役員に対する報酬は、「月額報酬」と「役員賞与」に区分される。役員賞与に関する手続きに不備があると、役員賞与が損金不算入となって経営を圧迫する事態にもなりかねない。ここでは、役員賞与の支給要件や、役員賞与が損金不算入にならないための注意点について紹介する。
役員賞与とは?
「役員賞与」とは、役員に対して支給される賞与のことであり、役員報酬の一つとされている。具体的には、取締役などの会社役員に対して臨時的に支給されるものであり、毎月支給される役員報酬とは区別して使われることが多い。また、役員賞与は損金に参入することもできる。
例えば、役員報酬の支払いを行う余力が無かった会社で、業績が回復すれば臨時報酬を支給する旨の約束をすれば、役員たちは今まで以上に業績回復のための策を講じるだろう。
実際に業績回復を果たして、臨時の役員賞与の支給を受けた役員は、さらなる業績アップのためにモチベーション高く行動することも期待できよう。役員賞与という成功報酬を設けることで、役員のモチベーションUPを促すことも十分に可能なのだ。
ただし、役員賞与の支給には条件があり、経営者の勝手気ままに支給して損金に参入できるわけではない。税務上の留意を怠ると、役員賞与が損金不参入になることもあるのだ。
役員賞与が税務上認められるための留意点
役員賞与の税務上の取り扱いについて理解するには、まず、「役員報酬」について理解しておかなければならない。
税務上は、会社が役員に対して支給する役員報酬は、下記の3つの給与のどれかに該当しなければ、損金不参入になることが取り決められている。
・定期同額給与
・業績連動給与
・事前確定届出給与
まずは、この3つの役員報酬について詳しく説明する。
定期同額給与とは?
「定期同額給与」とは、報酬の支払いが1ヵ月以下の一定の期間ごとにある給与で、その事業年度の各支給時期の支給額、または支給額から源泉徴収等をされる所得税、地方税及び社会保険料等の合計額を控除した金額が同じであるものを指す。
毎月支給されている役員に対する「給与」は、ほとんどが「定期同額給与」に該当すると考えてよいだろう。しかし、役員に対する「賞与」は、毎月定額で支給される報酬ではないため、「定期同額給与」には該当しない。
業績連動給与とは?
「業績連動給与」とは、法人の利益などの業績指標を基準として算定される給与のことであり、上場企業を想定とした給与である。
「業績連動給与」は役員賞与にできるが、業績指標が基準である以上、有価証券報告書などで情報が開示されている必要がある。そのため、非上場企業への適用は難しいのが実情である。
事前確定届出給与とは?
「事前確定届出給与」とは、役員に対して決められた時期に、事前に株主総会で決議した額や、事前に税務署に申請を行なった額だけ金銭などを支給できる給与のことである。
上場企業でない場合は、事前確定届出給与の支給条件を満たしているか確認が必要である。
事前確定届出給与は、税務署への事前確定届の申請が必要である。届出期間については、株主総会等で支給についての決議を行なってから1ヵ月後か、事業年度の開始から4ヵ月以内などの期限がある。新設法人の場合の取り決めなどもあるため、詳細については国税庁のウェブサイトを確認していただきたい。
この「事前確定届出給与」の適用について注意が必要なのは、届出を行った内容と異なる支給をした場合には、損金算入が認められないことである。
役員賞与は誰がどのように決めることができるのか?
会社法第361条には、「取締役の報酬等については定款に定めていないときは、株主総会の決議による」という定めがある。報酬等とは、「賞与その他の職務執行の対価として会社から受け取る財産上の利益」のことである。
取締役の報酬について定款に記載するとなると、報酬を変更する度に登記が必要となるため、手続きが煩雑になる上に登記費用もかさんでしまう。
また、株主総会の決議が必要な事も負担となる。株主が社長やその家族など、身近な関係者の見であれば、適宜株主総会を行なって役員賞与の決議を行うことができるだろう。ただ、株主に第三者が多い場合は、株主総会を容易に開催することが難しいのが現状だ。
株主総会の適宜開催が難しい場合は、年に1度の定時株主総会で、役員賞与についての議題を設けた上で、決議をしておくといいだろう。その場合には、総額の上限を明記した上で、「代表取締役や取締役会に一任する」という点も忘れずに含めて決議しておくとよい。
そうしておけば、株主総会決議で定めた役員賞与額の範囲内であれば、取締役会での決議によって役員賞与の支給が可能になる。
なお、株主総会決議の上限を超える報酬等の支給が行われたり、その手続きに不備があった場合には、将来において役員賞与の支給が「無効」や「取消し」になることもある。実務においては、会社法上の手続きに準拠しているか確認しておかなければならない。
また、株主総会や取締役会が適切に開催された事実を後々まで証拠として残すためにも、株主総会や取締役会などの会議の議事録を作成・保管おくことも、実務上は極めて重要である。
現金以外の現物を支給することはできるか?
役員報酬として、現金以外のモノを支給することも可能だ。例えば、会社が役員に対して以下のようなことを行うことは、実質的に役員報酬を支給したのと同様の経済効果があるため、役員に対する「経済的利益」の供与となり、役員報酬と同様の取り扱いとなる。
① 資産を贈与した場合におけるその資産の時価
② 資産を時価より低額で譲渡した場合における時価と譲渡価額との差額
③ 債権を放棄し又は免除した場合における債権の放棄額等
④ 無償又は低額で居住用土地又は家屋の提供をした場合における通常収受すべき賃貸料と実際に徴収した賃貸料の額との差額
⑤ 無利息又は低率で金銭の貸付けをした場合における通常収受すべき利息と実際に徴収した利息との差額
⑥ 役員等を被保険者及び保険金受取人とする生命保険契約の保険料の全部又は一部を負担した場合における保険料の負担額
ただし、これらの「経済的利益」の供与が税務上の役員報酬の要件に当てはまらない限り、損金不算入となるので注意が必要だ。さらに、現物支給は一般的には税務上の「事前確定届出給与」に該当しないとされている。役員賞与を考えている場合には、現物支給を行うことも可能であるという点に留意する必要がある。
増額・減額したいときは?
自由に役員報酬を変更することができてしまうと、利益調整として利用できてしまうことになる。そのため、役員賞与を含む役員報酬の変更は、事業年度の開始日から3ヵ月以内にしか行えないように、会計上は定められている。
しかし、以下のような場合は、例外として事業年度中の役員報酬の変更が認められることもある。
・役員報酬額の減額を行わなければ会社の存続が厳しい場合
・事業年度の途中で役員の職制の変更があり、役員報酬の変更が必要になった場合
これらの要件に該当するような状況になった場合は、顧問税理士などに相談してみるとよい。
役員賞与や報酬の変更が認められる場合には、先に提出した「事前確定届出給与」に関する届出を変更するために、新たに「変更届出」を税務署に提出することになる。
役員賞与が税務上認められないとどうなるのか?
役員賞与がこれまで説明してきた税務上の要件を満たさない場合には、「損金不算入」とされる。「損金不算入」とは、会計上は費用として扱われるが、税務上の費用として認められないものをいう。利益計算を行う会計上の「費用」と、所得計算を行う税務上の「損金」を区分しているが、「損金」は税務上の費用と理解しておけばよいだろう。
税務上の要件を満たさない場合の取り扱い
例えば、3月決算の会社が、役員に対して100万円の役員賞与を3月末に支給しようとして、税務上の届出をしていたとする。ところが、会社の業績が想定よりも良かったため、当初予定していた役員賞与から100万円を増額して、200万円の賞与を支給した場合の税務上の取り扱いはどうなるだろうか?
この場合、役員賞与の支給額である200万円の全額が、税務上の費用として認められず、損金不算入となってしまう。
では、逆に、同様の届出を出していた会社が、3月末に50万円に減額して役員賞与を支給した場合はどうなるだろうか?
この場合も、同様に支給額50万円全額が損金不算入となってしまう。つまり、当初予定していた役員賞与額と実際の支給額に差があれば、損金不参入となってしまうのである。
このように、役員賞与を支給する場合には、あらかじめ取り決めていた、「いつ」「だれに」「いくら」といったことを遵守して支給しなければならないことに留意したい。
役員賞与が損金不算入となった場合の影響は?
役員賞与が損金不参入となると、会社の税務上の利益の額が支給を実施した金額分だけ増加することになる。結果として法人税等の税額が増加することになるのだ。
役員賞与はモチベーションアップにも使える
「役員賞与」は経営者自身への報酬を臨時的に増額させることはもちろん、その他の会社役員のモチベーションアップのためのツールとしても活用できる。ただし、役員賞与を支給するためにはいくつかの要件があり、場合によっては損金不算入となって法人税が増加することにもなりかねず、多数の留意点が存在する。
役員賞与の支給に際しては、会社法のみならず、税務上の要件をクリアしているかを事前に十分に検討した上で、あらかじめ提出した「事前確定届出給与」の届出の内容に従い、支給予定時期に、予定した金額を支給することを心掛けてほしい。
役員賞与が損金不算入にならないように、支給を行う場合にはその手続きに細心の注意を払っていただきたい。(提供:THE OWNER)
文・風間啓哉(公認会計士・税理士)