不況と言われて久しい百貨店業界だが、「売上」「時価総額」「店舗数」「年収」などの現状をランキング形式で紹介する。加えて、「三越伊勢丹」や「高島屋」など各社はどこに強みがあるのか、業界の概要も含めて解説していく。

目次
1,「売上高」ランキング
2,「営業利益」ランキング
3,「時価総額」ランキング
4,「連結ROE」ランキング
5,「店舗数」ランキング
6,「従業員数」ランキング
7,「平均年収」ランキング
9, 百貨店10社の特徴
9, 百貨店業界の今後はどうなるのか?

1,「売上高」ランキング――1位は三越伊勢丹ホールディングスでシェア3割弱

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(画像=TK Kurikawa/Shutterstock.com)

小売業である百貨店は、来店客数や外商の販売実績(売上高)が業績に直接影響を及ぼす。日本の代表的な百貨店10社の売上高をランキング形式で紹介する。

対象となる百貨店は「三越伊勢丹」「高島屋」「そごう・西武百貨店」「大丸松坂屋百貨店」「阪急阪神百貨店」「東急百貨店」「東武百貨店」「近鉄百貨店」「小田急百貨店」「マルイ」の10社。

対象百貨店の持株会社あるいは運営会社の有価証券報告書(2018年度版)から、各グループの百貨店事業部の項目別データを抽出し、本稿のすべてのランキング表を作成した。

「売上高」ランキング

順位 コード 会社名 売上高 市場シェア
※1
1 3099 三越伊勢丹ホールディングス 1兆1,968億300万円 28.4%
2 8233 高島屋 8,468億9,400万円 20.1%
3 3382 セブン&アイ・ホールディングス
(そごう・西武百貨店)
5,747億1,100万円 13.6%
4 8242 エイチ・ツー・オー リテイリング
(阪急阪神百貨店)
4,518億4,000万円 10.7%
5 3086 J.フロント リテイリング
(大丸松坂屋百貨店)
2,754億4,100万円 6.5%
6 8244 近鉄百貨店 2,440億5,400万円 5.8%
7 9005 東急
(東急百貨店)※2
1,906億6,200万円 4.5%
8 9001 東武鉄道
(東武百貨店)※2
1,703億3,200万円 4.0%
9 9007 小田急電鉄
(小田急百貨店)
1,369億8,700万円 3.3%
10 8252 丸井グループ
(マルイ)
1,254億1,000万円 3.0%
10社合計 4兆2,134億3,400万円 100.0%
※1. 対象の百貨店10社の売上高を合計して、市場シェアを算出した
※2. 東急百貨店と東武百貨店については、百貨店事業だけの「売上高」を確認できなかったため、百貨店事業の「営業収益」で代用した

第1位は三越伊勢丹ホールディングスの「三越伊勢丹」、第2位は「高島屋」、第3位はセブン&アイ・ホールディングスの「そごう・西武百貨店」である。とりわけ第1位の三越伊勢丹、第2位の高島屋は全国的に知名度が高い百貨店だ。

3社とも首都圏を中心に、全国に店舗網を広げている。誰もが知っている百貨店は、売上高も高いという結果になった。

2,「営業利益」ランキング――儲けも1位、2位は売上高と同じ

営業利益とは、売上高から費用を差し引いた「本業による儲け」のことだ。売上高の大きさもさることながら、コストを抑えて本業の利益を最大化している百貨店はどこだろうか?

「営業利益」ランキング

順位 コード 会社名 営業利益
1 3099 三越伊勢丹ホールディングス 292億2,900万円
2 8233 高島屋 266億6,100万円
3 3086 J.フロント リテイリング
(大丸松坂屋百貨店)
241億9,400万円
4 8242 エイチ・ツー・オー リテイリング
(阪急阪神百貨店)
204億2,200万円
5 8252 丸井グループ
(マルイ)
88億2,600万円
6 3382 セブン&アイ・ホールディングス
(そごう・西武百貨店)
32億6,600万円
7 8244 近鉄百貨店 17億9,000万円
8 9007 小田急電鉄
(小田急百貨店)※1
13億7,400万円
9 9005 東急
(東急百貨店)※1
10億1,400万円
9001 東武鉄道
(東武百貨店)※2
※1. 小田急百貨店と東急百貨店の「営業利益」については、それぞれの親会社である小田急電鉄と東急の有価証券報告書で確認できなかったため、代替的に「経常利益」を使用した
※2. 東武百貨店の「営業利益」「経常利益」のどちらも、親会社である東武鉄道の有価証券報告書で確認できなかったので、ランキングから除外した

営業利益の第1位と第2位は、売上高と同じ「三越伊勢丹」と「高島屋」という結果になった。百貨店業界の2大ブランドとして地位は確立しており、営業利益でも2トップは不動であることがわかる。

第3位は、J.フロント リテイリンググループに属する「大丸松坂屋百貨店」だ。売上高ランキングでは第5位だったので、他社に比べてコストを抑えながら効率的に利益を出していることになる。

3,「時価総額」ランキング――市場価値が高い百貨店運営会社はどこ?

対象の百貨店は、持株会社や運営会社の100%子会社であるところが多い。持株会社や運営会社の時価総額を比較することで、百貨店のグループが市場からどのような評価を得ているかを知ることができる。

「時価総額」ランキング

順位 コード 会社名 2020/4/8終値基準
時価総額
1 3382 セブン&アイ・ホールディングス
(そごう・西武百貨店)
3兆1,415億5,000万円
2 9005 東急
(東急百貨店)
1兆1,047億7,000万円
3 9007 小田急電鉄
(小田急百貨店)
9,028億1,900万円
4 9001 東武鉄道
(東武百貨店)
7,815億6,200万円
5 8252 丸井グループ 3,824億5,900万円
6 3099 三越伊勢丹ホールディングス 2,316億9,200万円
7 3086 J.フロント リテイリング
(大丸松坂屋百貨店)
2,175億5,200万円
8 8233 高島屋 1,670億9,400万円
9 8242 エイチ・ツー・オー リテイリング
(阪急阪神百貨店)
999億1,100万円
10 8244 近鉄百貨店 974億9,600万円
※Yahoo!ファイナンスで、2020年4月8日終値ベースの各社時価総額を参照し、「時価総額」ランキング表を作成した

第1位のセブン&アイ・ホールディングスは、「そごう・西武百貨店」の持株会社だ。グループ内には百貨店だけでなく、コンビニエンスストアからネット銀行まで、流通にかかわるさまざまな業態の企業がある。

第2位の東急は、鉄道事業の東急電鉄を中心に、東急百貨店や東急ホテル、東急不動産など多くの企業を抱える企業グループである。第3位は箱根から新宿までのエリアを網羅する小田急電鉄であり、「小田急百貨店」は小田急電鉄の100%子会社である。

そごう・西武百貨店、東急百貨店、小田急百貨店の3社に共通するのは、流通や鉄道という、人々の生活に密着した企業を中心とする企業グループに属していることだ。株式市場における市場価値が高いのも納得できるだろう。

4,「連結ROE」ランキング――自己資本を効率的に使って利益を出しているのは「近鉄百貨店」

一般的に、上場会社は投資家が投資判断の材料とするROE(自己資本利益率)を意識して経営を行っている。百貨店を運営する親会社も、グループとしてのROE向上には関心が高い。ここでは、百貨店を含む企業グループ全体のROEに着目して、ランキングから投資対象としての価値が高い企業を探ってみたい。

「連結ROE」ランキング

順位 コード 会社名 連結ROE
2018年度
1 8244 近鉄百貨店 14.0%
2 8252 丸井グループ
(マルイ)
9.1%
3 9007 小田急電鉄(小田急百貨店) 8.7%
4 3382 セブン&アイ・ホールディングス
(そごう・西武百貨店)
8.2%
5 9005 東急
(東急百貨店)
8.0%
6 3086 J.フロント リテイリング
(大丸松坂屋百貨店)
6.2%
7 9001 東武鉄道
(東武百貨店)
6.17%
8 8233 高島屋 3.7%
9 3099 三越伊勢丹ホールディングス 2.3%
10 8242 エイチ・ツー・オー リテイリング
(阪急阪神百貨店)
0.2%
※各社の連結ROEは、すべて2018年度版の有価証券報告書に記載されているデータである

第1位の近鉄百貨店の連結ROEは14.0%、第2位の丸井グループは9.1%、第3位は小田急百貨店の親会社である小田急電鉄で8.7%だった。

近鉄百貨店の連結ROEは、他社に比べて際立って高い収益性を示している。これは、近鉄百貨店が戦略上の重点施策エリアを定めていることや、業務効率化を積極的に進めていることの表れであると考えられる。

第2位の丸井グループは、グループの経営方針の1つとして、ROE10%以上を経営指標の目標に掲げている。この効果が、対象企業10社中、ROE9.1%で第2位という結果につながっていると見られる。近鉄百貨店と丸井のどちらも、小規模ながら効率的な経営で利益を出していることがわかる。

小田急百貨店の属する小田急グループは、運輸、流通、不動産など幅広く事業を展開しているが、グループ全体として高い利益率を誇ることから、投資対象としても有望だ。

5,「店舗数」ランキング――国内限定だとマルイだが海外を含めると……

来店客の受け皿となる店舗は、その数が売上に直結するため、百貨店の規模を見積もるためのわかりやすい指標と言える。対象となっている百貨店の「店舗数」ランキングは、以下のとおりだ。「売上高」ランキングや「営業利益」ランキングとの違いもチェックしてほしい。

「店舗数」ランキング

順位 コード 会社名 店舗数
国内 海外
1 3099 三越伊勢丹ホールディングス 21 32
2 8252 丸井グループ
(マルイ)
34 0
3 8233 高島屋 20 4
4 3086 J.フロント リテイリング
(大丸松坂屋百貨店)
16 0
5 8242 エイチ・ツー・オー リテイリング
(阪急阪神百貨店)
16 0
6 3382 セブン&アイ・ホールディングス
(そごう・西武百貨店)
15 0
7 8244 近鉄百貨店 13 0
8 9001 東武鉄道(東武百貨店) 7 0
9 9005 東急(東急百貨店) 4 0
10 9007 小田急電鉄(小田急百貨店) 2 0
※店舗数は各社の2018年度末時点のもの

第1位の「三越伊勢丹」は国内外に53もの店舗を展開しており、店舗数では他を圧倒している。海外店舗数も多く、世界中に三越伊勢丹ブランドが浸透し、多くの顧客を呼び込んでいることが売上高や営業利益の高さにつながっている。

第2位はマルイの34店舗だ。この店舗数には、主力の「マルイ」の他に「モディ」も含まれている。売上高では第10位、営業利益では第5位であり、それに比べて店舗数が多い印象を受ける。「マルイ」の店舗は百貨店に位置付けられながらも、店舗は一般的な百貨店ほど大規模でなく、商品展開も比較的カジュアルテイストだ。これが、今回の結果に反映されていると考えられる。

第3位は「高島屋」。売上高と営業利益ではともに第2位であり、店舗数の多さが売上や利益につながっていることがわかる。

6,「従業員数」ランキング――店舗数が多い百貨店と相関関係が垣間見える

百貨店は、来店客の接客以外にも法人外商または個人外商などの営業担当者、バイヤー、マーチャンダイジング、プロモーションなど、さまざまな職種の人材によって支えられている。従業員数が多いのはどの百貨店なのか、ランキングで確認してみよう。

「従業員」ランキング

順位 コード 会社名 従業員
1 3099 三越伊勢丹ホールディングス 9,155人
2 8233 高島屋 6,378人
3 8252 丸井グループ(マルイ) 3,479人
4 8242 エイチ・ツー・オー リテイリング
(阪急阪神百貨店)
2,875人
5 9001 東武鉄道(東武百貨店) 2,836人
6 3382 セブン&アイ・ホールディングス
(西武百貨店)
2,832人
7 3086 J.フロント リテイリング
(大丸松坂屋百貨店)
2,421人
8 8244 近鉄百貨店 1,738人
9 9007 小田急電鉄(小田急百貨店) 897人
9005 東急(東急百貨店)※
※百貨店の従業員(臨時雇用などを除く)のみを対象に、各社の2018年度末日現在の従業員数を表示した
※東急の有価証券報告書では、東急百貨店を含む「生活サービス事業」全体の従業員数しか確認できなかったため、ランキングから除外した

ここまでで、第1位にランクインした回数が最も多かった「三越伊勢丹」と、上位が目立った「高島屋」が、従業員数でも第1位と第2位になった。店舗数から考えても、順当な結果と言えるだろう。1店舗あたりの販売スペースの広さや、きめ細かな顧客対応などによって、多くの従業員を必要とする「三越伊勢丹」と「高島屋」の運営状態が垣間見える。

第3位は「マルイ」。店舗数ランキングでは第2位だったことから、従業員の多さは納得できる。

7,「平均年収」ランキング 年収が高い百貨店の特徴は何?

ここでは、転職の際に気になる各社の平均年収を比較する。高い平均年収を得られる百貨店にはどのような特徴が見られるのか、以下のランキング表から考察してみよう。有価証券報告書からわかる平均年収は、百貨店を含む企業グループ全体の平均年収として算出されているので、大まかな傾向としてとらえてほしい。

「平均年収」ランキング

順位 コード 会社名 グループ
平均年収
1 8242 エイチ・ツー・オー リテイリング
(阪急阪神百貨店)
858.2万円
2 3086 J.フロント リテイリング
(大丸松坂屋百貨店)
835.5万円
3 3099 三越伊勢丹ホールディングス 830.7万円
4 9007 小田急電鉄
(小田急百貨店)
764.3万円
5 9005 東急
(東急百貨店)
737.2万円
6 3382 セブン&アイ・ホールディングス
(西武百貨店)
736.2万円
7 9001 東武鉄道
(東武百貨店)
713.9万円
8 8233 高島屋 678.5万円
9 8252 丸井グループ
(マルイ)
640.7万円
10 8244 近鉄百貨店 484万円
※百貨店を含むグループ全体の正規従業員の平均年収を表す

第1位は阪急阪神百貨店が属するエイチ・ツー・オー リテイリング、第2位に大丸松坂屋百貨店を擁するJ.フロント リテイリング、第3位は三越伊勢丹ホールディングとなった。

第1位のエイチ・ツー・オー リテイリングは、売上高ランキングで第4位であることからわかるように、百貨店業界においては準大手の位置付けである。一方で、平均年収ランキング第1位という結果から、従業員への還元率が高い会社と見なすことができる。

第2位のJ.フロント リテイリングの百貨店事業は、グループ全体の売上収益の60%を占める(2019年3月期)、グループの主力事業である。そのため、「大丸」と「松坂屋」の従業員平均年収も、グループ全体の高い年収と大きな違いはないと考えていいだろう。

売上高や営業利益、従業員数で第1位の三越伊勢丹ホールディングスの平均年収は、第3位だった。

8,百貨店10社の特徴――三越伊勢丹や高島屋など、それぞれのバックグラウンドと強みを確認

最後にランキングの対象となった百貨店10社について、グループの特徴や強みを知っておこう。

三越伊勢丹ホールディングス<3099>――百貨店業界No.1も新時代に向け改革継続

2008年の三越と伊勢丹の経営統合によって、持株会社である三越伊勢丹ホールディングスが誕生した。2020年4月現在、グループの中核である「三越伊勢丹」は依然として百貨店業界の最大手であり、国内外に多くの店舗を展開している。

2018年以降は、中長期経営計画にしたがって、コスト構造改革やビジネスモデル転換のための事業基盤の整備、店舗事業改革を継続している。

今後は、オンライン(WEB)とオフライン(店舗)のシームレス化を目指す。オンラインでは、三越伊勢丹のサイト・アプリ環境を一新し、利便性を向上。オフラインでは、基幹店の伊勢丹新宿本店と三越日本橋本店をリニューアル。百貨店ならではのラグジュアリーな空間や顧客ニーズの高い商品を拡充させている。

高島屋<8233>――「まちづくり」戦略に沿って新しい街のシンボルを目指す

高島屋グループの総合戦略は、「まちづくり」だ。これは、再開発や新しい街づくりにあたっては、出店する「高島屋」が街の中心となって集客力のある商業施設を作り、アンカーとしての役割を果たすというもの。「高島屋」の店舗では、グループが持つ商業開発業や金融業、飲食業などのノウハウを活かして、独自の次世代商業施設づくりを実現している。

「まちづくり」戦略による最新店舗として、「美しい暮らしライフスタイル」を発信する都市型ショッピングセンター「日本橋高島屋S.C.」が2019年3月にリニューアルオープンした。

セブン&アイ・ホールディングス(そごう・西武百貨店)<3382>――背景に巨大なグループ力

「そごう・西武百貨店」は、セブン&アイ・ホールディングスの百貨店事業部門に属する。傘下には、百貨店以外にもコンビニエンスストアNo.1の店舗数と売上高を誇る「セブン‐イレブン」や、大型スーパーの「イトーヨーカ堂」、生活雑貨販売の「ロフト」、インテリア雑貨小売の「Francfranc」などがあり、巨大流通グループを形成している。

エイチ・ツー・オー リテイリング(阪急阪神百貨店)<8242>――関西の老舗デパート

エイチ・ツー・オー リテイリングは、関西の老舗2大百貨店である「阪急百貨店」と「阪神百貨店」、関西圏中心の食品スーパー「イズミヤ」などで構成される総合生活産業グループである。

中でも阪急うめだ本店は、西日本最大の売場面積を誇る地域のランドマーク的店舗である。「劇場型百貨店」をコンセプトに、モノを売るだけでなく、4層吹き抜けの「祝祭広場」を活用して、さまざまなコト(文化的価値)も提案している。

2021年には、リニューアルを終える阪神梅田本店がグランドオープンを予定している。

J.フロント リテイリング(大丸松坂屋百貨店)<3086>――2つの歴史的DNAが強み

1717年創業の京都伏見発祥の大丸と、1611年に名古屋で創業され、尾張徳川家の呉服御用達であった松坂屋が経営統合して、2007年に設立された共同持株会社だ。

前身となる大丸と松坂屋が数百年間にわたってさまざまな変化に対応してきたように、Eコマースやシェアリングエコノミー時代に即応できる「小売の新たなビジネスモデル」を目指している。

2012年に「パルコ」を連結子会社化し、グループ全体の売上とブランド力を強化した。2017年には不動産事業を独立させて「GINZA SIX」や「上野フロンティアタワー」を手掛けるなど、グループ事業構造の変革を進めている。

近鉄百貨店<8244>――本店のリニューアルを控える大阪を中心に地域に根差した百貨店

近鉄百貨店は、大阪市阿倍野区に位置するあべのハルカスに本店を構える近畿地区地盤の百貨店だ。小売業界を取り巻く環境の変化に対して「新たな創造とイノベーション」を掲げて、新たな事業モデルの構築を目指している。

経営コンセプトは、「共創型マルチデベロッパー」。地域に根差した複合商業施設の運営や、旗艦店のハルカス本店や既存店舗のリニューアルなどで、地域の魅力の最大化を積極的に後押しする。

東急(東急百貨店)<9005>――東急電鉄沿線で賑わう東急グループの百貨店

東急百貨店は、言わずと知れた東急電鉄を中核とする企業グループ傘下の百貨店だ。東急グループは、東急電鉄が乗り入れる駅周辺に鉄道事業を基盤とした「まちづくり」を行うことを事業の根幹としている。

ブランドの価値向上にも力を入れており、旗艦店である東急百貨店本店では、東急ブランドを背景に、ハイクオリティな商品の品揃えと良質なおもてなしを実践している。東急百貨店は、渋谷の再開発に伴って誕生した渋谷ヒカリエの「ShinQs」の運営も手掛けており、渋谷マークシティには「東横のれん街」が移転し、開業している。

東武鉄道(東武百貨店)<9001>――池袋拠点の大型新ターミナル百貨店

東武鉄道の百貨店事業は、東武鉄道沿線の東武百貨店と東武宇都宮百貨店からなる。中でも池袋店は、グループ百貨店最大の売場面積を誇る大型店舗だ。池袋周辺の顧客だけでなく、東武鉄道ターミナル駅という地の利を活かして、東武鉄道沿線に住む幅広い客層を取り込んでいる。

小田急電鉄(小田急百貨店)<9007>――断続的なリニューアルで「感動創造」を目指す

小田急百貨店は店舗数が少ないながらも、上質な品揃えと高いサービスに定評がある。新宿店は、小田急電鉄利用者だけでなく、新宿を拠点とする多くの顧客を抱える旗艦店だ。変化する事業環境において、小売業の枠を超えて価値を提供できる「感動創造企業」の実現に向けた取り組みを積極的に行っている。

新宿店の和・洋菓子売場や総菜・弁当売場など、人気エリアのリニューアルは定期的に行われており、町田店も2019年3月にリニューアルグランドオープンしたばかりである。

丸井グループ <8252>――気候変動を経営課題の1つとして掲げる

丸井グループは、中核である「マルイ」や「マルイシティ」、「マルイ メン」、「マルイファミリー」、「モディ」など、立地や対象顧客に応じて、ブランドコンセプトを変えながら中規模店舗を展開するスタイルだ。他の大手百貨店とは異なり、日常的に利用できる店舗づくりと品揃えを特徴とする。

丸井グループは、気候変動を重要な経営課題の1つとして認識している。グループ全体で気候変動のリスクの管理や、温室効果ガス排出の抑制に向けた取り組みを積極的に行い、気候変動をチャンスに転換する事業戦略を取っている。

9,百貨店業界の今後――従来型のビジネスモデルの転換期に直面

中長期的な人口減少や少子高齢化によって、国内消費市場は縮小していくことが予想される。百貨店業界は、インバウンド需要に依存する、あるいは駅前の大型店舗で集客するという従来のビジネスモデルからは成長戦略が描けないという課題に直面している。

それらを踏まえて、百貨店としての持続的な成長を目指し、各社とも不採算店の閉鎖やコスト構造改革、利益率の向上、ビジネスモデルの再構築などを着々と進めてきた。

しかし、2019年度に入ると消費税率が10%に引き上げられ、消費が落ち込んだ。それに追い打ちをかけるように、2020年初春以降は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で、百貨店業界も営業時間の短縮や自粛を余儀なくされた。さらに2020東京オリンピックの延期によって、期待されたインバウンド需要もまったく期待できない状況となっている。

百貨店業界は国内外の気候や景気動向、消費者動向などに左右されやすく、特に2019年から2020年にかけての情勢によって、業界を取り巻く環境の悪化は避けられないだろう。このような厳しい状況においても、構造改革やビジネスモデルの再構築をさらに推進し、時代にマッチした新しい百貨店に生まれ変わってほしいものだ。

文・近藤真理(フリーライター)/MONEY TIMES

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