中川 崇
中川 崇(なかがわ・たかし)
公認会計士・税理士。田園調布坂上事務所代表。広島県出身。大学院博士前期課程修了後、ソフトウェア開発会社入社。退職後、公認会計士試験を受験して2006年合格。2010年公認会計士登録、2016年税理士登録。監査法人2社、金融機関などを経て2018年4月大田区に会計事務所である田園調布坂上事務所を設立。現在、クラウド会計に強みを持つ会計事務所として、ITを駆使した会計を武器に、東京都内を中心に活動を行っている。

税務署には、税金の未払い者の財産差し押さえなどを行う「賦課権」がある。賦課権には、一定の期間を過ぎれば行使できなくなる時効期間があり、贈与税にも時効が設定されている。ここでは、贈与税の時効の期間や留意点、贈与税を節税するための方法についても説明する。

贈与税の時効が適用される期間は?贈与税の時効は6年

贈与税
(画像=Tolikoff Photography/Shutterstock.com)

通常、税金の時効は国税通則法によって、以下のように5年と定められている。

第七十条 次の各号に掲げる更正決定等は、当該各号に定める期限又は日から五年を経過した日以後においては、することができない。

(注:引用に際してカッコ内は省略した。以下同様。)

ところが、贈与税の場合は相続税法によって以下のように定められている。

第三十六条 税務署長は、贈与税について、国税通則法第七十条の規定にかかわらず、次の各号に掲げる更正若しくは決定又は賦課決定を当該各号に定める期限又は日から六年を経過する日まで、することができる。(後略)

つまり、贈与税の時効は6年であり、他の税金に比べて1年長めに設定されている。

不正行為などの悪質な場合の時効は7年

国税通則法によって定められた税金の時効や、相続税法に定められた贈与税の時効6年といった期間設定は、あくまで悪質な税逃れなどの不正行為が無い場合と定められている。しかし、悪質な不正行為が発覚すれば、税金の時効期間は長くなる。

国税通則法70条では以下の条文がある

4 次の各号に掲げる更正決定等は、第一項又は前項の規定にかかわらず、第一項各号に掲げる更正決定等の区分に応じ、同項各号に定める期限又は日から七年を経過する日まで、することができる。
一 偽りその他不正の行為によりその全部若しくは一部の税額を免れ、又はその全部若しくは一部の税額の還付を受けた国税についての更正決定等
二 偽りその他不正の行為により当該課税期間において生じた純損失等の金額が過大にあるものとする納税申告書を提出していた場合における当該申告書に記載された当該純損失等の金額についての更正

つまり、税務署は、悪質な行為によって税金の支払いを免れようとした者に対して、7年間に渡って追及できることになる。

贈与税の時効の計算は、贈与があった時点ではなく贈与税の申告の締め切り日を基準として算出される。つまり、贈与があった年の翌年の3月15日から始まり、6年後(または7年後)の3月15日が経過したときに時効が成立する。

贈与税の時効に関する留意点4つ

贈与税の時効期間が過ぎたからといって、税金を支払わなくていいのだろうか?ここでは、贈与税の時効について、留意すべき点を説明する。

1.贈与が成立していない場合がある

そもそもの問題として、贈与が成立しているかどうかという問題がある。贈与の成立に関しては、民法に以下のような規定がある。

第五百四十九条 贈与は、当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。

つまり、贈与には、与える側の意思と受け取る側の承諾の両方が必要であり、そのいずれかが欠けていると成立しない。

相手が預かり知らないところで相続を行っても、相手は贈与を承諾しようがないため、贈与は成立しない。そのため、贈与税の時効も、いつまでたっても成立しないことになる。

2.名義預金は典型例

贈与が成立していないのにも関わらず、贈与した本人は贈与を行ったと思い込んでしまう事例として「名義預金」が挙げられる。

名義預金とは、実際の預金者と名義上の預金者が異なっている預金である。

例えば、親が子供に贈与するつもりで、子供には知らせずに子供名義の預金通帳に預金を入れるといった事が該当する。

親は贈与する意思があるのは明白だが、名義人となった子供は贈与の事実を知らされていないため、贈与の承諾の意思を示すことができない。そのため、贈与が成立しないため、贈与税の時効も成立しない。

3.不動産の贈与

また、贈与税の時効について間違えやすいものとして不動産の贈与がある。不動産の贈与を行う際には、以下のような手順を踏む。

1 不動産の贈与について与える側、受け取る側の合意をして受け渡しをする
2 不動産の所有者変更について登記をする

ここで問題となるのは、どの時点で贈与があったと判断されるかである。

過去に、①があってから8年以上経過したあとに②を行ったことについて、どちらが贈与の実行があったかについて裁判が行われた。このときの判決は、②の「登記をしたときに贈与があった」となった。(名古屋高裁平成一〇年(行コ)第三四号)

不動産の贈与に関して、登記を遅らせることで贈与税の時効を成立させる事が不可能であることが、この判決から見て取れる。

4.贈与は相続時にすべて調べられる

相続発生時には、亡くなられた方の財産について調査され、預金の動きなどで贈与がわかることがある。

その際に、少なくとも時効が到来していないものについては贈与税の申告を促され、贈与を実施したにも関わらず贈与が成立していない場合にも、相続税の追加納付が通達されることとなる。

贈与税の無申告によるペナルティは?

税金の申告がないことが発覚した場合、さまざまなペナルティが課せられることになる。

贈与税の時効を狙って申告をしなかったことが税務署に発覚した際に、どのような税金が課せられるのか説明する。

無申告加算税

贈与税の申告が期限後になったり、期限後申告について修正申告や更正があった場合、本来納めるべき納税金額に加えて、以下の税金が追加で課せられる。

  • 50万円までの部分:15%
  • 50万円超の部分:20%
  • ただし軽減措置あり

重加算税

税金について仮装や隠蔽があった場合、状況にもよるが、本来納めるべき税金の35%から40%の税金が追加で課せられる。

過少申告加算税

税金の一部について申告して納税はしたものの、後になって不足が判明した場合は、本来納めるべき税金との差額に加えて、以下の税金が追加で課せられる。

  • 50万円までの部分:10%
  • 50万円超の部分:15%
  • ただし軽減措置あり

延滞税

過少申告などで税金の納付が送れた場合は、延滞税が課せられる。2020年の延滞税の税率は以下の通り。

  • 納期限の翌日から2ヵ月間は「年2.6%」
  • それ以降は「年8.9%」

贈与の申告方法と贈与税を減税する方法

それでは、実際に贈与をするとなるとどうすればいいのか。

無謀な時効狙いをせずに、しっかりと贈与を行い、それに見合った税金を納めることが唯一の正解である。

それではどうすればいいのかについてこれから説明する

贈与の申告と贈与税の納税タイミング

贈与は、民法の条文の通り、与える側の意思と受け取る側の承諾の両方が必要であるが、基本的にはこれらを文書に残す必要はない。

ただし、贈与が成立した証拠を残すためには、契約書を作成して、贈与に対するお互いの意志と承諾があることを残さなければならない。

贈与に関する契約書には取り決めはないため書式は自由であるが、必ず以下の項目についての記載が必要となる。

  • 贈与者、受贈者の氏名
  • 贈与の対象になるもの(特定させること)
  • 贈与の時期
  • 贈与の方法(現金の場合は振込が望ましい)
  • 契約の日
  • 署名または押印

通常、贈与契約書には収入印紙は不要であるが、不動産の贈与については1通につき200円の収入印紙を貼付しなければならない。

贈与税の申告は例年、贈与のあった翌年の2月1日から3月15日までに行い、納税は贈与のあった翌年の3月15日までに行う必要がある。

贈与があったにも関わらず納税をしなければ、税務調査の対象となり、延滞税など追加の納税を行うことになるので、納税期間を遵守していただきたい。

贈与税の非課税制度の利用

贈与税の制度の中には、条件付きながら非課税となる制度がある。いくつか例を挙げる。

まず、直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税がある。これは、直系尊属(両親や祖父母など)から住宅を購入するための資金を受け入れた場合、最大で1,500万円まで非課税になる制度である(契約を2020年4月1日から2021年3月31日までに行った場合)。

この制度のもとで贈与を受けた資金については、住居や土地を取得するためだけに利用でき、登記費用などの付随する費用への充当はできない。

子供や孫の教育資金が非課税になる制度もある。これは直系尊属から受け取った教育資金について、1,500万円までが非課税になるものであり、この制度のもとで贈与された資金は学校の授業料や通学費用などに充てることができる。

また、結婚子育て資金の贈与の制度もある。これは直系尊属から結婚や子育ての資金について、1,500万円までが非課税になる制度である。

これら非課税制度を利用する事で、贈与税の節税を行う事も可能である。

相続時生産課税制度を活用した節税

どうしても贈与したいが、当面税金を支払いたくない場合は、相続時精算課税制度を活用する事で節税を行う事ができる。

相続時生産課税では、贈与は行うものの通常の贈与税は支払わず、相続時に相続財産にこの制度によって贈与を受けた資産を加えて、相続税を計算するものである。ただし、2,500万円を超えた部分については、20%の税金を一旦支払わなければならない。

例えば、今は資産価値が低いが将来価値上昇が見込まれる土地や株式の贈与や、遺言によらずに特定の財産を任意の人物に移転させたい場合に活用することが有効である。

また、遺言や遺贈が有効に使える場合は、すぐに必要な資産は贈与して、そうでない場合は、遺言書に残して相続発生の後に任意の人に渡すことが可能である。

現状と相続する財産の内容を考慮した上で、相続時生産課税を利用する事で、税金を低く抑えて資産を相続することも可能となるのだ。(提供:THE OWNER

文・中川崇(税理士)