企業にとって決算賞与の支給は、貴重な節税手段のひとつです。ただし、メリットがある反面でデメリットや注意点も存在するため、安易に支給を決めるべきではありません。検討中の経営者は、決算賞与の基礎知識やポイントをしっかりと確認しておきましょう。

決算賞与とは?未払いの状態で損金計上するための3つの条件

賞与,給与
(画像=freeangle / PIXTA)

決算賞与とは、決算の前後に臨時で支給される賞与のこと。支給される理由はさまざまですが、従業員に決算賞与を支給すると当期の利益を減らせる(=税金を抑えられる)ため、決算賞与は節税対策のひとつとして活用されています。

決算賞与の最大の特徴は、未払いの状態でも損金計上ができる点です。決算前に支給した分はもちろん損金になりますが、決算までに支給が間に合わなくても、以下の要件を満たすことで当期の損金として処理できます。

【1】事業年度終了日までに、対象となる全従業員に支給額を通知していること
【2】通知した支給額を、事業年度終了日の翌日から1ヶ月以内に全額支払うこと
【3】通知した支給額を、当期の未払いの賞与として損金処理をしていること

未払いの状態で決算賞与を損金計上するには、決算のタイミングで支給額を確定させる必要があります。決算賞与の通知日から支給日までの間に退職者が出るなど、何らかの事情で支給額に変動があった場合には、全額の損金計上が認められません。

また、給与規定で「支給日在職基準」を定めている企業は、仮に退職者が出なくても支給日まで金額が確定しないため、上記の要件を満たしていないものとみなされます。

会社が決算賞与を支給するメリット

決算賞与を支給する最大のメリットは、税金を抑えられる点にあります。支給額が損金として認められれば、その分を当期の利益から差し引けるため、決算賞与は法人税などの節税手段として活用されています。

また、従業員のモチベーションにつながる点も、決算賞与を支給する大きなメリットです。たとえば、社員の努力によって業績が上がったタイミングで支給をすると、「従業員をしっかりと評価してくれる会社」などの良いイメージを与えることにもつながります。

決算賞与による節税のデメリットと注意点

決算賞与の支給にはメリットがある一方で、以下のようなデメリットや注意点も潜んでいます。

・会社に残るキャッシュ(現金)が減ってしまう
例:(法人税を30%として)
決算賞与500万 当期利益 1,000万円  →キャッシュアウト合計800万円
決算賞与なし  当期利益 1,500万円  →キャッシュアウト合計450万円

・1度支給すると、従業員が翌期以降も期待するようになる

仮に決算賞与によって節税をしたとしても、一般的なケースでは「法人税の減少額<決算賞与の総額」となるため、決算賞与を支給するとどうしても会社のキャッシュは減ってしまいます。従業員のモチベーションを高めつつ節税できる点は魅力ですが、特に資金繰りが厳しい企業は「決算賞与を支給しても経営に支障を来さないのか?」について慎重に検討しなければなりません。

また、決算賞与は節税対策として利用されやすいので、必然的に税務調査の対象に含まれてきます。したがって、後述で紹介する税務調査への対策も、事前に考えておくことが重要です。

「業績給」として支給するなど、リスクを抑える工夫が重要に

上記で解説したデメリットや注意点は、決算賞与を支給するリスクとも言い換えられます。いずれも注意が必要になるリスクですが、決算賞与のリスクは以下のように工夫を施すことで、ある程度は抑えることが可能です。

1.税務調査対策では、徹底的に証拠を残す

決算賞与の税務調査対策では、万が一指摘を受けたときにしっかりと説明できるよう、徹底的に証拠を残すことが大切です。たとえば、口頭ではなく書面で通知を行う、銀行振込で支給するなど、事実関係がわかりやすい形で支給することを意識しましょう。

また、可能であれば決算後に支給する「駆け込みボーナス」は避け、決算前に賞与を支給しておくとリスクをより抑えられます。

2.従業員のモチベーションを維持するために、業績給として支給する

決算賞与の支給が当たり前になると、「従業員のモチベーションを高める」というメリットが失われてしまいます。このリスクへの対策としては、従業員ごとにインセンティブを設けるなど、「業績給」として決算賞与を支給する方法が効果的です。

数値目標を設定するなどの手間は必要になりますが、従業員のモチベーションアップは決算賞与の大きなメリットとなるので、社員をうまく刺激できる仕組み作りを目指しましょう。

決算賞与の支給は慎重に検討を!給与規定の見直しも忘れずに

決算賞与の支給にはメリットがある反面で、注意するべきデメリットも潜んでいます。支給を検討している経営者は、本記事で解説したメリット・デメリットを見比べたうえで、慎重に検討をしなくてはなりません。

また、給与規定によっては未払い分を損金計上できない恐れがあるため、給与規定の見直しや変更も忘れないようにしましょう。(提供:企業オーナーonline


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