ここ数年、コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)の動きが加速しています。巨額の資金をインドや米国のスタートアップに出資しているソフトバンク・ビジョン・ファンドが有名ですが、ソニーやパナソニックといった電気メーカー、三井不動産や三菱地所などの不動産会社、NTTドコモやKDDIなどの通信キャリアなど、数多くの大手企業が現在CVCを展開しています。これらのビジネスについて、背景を考察します。

事業連携や新規事業立ち上げを目的とするCVC

大企業,ベンチャー出資
(画像=chesky/stock.adobe.com)

コーポレートベンチャーキャピタル(CVC)とは、事業会社とスタートアップの連携方法の1つで、投資を本業としていない会社がスタートアップに投資することを指します。ベンチャーキャピタル(VC)とよく似ていますが、事業会社や金融機関、機関投資家などから資金を集め、スタートアップに投資するVCに対し、CVCは事業連携や新規事業立ち上げなどを目的としている点が大きく異なります。

CVCは以前からある投資形態の1つですが、なぜ最近、ここまで採用する企業が増えてきたのでしょうか。それはITの普及により、ビジネスの形がデジタル技術とデータによって大きく変わる「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が叫ばれているからです。宅配を行っていない飲食店からも注文ができる「Uber Eats(ウーバーイーツ)」やフリマアプリ「メルカリ」など、デジタルとオンラインにより、新サービスが続々と生まれている現在、大手企業であっても、デジタルを生かした新規事業の立ち上げや業態のシフトなどが求められています。

しかし、長く自社事業に取り組んできた大手企業の中には、保有する技術そのものの発展性が望めなかったり、新たな事業の糸口を見つけても立ち上げに時間がかかったりと、うまく進められないケースもあります。そうした中でスタートアップと組むことは、新規事業の立ち上げや業態のシフトに対し、大きな動力となる可能性があります。投資によりゼロから技術開発に取り組むよりも早く、ビジネスとして成立させることができるという時間的な魅力も大きいでしょう。

スタートアップ側にもメリットはあります。大手企業の持つ資金力はもちろんですが、三井不動産は新サービスなどの実証実験の場として、商業施設「ららぽーと」を提供していますし、大手ならではの人脈を使って、営業先や協業先を紹介するケースもあります。信用力が足りないことの多いスタートアップにとって、大企業が持つ安定した販路やマーケティング手法を利用できることのメリットは非常に大きいと言えます。

スタートアップと連携する大手企業の実際の取り組み

では、実際にCVCによる実績は出ているのでしょうか。トヨタ自動車が出資している米国のジョビー・アビエーションは、「空飛ぶタクシー」と言われる電動垂直離着陸航空機を開発。トヨタの自動車製造の経験も生かされているとされています。KDDIは3月にバーチャルイベント「MUGENLABO DAY 2020」を開催。イベント内では出資しているクラスター社のバーチャルイベントプラットフォームを活用して実施しています。

CVCは大手企業、スタートアップの双方にとって、お互いの足りない部分を補完しあいながら新規事業を生み出す“上手いしくみ”といえますが、課題もあります。1つは企業文化の違い。もう1つはスピード感です。堅く時間厳守で仕事を進める大手企業に対し、スタートアップは自由な働き方を推進している会社が多く、「言語が違う」と感じる人は多いようです。また、スタートアップにいわゆる“下請け”として接してしまう大手企業もあり、そうした意識改革も求められています。

この違いを乗り越えるため、大手企業の中にはスタートアップに関わる部署を“出島”のように切り離し、スタートアップに歩み寄る姿勢を見せています。革靴やスーツといった硬い服装からTシャツやスニーカーにあらためたり、上下関係をなくしたりと風通しの良いオフィスづくりを心がける大手企業もあります。

DXが進む中、ディスラプト(破壊)を恐れる大手企業の新たな活路として期待されるCVC。単なる連携ではなく、大手企業側の意識改革を持って進めることが成功の鍵と言えるようです。(提供:JPRIME


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