今後の実質GDPは、最新のESPフォーキャスト調査を使い、さらに緊急事態宣言が39県について解除された前提で計算すると、2020年4-6月にピーク時から落ち込む幅は▲35兆円程度になる見通しだ。リーマンショック時の落ち込み幅が▲43.6兆円だったのと比べると、それほど大きくはないが、深刻であることには変わりがない。今回の落ち込みが、元の水準に戻るまでに要する期間を計算すると、約2年間半である。しかし、人口減少と高齢化によって、民間予想よりも成長率がペースダウンするとそれ以上の時間を要するだろう。
民間予想の落ち込み幅は▲42.6兆円
コロナ危機によって、日本経済はどこまで悪化するのだろうか。5月14日に発表された日本経済研究センターのESPフォーキャスト調査では、民間シンクタンクの直近の成長率予想が集計されている。実績(一次速報)の2020年1-3月は、実質GDPが前期比年率▲3.4%だった。シンクタンク予想の4-6月は▲21.33%となっている。これがボトムである。
従来の実質GDPのピークは、消費税の駆け込みもあって、2019年7-9月の539.4兆円であった。ここからは、コロナ危機によって、ボトムの2020年4-6月(予想496.9兆円)までどのくらい実質GDPが落ちたのかを計算すると、実額で▲42.6兆円となる(図表)。この落ち込み幅は、対実質GDP比では▲7.9%ポイントになる。
なお、ESPフォーキャストでは、2020 年度の実質GDP予想は前年比▲5.39%まで悪化していた。
注意したいのは、この予想では、5月14日に39県で緊急事態宣言が解除された効果を織り込んでいないことだ。筆者の予想では、2020年4-6月の▲21.33%は、▲16%程度まで改善するとみている。筆者の予想では、民間予想の▲42.6兆円は今後▲35兆円程度まで縮小するとみている。それでも、コロナ危機で生じた経済の大きな穴が巨大であることには変わりはない。また、2021年夏に東京五輪が開催される予定であるが、その恩恵を加えても経済のピークには戻れない。
リーマンショックとの比較
こうした落ち込み幅は、戦後最大と言われたリーマンショックと比べるとどうだろうか。季節調整値の実質GDPは、2008年1-3月の506.8兆円がピークであり、2009年1-3月の463.3兆円がボトムである。そのときの落差は、▲43.6兆円になる(対実質GDP比▲8.6%ポイント)。
これは、緊急事態宣言を解除する前のインパクトと比べると同等だが、39県の解除を織り込むと▲35兆円程度になって、リーマンショックほどではないということがわかる。
また、リバウンドの程度をリーマンショックと比べるとどうだろうか。リーマンショック時は、ボトムから1年後の2020年1-3月(実質GDP483.8兆円)までに回復した幅は、実額で+20.6兆円であった(対実質GDP比+4.1%ポイント)。これは、落ち込み幅に対して、約半分(47.2%)の回復に相当する。
そして、リーマンショック前のピークに戻ったのは2013年4-6月であった。元に戻る前に4年間(17四半期)かかったことになる。この間、東日本大震災があって、その回復に半年程度(2四半期)を要している。従って、リーマンショックは東日本大震災を除いて「全治3年半」という見方ができる。
では、今回はどうなりそうか。ESPフォーキャストを使い、ボトムから1年後の2021年4-6月に実質GDPの水準がどこまで戻ったかを計算すると、+25.2兆円であった。リバウンドの幅は、落ち込んだ幅に対して57.8%となり、だいたい6割になる。リーマンショックよりも民間予想はリバウンドについて楽観的と言えそうだ。
次に、元のGDP水準のピークに戻るのにはどのくらいの時間を要するであろうか。日本経済の平均的な成長ペースは、年1.0%程度である(2015年初から2019年秋の消費増税までの平均値前年比1.04%)。
39県の緊急事態宣言解除を織り込んだベースで計算すると、2022年10-12月になる。これは2年半(=10四半期)を要するという計算だ。また、39県の解除を織り込まないでESPフォーキャストの予測値を先に延ばしていくと、2024年1-3月となる。4年間近く(=15四半期)はかかるという計算になる。こちらは途方もなく先である。
デフレ状況は長期化
ここでは、ESPフォーキャストの数字を所与の条件として、成長率見通しに使っている。今後の経済成長率は、人口減少と高齢化によって、もっと鈍化していく可能性は十分にある。そのため、元の水準に戻るのは、2年半よりも先になる可能性は十分にある。「全治2年半」という見方は少し楽観シナリオかもしれない。
なお、ESPフォーキャストでは、多くのシンクタンクが2021年夏の東京五輪によって経済成長率が大きく加速するとは見ていないことがわかる。以前は、「オリンピックを跳躍台にしてインバウンド需要を拡大させる」というビジョンがあった。おそらく、今はそうした見方は成り立たないだろう。
反対に、リバウンドのペースが遅れることは別の懸念を想起させる。コロナ危機で生じた巨大な過剰供給能力によるデフレ作用である。仮に、過剰供給能力の6割程度がリバウンドによって解消されても、残りが余剰のままで残る。デフレギャップがしばらく放置される。すると、その途上で企業倒産や失業が生じて、需要を押し下げる。すると、デフレ脱却はますます遅れてしまう。
金融財政政策は、ともに現時点で目一杯に緩和をしている。リーマンショック後よりも政策の自由度は小さい。これも、「全治2年半」よりも悲観的にみた方がよい材料である。(提供:第一生命経済研究所)
第一生命経済研究所 調査研究本部 経済調査部 首席エコノミスト 熊野 英生