的な目に見える対応が必要だ。

例えば、従業員を一堂に集めて、有給の取得が務化された旨を知らせたり、掲示板などで労働者に継続的に周知することが必要だ。また、有給の「取得計画表」を毎年作成・提出させることで、有給休暇を取得する意識づけも必要だ。

労働者に告知しても、制度の変更はなかなか根付くには時間もかかり、労働者が進んで有給休暇を取得することは難しいだろう。そのため、職場の業務効率化を図ったり、労働者の配置を工夫するなどの具体的な対応を行って、会社としての姿勢を示す必要がある。つまり、有給の取得を労働者任せにするのではなく、会社主導で行っていくことが大事だ。

会社によっては、すぐに労働者に有給を取得させることが難しく、当面は休日、祝日、年末年始休暇、夏季休暇などを有給に充てるという方法を取るかもしれない。

このような対応は、決して法律に違反することではない。ただ、会社の判断によって労働者に不利益を与える「労働条件の不利益変更」となる可能性が高く、全労働者に対して事前に同意を得ることが必要だ。

年次有給休暇の取得義務化に関しては、労働基準監督署で相談や支援要請を行うことも可能なので、使用者は積極的に活用いただきたい。

有給取得の義務化が職場の活性化につながることも

有給義務化は、従業員が少なく計画的にフォローされていない中小企業にとっては、対応が困難な制度かもしれない。しかし、労働者に有給休暇を取得させるために、会社は現在の業務の効率化を図るために一連の業務の見直しも必要となる。職場環境の改善が、結果的に会社の活性化につながることにもなるだろう。(提供:THE OWNER

文・井上通夫(行政書士・行政書士井上法務事務所代表)