営業活動を自分なりに頑張っていながら、なかなか成約までたどりつかない原因のほとんどは、営業のクロージングがきちんとできていないことにあると言えるだろう。成績の良い営業マンは、意識しているかどうかにかかわらず、クロージングがしっかりできている人が多い。
商談の現場で顧客との契約を締結しやすくするために、クロージングの意味や重要性、具体的なクロージングテクニックなどについて理解を深めよう。
営業のクロージングとは
「クロージング(closing)」は、直訳すれば「閉じる」「終結する」という意味だ。営業活動において用いる場合は、顧客との契約締結を意味する。
しかし、実際のビジネスシーンでクロージングという言葉を使う場合は、契約締結までのプロセス全体を指すことが多い。顧客が抱える不安や悩みを引き出すことから、商品やサービスの購入を決断させるために背中を押すまでの、契約に至る一連の過程を意味する。
営業のクロージングでは、具体的には「顧客からのヒアリング」→「課題の把握」→「提供する商品やサービスの提案」→「契約の締結」といった手順を踏むことになる。
営業のクロージングの必要性
営業のクロージングは、顧客とリアルタイムで直接やり取りができる状態で、ヒアリングに始まり何らかの返答をもらえるまで、滞りなく商談を進めることに他ならない。営業活動においてクロージングを行わなければ、顧客がその場で契約を締結する可能性は大幅に下がるだろう。
検討する時間を与えて後日の回答を待つような方法は、クロージングとは言えない。その場で顧客にしっかりと訴求し、前向きな決断をしてもらってはじめて、効果的な営業のクロージングが行われたことになるのだ。
営業マンは、クロージングのために存在するといっても過言ではないだろう。インターネットで商品やサービスが手軽に購入できるようになった昨今では、わざわざ詳しく説明をしなくても、欲しいものに関する情報はネット上でいくらでも入手できる。
営業マンが商談の現場で実践していることは、プレゼンやセールス、雑談なども含めて、すべてクロージングの一環として行われている。データを活用して営業メンバーのクロージング力を可視化できれば、営業の進捗や成約率などの違いがはっきりとわかるので、クロージングの必要性が理解できるはずだ。
営業のクロージングの基本要素
クロージングにはさまざまなテクニックがあり、具体的な手法や期待される効果は異なるが、基本的には以下に挙げる3つの要素をもとにしている。
1.話し方
話す内容に合わせた表情や声のトーン、理解してもらいやすい言葉の選択、好印象を与える姿勢、気の利いた相づちなどが重要なポイントとなる。
2.会話の内容
購入代金や付加価値、市場での相場、複数の選択肢を提示すること、契約後に予想される未来など、さまざまな内容が考えられる。
3.流れやタイミング
多くの要素で構成される一連の流れにおいて、どのような話をどのタイミングで投げかけるべきかは、クロージングの成功を大きく左右する。
上記の3つの基本要素を個別に練り上げたり、組み合わせたりすることで、クロージングの期待値をより高められる。すべての商談を成功に導けるような正解や法則は存在しないが、相手の個性や状況に合わせて臨機応変に対応しながら、クロージングのテクニックを駆使することが重要だ。
具体的なクロージングのテクニック10選
営業スキルを高めるために、代表的なクロージングテクニックをマスターしよう。意識して実践できるようになれば、契約率を上げることができるはずだ。
1.テストクロージングを行う
テストクロージングとは、商談中に段階を踏みながら、相手の関心度や本気度を確かめるテクニックである。一方的に話を進めていくのではなく、契約に向かう流れの中で「小さなYes」を積み重ねていくことで、最終的に「大きなYes」をつかみ取れる可能性が高まるという考え方に基づいた手法だ。
不安な点や理解度を確認したり、質問をしたりすることで、相手がどの程度興味を持っているのか、契約する気があるのかなどをチェックできる。途中のYesが多いほど、成約率は高くなる。最終段階で相手に一貫性を求められて、反論できなくなる状況も回避できる。
2.複数の選択肢を提示する
提案する商品やサービスが1つしかない場合は強引なセールスになりやすく、相手に不快な思いをさせる恐れもある。その場合は、メインとして売り込みたいものの他に、比較対象となるような複数の案を用意するのも有効だ。
選択肢がいくつもあることで、「自分に主導権がある」と相手に感じてもらいやすくなる。選ぶ立場になれば優位性を意識し、安心して商談に臨んでもらえるだろう。選択肢を増やすことで、成果ゼロの状況を回避しやすくなることにもつながる。
3.ベストなタイミングでクロージングをする
契約を促すタイミングは、最後でなければならないというわけではない。相手の仕草や表情、発言内容などから購入したいというサインを察知できれば、その瞬間こそがクロージングのベストタイミングである可能性が高い。
「サンプルを見たい」「価格・条件・納期を知りたい」などの発言を引き出せたり、契約の決定権を持つ人物を連れてきたりする状況になれば、契約に向けた具体的な話を切り出しても問題ないだろう。
4.購入する意思を直接聞き出す
顧客の中には、こちらから背中を押してあげないと動けない人や、購入する意思はあるものの急いではいないという人も一定数存在する。そのような相手には、とりあえず買う意思があるかを聞き出し、一歩踏み出すきっかけを作ってあげるといいだろう。
急いでいないという相手には、急ぐことで得られるメリットを提示し、購入に踏み切れない相手には、できる範囲で値引きや期間限定の付加価値を与えるなどすれば、クロージングできる確率は高まる。
5.「ドアインザフェイス」を用いる
最初に高額な条件を提示し、徐々に値段を下げていく手法が「ドアインザフェイス」だ。これは、相手に借りができると、それに応えようとする人間の心理を利用した交渉テクニックである。営業だけでなく、あらゆるシーンで活用できる手法だ。
こちらの希望額より高い金額を設定し、条件を提示しながら価格を下げていくことで、契約につながりやすくなる。値下げの条件は大げさなくらいでも構わないが、最初に設定した金額が高すぎると逆効果になる恐れもあるため注意したい。
6.決断できない理由をなくす
顧客の多くは、「より安いものはないか」「より良いものはないか」「信用できる相手なのか」と考えている。これらの迷いを解消してあげれば、商品やサービスの検討に集中してもらえるだろう。
安さに関しては「どこよりも安くする」と伝え、良さに関しては「これ以上のものはない」と断言することで、こちらの本気度をアピールできる。「本当に良いものだからおすすめしている」ことを誠実に伝えれば、信頼を得られるはずだ。
7.契約後のステップに関しても説明する
クロージングをした後、どのような流れで手続きなどが進んでいくのかを説明しておけば、相手が購入後をイメージしやすくなる上に、こちらの本気度もアピールできる。契約後に見込まれる効果などを説明しておくといいだろう。
「まだ契約していないのに、その後のことを話してもらう必要はない」と言われればそれまでだが、話をしておくことで、相手の記憶にイメージを刷り込んでおくことができる。まったく無駄なプロセスではないことを覚えておこう。
8.購入して欲しくない相手像を伝える
提案する商品やサービスに関して、買ってもらいたくない人物像を伝えることで、「あなたにこそ購入して欲しい」というニュアンスを強調できる。特別な存在であることを伝えられれば、悪い気はしないはずだ。
買ってほしい相手像を限定することは、商品価値を高めることにもつながり、誰にでもそれなりに効果があると説明されれば、相手の購買意欲は引き出しにくくなる。このテクニックにはデメリットがほとんどないため、積極的に利用してみよう。
9.快楽ではなく痛みを強調する
相手の快楽ではなく痛みに訴えたほうが、セールスは成功しやすい。人間は、未来の快楽を求める感情より、損や苦痛を避けたいと思う心理のほうが強く働く傾向がある。
購入することで得られるメリットや解決できる悩みなどを説明することも重要だが、そこにしかフォーカスしない営業マンが多い。「このまま放置すると、このような悪夢が待ち構えている」というようなトークができる要素があれば、活用するべきだ。
10.考える時間を与える
前述のとおり、商談相手とリアルタイムに直接やり取りができる状態で、一気に成約まで持っていくことがクロージングの理想形である。しかし、どうしてもその場で契約締結にこぎつけそうにない場合は、検討する時間を与えよう。相手に気持ちの余裕を与えることで、こちらの余裕をアピールすることもできる。
クロージングをマスターして契約率を上げよう!
営業のクロージングは、商談の成功率を高める上で有効な方法ではあるが、その目的や本質を理解することも重要だ。あくまでもテクニックであることを念頭に置いて、状況によって臨機応変に使いこなせるようにしたい。
場数を踏んで効率的な使い方をマスターし、成功体験を積み重ねながら、自分だけの法則を作り出してみよう。(提供:THE OWNER)
文・八木真琴(ダリコーポレーション ライター)