シンカー: 東京都知事選では現職の小池都知事が再選され、東京都の新型コロナウィルスに対する初動対応への信認が確認された。一方で新型コロナウィルスの感染者数が拡大したフランスでは先日実施された統一地方選でマクロン政権が支持する候補が敗北するなど、有権者の新型コロナウィルス対応の不満が確認され、マクロン大統領は内閣改造へ踏み切った。グローバルに各国政府の新型コロナウィルスの初動対応への信認が得られるかが最大の焦点になっているようだ。今後の最大の注目は11月の米国の大統領選だろう。足許では上院の過半数と大統領の両方が民主党の手に入る可能性が強くなっている。米国では新型コロナウィルスの感染拡大が続き、感染第2波の可能性が高まっているなか、トランプ政権の新型コロナウィルスへの対応などに対する不満が有権者の間で広まり、感染拡大前に比べ現政権に対する支持が離れている。また、人種間の平等問題なども加わり、与党共和党から野党民主党への支持に転じていることで、トランプ大統領の再選見通しが危うくなってきていると考えられる。ただ、2016年の大統領選時もトランプ大統領の問題発言などが続き、選挙戦前にトランプ候補の劣勢報道が一時強まったが、最終的に選挙に勝った過去がある。民主党優勢の報道が続いている今、2016年と同じ動きが生まれないか、薄商いの夏のマーケットに特有の動きに対応しながら注目し続ける必要があるだろう。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

グローバル・レポートの要約

●欧州経済(7/6):財政面の対応、今回は世界金融危機に比べて「速く大規模でしかも効率的」

EU復興基金に関する議論が熱を帯びるなかで、ユーロ圏のこれまでの財政面からの対応を、今回詳しく検討する。政策枠組みが(10年あまり前の)世界金融危機の時よりも改善したことで、ユーロ圏各国の対応はより速く、しかも全般的により大規模な財政パッケージを打ち出している。これに加え、米国や英国と比べても対応は遥かに優れている。少なくとも財政対応の第1段階(自動調節機構の拡大運用)ではこれが当てはまる。現在は第2段階(実際の財政面からの刺激策)が、国とEUレベル(復興基金)の両方で準備されており、これまでのところは期待できそうだ。最後に債務比率の上昇幅は、今回は大半の国で世界金融危機の半分か3分の1で済む見込みだ。また弊社のみたところ今後は、公的債務が増加しても、そのコストとして緊縮財政を強いられることは無いと考えられる。ECBが超緩和的な政策を採っているほか、2011?14年に緊縮財政が景気に悪影響を及ぼした記憶も新しいためだ。それより重要なことに、EU首脳の考え方が全く違う。EUは2009年には、改革や財政引締めと引換えに融資を提供したが、現在議論中の復興基金は、主に(条件も限定的な)給付金となる可能性がある。とはいえ重債務国に対しては、(EUの財政ルールではなく)市場が、コロナ危機後に慎重な財政政策を採るように圧力をかける可能性がある。

●米国経済(7/1):11月の選挙で、民主党完勝の可能性が高まっている

他に比べると重要性が高い選挙、というものが存在する。米国で今秋に控える選挙がそれで、上院の過半数と大統領の両方が民主党の手に入る可能性が強くなっている。そうなれば、今後長年にわたり政策選択の方向性が変わることになる。

トランプ大統領は不安定な状況:2020年初の時点では、トランプ大統領再選の可能性が比較的高かった。弊社はそのときに、民主党候補が決定されると選挙は接戦になると主張していた。しかしその後、新型コロナウイルス禍と人種間の平等を求める運動を背景に、有権者(の支持)はトランプ大統領から離れている。弊社は現在、トランプ再選の可能性は40%未満とみている。民主党は議会も完全に支配下に収める可能性があり、(逆に言うと)共和党が上院での過半数を失う恐れがある。1990年初めから有権者の支持(議会で過半数を占める政党)は入替わっており、2020年もこれが繰返されるとみられる。民主党が2018年に下院の過半数を奪回したことも、このパターンに当てはまる。

企業および富裕層対象の増税が見込まれる:経済全体および金融市場にとって、減税は(単一の政策では)トランプ政権の最大の功績だった。民主党政権になればそれがどこまで逆戻りするだろう。民主党のジョー・バイデン大統領選候補はまだ具体的に多くを明らかにしていない。法人税を35%に戻すことは、雇用、生産、企業収益の回復にはマイナスとみられる。しかし、現状の税率21%からの引上げは妥当とみられる。

支出計画…希望リストは以下の通り長い。ヘルスケア、大学授業料、インフラストラクチュア、社会保障は政府にとって高価な買い物(支出)となる。増税ではこれら全てを賄うことはできない。増税はGDPを抑制するが、財政支出で相殺できる。とはいえ差引すると、GDPはわずかに減少するだろう。もっとも景気回復に関する不確実性に比べると、減少幅は控えめである。

政府債務や財政赤字は引続き巨額になる:増税を行っても、支出優先リストをみると財政赤字が大きくなると考えられる。最近の動向や低金利が、財政赤字を抑制する効果を侵食している。

●フランス経済(6/30):統一地方選、2022年大統領選にはほとんど影響しない

フランス統一地方選の第2回投票が6月28日(日曜)に実施される。1回目の投票結果や直近世論調査は、現職候補(前市長)が「過半数プレミアム」の恩恵を享受すると示唆している。このためマクロン大統領が率いる「共和国前進」(地方の地盤は限定的)は、2017年の大統領選挙や総選挙に比べると大敗を喫すると見込まれる。国政与党が地方選で敗れることは珍しくないが、地方に地盤が無いことで状況が悪化する形にはなるだろう。ただマリーヌ・ルペン氏の国民連合が、勝利する都市を大幅に増やすことは考えづらい。ともかく、こうした結果を過度に深読みするべきではない(2022年の大統領選挙には、ほとんど影響しない)。大統領選挙が本日だとすれば、(その仮定に基づく世論調査によると)マクロン氏とマリーヌ・ルペン氏の差が(55%対45%に)縮まるとみられるが、それを過大評価してはならない。2年は長い期間であり、2022年春までには水面下で多数の動きがあるとみられる。

マクロン大統領は、7月中頃に追加の財政刺激策を発表すると みられる。新型コロナウイルス流行後の経済・社会における新しい優先事項が示されるだろう。各種報道では、ドイツ政府が最近発表したGDP比3.6%に近い規模になると言及されている。また2020年夏から2022年春までの選挙や新しい政策アジェンダが無い期間に、(中道左派寄りにシフトする)内閣改造の可能性があるとも報じられている。

●外国債券(7/6):新たな希望、古き不安

米国での新型コロナウイルス感染者の記録的な増加(古き不安)にもかかわらず、経済指標の改善とワクチン開発をめぐるポジティブな動き(新たな希望)がここ数日間のリスクオンの波に拍車をかけた。状況は不安定であり、リスク・センチメントは変化していくだろう。薄商いの夏の市場に特有の動きとして、ヒストリカル・ボラティリティーが上昇してきた。弊社は金利の上昇、イールドカーブのスティープ化、スプレッドの縮小という中期見通しを維持しているが、夏場のヘッジ対策も継続していく。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司