内山 瑛
内山 瑛(うちやま・あきら)
公認会計士。名古屋大学法学部在学中に、公認会計士試験に合格。新日本有限責任監査法人に入所し、会計監査・コンサルティング業務を中心に研鑽を積む。2014年に同法人を退所し、独立。「お客様の成長のよきパートナーとなる」ことをモットーに、記帳代行・税務申告にとどまらず、お客様に総合的なサービスを提供している。近年は、銀行評価を向上させる財務コンサルティングや内部統制構築支援、内部監査の導入支援にも力を入れている。

「黒字」や「赤字」いう言葉は、経営者であれば誰でも知っているだろう。事業がうまくいけば黒字になり、うまくいかなければ赤字になる。売上が増えれば黒字になる可能性は高くなるし、売上が減れば赤字になりやすいが、それだけで決まるわけではない。売上が下がっていても黒字にする方法はあり、売上が伸びていても赤字になってしまうこともある。

そもそも黒字、赤字とは?

黒字倒産
(画像=NicoElNino/Shutterstock.com)

今回は、そんな「黒字」「赤字」についてみていきたい。

黒字とは?

黒字とは、収入や収益が支出や費用を上回って剰余が生じた状態、または剰余そのもののことだ。一般的には「黒字財政」や「黒字決算」など、決算で用いられることが多い。企業会計において黒字・赤字が問題になるのは、「営業利益」「経常利益」「純利益」である。

「営業利益」は、会社が本業で稼いだ利益のことだ。売上高から販売する商品などの仕入原価である売上原価を差し引いたものが「売上総利益」で、売上総利益から「販売費及び一般管理費」を差し引いたものが営業利益である。

「販売費及び一般管理費」とは、企業の本業にかかわる費用のうち、仕入代金以外の費用を指す。営業利益が黒字の場合は、本業で儲けが出ていることになる。

「経常利益」とは企業が事業全体から経常的に得た利益のことで、本業以外の収益と費用も反映させる。

そのため、営業利益が黒字であっても、投資などで大きな損失を出したり、借入金が多く利息負担が大きかったりする場合は、営業利益が赤字になってしまうことがある。

経常利益が黒字の場合は、企業の経営全体において利益が出ていることを示している。「純利益」は、通常の経営活動には含まれない例外的な「特別利益」や「特別損失」を差し引き、さらに税金の支払い分を差し引いて計算される。

純利益は、事業年度内に発生したすべての収益からすべての費用を差し引いて計算され、理論的には、会社の純資産(資本)の増加と一致する。純利益が黒字の場合は、企業活動におけるすべての収益が費用よりも大きく、その事業年度において会社の純資産(資本)が増加したことを示している。

赤字とは?

赤字とは、支出や費用が収入や収益を超過している状態、また超過額そのもののことだ。

営業利益が赤字の場合は本業で損を出していることを示し、経常利益が赤字の場合は企業経営全体として利益がマイナス(損失)であったことを示し、純資産が赤字の場合は事業年度内の企業活動によって会社の純資産(資本)が減少してしまったことを示している。

決算書で銀行が注目する部分とは?

中小企業の経営と銀行からの信用は、切っても切り離せない。中小企業においては、銀行からの信用と社会的信用はほぼ同義であり、経営者は銀行が決算書の何を気にしているかを熟知しておく必要がある。

銀行はその会社に対する融資を、これまでの取引状況や違法行為・行政処分の有無などに加えて、決算書でも審査する。そのため、銀行が決算書で注目するポイントを知っておくことで、融資を有利に受けられる可能性が高まるのだ。

融資を受けるにあたって最も重要なことは、「黒字であること」だ。黒字であることは、企業の稼ぐ能力、すなわち債務を返済する能力そのものと見なされる。継続的かつ安定的に収益を上げ、資金を返済に回すことができるかどうかを判断するにあたって、「黒字であるかどうか」は極めてわかりやすく、かつ重要な判断基準なのだ。

過去3年間で2回以上赤字があると、安定的に収益を上げる能力がない企業と見なされ、融資審査ではかなり不利になってしまう。一時的な要因による業績の落ち込みであっても、審査では厳しく評価されることもあるので、赤字決算はできる限り避けたいところだ。

融資においては、黒字であること以外にも重要な項目がある。黒字以外に、どのような評価ポイントがあるのだろうか。

特にそれまで取引のなかった銀行が注目するのが、純資産の合計額である。純資産がプラスであれば融資の前提条件は満たすが、マイナスの場合は債務超過の状態であり、融資を受けることはほぼ絶望的だろう(融資を受けられる場合でも、短期間で債務超過を解消するための現実的な計画が求められる)。債務超過の状態は、資産額よりも債務額のほうが大きいため、信用力が著しく低い。

そのほか、現預金の残高や借入金の金額とその内訳も重要である。現預金については、月商の1ヵ月分以上ないと、支払能力のない会社と見なされてしまう。月商の2ヵ月分あれば好ましく、3ヵ月分あれば優良企業と判断される。

借入金の残高も重要だ。他行からの借入金が多く、借入金が年商の50%を超えている場合は、その会社の財務状態は悪いと見なされ、融資を受けることが難しくなる。

銀行が決算書を見る場合、税務署のような粗探しをされることはないが、粉飾を疑われると決算書の内容について様々な質問や確認を受けることになる。架空の売掛金や在庫、減価償却費の計上は常套手段であり、粉飾が発覚した場合は厳しく評価されることになる。

黒字を継続するためには?

どの企業でも、業績が悪化してしまうことはある。一時的に赤字になってしまうことは仕方がないが、できる限り赤字の発生は防がなければならない。

継続的に黒字を出すためにしなければならないことは、月次決算である。赤字の予兆をいち早く感じ取り、早期に手を打つことが赤字の予防に効果があるからだ。

税務会計以外でも、退職金の引当金計上をしたり、特別償却を積立金として処理したりすることで、特別損失の発生を抑えることができる。戦略的に黒字を計上するためには、ビジネスの持続的な拡大のみならず、税理士などとよく相談して戦略的な会計処理を行うことも必要なのだ。

黒字であっても注意すべき場合は?黒字倒産することも

倒産というと、赤字の会社を想像する人が多いだろう。しかし、ある調査によると倒産した企業の約半数は黒字にもかかわらず、倒産の憂き目にあっている。なぜ、利益が出ているのに倒産してしまうのか。

また毎年多くの企業が赤字を出しており、継続的に赤字を出している会社も少なくない。赤字だからといって、倒産するとは限らないのだ。一方で黒字決算だからといって安心していると、突然倒産してしまうこともある。その理由を見ていこう。

倒産とは、債務を支払うことができず、事業を継続することができない状態のことだ。通常は支払期限を延ばしてもらうよう交渉したり、新規の借入を起こしたりして倒産を回避するのだが、それも難しい状態が倒産だ。

黒字でも倒産する理由

黒字なのに倒産になったり、赤字なのに倒産しなかったりする理由は、会計上の収入と支出が、現金の入出金と一致しないからだ。たとえば、仕入れた商品の支払いをして、半分しか売れていない状態を考えるとわかりやすい。資金的には明らかにマイナスだが、損益的には多額の棚卸資産が計上されるため黒字になるのだ。

黒字でも倒産してしまう企業は、多くの在庫や過剰設備を抱えていたりするケースが多い。

黒字でも倒産する企業がある一方で、赤字でも倒産しない企業もある。その理由はいくつかあるが、多くの場合はその会社の財務基盤がしっかりしているからである。

過去の黒字によって現預金が潤沢にあったり、担保になるような優良な不動産を保有していたりすると資金調達ができるので、資金ショートが起こりにくい。また、その会社には資産がなくても、役員や株主の個人資産や信用によって資金調達ができることもある。しかし、そのような会社であっても赤字が続けば、いずれは倒産することになるだろう。

黒字倒産が倒産の約半数を占めるという事実は、会計上黒字であったとしても安心せず、倒産しないための注意を払わなければならないことを示している。

黒字倒産を防ぐ方法

黒字倒産を防ぐためには、経営者は自社の損益だけでなくキャッシュフロー(流出するお金と流入するお金の流れ)を正確に把握し、資金がショートしないように努力するとともに、資金繰り表でキャッシュフローを管理するなど、資金が足らなくなる場合に備える必要がある。

キャッシュフローの把握に役に立つのが、キャッシュフロー計算書や資金繰り表である。中小企業ではキャッシュフロー計算書の作成は義務付けられていないが、倒産回避という面では、損益計算書や貸借対照表に匹敵するほど重要度の高い財務諸表と言える。

キャッシュフローを良好な状態にするには、仕入代金の支払いをできるだけ先に延ばし、売上はできるだけ早く入金してもらえるよう努力すべきだ。キャッシュフローの改善は、無駄な投資や過剰な在庫を抑えたり、代金が前払いのビジネスを持ったりすることでも実現できる。キャッシュフローを常にプラスにすることで倒産を防ぐこと、これは経営者にとって最も大事な仕事と言えるだろう。(提供:THE OWNER

文・内山瑛(公認会計士)