ネット銀行の住宅ローンは、金利の低さやネットで手続きができる利便性が魅力だ。民間住宅ローン利用者の24.0%はネット銀行の住宅ローンを利用し、利用者は増加傾向にある(不動産流通経営協会による2020年7月の調査)。果たしてネット銀行の住宅ローンにはリスクはないのだろうか。

目次

  1. ネット銀行が破綻するリスク
  2. ネット銀行で住宅ローンを借りるリスク
  3. ネット銀行の住宅ローンのメリット
  4. ネット銀行の住宅ローンに向いている人

1.ネット銀行が破綻するリスクは?破綻した場合に住宅ローンはどうなる

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(画像=PIXTA)

ネット銀行はメガバンクなどに比べて歴史が浅く、店舗を構えていないことに不安に感じる人もいるかもしれない。もし住宅ローンの借入先であるネット銀行が破綻したらどうなってしまうのか。

結論からいえば、もしネット銀行が破綻しても住宅ローン債権は他の銀行に同じ条件で引き継がれることが一般的であるため、それほど心配する必要はない。破綻後は返済先が引き継ぎ先の銀行に変わるものの、これまでと同じように住宅ローンの返済を続ければよい。

2002年に住宅ローン事業から撤退したシティバンク銀行の例では、条件の変更なくUFJ銀行(現在の三菱UFJ銀行)が契約を引き継いでいる。シティバンク銀行の住宅ローンには、毎月口座残高が指定金額を上回った場合に、超過分を自動で繰上返済に充当する独自のサービスがあった。UFJ銀行は自行にはないこのサービスまで含めて契約を引き継ぎ、サービスの提供を継続した。

ネット銀行の信用力・財務状態の健全性は問題ない

借入先の破綻が住宅ローンへ与える影響がないとはいえないため、ネット銀行の信用力や財務状態が健全であるに越したことはない。その目安として、主なネット銀行とメガバンクのJCR(日本格付研究所)の長期発行体格付、および自己資本比率をみてみよう。

JCRの長期発行体格付の指標は以下だ。

AAA(債務履行の確実性が最も高い)>AA>A>BBB>BB>B>CCC>CC>C>LD>D

AAAが最も信用力が高い。AA〜Bまでの格付けには同一等級内の相対的位置を示すプラス(+)もしくはマイナス(−)の符号が付されることがある(AA+>AA>AA−)。

銀行の健全運営のため達成すべき自己資本比率は以下だ。国内基準と国際統一基準は算出方法に違いがあるため、単純比較はできない。

・国内基準:4%以上
・国際統一基準:8%以上

長期発行体格付(2020年5月時点)・自己資本比率(2019年9月末時点)

銀行名 長期発行体格付
(JCR)
自己資本比率
(単体)
ジャパンネット銀行 A+(安定的) 23.45%※1
住信SBIネット銀行 A(安定的) 7.85%※1
ソニー銀行 AA−(安定的) 9.42%※1
楽天銀行 A(ネガティブ) 10.26%※1
みずほ銀行 AA(安定的) 18.75%※2
三井住友銀行 AA(安定的) 18.78%※2
三菱UFJ銀行 AA(安定的) 16.49%※2
※JCR(日本格付研究所)および各行ディスクロージャー資料より筆者作成
※1 自己資本比率(国内基準)、※2 総自己資本比率(国際統一基準)

ネット銀行の長期発行体格付はA(債務履行の確実性は高い)以上であり、メガバンクのAA(債務履行の確実性は非常に高い)には劣るものの、信用力に問題はないといえる。ネット銀行の自己資本比率についても、国内基準である4%を上回っており、財務健全性についても問題ないといえるだろう。

2.ネット銀行で住宅ローンを借りる4つのリスクとデメリット

ネット銀行の住宅ローンにはどのようなリスクやデメリットがあるのか。メガバンクや地銀・信金など対面型の住宅ローンと比較しながらみてみよう。

⑴対面で住宅ローンの相談ができない

ネット銀行の住宅ローンの手続きは、相談から契約までインターネットを介して自ら行わなければならない。住宅ローンの契約は金額も大きいため不安に感じるかもしれない。その点では対面相談ができるメガバンクの住宅ローンのほうが安心感はあるだろう。

ネット銀行でも不安を軽減し、スムーズに住宅ローンの手続きができるよう、チャットや電話によるサポート体制が整えられている。店舗での対面相談に対応しているネット銀行もあるため、そのような銀行を選ぶのもよいだろう。

⑵住宅ローンの審査に通りにくい

ネット銀行に限った話ではないが、住宅ローンの審査は提出書類に記載された情報をもとにした書類審査が原則だ。特にネット銀行やメガバンクなどが取り扱う住宅ローンWEB申込コースの多くは、適用金利に幅がなく、基準を満たしていない人が審査に通るのは難しい。

一方メガバンクや地銀・信金などの対面型住宅ローンでは、適用金利に幅のあるケースが多い。金利の調整や審査に有利となる書類の追加提出など、銀行側から個別の事情をふまえた上で審査に通るための提案をしてもらえるケースもある。

⑶書類の不備に気づきにくい

ネット銀行の住宅ローンでは、書類の提出は基本的に郵送で行う。提出した書類に不備があったり書類の追加提出が必要になったりすれば、改めて郵送しなければならず、住宅ローンの審査はその分だけ遅れてしまう。

メガバンクなど対面型の住宅ローンであれば、店舗に出向いて書類を作成したり提出したりできるため、書類の不備を比較的早く解消できる。

ネット銀行でも店舗で住宅ローンの手続きができる銀行や、画面入力と画像のアップロードで手続きが完結し、書類の郵送が不要な銀行もある。気をつけていても不備があったり、住宅ローンの審査の過程で追加書類が必要となったりすることはあるため、スケジュールに余裕を持って手続きすることも大切だ。

⑷住宅ローンの融資手数料は繰上返済をしても戻ってこない

住宅ローンを契約する際には、保証料や融資手数料がかかる。ネット銀行では保証料を不要とする代わりに、融資手数料を高めに設定した「融資手数料型」が主流となっている。それに対しメガバンクなどは、融資手数料は数万円程度で、保証料が必要になる「保証料型」が主流だ。

融資手数料は住宅ローンを繰上返済しても戻ってこないのに対し、保証料は繰上返済額に応じて一部が返金される違いがある。借入額の2%の融資手数料がかかる融資手数料型と、同じく借入額の2%の保証料がかかる保証料型の住宅ローンの場合、借入時には負担額に差はない。ただしその後、繰上返済をするのであれば、返金のある保証料型のほうが有利になる可能性がある。

仮に3,000万円を返済期間35年の変動金利で住宅ローンの借り入れるとすると、融資手数料型(ネット銀行)と保証料型(対面銀行)で金利や返済額、保証料・融資手数料には次のような違いがある。融資手数料型は住信SBIネット銀行の場合、保証料型はりそな銀行の場合で表にまとめた。なお、ここでは借入期間中の金利変動がなく、ボーナス返済なしの元利均等返済と仮定する。

  融資手数料型 保証料型
(一括前払い型)
保証料型
(金利上乗せ型)
適用金利 0.457% 0.525% 0.725%
月々の返済額 約7万7,306円 約7万8,207円 約8万0,895円
総返済額 約3,248万円 約3,285万円 約3,398万円
事務取扱手数料
(初期費用)
66万円 約3万3,000円 約3万3,000円
保証料
(初期費用)
不要 約61万8,000円 不要
初期費用の合計額 計66万円 計65万1,000円 計3万3,000円
10年後に全額
繰上返済した場合
の戻し保証料
なし 約22万円 なし
10年間の総返済額 約3,127万円 約3,137万円 約3,190万円
*合計負担額 計3,127万円 計3,115万円 約3,190万円
※初期費用としては登記関連費用、抵当権設定費用、印紙税、火災保険料などが別途必要
※住信SBIネット銀行ローンシミュレータによる試算およびりそな銀行ホームページをもとに筆者作成

融資手数料型の住宅ローンの適用金利のほうが保証料型(一括前払い型)の適用金利よりも低いが、借入時の負担額は9000円の差しかない。これが10年後に全額繰上返済をすると、保証料型(一括前払い型)の合計負担額のほうが、融資手数料型よりも12万円安くなる。

保証料や融資事務手数料は、住宅ローンを借り入れる金融機関や商品、借入額によって違う。保証料が不要でも、同じくらいの融資手数料がかかるケースも多く、保証料型・融資手数料型のどちらが有利かは一概にいえない。

住宅ローンの金利は融資手数料型のほうが低い傾向にあるため、実際の借入条件で金利負担と保証料・融資手数料を計算し、その合計額や月々の返済額、借入時の負担額を比較することが大切だ。

3.ネット銀行の住宅ローンの3つのメリット

ネット銀行の住宅ローンには次のようなメリットがある。

⑴金利が低い

ネット銀行の住宅ローンの大きなメリットは金利の低さだ。メガバンクも各行で住宅ローンWEB申込コースを取り扱っており、ネット銀行との金利差は小さくなっている。

住宅ローン金利(年率・新規借入・2020年5月時点)

銀行名 変動金利 固定10年 固定30年
ジャパンネット銀行 0.399%
(全期間引下)
0.620%
(当初引下)
1.390%
(当初引下)
住信SBIネット銀行
(住宅ローンWEB申込コース)
0.320%
(全期間引下)
0.710%
(当初引下)
1,490%
(当初引下)
ソニー銀行※3
(変動セレクト住宅ローン)
0.457% 0.950% 1.476%
楽天銀行
(住宅ローン・金利選択型)
0.527% 0.966% -
auじぶん銀行 0.410%
(全期間引下)
0.550%
(当初引下)
1.305%
(当初引下)
みずほ銀行
(住宅ローン)
0.625%
〜0.875%
(全期間引下)
0.800%
〜1.100%
(全期間引下)
1.210%
(全期間固定)
みずほ銀行
(ネット住宅ローン)
0.525%
〜0.775%
(全期間引下)
0.750%
〜1.000%
(全期間引下)
1.110%
〜1.210%
(全期間固定)
三井住友銀行
(三井住友住宅ローン)
0.575%
〜0.775%
(全期間引下)
1.100%
(当初引下)
1.650%
(超長期固定)
三井住友銀行
(WEB申込専用住宅ローン)
0.475%
〜0.725%
(全期間引下)
1.100%
(当初引下)
1.250%
〜1.650%
(超長期固定)
三菱UFJ銀行
(店頭)
0.625%
〜0.775%
(全期間引下)
0.790%
(当初引下) 
1.65%
(全期間固定)
三菱UFJ銀行
(住宅ローンWEB申込コース)
0.525%
(全期間引下)
0.690%
(当初引下)
-
※各行サイトより筆者作成
※3 自己資金10%以上の場合

⑵団体信用生命保険の保障内容が充実している

ネット銀行では団体信用生命保険の保障内容が充実している銀行が多いのも魅力だ。死亡・高度障害状態の保障に加え、がんと診断された場合や、生活習慣病などが原因で一定期間以上の入院や就業不能状態となった場合も保障される商品もある。銀行によっては上乗せ保障が無料付帯される。

⑶ネットや電話、郵送により手続きできる

ネットや電話、郵送で住宅ローンの手続きができる点は、対面で相談したい人にはデメリットだが、仕事などで営業時間中に店舗に出向くのが難しい人にとってはメリットといえる。住んでいる場所にかかわらず利用できるのも魅力だ。

4.ネット銀行の住宅ローンに向いている人、向いていない人

ネット銀行を利用するかは、審査に通るかどうかと、メリットとデメリットを比較した上で判断する必要がある。

ネット銀行の住宅ローンに向いている人

ネット銀行の住宅ローンは、次のような人に向いている。

・低金利の住宅ローンを利用して負担を抑えたい人
・住宅ローンについての基本的な知識があり、自分で手続きを進められる人
・自分のペースで手続きを進めたい人
・住んでいる場所などによって利用できる銀行の選択肢が限られている人

ネット銀行の住宅ローンに向いていない人

次のような人はネット銀行の住宅ローンにはあまり向いていない。

・対面で相談しながら手続きを進めたい人
・審査に不安がある人

いくら条件のいい住宅ローンがあっても、審査に通らなければ利用できない。住宅ローンの審査に不安のある人は、審査で比較的融通の効きやすい地銀や信用金庫なども選択肢に含めて検討したほうがよいだろう。

執筆・竹国弘城
証券会社、保険代理店での勤務を経て、ファイナンシャルプランナーとして独立。より多くの方がお金について自ら考え行動できるよう、お金に関するコンサルティング業務や執筆業務などを行う。RAPPORT Consulting Office 代表。1級ファイナンシャルプランニング技能士、CFP®︎ HP:https://www.rapportco.com

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