政府は、5月14日に緊急事態宣言の適用を一部解除することを決めた。特定警戒の5県を含む、39県を解除した。それによって、予想されていた経済損失は、7.4兆円ほど軽減される。残る8都道府県が経済全体に占めるウエイトは全体の約半分だから、特定警戒地域が残っている効果は依然として大きい。今後、需要面での弱さが根強く残るであろうから、引き続き政府は、企業向けの経済支援を十分に行っていく必要がある。

経済
(画像=PIXTA)

39県の解除

政府が経済再生に向けて動き出した。5月4日に約1か月間の緊急事態宣言の延長を決めて、その期限を5月31日としていたが、今回、その一部を見直すことにした。事前に予告されていた5月14日の中間評価では、まず、当初13の都道府県だった特定警戒地域を8に絞り込んだ。茨城、愛知、岐阜、石川、福岡の5県はここから除外した。残りの34県についても、緊急事態宣言を解除した。

筆者の試算では、新型コロナウイルス感染に伴って生じる経済損失(実質GDPベース)は、トータ ルで45.0兆円になる。そのうち、5月7~31日までの延長によって追加的に生じたものが23.1兆円と計算される(5月6日までの損失は21.9兆円)。31日の期限を待たずに39県が解除されたことは、23.2兆円の追加損失のうち、7.4兆円(対実質GDP比+1.4%ポイント)を改善させるものだ(図表)。そのうち、5月7~14日にかけて、すでに8日間が過ぎていて、残りは15~31日の17日間になる。この17日間のうち、39県分の経済損失が軽減されることになる。

緊急事態宣言39県解除の経済効果
(画像=第一生命経済研究所)

引き続き特定警戒都道府県として指定される8 地域は、2017年度の県民経済計算では実質GDPの51.1%のウエイトを占めている。つまり、15~31日の17日間では、全体の48.9%に当たる39県分の経済損失が軽減されることになる。5月7~14日の損失は8.0円だった。15~31日の損失15.1円のうち48.9%となる7.4兆円は、解除によって今回プラス方向に改善するインパクトとなっている。民間予測機関は、2020年4~6月の実質GDPの前期比年率換算の伸び率が▲20%以上ものマイナスになると予測しているが、その見通しのいくらかは今回の解除によって上方修正されると見込まれる。

今後の経済政策へのインプリケーション

日本経済のうち、特定警戒都道府県の8地域の経済規模は、全体の約半分を占めているので、経済再開と言って、まだ道半ばであると心得た方がよい。それに、39県の人々が以前のように活発に活動を再開はしないだろう。特に、他県への移動には慎重さが残るであろう。旅行需要は当分は沈滞したままになるということだ。夜の外出や飲食・遊興にしてもしばらくは抑制されるだろう。また、「三密」になるような集会・イベントも自粛されて、必要最低限の活動に絞られる。つまり、職場の活動や店舗の営業が再開したとしても、需要回復はまだまだ十分には進まず、企業収益は下押しされ続けるだろう。

こうした状況を経済メカニズムの文脈で読み替えると、緊急事態宣言は強烈な供給制約を課したが、一旦、それが行われると需要サイドも落ち込んでしまい、その後、供給制約を緩めたとしても、需要サイドの落ち込みはすぐには改善していかないということだ。後遺症というか、履歴効果が強く働くのである。これは、需給バランスが悪化した状態、つまりデフレ環境が今後も続くということを意味する。

ただし、感染リスクが再燃する可能性が残っていることを考えると、デフレ環境に対して政府が一気に需要刺激に動けるとは思えない。旅行関連の需要梃入れを念頭に置いて、割引クーポン券を配ったり、大型公共事業を積み増して総需要政策をすることはしばらく手控えざるを得ない。

改めてフェーズづくりが必要

政府は、経済再開を段階的に進めつつも、その中では当分は経済支援を継続する必要がある。中小企業向けの持続化給付金の追加や、資金繰り支援の拡充である。大企業向けにも、公的金融機関を通じた劣後ローン・優先株の拡充が求められる。

筆者は、今回、政府が経済再開に舵を切ったことは高く評価したい。おそらく、二次感染リスクは当分の間消えることはないから、企業支援を中心にしたフェーズは結構長くなるだろう。しかし、政府は、今後いずれかの時点で「密集」の制限を緩和して、本格的な需要刺激に転換することを決めなくてはいけなくなるだろう。企業支援を中心としたフェーズから、需要刺激を一気呵成に行うフェーズへの転換である。政府は、そうした先々のスケジュールづくりを早急につくって発表することが望ましい。「本当の経済再開はそれから」ということになるだろう。(提供:第一生命経済研究所

第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部
首席エコノミスト 熊野 英生