指導歴40年以上、300余社を直接指導し、一部上場はじめ株式公開させた企業も十数社にのぼる「オーナー企業の経営」に熟知した実力コンサルタント、アイ・シー・オーコンサルティング会長・井上和弘 氏。経営指導に東奔西走する傍ら、「後継社長塾」の塾長を30年務め、今まで500人以上の後継者育成に携わっている。
本記事は、オーナー経営に精通した井上和弘 氏が会社法・税法の専門家と知恵を結集し、社長目線でわかりやすく解説した著書『承継と相続 おカネの実務』(税込14,850円、日本経営合理化協会出版局)の第1章、P52-60から一部を抜粋・編集して掲載しています。
株式の価値はカメレオン
上場していない中小企業において、株式の財産的な価値を気にするのは、企業経営者か後継者ぐらいです。
そのほかの社員にしたら、たとえ取締役、幹部社員であろうと、別に自分の会社の株価がいくらだろうが、関係ありません。はっきりいってどうでもよいのです。
私が「株式の価値はカメレオン」と言うのは、このことと関係があります。
つまり、株式の値段というのは、
「誰が」売るか?「誰が」買うか?
によって大きく変わってくるのです。詳しくは第3章でお話ししますが、ここでは非上場会社の株式の値段は、「誰が」売るか、「誰が」買うかによって大きく違ってくることだけを頭に入れておいてください。
税務の世界においては、「株式」という一つの物に対して、いくつもの価格、値段が存在するのです。これが本当にわかりにくいのです。おそらく税理士でも完全に頭のなかに入っている人は少ないでしょう。
なぜ、一つのモノに対して価値が変わるのでしょうか?
株式をもつ人間を、ここでは、
①経営者とその同族(オーナー親族)②オーナー親族と血のつながりのない社員(その他、と呼ぶことにします)
の2パターン考えましょう。①と②の違いを具体的に示すと、
親族内であれば①親族外であれば②
になります。親族というと、第1表を見ていただくとわかりますが、相当に範囲が広いです。
まったくの血のつながりのない他人なら間違いなく②だと思いますが、ちょっと関係があるということなら、①に当てはまるかどうか、念のため調べておくことをおススメします。
①と②では、株価の取り扱いがまったく変わってくるからです。
さて、①についてみていきましょう。
中小企業においては、会社はオーナーのものです。オーナーこそが絶対権力者なのです。
「俺の言うことが気に食わない、嫌だというならやめろ!」の世界です。社員の生殺与奪権は、オーナーにあるのです。
では、なぜ、そもそもオーナーが絶対権力者なのか?
それは、簡単です。
大半の株式をもつことで会社を支配しているからです。
企業をつくるとき、ふつうは創業者(オーナー)がおカネを全額出します。つまり、その会社の株式を100%もつのです。株式をたくさんもてば、会社の重要事項を決定できます。役員の選任・解任から役員報酬の金額まで、自由に決められるのです。
だから、オーナー親族にとっては、株式は会社を支配するための道具であって、非常に価値の高いものになるのです。
いっぽうで、②「その他(オーナー親族と血のつながりのない社員)」にとっては、そもそも、少々株式をもっても会社を支配することはできず、「経営」という2文字とは遠い世界にいます。
ですから、株式の価値ということでいえば、
オーナー親族にとっての価値は、 血縁関係にない株主にとっての価値より、ずっと高くなるのです。
まずは、このことをご理解ください。
34、51、67の意味がわかりますか?
さて、財産権についてひととおりお話ししたところで、株式のもう一つの側面、「支配権」にスポットをあてていきます。
34、51、67…この数字を聞いて、ピンとくる経営者は、10人中2、3人でしょう。
読者のみなさんは、おわかりでしょうか?
ご自身の立場が企業経営に直接的に関係するならば、この数字は、絶対に知っておかなければなりません。
この数字を境に、株主として会社に与えることができる影響力が大きく変わってくるからです。
つまり、株主として議決権を34%もつのか?51%もつのか?67%もつのか?ということです。
議決権ということで強調したのは、株式数として明確に区別をしていただく必要があるからです。
ここはよく間違われる部分ですが、株主総会の決議というのは、株式数ではなく、議決権をもとにおこなわれます。
読者のなかには、株式数と議決権比率が一緒になっている方がいますが、両者は似て非なるものです。
全体の51%の株式をもっているからといって、議決権を51%もっているとは限らないのです。
そして、私が申し上げているのは、51%の議決権を握ってくださいということです。正確には過半数ですので、50.1%でも可です。
51%を握ると何がいいかというと、株主総会での普通決議事項を決定できます。
普通決議では、役員の選任や解任、また配当の決定、決算書の承認、役員報酬の決定などができます。
次に67という数字ですが、全体の67%、正確には3分の2ですので、66.7%でも可です。67%の議決権を握ると、株主総会での特別決議事項を決定できます。
特別決議では、定款の変更、事業譲渡、増資、減資、解散など会社運営の根幹に関する事項の決定ができます。
最後の34%というのは、この裏返しになります。
つまり、34%もっていれば、株主総会の特別決議に「反対ができる」ということです。「重要決議の拒否権」といいます。
会社支配という観点からは、34、 51、67という数字を常に意識して株主構成を考えていく必要があるのです。
数年前に、大塚家具が親族間でもめにもめたのを記憶している方もいるでしょう。あれは、まさにこの数字のために戦っていたようなものです。父か娘か、どちらが主導権を握るか、外部株主をどちらが味方につけるかということで、あれだけ世間をにぎわせたのです。