指導歴40年以上、300余社を直接指導し、一部上場はじめ株式公開させた企業も十数社にのぼる「オーナー企業の経営」に熟知した実力コンサルタント、アイ・シー・オーコンサルティング会長・井上和弘 氏。経営指導に東奔西走する傍ら、「後継社長塾」の塾長を30年務め、今まで500人以上の後継者育成に携わっている。

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本記事は、オーナー経営に精通した井上和弘 氏が会社法・税法の専門家と知恵を結集し、社長目線でわかりやすく解説した著書『承継と相続 おカネの実務』(税込14,850円、日本経営合理化協会出版局)の第2章、P138-145から一部を抜粋・編集して掲載しています。

目次

  1. 売上20億円の会社でも6億円の退職金
  2. 準備は少なくとも3年前から
  3. 書籍詳細
    1. 承継と相続 おカネの実務

売上20億円の会社でも6億円の退職金

(画像=PIXTA)

平成28年4月23日の日本経済新聞によると、泡盛で知られる酒造会社X社(沖縄県)が、「役員への退職金や役員報酬が高すぎる」として、追徴課税された処分の取り消しを求めた訴訟の判決で、東京地裁は役員報酬については税務当局側の主張を認めたものの、創業者への退職金6億円超を「不相当に高額とは言えない」として、課税処分の一部を取り消しました。

判決などによると、X社は2010年2月期までの4年間で、創業者ら4人に役員報酬計約12億円超、創業者の退職金6億円超を支給し、経費として申告していました。

しかし、税務当局は、この金額が沖縄や九州の同業他社の水準と比べて高額で、約6億円分が経費として認められないとして、約1億3千万円の追徴課税を申し立てました。

X社は税務当局の判断に納得がいかず、裁判をして司法判断を仰ぐことになったのでした。

本件について、裁判長は、「創業者への退職金が比較対象とした同業他社の最高額を超えていないこと」から、6億円の退職金は妥当と判断したのです。

この会社の売上は20億円です。税務署は、当初、「一部上場の大企業ならまだしも、中小企業の経営者に退職金を6億円払うのは不相当だ(法人税を少なくしている)」と会社の処理を否認したのです。

ところが、裁判までしてみると、裁判所は、「6億円の退職金は高くない!」と判断しました。つまり、会社が税務署に勝ったのです。

そもそもこの、退職金が高い、低いはどのように決まるのでしょうか?

法人税法には、役員退職金は、その役員が、

  • 業務に従事した期間
  • 退職の事情
  • 同業他社で規模が似ている会社の役員退職金額

を考慮して、高いか安いかを判断すると規定されています。

この6億円は、当初、創業者の、

「最終月額報酬(①) × 代表取締役の在任年数(②)× 功績倍率(③)」

で計算されたようです。

これに対して、税務署は、①について、創業者の月額報酬ではなく、「同業他社の最高額」を使うべきだと主張しました。

この同業他社とは、沖縄県と熊本国税局管内(熊本、大分、宮崎、鹿児島)で、総売上金額が同社の2分の1以上~2倍以下(倍半基準)となる酒造会社約30社を抽出して計算したようです。

「そんなことは、納得できない!」と考えたX社は、②の代表取締役の在任年数を、「取締役としての在任年数」を使うように考えます。この年数を長くすれば、仮に①の報酬が低く抑えられたとしても、結果的に計算される退職金額は減らないからです。

すると今度は、税務署が、①について、“同業他社の最高額”ではなく“同業他社の平均額”を使うべきだと主張したのです。

この税務署の主張に対して、裁判所は、「創業者の会社に対する貢献度を考えると、同業他社の“平均額”を使うのはおかしい。同業他社の最高額を超えないかぎりは、不相当に高額な部分があるとはいえない」と判断したわけです。

結局、裁判所は、役員退職金の適正額を、

「同業他社の最高額×取締役の在任年数×功績倍率」

と判断することにしたのです。

当初支給した退職金は、この計算式内で収まったため、会社は勝訴したのです。ということは、つまり、裁判所はこの創業者に退職金を6億円以上出せる、と判断したことになります。

年商が少なかろうが何だろうが、経営者としての功績が十分にあれば、私が申し上げた通りに高額退職金を支給することができるということが、この裁判を通じておわかりいただけると思います。

確かに、「売上20億円の会社で、6億円の退職金」というとびっくりします。6億円の計算に至るまでには、幾通りもの方法がありますが、大切なことは、会社に対する貢献度、功績が十分な経営者には、高額の退職金を出すことができる、いえ、出すべきである、ということです。

準備は少なくとも3年前から

さて、ここからは実務的なお話に入りましょう。

さきほど、経営者の最後の大仕事は高額退職金をもらうこと、と申し上げました。

しかし、私が知るかぎり、高額退職金をもらうための準備をしていない会社が多すぎます。もちろん、業績は鳴かず飛ばず、自己資本が貧弱な会社は高額退職金を出すことはできません。

しかし、自己資本が数億円あるような会社は、ぜひとも、事前準備をしっかりとおこなって、高額退職金を出すようにしてほしいのです。しっかりと事前準備をしておけば、年商以上の高額退職金をもらうことだって可能です。実際に、そういう会社もお手伝いしてきました。

では、事前準備にどの程度時間をかければよいのでしょうか?

高額退職金に限っていえば、私は退任する3~5年前からの準備が一番よいと考えています。

では、準備とは具体的に何でしょうか?

それはまず、「役員報酬を引き上げる」ということです。高額退職金を出すカギは、ここにつきるといっても過言ではありません。

なぜなら、退職金というのは、基本的に直近の報酬額をもとに計算するからです。

ですから、高額退職金をもらおうとすれば、役員報酬もそれなりに高額にしておく必要があるということです。

この意味で、私のもとに相談にやってくる経営者で、事前準備がしっかりとできている方が少ないのです。

みなさん、お辞めになる直前に役員報酬を一気に引き上げるのです。これ以外でも、そもそも社長の報酬が低い場合もありますし、業績が悪かったときに引き下げたまま、という会社もあります。よくよく考えると、これはある意味、やむを得ないところがあります。

創業社長ともなると、自分がつくりあげた会社は、わが子同然、わが子より可愛いものです。

だから、「自分のことより、まずは会社の成長を!」ということで、役員報酬を抑えて、会社の利益を出すことに注力されるのです。

また、なかには役員報酬が高額だと、所得税が高くなるとおっしゃる方もいらっしゃいます。役員報酬を抑えることは、会社にとっては確かにプラスですが、いざ退職金となると、これがネックになってしまいます。

具体的な報酬額の他、会社の規模、財務体質などを総合的に見て、適正な役員報酬額を決めていくのですが、やはり、急激に上げた報酬をそのまま使うことはハードルが高く、当局の否認の原因になります。

残念ながら、役員報酬を上げることについて、顧問税理士からの提案はまずありません。ですから、数年後に○億円もらうことを念頭に逆算し、役員報酬を引き上げておくことが、とても重要といえます。そして引き上げた報酬は、最低3年は続けていただきたいのです。

私たちはもちろん、そうした難題もクリアしてきました。しかし、これは大変難しい仕事なのです。どう考えても「ちょっと苦しいなあ」という場合は、退職を延期してもらうこともあります。しかし、私たちはできるだけ経営者の希望、要望を実現したいのです。

書籍詳細

承継と相続 おカネの実務

井上和弘
オーナー社長の本音を知り抜いた、指導歴46年の実力コンサルタント。
企業再建の「名外科医」として赤字会社に入り込み、社長や役員を叱りとばしながら、思い切った手を果敢に打って収益力を短期間で回復させ、黒字転換するまで情熱的に指導することで定評がある。
これまで300社を直接指導。オーナー社長のクセを知り尽くし一社も潰さず、一部上場はじめ株式公開させた企業も十数社にのぼる。その実力と人柄に惚れ込んだ社長は数多く、永年の信頼感から後継子息を託す人が後をたたない。
1942年大阪生まれ、早稲田大学卒。イタリア・フローレンス大学留学後、大手経営指導機関を経て、84年ICOコンサルティングを設立、現在、同社会長。後継社長塾塾長の他、数多くの社長塾を主宰。

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