これからの時代はローカルプレイヤーが力をもつ

尾原: 冨山さんは『コロナショック・サバイバル』でどう生き残るかを示したあとに、CX(コーポレート・トランスフォーメーション)の本では、どう生まれ変わるかという話をされています。

冨山: コロナのようなブラックスワン的な危機はいろいろなものを壊してくれます。過去のしがらみも断ち切ってくれるから、経路依存性が下がるんです。

尾原: 一回なくなりますよね。

冨山: 日本の会社には、とにかく会社に集まって、一緒にああでもないこうでもないと根回ししたり、会議をしたりしないと、会社が動かないという経路依存性があったけど、そんなことをしなくても物事は決まる、仕事が前に進むということが証明されてしまった。そうなると、経路依存性が壊れるので、次に問われるのはイノベーションです。

尾原: これから激震が走るのは、どのあたりですか? 先ほど物をつくって売るだけのメーカーは厳しいという話がありましたが。

冨山: それはすでに起きてしまったことです。僕が期待しているのは、むしろ、いままでネットの果実を必ずしも享受できていなかったローカル系のリアルなサービス業、同時同場型の産業群です。小さな旅館でも気の利いたサービスをしているところは、世界中からお客さんを集客できるようになっています。GAFAMで集中・独占が起きているから、すべてのレイヤーで集中・独占が起きると勘違いしている人が多いけど、宿泊業では逆に、チェーン化が止まってきている。

尾原: デセントライゼーション(非中央集権化)ですね。中心がなくても、それぞれが力をもてるようになる。エアビーがその典型です。余った部屋を貸したい人と、部屋を借りたい人をつなげて、たった4年間で世界最大のホテルチェーンになっちゃった。

冨山: そうなんだけど、ホテルチェーンという言い方がちょっと違って、じつは、全部「個店」なんです。それを「チェーン」と言ってしまうと誤解が生じる。エアビーにしても、ウーバーにしても、本当のバリュープロポジションを生んでいるのは、部屋を提供している人であり、ドライバーです。エアビーやウーバーはしょせん仲介しているにすぎない。彼らが価値をつくっているわけではないのです。エクスペディアやブッキングドットコムがあるから、大きなホテルチェーンに入らなくても、世界中から集客できるようになった。人気が出れば、高い部屋でも売れるようになる。といっても、そのプチホテルのオーナーは、エクスペディアやエアビーに支配されているわけでもなんでもなくて、むしろ、彼らを使い倒して、個別のローカル企業が力をもてるようになった。

尾原: そういうサービスを使えば、自分たちのよさにレバレッジをかけて、遠くの人とつながることができます。

冨山: 競争力をもつ個人、個店が強くなっているわけです。スマイルカーブ的にいうと、川下の一番儲かるところにいるのは、エアビーのオーナーであり、ウーバーのドライバーであって、エアビーやウーバーのほうがもっと低いレイヤーにいる。

尾原: エアビーやウーバーは、小さいものをたくさん集めてつないでいるから、結果として量を生んでいるけれども、いちばん価値を提供しているのは、末端でサービスを提供している人たちだし、むしろ、いままでローカルで非効率だった人たちのほうが強みを発揮しやすい。

冨山: ホテルチェーンも外食チェーンもそうなんだけど、ある時期まではチェーン化することで拡大できても、本質がもともと分散事業なので、あまりパッとしない。だから、賃金も上がらないわけです。それで、エアビーやウーバーがでてきたわけだし、これからは、個々のローカルプレイヤーがエアビー的なものを上手に使って、自分たちの生産性を上げるのが勝負どころです。尾原さんの本に出てくる14のパターンのどれかには当てはまる人が多いはずだから、個人も中小零細事業者も、ネットをしたたかに使いこなしてほしいと思います。

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(#2へつづく)