新型コロナウイルスの影響で業績が悪化する中小企業が増えているが、ビジネスモデルの転換や技術を活かした新機軸の製品作りで業績を伸ばしている企業もある。コロナ下でも事業活動を維持もしくは成功させるために、中小企業の経営者に求められる戦略とは?

新型コロナによる倒産、全国で少なくとも132件に

経営戦略
(画像=PIXTA)

民間調査会社の東京商工リサーチがまとめたデータによれば、新型コロナウイルスの影響で倒産した企業は5月11日時点で132件に達している。特に宿泊業での経営破綻が目立ち、業種別では最多の29件に上る。

飲食業も19件、アパレル関連も13件と、厳しい状況が続く。宿泊業、飲食業、アパレル関連はほとんどが「B to C」のビジネスであり、一般消費者向けに事業を展開してきた企業の業績悪化が鮮明な状況となっている。

東京商工リサーチは負債1,000万円以上の法的整理などを倒産調査の対象としていることから、実際の経営破綻の件数は132件という数字をゆうに超える状況となっているとみられる。

悪戦苦闘している中小企業から学べること

このような厳しい状況下においても発想を転換し、ピンチを何とか切り抜けようと悪戦苦闘している中小企業は少なからずある。こうした中小企業の事例には、ピンチをチャンスに変えるためのヒントが隠されているはずだ。

いま忙しい業界に営業先を変える

受託型でシステム開発やウェブ開発などを請け負ってきた中小企業の中には、営業先リストを大幅に修正した企業もある。例えば、これまで製造業の企業をメインターゲットに営業をかけてきたシステム開発企業が、テレワーク(リモートワーク)関連の事業を展開する企業などへの営業を強化する、といった形だ。

コロナにより休業や外出自粛が続く中、売上が激減している業界もあれば、逆に伸びている業界もある。その代表格といえばテレワーク関連だが、EC(電子商取引)や電子決済、テイクアウト、食品スーパーなどの業界では、売上高が前年比増となっている企業も少なくない。

これらの企業に営業先を変えることで、一定の売上を維持することができるケースもあるほか、新たに獲得した顧客が開発予算を多く確保していた場合は、これまでよりも売上を伸ばすことができる可能性すらある。

供給が激減した商品・製品を作る

コロナの状況によって供給が激減している商品・製品を作るというのも、考えられる一つの選択肢であると言える。新型コロナウイルスの感染拡大で供給が激減した商品の代表例は「マスク」だ。アパレル関係の企業の中にはこれまでは作ったことがないマスクの生産に取り組み、ネット販売で売上を重ねている企業もある。

たとえば広島県のコーポレーションパールスター社は普段は転倒予防靴下などを製造しているが、現在は布マスクの生産にも取り組んでいるという。売り先となっているのは県内の病院などで、報道などによれば、5月からは月産5万枚の体制にするという。シャープなどを始めとした製造業企業によるマスク生産も目立つ。

「世界の工場」とも言われる中国では工場の操業停止などが相次いだが、そのために供給が減ったパーツ・部品の製造に乗り出すのも一つだ。もちろんそのパーツ・部品の製造に耐えうる技術力や設備投資が必要となるが、逆に高い技術力を有している企業であれば、新たな事業を確立するチャンスにもなり得る。

「待つ」から「出向く」への転換

国や自治体が住民に外出自粛を呼び掛ける中、テイクアウトや宅配の需要が伸びている。このニーズにいち早く対応すれば、一定程度の売上確保が見込める可能性が出てくる。

このような対応は初動が重要だ。他店が宅配をしていないときにいち早く始めてこそ、宣伝効果も大きく、需要も取り込みやすい。今までは店舗で客が来るのを待っていたスタイルから、テイクアウトや宅配にスタイルを切り替える——。フットワークの軽さが、こうした危機を耐え抜くには重要となる。

もちろん、テイクアウトや宅配にスタイルを切り替えたからといって、すぐに売上が回復するわけではない。多くの店舗がスタイルを切り替える中、何らかの差別化要素が必要となる。テイクアウト専用のオリジナルメニューなど、ある程度の工夫は求められてくる。

ある意味いまは「攻め時」でもある

新型コロナウイルスの終息がみえない中、飲食業界の中には「オンライン酒場」を始めた店もある。スナックをオンライン化し、客がインターネットを通じてママさんと会話を楽しめるようにするなど、「巣ごもり」をしている人達が自宅にいながらうきうきした時間を過ごせるように工夫している。

多くの企業が厳しい状況の中、これまでには無かった先進的な取り組みはメディアでも大きく取り上げられる。大きく取り上げられれば、利用者の増加にもつながる。中小企業の多くの経営者にとっては苦境が続くが、裏を返せば「攻め時」であるとも言えるのだ。(提供:THE OWNER

文・岡本一道(金融・経済ジャーナリスト)