不動産投資を始めた当初にありがちな失敗に、「オーナーチェンジ物件だから安心」という思い込みがあります。ここでは、この思い込みから抜け出すために、オーナーチェンジ物件のメリット・デメリットを紹介。さらに、トラブル対策を伝授します。
目次
- オーナーチェンジ物件とは、物件購入と同時に賃料を得られる
- オーナーチェンジで受け継げる権利・課せられる義務とは
- オーナーチェンジ物件に影響を与える改正民法の変更点
- そもそも売主がオーナーチェンジ物件を売却する目的とは
- オーナーチェンジ物件購入の7つのメリット
- オーナーチェンジ物件購入の5つのデメリット
- リスクの少ないオーナーチェンジ物件を選ぶための5つのポイント
- オーナーチェンジ物件の購入前のチェックリスト
- オーナーチェンジ物件 こんなトラブルに要注意!
- オーナーチェンジ物件で入居者を退去させたいときの対応策
- 強制退去・立退料支払いのメリット
- 強制退去・立退料支払いのデメリット
- 悪質入居者を強制退去させる方法
- 「普通借家契約」と「定期借家契約」の違いとは?
- 立退料の支払う際のポイントと相場
- オーナーチェンジで売却しやすい物件・売却しにくい物件
- オーナーチェンジ物件にこだわりすぎないことも大事
- オーナーチェンジ物件に関するよくある質問
オーナーチェンジ物件とは、物件購入と同時に賃料を得られる
オーナーチェンジ物件とは、入居者付きで売買される賃貸物件のことです。通常は賃貸借契約の条件のまま、旧オーナーから新オーナーへ売却されます。区分マンションのほかアパートや一棟マンションでも、入居者が1人でもいれば「オーナーチェンジ物件」と呼ばれるのが一般的です。
オーナーチェンジで受け継げる権利・課せられる義務とは
オーナーチェンジ物件を購入する際は「受け継げる権利」と「課せられる義務」の両方を認識することが大切です。
オーナーチェンジによって受け継げる権利
入居者付きで購入できるオーナーチェンジ物件では、それまで旧オーナーが受け取っていた賃料・共益費をそのまま受け継げます。あわせて入居者が賃貸物件の駐車場代を別途支払っている場合、それも受け継ぐことが可能です。また賃貸借契約が終了したときには、物件が返還される権利も受け継げます。
オーナーチェンジによって課せられる義務
オーナーチェンジ物件では、上記の権利だけでなく課せられる義務も受け継がなくてはなりません。例えば住宅設備の故障や室内の破損などがあった場合は、オーナーに修繕・交換の義務が課せられるといった具合です。また入居時に預かった敷金を返還する義務も課せられます。
オーナーチェンジ物件に影響を与える改正民法の変更点
2020年4月1日から改正民法が施行されています。そのためオーナーチェンジ物件の購入を検討中の人は、変更点をしっかりと押さえておくことが大切です。
変更点1.借主に責任がある場合は貸主に修繕義務がない
改正前の民法では、貸主(オーナー)に物件の修繕義務があるとされていました。しかし民法改正に伴い借主(入居者)の不注意などで破損した場合、貸主に修繕義務はないとしています。そのため修繕依頼があったときには、その責任が入居者にないかを確認するのが重要です。
変更点2.借主の原状回復義務の範囲が明確に
民法改正前、賃貸物件では貸主と借主の認識の違いによる原状回復に関するトラブルが少なくありませんでした。しかし民法改正によって、通常使っていた範囲の劣化・損耗について借主には原状回復義務がないことが明確になりました。 ※ただし任意規定のため「賃借人が通常損耗についても原状回復義務を負う」特約も有効
変更点 3.物件が使えないときの対応が明確に
例えば雨漏りなどで物件の一部が使えないときには、その分の賃料を減額することが明確になりました。
変更点4.敷金の定義が明確に
そもそも改正前の民法では、敷金の定義さえありませんでした。改正後の民法では敷金の定義が示されたうえで「賃貸借が終了し、かつ、賃貸借の返還を受けたとき」に敷金の残額を返還するなど定義が明確になっています。
そもそも売主がオーナーチェンジ物件を売却する目的とは
売主がオーナーチェンジ物件を売却するときの主な理由には、以下のようなものがあります。理由をしっかりと認識しておけば、購入後にトラブルになりやすい物件を避けることが期待できるでしょう。
- 相続で賃貸物件を継承した
- 減価償却期間が終わった
- サブリースの契約期間が終わった
- キャッシュが必要になった
- ほかの賃貸物件を買う資金が必要
仲介会社を通して売主からオーナーチェンジ物件を売却する理由をヒアリングできることもあります。その際に理由が不自然なときは購入を控える選択肢を持つことも大切です。
オーナーチェンジ物件購入の7つのメリット
空室状態の物件と比較したとき、オーナーチェンジ物件の主なメリットは、次の7つが挙げられます。
メリット1:賃料をすぐに得られる安心感
入居者がいない中古物件は、入居者募集をしてみないと「いつ賃料が得られるか」「いくらの家賃なら入居者がつくか」が分からず、収支計画が立てにくい不安があります。これに対してオーナーチェンジ物件は、引き渡し後すぐに賃料が入ってくる安心感があります。
メリット2:経営計画を立てやすい
オーナーチェンジ物件は賃料と経費がほぼ決まっているため、購入前に収支を見積もりやすいです。この情報をもとに、リアルな経営シミュレーションができるため、「本当に購入すべき物件か」を判断しやすいです。
メリット3:リフォーム費用が必要ない
空室の中古物件を購入した場合、傷みが激しくそのままの状態では入居者の集客が難しいため、購入直後にリフォームが必要になるケースもあります。一方オーナーチェンジ物件はすでに入居者がいるため、すぐにリフォーム費用が発生するリスクは低いです。
メリット4:入居者募集・審査の手間がいらない
入居者がいる状態で購入できるオーナーチェンジ物件は、入居者募集や審査の手間が不要です。一般的に入居者募集時は、仲介会社とのやりとりや入居者がなかなか決まらなければ媒体出稿などの手間とコストがかかりがちですが、これらを省けます。そのためオーナーチェンジ物件は、特に多忙で時間のない人に向いているといえるでしょう。
メリット5:割安な価格で仕入れられるケースもある
一般的にオーナーチェンジ物件は、空室状態の収益物件よりも割高で売買されるケースが多い傾向です。一方で、オーナーチェンジ物件の家賃設定が周辺相場よりも低く設定されている場合は、低利回りとなるため、割安価格で仕入れられるケースもあります。これは、一見するとデメリットに感じられますが、入居者の退去後に家賃を周辺相場に戻せば利回りを高めることも可能です。
また退去に至らなくても周辺相場を示すことで更新時に家賃の値上げ交渉をすることも期待できるでしょう。ただし、何ヵ月かの原因で相場よりも家賃が安いことも考えられます。そのため単に「相場よりも安い!」というだけで飛びつかず、総合的に物件や周辺状況を精査することが大切です。
メリット6:金融機関のローン審査が通りやすい
オーナーチェンジ物件は、すでに入居者がついているため、空室状態の収益物件よりも不動産投資ローンの審査に通りやすいといわれます。ただしオーナーチェンジ物件でも低利回りであったり資産価値が低かったりすると審査が厳しくなるケースもあるため、注意しましょう。
メリット7:パートナー企業を継承できる
オーナーチェンジ物件は、それまで取引していたパートナー企業(管理会社、ガス会社、設備会社など)をそのまま継承できるケースも多い傾向です。これは、特に不動産投資の初心者にとって大きなメリットといえるでしょう。なぜならゼロベースからパートナー企業を探すのは、非常に手間がかかるからです。
ただしこれを実現するには、売主(旧オーナーやご家族など)からの引き継ぎが必須となります。どこのパートナー企業と取引しているか、サービスに問題がないかなどを売主からヒアリングしましょう。
※パートナー企業を引き継ぐ場合は、新規契約となります。
オーナーチェンジ物件購入の5つのデメリット
空室状態の物件と比較したとき、オーナーチェンジ物件の主なデメリットは、次の5つが挙げられます。
デメリット1:室内の様子を確認できない
オーナーチェンジ物件は入居者が生活しているため、室内の様子を確認しないまま購入するのが一般的です。入居者が退去したときにはじめて室内の様子を確認できるので、部屋の傷みが著しい場合は、予想以上にリフォーム費用がかかることもあります。
デメリット2:オーナーといえども自由にできない
オーナーチェンジ物件は「全面リフォームをして部屋の付加価値を高めたい」と思っても、入居者が退去しなければ部屋を自由にできません。また普通借家契約であれば、契約更新の拒絶も現実的には難しく、正当な事由がない限りできません。
デメリット3:賃料変更が容易にできない
周辺の競合物件よりも賃料が割安に設定されている場合でも、賃料を容易に変更することができないこともオーナーチェンジ物件のデメリットといえます。
デメリット4:入居者の属性がつかみにくい
オーナーチェンジ物件は、すでに入居者がいる物件のため、入居者の属性を正確に把握するのが難しいケースが多い傾向です。入居者の属性が分からないまま物件を購入した場合、万が一入居者が家賃滞納者やトラブルメーカーであれば、退去手続きやトラブル対応などの大きな負担が発生します。これを避けるには、売買契約前に仲介会社を通して売主をヒアリングするのも一案です。
ただし欲しい情報が得られなかったり事実を話してもらえなかったりする可能性もあります。目安としては、特に売主が短期で売却しようとしているオーナーチェンジ物件は、注意しましょう。なぜなら物件を購入したもののトラブルに耐えきれず売りに出している可能性があるからです。
デメリット5:現入居者の条件変更ができない
オーナーチェンジ物件は、例えば「入居者審査を厳しい基準で行いたい」など当初の条件を変更したい不動産投資家にとってデメリットとなります。なぜなら入居者つきで購入することが前提となるため、現在の入居者が属性の低い人でも途中で条件変更ができないからです。具体的には「入居者を会社員や公務員など安定収入のある人に限定したい」と思っても対象物件が希望の入居者とはかぎりません。
自分の入居者基準にあった入居者を選定したい場合、オーナーチェンジ物件の購入は慎重に検討したほうがよいでしょう。
リスクの少ないオーナーチェンジ物件を選ぶための5つのポイント
ここまでオーナーチェンジ物件のメリット・デメリットを整理してきました。その内容などに基づきながら魅力的なオーナーチェンジ物件を選ぶための5つのポイントを解説します。
ポイント1:基本的な契約内容を確認する
オーナーチェンジ物件を検討している段階で以下のような基本的な契約内容を確認しましょう。
- 賃料設定は周辺相場と比べてどうか
- 入居者から敷金をどれくらい預かっているか
- その他、特約で定めていることはないか など
特に敷金は、オーナーチェンジ物件を引き継いだ新オーナーにも返還義務があるため、確認は必須です。
ポイント2: 気になることがあれば現地調査をする
例えば「賃料が周辺相場よりも安い」「入居者と契約したばかり」など、 少しでも気になる点があれば現地調査をしてみるのも一案です。オーナーチェンジ物件であれば投資物件の室内に入ることはできませんが、現地調査を行うことで問題やリスクが浮き彫りになることもあります。
ポイント3:大規模修繕の状況を確認する
特にアパートや一棟マンションのオーナーチェンジ物件を検討している人は、大規模修繕状況の確認が重要です。近々大規模修繕を控えたタイミングで物件を仕入れてしまうと、購入直後にキャッシュフローが大幅にマイナスになる可能性があります。そのため購入を控えたり大規模修繕分の値引き交渉をしたりするのが賢明です。
ポイント4:物件の売却理由を調べる
「物件価格が周辺相場よりも安い」「競合物件よりも利回りが高い」といった物件の場合、契約を焦らずに、まず売却理由を確認することが大切です。納得できる回答が得られない場合は、購入を見送るのが安全ということもあります。
ポイント5:レントロールの賃料設定を確認する
オーナーチェンジ物件の購入を検討する際は、レントロール(賃料表)の内容確認が必須です。一般的なレントロールでは、主に各部屋の以下の情報が一覧となっています。
- 契約状況
- 間取り
- 賃料
- 敷金 など
レントロールに不自然な点がある場合は、売主に確認して懸念材料を取り除きます。もし納得できる回答を得られないときは、購入を見送るのが安全です。また同じ間取りにもかかわらず賃料設定に極端なバラつきがあるようなケースは注意しましょう。なぜなら「最近になって賃料が急激に下がっている」「売却に合わせて高利回りに見せかけるためにダミーの入居者がいる」などが考えられるからです。
オーナーチェンジ物件の購入前のチェックリスト
ここまで紹介してきた内容に基づき、オーナーチェンジ物件の購入前のチェックリストを9つのポイントでまとめてみました。ぜひご活用ください。
・チェック1:契約内容はどのようなものか
各入居者との契約内容は、最低限確認しましょう。具体的には「各部屋の賃料」「預かっている敷金」「契約時の特約」などです。この内容を把握しないままオーナーチェンジ物件を購入するとハイリスクとなります。
・チェック2:周辺環境に問題はないか
オーナーチェンジ物件の周辺環境を確認するのが理想です。最寄り駅からの徒歩分数や雰囲気、近隣に嫌悪施設がないか、日照はどうか、物件の周辺が荒れていないかなどを調査してみてください。
・チェック3:これまでの経営状況がどうか
可能であれば旧オーナーが所有している間の経営状況をヒアリングしてみましょう。具体的には、空室率や賃料の推移、周辺環境の変化、近隣や入居者同士のトラブルがないかなどです。
・チェック4:物件の売却理由はどのような内容か
特に条件が良いオーナーチェンジ物件の場合は、売却理由を丁寧に確認しましょう。例えば短期売買の物件は要注意です。オーナーチェンジ物件として納得しやすい理由としては、「相続した物件」「減価償却期間を終える物件」などです。
・チェック5:大規模修繕のタイミングはいつか
大規模修繕は、キャッシュフローに大きな影響を与えかねないため、必ず購入前に前回の大規模修繕の時期を確認しましょう。国土交通省の「民間住宅の大規模修繕ガイドブック」によると、築11~15年で1回目の大規模修繕を行い、その10年後に2回目の大規模修繕を行うモデルケースを示しています。これを踏まえると約10~15年ごとに大規模修繕は必要と認識しておきましょう。
・チェック6:現在の賃料と相場賃料に差があるか
オーナーチェンジ物件は、契約前に必ず周辺相場家賃との比較をしましょう。相場家賃よりも極端に安い物件や高い物件の場合は、理由をしっかりと確認して納得してから購入することが大切です。
・チェック7:敷金の有無と条件はどんな内容か
入居者から預かった敷金をあいまいにしてオーナーチェンジ物件を購入するのは、将来的にトラブルとなりかねません。そのため必ず購入前に「敷金があるか」「あるならそれはいくらか」「引き継ぐのは可能か」などを明確にしておきましょう。
・チェック8:レントロールに不自然な点はないか
賃料に極端なバラつきがないかを注目しましょう。バラつきがある場合は、その理由を売主に必ず確認することが大切です。
・チェック9:契約不適合責任をどう設定するか
不動産売買における契約不適合責任とは、売主が買主に引き渡した物件の種類・品質などが契約内容に適合していない場合、「売主が買主に対して責任を負わなくてはいけない」という法律です。中古物件では、契約不適合責任を免責する(=負わない)特約も多く見られます。ただし買主にとっては不利な条件となるため、価格面やほかの条件を考慮しながら免責特約を受け入れるか慎重に判断しましょう。
オーナーチェンジ物件 こんなトラブルに要注意!
オーナーチェンジ物件についてさまざまな角度から解説してきました。ここからは、特にトラブルになりやすい2つのケースを紹介します。どちらもレントロールのチェックなどでリスクを軽減することが可能です。
購入直後に入居者が退去してしまうケース
オーナーチェンジ物件のトラブルで多いのは、購入直後に入居者が退去してしまうケースです。「入居者は前オーナーの関係者だったのではないか?」という疑いも出てきますが、決定的な証拠がなければ対抗することは難しく、仮に証拠をつかんでも、それを理由に契約を破棄するのは難しいでしょう。
賃料収入が徐々に目減りしていくケース
オーナーチェンジ物件では、賃料収入が徐々に目減りしていくことも避けたいケースの一つです。賃料収入が減っていく主な原因は、以下の3つが考えられます。
- 前項のようにサクラの入居者がいる
- 割高な賃料で契約している入居者がいる
- 賃料相場が急減している
賃料相場が急減している理由としては「周辺の賃料相場が下がっている」「大学のキャンパスや大規模工場が撤退した」などが考えられます。一方で新築時の割高な賃料で契約している入居者が退去しているケースなどもあり得るでしょう。賃料は、築年数が増えるごとに下落していくのが一般的です。あまりにも賃料収入の減少が著しいオーナーチェンジ物件は、購入しないのが無難といえます。
もし購入を検討する場合は「賃料収入が下がっても経営していけるか」についてシビアにシミュレーションすることが大切です。
オーナーチェンジ物件で入居者を退去させたいときの対応策
オーナーチェンジ物件を購入後、入居者を退去させたいときの対応策には、状況に応じて以下のような選択肢が考えられます。
状況 | 対応策 |
---|---|
賃料を滞納している | ・家賃の督促をする ・応じない場合は、内容証明で通知 ・難しい場合は訴訟も検討 |
禁止事項の抵触している | ・事実確認をする ・抵触している場合は、退去の交渉 ・従わない場合は、内容証明で契約解除通知 |
建て替えや自己利用 | ・立ち退き交渉 ・立退料の支払い |
不安を感じる入居者 | ・定期借家契約への切り替え |
選択肢を混同してしまうと深刻なトラブルになりかねません。例えば建て替えによる退去にもかかわらず強制退去させるようなケースです。必ず状況と対応策が合っているかを確認しましょう。
強制退去・立退料支払いのメリット
オーナーチェンジ物件を購入後、入居者を退去させたいときの対応策で「強制退去」と「立ち退き料支払い」のメリットは、次の通りです。
悪質入居者の強制退去のメリット
賃料の長期滞納や非常識なマナー、騒音発生などの入居者を退去させることでオーナーやほかの入居者の満足度が上がりやすくなります。ただし悪質入居者をどのように定義するかは難しい面もあるため、強制退去をさせるかは慎重に判断してください。
大家都合の立退料支払いのメリット
大家都合の立ち退き交渉では、正当な理由が必要です。そのため単に「建て替えをしたいから」「再開発があるから」などの理由だけでは、正当な理由として認められにくいでしょう。原則立退料を支払うことで正当な理由として認められやすくなり、建て替えや自己利用などの目的が達成しやすくなります。交渉の際は、適切な金額の立退料で話をまとめることも大切です。
強制退去・立退料支払いのデメリット
「強制退去」と「立退料支払い」には、以下のようなデメリットもあるため、オーナーチェンジ物件の購入を安易に考えるのはリスクがあります。
悪質入居者に対する強制退去のデメリット
悪質入居者といえども日本の入居者は手厚い法律で守られているため、強制退去にはそれなりの期間を要するケースがほとんどです。特に交渉が決裂して調停や裁判にもつれ込むと弁護士費用と解決までの期間がかかります。
※原則、賃料滞納など契約違反の入居者には立退料は発生しません。
大家都合の立退料支払いのデメリット
入居者に対して、それなりの立退料を提示したからといって必ずしも立ち退きが成立するわけではありません。折り合いがつかないときは、自身で所有している物件であっても自由にならないケースもあります。
悪質入居者を強制退去させる方法
悪質入居者だからといって、強引に立ち退きを迫られればトラブルとなりかねません。まずは、契約解除事由に当てはまるか否かを確認することが大事です。
悪質入居者の場合:契約解除事由を根拠に強制退去させる
契約書に記載してある禁止事項に抵触していれば契約解除事由となり、悪質入居者の強制退去が可能になります。一般的な賃貸借契約の禁止事項は、以下のようなものです。
- 近隣に不安を感じさせるような行為をすること
- 楽器、テレビ、オーディオなどで大音量を出すこと
- 反社会勢力の事務所などとして使うこと
- 危険性の高いモノ(例:鉄砲や爆発物など)を室内で製造、保管すること
- 排水管を腐食させるような液体を流すこと
※それぞれの賃貸借契約によって禁止事項の内容は異なります。
また賃料の滞納の場合も契約解除事由となります。ただし、ふだん予定通り賃料を支払っている入居者が「今回だけ1週間入金が遅れた」といったケースでは、強制退去はできません。強制退去が可能なのは、例えば支払いを督促しているにも関わらず3ヵ月以上賃料支払いが一切行われてないなどのケースです。
強制退去が難しいのは、3ヵ月以上の未払い賃料があっても即退去させるのが難しいことです。内容証明書を送りつつ入居者と面談や話し合いをしていくことで強制退去が可能となります。難易度が高い交渉のため、強制退去に詳しい弁護士などに依頼するのが賢明でしょう。
微妙な入居者の場合:定期借家契約に切り替える
悪質入居者とまではいかなくても周囲に不安を感じさせる入居者がいるケースもあります。例えば以下のようなタイプの入居者です。
- たまに近隣から騒音の苦情がくる
- たまに賃料の支払いが遅れるけれど最終的には支払う
- ゴミ屋敷化している可能性がある
こういったタイプの入居者は、賃貸借契約上の事項に抵触しているとは言い切れないため、強制退去をしにくい一面があります。それでも「退去してほしい」という気持ちが強ければ更新のタイミングなどで「普通借家契約」から「定期借家契約」に切り替えるのも一案です。(詳しくは次項参照)
「普通借家契約」と「定期借家契約」の違いとは?
悪質入居者とまではいかないものの「退去してほしい」と感じるような入居者に対しては「定期借家契約への切り替え」という対処方法も選択肢の一つです。同じ借家契約でも「普通借家契約」と「定期借家契約」では、内容が大きく違います。
普通借家契約を分かりやすく解説
普通借家契約とは、入居者(借主)が希望する限り更新し続けられる借家契約のことです。契約期間を1年以上で設定するのが基本ですが、一般的な契約では契約期間を2年で設定しているケースが多いでしょう。ただし、契約期間を1年未満に設定した場合は、期間の定めのない契約となります。
普通借家契約でよくあるオーナーの勘違いは、契約期間が終われば契約を解約できるというものです。たとえ契約期間が定められていても入居者が住みたいと希望すれば、原則オーナー側から解約や更新拒絶はできません。また正当な事由があればオーナー側から更新拒絶ができますが、事実上「正当事由+立ち退き料の支払い」で正当事由が認められるのが通例です。普通借家契約の解約については、上記で解説したようにオーナー側からの解約は難しい一面があります。
強引に解約しようとすれば深刻なトラブルになる可能性があるため、注意が必要です。
定期借家契約を分かりやすく解説
定期借家契約とは、契約の更新を前提としない契約のことです。普通借家契約とは異なり、契約期間が終われば物件の明け渡しをしてもらえます。契約期間は、自由に設定でき貸主・借主が合意すれば再契約することも可能です。
ただし、定期借家契約にもいくつかルールがあります。契約書とは別の書面を借主に交付し「契約の更新がないこと」「期間の満了とともに契約が終了すること」を説明すれば定期借家契約が可能です。また契約期間が1年以上の定期借家契約では、入居者に対して物件の明け渡しを求める場合、借主に対して「期間満了の1年前から6ヵ月前までの間」に契約が終了する旨を通知しなくてはなりません。
立退料の支払う際のポイントと相場
前述のように立退料は、大家都合で物件の明け渡しを求める場合に支払うのが基本です。立退料を支払う際のポイントと目安は、以下の通りです。
立退料を支払う際のポイントは?
相場の立退料を支払えば物件を明け渡してもらって当然という考え方は危険です。あくまでも立退料は、交渉材料の一つにすぎません。事情を丁寧に説明するとともに入居者の気持ちになって粘り強く交渉することが大切です。
立退料の相場はどれくらい?
アパートやマンションなど賃貸物件の立退料の相場は、入居者1人あたり100万~200万円程度のケースが多い傾向です。例えば、入居者が8人で1人あたり100万円の立退料であれば合計で800万円かかります。「移転先の賃料6ヵ月分+引っ越し代」で計算すると、まとまった金額が必要になるため、高額になりがちです。
相場について説明してきましたが、上記の金額感はあくまでも相場です。実際には、ケースバイケースで立退料も大きく変わる可能性が高いです。立ち退きを求める場合は、十分な資金を準備したうえで交渉を始めることが重要です。
オーナーチェンジで売却しやすい物件・売却しにくい物件
オーナーチェンジ物件を購入した後の出口戦略(売却)についても押さえておきましょう。一口にオーナーチェンジ物件といっても、将来的に売却しやすい物件・売却しにくい物件があります。将来の出口戦略を意識するのであれば、売りやすいオーナーチェンジ物件を購入したほうがよいでしょう。
売却しやすいオーナーチェンジ物件例
一般的に「売却しやすい」といわれる物件は、以下の通りです。
- 主要駅の駅近など好立地物件
- ワンルームの区分マンション
- 築浅物件 など
これらは、入居者がいない状態でも比較的買い手が見つかりやすい傾向です。さらに売却時もオーナーチェンジ物件であれば売却しやすくなります。なお上記のうちワンルームの区分マンションが売却しやすい理由は、一棟物件と比べると価格が手ごろでサラリーマン投資家など一定の支持があるからです。
売却しにくいオーナーチェンジ物件例
オーナーチェンジ物件のなかでも「築古の木造アパート」などは、減価償却期間が残っておらず融資を受けにくいなどのデメリットがあるため、売却しにくい傾向です。またファミリータイプの区分マンションは、ワンルームタイプよりも「専有面積が狭い」「1平方メートルあたりの賃料が安い」ということが多く低利回りになりやすいため、一部「売却しにくい」という意見が聞かれます。
ただファミリータイプは「長期契約につながりやすい」という点がメリットです。売却時にオーナーチェンジ物件で相場以上の賃料に設定されていればスムーズに売却できる可能性もあります。逆にいったん割安な賃料を設定してしまうとオーナーチェンジ物件といえども処分しにくくなるため、注意してください。
オーナーチェンジ物件にこだわりすぎないことも大事
ここでは、オーナーチェンジ物件のメリット・デメリットをはじめ、物件を選ぶときのポイントや購入前チェックリスト、トラブル例などを中心に解説してきました。一見、魅力的に見えるオーナーチェンジ物件にもデメリットやリスクがあります。「入居者がいるから安心」と安易に飛びつかず綿密にリサーチするようにしましょう。
残念ながら、オーナーチェンジ物件のトラブルを100%防ぐ方法はありません。しかし購入前の事前ヒアリングやレントロールを確認することでトラブルのリスクはある程度軽減できます。ヒアリング項目は、「入居者の基本情報チェック(職業・勤め先など)」「今まで賃料滞納トラブルはなかったか」「入居してどれくらいか(長いほどリスクが少ない)」などでしょう。
また、競合物件の賃料リサーチも参考になります。相場の賃料よりも割高に設定されている場合は、高利回り物件に見せかけている可能性も否定できません。「なぜ賃料が相場よりも高いのか」をしっかり確認したうえで購入するようにしましょう。リスクヘッジを意識するならオーナーチェンジ物件にこだわりすぎず入居者が決まりやすい好立地の物件なども視野に入れて検討するのがよいかもしれません。
オーナーチェンジ物件に関するよくある質問
不動産投資の初心者が疑問に感じることの多いオーナーチェンジ物件。よくある質問は、次の通りです。
Q1. 入居者から預かっていた敷金は受け継げる?
オーナーチェンジ物件の敷金は、必ずしも受け継げるとはかぎりません。業界団体の全日本不動産協会によると、オーナーチェンジの新たな所有者には、敷金の返還義務があります。これは前の所有者から「敷金が継承されているか否か」の事情は関係ありません。
Q2. 入居者トラブルについて情報公開してもらえる?
仲介会社を通じて、入居者トラブルがないかをヒアリングすることも大事です。ただし、トラブルについて、どこまで正直に教えてもらえるか分からないため、現地調査やレントロールで不自然さを感じたときはオーナーチェンジ物件に手を出さないのが無難です。
Q3.オーナーチェンジ物件の賃料は購入後に値上げできる?
「オーナーが変わった」という理由だけで賃料を値上げすることは、難しい傾向です。「周辺相場と比較して明らかに賃料が安い」「入居者に値上げに納得してもらえる」といった状況であれば可能性はありますが、現実的に賃料値上げのハードルは高いでしょう。
Q4.大家が変わったことを入居者に連絡するべき?
オーナーチェンジでは、売買契約書の締結や所有権の移転が終わった後、各入居者に対して速やかに通知書を送ることが必要です。「賃料の振込先が変わったこと」「オーナーや管理会社が変わったこと」などを入居者が知らないとトラブルになる可能性もあります。
Q5. 売買時に翌月分の賃料を精算してもらえる?
賃料は、翌月分を事前に振り込むのが一般的です。そのため前オーナーに前受け分の賃料を受け取っているケースもあります。その分の賃料は、売買代金から差し引くなど調整をするのが通例です。
Q6.家賃滞納の状況はヒアリングすべき?
家賃滞納がないかについては、売買契約前に必ず確認しましょう。敷金で滞納分を調整しているケースもあり得ます。(その場合、継承する敷金が減ることも)長期滞納者のいるオーナーチェンジ物件は、家賃が入ってこないどころか、購入後に強制退去の手間と費用がかかるため、購入を慎重に判断すべきでしょう。
(提供:YANUSY)
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